小建中湯

 温裏剤 おんりざい 

小建中湯 帰耆建中湯きぎけんちゅうとう(小建中湯+黄耆おうぎ・当帰) 人参湯 四逆湯しぎゃくとう 当帰四逆加呉茱萸生姜湯 真武湯 建理湯 温経湯うんけいとう 呉茱萸湯ごしゅゆとう

小建中湯:傷寒論

組成:桂枝5g 芍薬10 生姜5 甘草3 大棗3 飴糖20イトウ

用法:前五味、水煎、滓かす を去り、飴糖いとう(膠飴こうい)を入れて溶かし、温服おんぷく する。日に三服する。

主治:陰陽いんよう とも虚、脾虚肝乗ひきょかんじょう、腹部攣痛、喜温喜按きおんきあん、心悸虚煩しんききょはん、面色無華めんしょくむか、舌質淡嫰ぜっしつたんどん、脈弦渋みゃくげんじゅう。

分析:小建中湯は中焦虚寒で脾虚肝乗に用いる。脾胃は後天こうてん の本もと、営衛えいえ気血生化の源である。中焦虚寒では養肝することができず肝血もまた虚となる。これにより気血陰陽とも虚の病機病理が形成される。

中焦虚寒で肝乗して脾虚ひきょ となり脾胃を犯せば、それは腹部の攣急による痛みとなる。

腹痛で・・・

喜冷きれい(冷やすと気持ちが良い)は、熱が原因であり、

喜温きおん(温めると気持ちが良い)は寒のためで、

拒按きょあん(さわられるのを嫌う)は実証であり、

喜按きあん(按じるとよくなる)は虚証を示す。

小建中湯の腹痛は喜温・喜按であり、虚寒の現象である。つまり痛みは喜按きあん(さすると良くなる)であり、これは痙攣性疼痛の特徴となる。

按じると腹痛の痙攣はしばらくは緩解し痛みは減じるため、この腹痛が内臓の実質性な病変ではなく、肝木乗脾の痙攣性疼痛であることを示している。

その他、小建中湯証の心悸虚煩しんききょはん、面色無華、

舌質淡嫰ぜっしつたんどん はみな虚証の現象である。

小建中湯証の治法:温中補虚、柔肝緩急法じゅうかんかんきゅうほう

柔肝じゅうかん:養肝・養血柔肝ともいう。肝陰虚(肝血虚)の治療法である。

肝血虚:視力減退・両眼乾渋はシェーグレン症候群の症状・夜盲・頭暈・耳鳴・爪甲の色淡で薄く・不眠・多夢・口乾・脈減弱:「肝は剛臓なり」といわれ、血によって養われているので養血の薬物で肝を養う。

肝を養う「養血の薬物」:当帰・白芍・地黄・首烏しゅう・枸杞子くこし・女貞子じょていし・旱蓮草かんれんそう・桑椹子そうじんし などの薬物。

女貞子:モクセイ科トウネズミモチの成熟果実:苦平:肝腎経:補腎滋陰・養肝明目ようかんめいもくk:眼科で頻用・網膜炎方・二至丸にしがん。

旱蓮草かんれんそう:キク科タカサブロウの地上全草:甘酸寒:肝腎経かんじんけい:滋陰補腎じいんほじん・涼血止血:肝腎陰虚・肝火旺かんかおう による出血を止める:婦人薬に頻用される

小建中湯の方義・方解:

小建中湯は、桂枝湯の芍薬が倍量となり飴糖イトウ(膠飴コウイ)を加えた処方である。

膠飴コウイ(飴糖イトウ)は補脾胃虚の作用:餅米もちごめ・粳米コウベイ(うるちまい)・小麦粉の三種類の穀物を麦芽で加工した飴:小麦粉だけが原料の膠飴もある。

小建中湯の桂枝・生姜・甘草・大棗は温中補虚であり、芍薬の倍加と飴糖の配合は益陰柔肝えきいんじゅうかん により緩急止痛かんきゅうしつう となる。ともに「益木培土えきぼくばいど(肝を養い脾胃を健やかにする)」の方法である。上述の腹痛に確かな効果がある。

小建中湯の芍薬と飴糖いとう は補陰、桂枝・生姜・甘草・大棗は補陽作用で陰陽を調補するので、虚労発熱・心中動悸などの証に小建中湯を応用することができる。

傷寒論にいわく「傷寒にて陽脈渋、陰脈弦、法まさに腹中急痛には、まず小建中湯を与え、癒えざる者は、小柴胡湯これを主どる。

傷寒論の原書には小建中湯と小柴胡湯は同じ一条文にでており、この腹痛が肝脾不和によって生じている証明となる。ゆえに小建中湯で肝脾を調理し、虚を治し、もし無効なら小柴胡湯で胆胃を調えて実を治す。

一条といえどもまた説く「傷寒になり二三日後に、動悸し煩する者は小建中湯を用いることができる。「心悸するのは陽が微で、心煩するのは陰は弱く、ゆえに小建中湯でまずその胃腸を健やかにして営衛の調和を兼ねる」必要がある。

金匱要略において、小建中湯を用いているのは三条文ある。

初めは虚労篇に、「虚労裏急、動悸・衄血じっけつ、腹中痛み、夢に遺精いせい し、四肢は酸疼さんとう し、手足は煩熱し咽乾口燥」を治すなどの証。これは陰陽両虚の病理である。

いわゆる陰陽両虚は、肝脾あるいは心脾虚損を言う。肝は血を蔵し、心は血を主どり、陰血不足で心・身体が栄養を失えば動悸し、陰陽失調では「陰病は陽を和せなければ、陽はその熱の独行となるため、衄血(鼻血)や口燥咽乾、手足煩熱はんねつ となる。脾虚肝旺ひきょかんおう して肝の疏泄が大過となると遺精が生じ、脾虚肝乗では裏急し腹痛となる。

遺精いせい:精液が漏れ易くなること。

小建中湯は陰陽を調理して諸証を癒す。

次条文の黄疸病篇では、治す「男子黄疸となり、小便自利には虚労の小建中湯を与えるべき」。

発黄(黄疸など)の多くの原因は湿であり、湿によって発黄し、小便不利の症状となる。故に「傷寒論」が説く「小便自利する者は、発黄しない」。

しかし、この小建中湯の証は、「小便自利して発黄するという一般的な湿熱黄疸」ではなく、これは気血虚損による虚黄であり、これには補脾建中の剤の小建中湯を用いるべきである。

三つ目の小建中湯の条文は、婦人雑病篇で、「婦人腹中痛の者」を治す。張路玉の説では「小建中湯は専ら風木乗脾の腹痛である」故にこの腹痛の病理は肝脾不和に属す。

上に引用した五条中、三条文は腹痛を治しているので小建中湯は腹痛の主方である。

胃・十二指腸潰瘍、神経衰弱・再生不良性貧血など上述の証の者は小建中湯を用いて一定の効果がある。

但し、舌苔が厚い苔の者には小建中湯を用いるべきではない。

小建中湯の「甘温除熱」作用は、陰陽失調による(疲労による)虚熱に応用して使える。子供が遠出をすると必ず疲労発熱する体質を小建中湯は治す。

加減法:黄耆建中湯は、小建中湯に黄耆を加え、潰瘍病や慢性腹膜炎、神経衰弱などに用いることができる。

帰耆建中湯:小建中湯に当帰・黄耆を加えたもので、十二指腸潰瘍の飢餓性疼痛きがせいとうつう や婦人の産後腹痛や小腹拘急、痛みが腰背ようはい におよぶなどの虚寒の者の症状に用いる。

当帰建中湯:小建中湯に当帰を加えたもので、産後の身体衰弱や腹痛を止める。

小建中湯などの温裏剤おんりざい:

陽気を補い 寒邪を散じ、裏寒証りかんしょう に適応する方剤を、温裏剤おんりざい とよぶ。

「素問そもん・至真要大論ししんようたいろん」の「寒かん する者はこれを熱す」寒を治するには熱を以ってす」に基づく。

裏寒証には、

外部からの寒邪かんじゃ の侵入によるものと、体内での陽気ようき の不足によるものとがある。

しかし、陽気が不足していると、寒邪の侵入を受けやすい。

また、侵入した寒邪かんじゃ は体内の陽気を損傷する。

したがって、外寒がいかん と内寒ないかん は互いに因果関係いんがかんけい を形成する。

温裏剤は、三つに分けられる。

温中袪寒おんちゅうきょかん

人参湯にんじんとう(理中湯りちゅうとう):温中散寒おんちゅうさんかん・補気健脾ほきけんぴ:脾陽虚ひようきょ:人参3 白朮3びゃくじゅつ 乾姜3かんきょう 甘草3:寒滞肝脈かんたいかんみゃく の症状で食欲不振に使う。

寒滞肝脈の人の特徴1-3:風邪はあまりひかないし肝の昂ぶりがあるので疲労感も言わないがガリガリに痩せていてミイラの様な手足である。ひどい冷え症でいくら食べても太れないと言う。生理痛はひどい。

寒滞肝脈の人の特徴2-3:さむくなるとお腹の激痛が起こり下に内臓が引っ張られる痛みで腰痛の場合もある(当帰四逆加呉茱萸生姜湯とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう:小太郎の商品名シモラ)。顔は青味を帯び面色不華めんしょくふか だが冷え症ではないという。リンゴ頬になる人もいる。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯:下肢が冷えやすい体質で、下腹部の冷痛や腰や大腿内側などが冷えと痛み(疝痛せんつう)を生じ、腹痛と腿の内側の冷えと痛みを、さすって温めようとする人が見られる。

瘀血や肝の昂ぶり(ストレス)や肝経の冷え(寒滞肝脈)で疝が生じ腹痛して排便できず腹痛に苦しむ。

寒滞肝脈の人の特徴3-3:手より下半身の方が冷え、全身の倦怠感で、小便は量多。面色萎黄めんしょくいおう で、温めても温まらないで冷え易く体が怠い:寒滞肝脈には苓姜朮甘湯りょうきょうじゅっかんとう を使い食少では人参湯、下利は真武湯しんぶとう、当帰四逆加呉茱萸生姜湯:呉茱萸2 生姜4+当帰四逆湯とうきしぎゃくとう:温経散寒・養血通脈、腹痛(疝痛)・嘔吐の強いもの。

陽虚の腹痛には建理湯けんりとう(小建中湯合人参湯)をつかう。

苓姜朮甘湯:別名は腎著湯じんちゃくとう:袪湿散寒・止痛:寒湿の腰痛:茯苓6 乾姜3 白朮3 甘草2:冷えは下半身にある:人参は無く、茯苓は小便を出して腰や下半身を温める:腰痛とともに下肢の冷えがある時は、疎経活血湯合苓姜朮甘湯

疎経活血湯:袪風湿・補血・活血化瘀:四物湯 + 蒼朮そうじゅつ 茯苓 桃仁とうにん 牛膝ごしつ 防已ぼうい 威霊仙いれいせん 羗活きょうかつ 防風 白芷びゃくし 竜胆草 陳皮ちんぴ 生姜しょうきょう 甘草。

回陽救逆

真武湯しんぶとう:回陽救逆かいようきゅうぎゃく・温陽利水おんようりすい:寒湿かんしつ の腹痛:附子1ぶし 茯苓5ぶくりょう 白朮3びゃくじゅつ 白芍3びゃくしゃく 生姜3しょうきょう:冷え症で目眩もくげん や下利を訴える人・冷え症で長時間睡眠をとる人に使う)

四逆湯:回陽救逆・温中散寒おんちゅうさんかん:附子1、乾姜2かんきょう、炙甘草3しゃかんぞう:亡陽ぼうよう のショック状態に使う。

温経散寒おんけいさんかん

温経湯うんけいとう:温経散寒・補血調経ほけつちょうけい・活血化瘀かっけつかお・益気和胃えっきわい:呉茱萸1ごしゅゆ 当帰3とうき 白芍2びゃくしゃく 川芎2せんきゅう 人参2 桂枝2けいし 阿膠2あきょう 牡丹皮2ぼたんぴ 半夏4はんげ 麦門冬4ばくもんどう 生姜1しょうきょう 甘草2:踵かかと の割れ:血虚で瘀血おけつ の便秘

に分けられる。

温中袪寒剤おんちゅうきょかんざい、脾胃ひいの虚寒あるいは実寒じつかん に適応する。

そこで、温中散寒薬と、健脾益気薬けんぴえっきやく を配合する。

温中袪寒剤には、

人参湯にんじんとう:温中散寒・補気健脾:人参 乾姜かんきょう 白朮びゃくじゅつ 甘草

呉茱萸湯ごしゅゆとう:散寒止嘔さんかんしおう・温胃止痛おんいしつう・健脾益気けんぴえっき:呉茱萸3 人参2 生姜4 大棗4:胃虚寒いきょかん の嘔吐・吃逆きつぎゃく、寒飲上逆かんいんじょうぎゃく の頭頂部の頭痛)

呉茱萸ごしゅゆ:辛・苦:大熱・小毒:温中散寒・散寒止痛(胃痛・頭痛)・下気止痛・止嘔しおう:寒が中焦ちゅうしょう に凝集する症状に適応:当帰四逆加呉茱萸生姜湯・呉茱萸湯ごしゅゆとう

小建中湯しょうけんちゅうとう:傷寒論しょうかんろん:緩急止痛かんきゅうしつう・温中補虚おんちゅうほきょ・除熱じょねつ:桂枝4 芍薬6 大棗4 生姜4 甘草2 膠飴20こうい

膠飴こうい は補脾胃虚の作用:餅米もちごめ・粳米コウベイうるちまい・小麦粉の三種類の穀物を麦芽ばくが で加工した飴あめ:小麦粉だけが原料の膠飴もある。

などがある。

何らかの理由で急激に陽気が不足し、厥逆けつぎゃく を現すことがある。

(厥逆:四肢の厥冷けつれい をさす。少陰病しょういんびょう、清穀せいこく を下利し、裏寒外熱し、手足厥逆し、脈微にして絶えんと欲す。「傷寒論」)

(厥ケツ:のぼせ、むかつき、足の冷え)

これは亡陽ぼうようとよぶ、きわめて危険な病態である。そこで、急速に陽気を補う必要がある。

これに使用されるのが、四逆湯しぎゃくとう:附子1 乾姜2 炙甘草3:回陽救逆・温中散寒おんちゅうさんかん。

亡陽に対して四逆湯が無い場合は、真武湯しんぶとう(附子1 茯苓5 白朮3 白芍3 生姜3:回陽救逆・温陽利水。

などの回陽救逆剤である。

経脉中けいみゃくちゅう に寒邪かんじゃ が侵入すると、

身体の疼痛、腹痛、ある種の皮膚病(寒冷蕁麻疹等)などを現す。

経脉中に寒邪が侵入するのは、経脉中の血の不足に原因がある。

そこで、血を補いながら寒邪を排除する必要がある。

この作用を有する方剤が、温経散寒剤おんけいさんかんざい である。

温経散寒剤には、当帰四逆湯とうきしぎゃくとう(当帰3 桂枝3 白芍3 細辛2さいしん 甘草2 木通3もくつう 大棗1たいそう:温経散寒おんけいさんかん・養血通脈ようけつつうみゃく。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯シモラ:呉茱萸2 生姜4+当帰四逆湯とうきしぎゃくとう:温経散寒・養血通脈、腹痛(疝痛)・嘔吐の強いものは胃を温める呉茱萸が必要となる。

呉茱萸:辛・苦:大熱・小毒:温中散寒・散寒止痛(胃痛・頭痛)・下気止痛・止嘔:寒が中焦に凝集に適応。

温経湯うんけいとう:呉茱萸 桂枝 当帰 白芍 川芎 人参 甘草 生姜 半夏 阿膠 牡丹皮ぼたんぴ 麦門冬:温経散寒おんけいさんかん・補血調経・活血化瘀・益気和胃。

などがある。

潤す阿膠あきょう:甘平:補血・止血・滋陰・潤燥。

帰耆建中湯

きぎけんちゅうとう

組成そせい(帰耆建中湯)

黄耆おうぎ(マメ科キバナオウギの根:甘微温:補気升陽ほきしょうよう・固表止汗こひょうしかん・利水消腫りすいしょうしゅ・托毒排膿たくどくはいのう)

(托タク:手に物をのせる、拓ひら く)

当帰:甘辛温:補血 行血ぎょうけつ 潤腸じゅんちょう 調経ちょうけい。

桂枝けいし:辛甘温:発汗解表はっかんげひょう・温通経脉おんつうけいみゃく・通陽化気つうようかき・通陽利水。

芍薬しゃくやく:白芍:びゃくしゃく:酸苦微寒:補血・緩急止痛かんきゅうしつう。

大棗たいそう:甘温:補脾胃ほひい・養営安神ようえいあんじん・緩和薬性かんわやくせい。

生姜:辛微温しんびおん:発汗解表はっかんげひょう・温中止嘔おんちゅうしおう・半夏はんげ の解毒。

生姜より乾姜は温熱作用が強い。

乾姜は大熱たいねつ。

生姜は発汗・止嘔作用しおうさようで風邪薬の発汗に用いる。

甘草:健脾益気 緩急止痛

膠飴:補脾胃虚

方解ほうかい・ほうげ

(帰耆建中湯:温中散寒・補気補血)

帰耆建中湯は、小建中湯あるいは桂枝加芍薬湯に黄耆・当帰を加えた方剤である。

小建中湯しょうけんちゅうとう:傷寒論:緩急止痛かんきゅうしつう・温中補虚・除熱(疲労による発熱を除く作用):桂枝4 芍薬6 大棗4 生姜4 甘草2 膠飴20こうい:喘息が長く続いている患者は、脾虚・腎虚・肝鬱が多いので、六君子湯、真武湯、柴朴湯さいぼくとう、補中益気湯、小建中湯などの2~3処方の合方が多い。原則的には脾虚を治すようにする

大建中湯だいけんちゅうとう:温中散寒・解痙止痛・補気健脾・殺虫・結石痛:蜀椒2 乾姜4 人参3 膠飴20:寒実証(実寒証)で、冷えが体に侵入した状態になると腸がモコモコ動いたりブチブチと音をたてて動く:大建中湯:西洋医学では腸閉塞ちょうへいそくの予防・腸の癒着ゆちゃく防止に使っている。

桂枝加芍薬湯:桂枝4 芍薬6 大棗4 生姜4(乾姜1) 甘草2(膠飴は無い):桂枝湯の芍薬を4から6gに増量し腹痛に配慮した処方。

芍薬:酸苦微寒:補血・緩急止痛:芍薬甘草湯は酸甘化陰で補陰するので裏急・腹痛を緩める:桂枝加芍薬湯。

桂枝湯:辛温解肌しんおんげき・調和営衛ちょうわえいえ:表寒・表虚ひょうきょ(自汗) を補う:桂枝4 芍薬4 大棗4 生姜4 甘草2。

帰耆建中湯は、黄耆建中湯に当帰を(加えた)、当帰建中湯に黄耆を加えたと考えてもよい。

桂枝の辛と甘草の甘が組んで、脾胃の陽気を生じる。この作用を辛甘化陽しんかんかよう とよぶ。

これに黄耆が加わり、補気作用が強化される。

芍薬の酸と甘草の甘が組んで、陰気を生じる。この作用を酸甘化陰とよぶ:芍薬甘草湯

五積散ごしゃくさん は「風寒湿ふうかんしつ」の薬:腰冷痛(苓姜朮甘湯を含む)、腰腹攣急れんきゅう、上熱下冷、小腹痛(芍薬甘草湯を含む)の四症に適応。四症を記憶する。

これに

当帰(補血 行血 潤腸 調経)が加わり、補血作用が強力になる。

生姜・大棗は、脾胃を調整し、上記の他薬の作用を補助する。

虚状が甚だしい場合には、膠飴コウイ20gを加え、脾胃の虚を補う。

以上により、帰耆建中湯は、脾胃の陰陽両虚、とくに陽虚を

補いながら、全身的な気血不足を滋補する。

効用(帰耆建中湯きぎけんちゅうとう)

温中散寒おんちゅうさんかん(中:胃腸を温め冷え症改善)

補気補血ほきほけつ(気虚・血虚を補う)

主治(帰耆建中湯:温中散寒・補気補血)

中気虚寒ちゅうききょかん・気血両虚:

面色無華めんしょくむか、神疲乏力しんぴぼうりき、消痩しょうそう、

手足煩熱はんねつ あるいは冷、

四肢酸疼ししさんとう(手足がしくしく痛む)

脚弱きゃくじゃく、咽乾口燥いんかんこうそう、虚煩不寧きょはんふねい、自汗盗汗じかんとうかん、

腹満腹痛、心悸少気しんきしょうき、あるいは鼻衄びじく、

食欲不振、小便頻数ひんさく、大便不爽だいべんふそう

あるいは溏薄とうはく、舌質淡ぜっしつたん、舌苔白潤ぜったいはくじゅん、

脈渋みゃくじゅう あるいは弦げん あるいは緩弱かんじゃく。

応用(帰耆建中湯:温中散寒・補気補血)

顔色がすぐれず、疲れやすく気力に乏しい。

一般に、痩せてしまりがわるいが、 筋肉に緊張が見られる。

ただし、この体形にこだわる必要はない。

けっこう、体格の良いものにも適応する。

もちろん、急症の場合には、体格は無視してよい。

手足がほてりやすく、冷えやすい。

夏はほてり、冬は冷える。昼はほてり、夜は冷える。

また、四肢がだるく、痛みを覚えることもある。

「かかと(腎虚)、ふくらはぎ(脾虚)、すねの筋も痛い(肝血虚かんけっきょ)」という子供は腎虚・肝血虚・脾虚の三つが重なった状態なので小建中湯(成長痛)を使う。

肝血虚:めまい・目花もっか・月経量少・無月経・不眠・多夢・四肢麻木まぼく・筋肉の運動障害:養肝血ようかんけつ・滋腎陰じじんいん:補肝湯ほかんとう・四物湯しもつとう・杞菊地黄丸こぎくじおうがん・黒逍遥散こくしょうようさん:逍遙散加生地黄4しょうじおう または熟地黄4じゅくじおう を加える。

黒逍遥散:逍遙散加生地黄4または熟地黄4を加える:疏肝解鬱・補血健脾・調経:熱証が見られる時は生地黄しょうじおう を使い、それ以外では熟地黄(補血)を使う。

生地黄しょうじおう:消炎・解熱・鎮静・滋養強壮・強心作用。

熟地黄・熟地じゅくじ:ゴマノハグサ科カイケイジオウの塊状根:酒にて蒸す:血虚に適す:滋陰・補血。

帰耆建中湯(小建中湯も同じ)足が弱く、疲れやすく転びやすい。食欲がなく、食が細い。食べたり食べなかったり、食事にむらのある場合もすくなくない。

帰耆建中湯の便通は、快通しないことが多い。硬く小さなコロコロ便で便秘気味の場合、あるいは軟らかく細くすっきりとは出ない(軟便不爽ふそう)場合とがある。(小建中湯も同じような便秘気味)

小便は頻数である。

いつも口が乾く(陰虚)。落ち着きがない(虚熱煩躁はんそう)。

起きていても寝ていてもよく汗をかく。

動悸どうき や息切れ(気短きたん)がある。

時として鼻血(衄血じっけつ:鼻衄びじく)を出す。

お腹がはりやすい(脾虚腹満)。

時に、腹痛や胃痛を訴える。

舌質の血色がなく、

舌苔は白く潤っている。

1.(帰耆建中湯:温中散寒・補気補血)

胃痛・腹痛を主とする疾患しっかん に適応

する。胃潰瘍いかいよう、十二指腸潰瘍じゅうにしちょうかいよう、胃炎いえん など。

特に空腹時に痛みを訴えるものによい。

嘔吐・胸やけ・呑酸どんさん(逆流性食道炎) などが

あれば、帰耆建中湯は不適である。(胃熱や食べすぎによる食傷しょくしょう には不適)

2. 帰耆建中湯:常習性便秘。いわゆる兎糞状とふんじょう とよばれる、コロコロした便のものに適応する。(小建中湯も適応する)

3.(帰耆建中湯:温中散寒・補気補血)疲労倦怠感けんたいかん を主とするもの。

小児の虚弱体質きょじゃくたいしつ。疲れ易く元気がない。

帰耆建中湯:すぐにカゼをひいてしまう(小柴胡湯も体質改善し予防する)。

帰耆建中湯:アドノイド・扁桃へんとう が肥大している(虚弱体質の特徴:自家中毒じかちゅうどくの者)。

汗をかきやすく、寝汗ねあせ(盗汗とうかん:寝汗)もある。

(自汗盗汗じかんとうかん)

病後の体力の回復。痩せて元気がなく、汗をかきやすく、寝汗もある。寝汗は陰虚いんきょ(陰虚・栄養不良)の場合が多い。

帰耆建中湯に較べて、疲労倦怠感けんたいかん が強ければ、補中益気湯:補気健脾・昇陽虚寒しょうようきょかん・甘温除熱かんおんじょねつ:皮膚が乾燥していれば、十全大補湯じゅうぜんだいほとう(補中益気湯も適応):気血双補きけつそうほ

4.(帰耆建中湯:温中散寒・補気補血)

小便の近いもの

帰耆建中湯:夜尿症やにょうしょう にも応用される。

夜尿症:加味甘麦大棗湯かみかんばくたいそうとう・補中益気湯・小建中湯・帰耆建中湯きぎけんちゅう・桑螵蛸散そうひょうしょうさん・柴胡桂枝湯さいこけいしとう。

5. 華岡青洲はなおかせいしゅう は帰耆建中湯を「癰疽ようそ 潰つい えたる後、膿多く出で、自汗盗汗止まず、日々虚状を為す者を治す」としている。

華岡青洲:江戸時代の外科医。記録に残るものとして、世界で初めて全身麻酔を用いた手術(乳癌手術)を成功させた。麻酔薬は「通仙散つうせんさん」(別名、麻沸散-まふつさん)

癰疽ようそ が治癒した後も、薄い膿がとまらず、自汗や盗汗が止まず、しだいに体力が低下していくものに適応する:帰耆建中湯:慢性的に中耳から浸出液を出すとき。通常、中耳炎、中耳炎を繰り返す場合は、耳は肝経が通っているので、小柴胡湯(和解半表半裏・清熱透表とうひょう・疏肝解鬱・補気健脾・和胃止嘔)または、柴胡桂枝湯(和解半表半裏・解表・疏肝解鬱・補気健脾・和胃止嘔わいしおう)。

化膿性疾患。

外傷や手術後に、瘡部そうぶ から薄い分泌物が出て、肉芽にくが が形成されないもの。

帰耆建中湯:痔瘻じろう。瘻管ろうかん(肛門の出口の周囲に出来た膿を出す穴) より、薄い膿が出るもの(本来は肛門周囲膿瘍のうよう:痔瘻で、痛む場所が動く場合は、風熱なので防風通聖散が適応である。風は素早く移動し変化する。防風は袪風湿。本来、痔瘻には秦艽防風湯を使う。

防風通聖散:疏風解表・瀉熱通便:体を冷まし体を乾かす作用:当帰 芍薬 川芎 山梔子 連翹 薄荷 生姜 荊芥 防風 麻黄 各1.2 大黄1.5 芒硝1.5 桔梗 白朮 黄芩 石膏 甘草 各2 滑石3:口渇・便秘・肥満・ちくのう・消渇病

消渇:しょうかち:しょうかつ:消癉しょうたん:多飲・多食・多尿の症状が特徴。臓腑燥熱・陰虚火旺して生ずる。治法は滋陰・潤燥・降火の法。

麦門冬湯:消渇病で多食善飢だが体重減少がある胃の陰虚という病態の糖尿病で痩せる:沙参麦門冬・麦門冬湯・一貫煎を使う。多食だが体重減少の場合は口渇があるが沢山は飲まない。

一貫煎いっかんせん:沙参 麦門冬ばくもんどう 生地黄しょうじおう 枸杞子くこし 当帰 川楝子せんれんし:消渇病

消渇病に八味丸:口渇喜冷飲・小便不利・下半身だけに浮腫がある。

消渇病に五苓散:口渇喜冷飲こうかつきれいいん・小便不利・多汗(自汗じかん)

消渇病に猪苓湯:口渇喜冷飲・小便不利・無汗

体重減少の消渇病には虚熱証の知柏地黄丸ちばくくじおうがんを使う。知母:ユリ科ハナスゲ(花菅)の根茎:苦寒:清熱瀉火:滋腎潤燥:清熱潤燥薬:知母は潤す作用があり黄柏とともに胃陰虚も潤し虚熱を冷やす作用がある:知柏地黄丸:消渇病

知柏地黄丸:滋補肝腎・清熱瀉火:知母 黄柏 地黄   山薬 山茱萸 さんしゅゆ  沢瀉たくしゃ 茯苓 牡丹皮:陰虚火旺の虚熱証に適用:体重減少の消渇病:陰虚では痩せる。

白虎加人参湯:消渇病の多飲・大汗・多尿で体重減少が少ない実熱証の人:大切な点は体重減少がなく陰虚ではないこと。夜中でも冷蔵庫から冷たい水をたくさん飲む人。

精神症状が軽ければ、胃熱の心下痞硬・口臭・口渇・便秘に大柴胡湯だが、糖尿病は陰虚の場合が多いので長期連用は注意。

秦艽防風湯じんぎょうぼうふうとう:蘭室秘蔵らんしつひぞう:痔瘻じろう(肛門周囲膿瘍のうよう):秦艽2じんぎょう 防風2ぼうふう 沢瀉2たくしゃ 陳皮2ちんぴ 柴胡2さいこ 当帰3とうき 白朮3 桃仁3 甘草1 黄柏1おうばく 大黄1だいおう 升麻1しょうま 紅花1こうか:日本には製品は無い

(帰耆建中湯:温中散寒・補気補血)

帰耆建中湯:慢性中耳炎。長期化して、薄い膿が止まらないも。

帰耆建中湯:出血を止める。

帰耆建中湯:小児でよく鼻血をだすもの。

帰耆建中湯:紫斑病しはんびょう。(帰脾湯きひとう の脾不統血ひふとうけつ を治す作用も)

7.(帰耆建中湯:温中散寒・補気補血)

帰耆建中湯:腰や背中の痛み。疲れると、すぐに腰や背中が痛くなり、居動作きょどうさ に困難を覚える。

(帰耆建中湯:腰まがりを伸ばせるが腰の曲がった高齢者に適用する)

8. 強い痙攣性の痛みを訴え、出血する痔核。

9.(帰耆建中湯:温中散寒・補気補血)

帰耆建中湯:小児のヘルニア:脱腸だっちょう。

10.

帰耆建中湯:冬になると、耳に亀裂きれつ が起こり痛むもの。いわゆる、耳ぎれ:耳切れはアトピー性皮膚炎の特徴。

11.(帰耆建中湯:温中散寒・補気補血)

帰耆建中湯:婦人科疾患にともなう腹痛。下腹が痛み、腰背ようはい におよぶ。

帰耆建中湯:月経痛。産後の腹痛。

出典(帰耆建中湯:温中散寒・補気補血)

帰耆建中湯の出典は、一般に華岡青洲はなおかせいしゅう の「癰科方筌ようかほうせん」とされている。

(筌セン:手引き、案内)

しかし、小建中湯あるいは黄耆建中湯の加味方として、方名は記されていないが、古くから多くの古典に散見される。

そのため、本方の出典は確定し難い。編者の確認しえた最も古いものは、宋そう「普済本事方ふさいほんじほう」である。

「普済本事方・巻八・傷寒時疫しょうかんじえき・上」

黄耆建中湯加当帰湯

黄耆(蜜にて炙あぶ る) 

当帰(洗い蘆ろ を去り薄く切り、

焙あぶり 乾し秤はか る)各一両半 

白芍薬三両 

桂けい 一両一分(粗皮を去り火を見ず) 

甘草一両(炙る)

右粗末そまつ、毎服五銭、生姜三片、棗一箇こ、

水一盞せん 半にて、同に煎せん じ八分に至り、

滓かす を去り、七分の清汁を取り、

日に三たび服し、夜に二たび服す。

尺脈なお遅なれば、

再び一剤を作る。

(盞セン漢音:さかずき)

昔 郷人丘生なる者有り。

傷寒を病や み、予 診視しんし を為いた す。

発熱頭疼ずとう し煩渇はんかつ し、脈浮数みゃくふさく と雖いえど も力無く、尺しゃく 以下遅にして弱。

予曰く、麻黄湯証に属すと雖いえども、

尺遅弱しゃくちじゃく、仲景ちゅうけい 云う尺中遅なる者は、栄気えいき 足らず、血気微少、また発汗す可からずと。

(血虚には発汗してはならない。陰虚を生ずるため禁忌きんき)

予 建中湯に当帰・黄耆を加え飲ませしむ。

翌日脈なお爾しか り。

(爾ジ・ニ:その、しかり、のみ、文末に用いる)

その家 煎迫し、日夜 発汗薬を督うながし し、言ほとんど不遜ふそん(無礼)。

予これを忍び、ただ建中けんちゅう を用い栄を調うるのみ。

五日に至り尺部 方ほう(処方薬)に応ず。

遂つい に麻黄湯まおうとう を投ず。第二服を啜すすり、

狂きょう を発するも、須臾しゅゆ にやや定まる。

すこし睡ねむ り汗を得たり。

(須臾シュユ:しばらく、すこしのあいだ、暫時ざんじ、寸刻)

(督トク:みる、ただす、うながす、ひきいる)

「癰科方筌ようかほうせん・癰疽門ようそもん」

帰耆建中湯(家方)治癰疽ようそ 潰つい えたる後、膿多く出で、自汗盗汗とうかん 止まず、日々虚状きょじょう を為す者を治す。

耆 当 圭(桂枝) 芍 甘 棗 姜 右七味、水にて煎ず。

参考

(帰耆建中湯:温中散寒・補気補血)

1. 小建中湯

傷寒にて、陽脈?、陰脈弦、法ほう において当に腹中急痛すべし。先ず小建中湯を与え、差いゆざる者は、小柴胡湯これを主る。

(差愈サイユ:差も愈もなおるの意)

「傷寒論しょうかんろん・辨太陽病脈証并治べんたいようびょうみゃくしょうへいじ・中」

傷寒しょうかん 二三日、心中しんちゅう 悸り して煩はん する者は、小建中湯これを主る。「傷寒論・辨太陽病脈証并治・中」

虚労にて裏急し、悸り し、、腹中痛み、夢に精を失い、四肢酸疼さんとう し、手足煩熱はんねつ し、咽のど渇き口燥くは、小建中湯これを主る。

「金匱要略・血痺虚労病脈証并治けっぴきょろうびょうみゃくしょうへいじ」

男子黄ば み、小便自ずか ら利するは、

当まさ に虚労きょろう 小建中湯を与うべし。

「金匱要略・黄疸病脈証并治」

婦人 腹中痛むは、小建中湯これを主る。

「金匱要略・婦人雑病脈証并治」

黄耆建中湯

虚労にて裏急し、諸々不足するは、黄耆建中湯これを主る。

「金匱要略・血痺虚療病脈証并治」

当帰建中湯

千金内補当帰建中湯

婦人産後、虚羸きょるい 不足し、腹中刺痛し止まず、吸吸きゅうきゅう として少気しょうき し、あるいは少腹中急するに苦しみ、摩痛まつう し腰背に引き、食飲する能あた わざるを治す。産後一月、日に四五剤を服するを得て善よ しとなす。人をして強壮ならしむるに宜よろ し。

「金匱要略・婦人産後病脈証并治」

2. 諸々の癰よう、膿潰つい えたる後、苒荏ゼンジンとして癒えず、

(荏苒ジンゼン:ものごとがはかどらないさま)

虚羸きょるい し、煩熱し、自汗盗汗し、稀うす き膿止まず、新肉 長ぜざる者を治す。

もし悪寒し下痢し、四肢冷ゆる者は、更に附子を加う。「類聚方広義るいじゅほうこうぎ」尾台榕堂おだいようどう。

医案いあん(症例研究)

(帰耆建中湯:温中散寒・補気補血)

1. 昭和九年の十一月のこと、茨城県の山間にある知人の別荘にでかけて、逝ゆ く秋の風物に詩情しじょう を肥こ やさんと一泊したことがある。

その時、村の者が数人して戸板といた にのせた青年を運んできた。

聞けば隣村からわざわざ診察を受けにきたのだという。

診み れば、やせた血色のよくない青年で、一人で寝返りせできない。

病人のいうところによれば、病気になってから、もうかれこれ十年になるから、元の身体になることはのぞまないが、せめて、大小便が人手をかりずに、すませるようになれば満足だという。

医師から脊髄せきずい がわるいといわれたそうであるが、私には、脊髄のどこがわるいのか、見当がつかなかった。

脈は弦で、しかも弱である。

腹直筋は弓のつるを脹ったようになって、脊柱せきちゅう はひどく後彎しているので、仰臥ぎょうが することができない。

無理に力をいれて脊を伸ばそうとすると痛む。

大小便と食欲は普通である。

私は「金匱要略きんきようりゃく」にいうところの虚労きょろう と診断し、腹直筋の攣急れんきゅう とやせて血色のよくない点を目標にして、帰耆建中湯を与えたところ、

一ヶ月ぐらいで一人で座れるようになり、三ヶ月たつと、杖をついて歩けるようになり、翌年の夏は健康人と同じく動作ができるようになり、たいへんによろこばれた。

「漢方診療三十年」大塚敬節おおつかけいせつ 著

2. (帰耆建中湯:温中散寒・補気補血)

幼児の痔瘻じろう

体質が虚弱で、色が白く、腺病質である。

3歳にまだならない頃、肛門の近くに腫物ができ、それはあまり痛まないようであったが、自潰じかい して膿が出るようになった。

医師は痔瘻じろう と診断した。

みると、肛門の近くに大豆大の硬結があり、その尖端せんたん に胡麻ごま が入る位いの孔あな があって、うすい膿が出ている。

私はこれに1/4量の帰耆建中湯を本方として、伯州散0.6gはくしゅうさん を1日として兼用し、朝夕2回、患部に紫雲膏しうんこう を貼付することにした。

(伯州散はくしゅうさん:津蟹ツガニは藻屑ガニのこと

・反鼻ハンピ(まむし)・鹿角ろっかく 以上を各別々に霜そう(黒焼き)とし、混和し、1日3回1gずつ服用)

すると10日ほどたつと、患部が赤く腫れて痛むようになった。

しかし、これは悪いものが出るためだからと母親は自己判断で、服薬をつづけた。

ところが、疼痛は次第に強くなり、患児は夜もよく眠らなくなった。

そして15日目に、大豆の尖端位の孔があいて、膿が多量に出た。それと同時に疼痛はなくなった。

それでずっと前方をつづけていると、患部の肉芽の色がよくなり、だんだん瘡面が浅くなり、6ヶ月目にはほぼ全治したかにみえた。

しかし何かの調子で、時々患部が発赤したり、硬くなったりするので、1年あまりこれを連用した。

すると、血色もよくなり、家中で一番元気な子供となり、その後病気らしい病気もせず今日に至っている。

「症候による漢方治療の実際」大塚敬節 著