和解少陽法(邪在少陽)
小柴胡湯や柴胡桂枝湯・大柴胡湯・柴胡加竜骨牡蛎湯など
和解少陽法は、邪が少陽にある場合に活用される。
症状は寒熱往来、胸脇苦満、口苦、咽乾、目眩、心煩喜嘔、食を欲しないなどの少陽証の七証。
少陽は半表半裏に属し、邪は少陽にあり、表証でもなく裏証でもない。
臨床表現ではその症状は三組に分けられる。
一組は、寒熱往来・胸脇脹満などは、邪が少陽経の半表証にあり、
一組は、口苦・咽乾・目眩・心煩などは熱が胆腑の半里証にあり、
別の一組は喜嘔、食を欲せずなどの胆気犯胃の症状である。
この一連の証型は汗法・下法・吐法の運用ができないので、和解少陽法(小柴胡湯を三禁湯という:汗・吐・下を禁ずる)を用いて身体を調整して、邪を外泄させる方法をとる。
和解少陽法は、主に柴胡、青蒿せいこう、黄芩、山梔子、半夏、人参など寒熱を共用する組成で、袪邪扶正の方剤を用いる。
柴胡、青蒿を用いて、少陽の邪に透達し(疏肝する)、
黄芩、山梔子は、胆腑の熱を清解する。
半夏、人参などは、和中し嘔吐を止め正を助け袪邪する。
青蒿せいこう:キク科カワラニンジンの全草:苦寒:清熱解暑・退虚熱:発散作用。
代表方剤は小柴胡湯、蒿芩清胆湯こうごんせいたんとう(調和肝脾法ちょうわかんぴほう)、大柴胡湯。
このほか、穢濁えだくの邪が、膜原まくげん に存在する場合の治法と少陽の治法は似ている所があるので、ここに論じる。
内臓と躯体の間の膜を膜原まくげん と称する。
膜原もまた半表半裏に属する。疫癘穢濁えきれいえだくの邪は、口や鼻から入り、直に中道を通り膜原に達し営衛を阻遏そあつし、症状は寒を嫌い熱が壮になるが、瘧ぎゃくに似て瘧ではなく、頭痛は激烈で、胸悶し嘔吐を生じ、舌苔は垢コウじ である。
瘧ギャク:おこり
治療は膜原を宣透せんとう し、三焦を昇降させ、常用薬は檳榔子びんろうじ、草果そうか、厚朴などの苦温化湿の薬と黄芩、知母などの清熱薬の組合せの方剤で、たとえば達原飲たつげんいん 、三香湯さんこうとう、昇降散しょうこうさんなどが膜原にある病を治する代表方剤である。
草果ソウカ・草果仁:ショウガ科草果ソウカの成熟種子:辛温:脾胃経:芳香健胃薬、袪湿、消滞、袪痰、截瘧セツギャク(瘧をとめること)。草果と草豆蔲ソウズクは科・属が同じで作用はよく似ている。草豆蔲は健胃作用が優れる。草果は截瘧の作用もある。
疫癘エキレイ=癘疫:流行病・はやり病。
癘レイ・ライ:らいびょう・レプラ・えやみ・流行病・はげむ。
垢コウ・ク・あか。垢じ:あかが厚い舌苔
阻遏ソアツ:遏アツ:絶つ・さえぎる・とどめる・とめる絶つ・さえぎる・とどめる・とめる。
大柴胡湯(傷寒論)
組成 柴胡7 黄芩5 白芍10 半夏5 生姜3 大棗1.5 枳実2 大黄5(後下)
主治:胆胃実熱、往来寒熱、胸脇脹満、嘔気止まず、心下痞硬、或は心下脹痛、便秘、或は脇熱下利、舌苔黄、脈弦有力。
分析:往来寒熱、胸脇脹痛、嘔吐止まずは少陽の小柴胡湯証である。
心下痞硬、或は心下満痛、大便秘結、舌苔黄、脈沈実は陽明の承気湯証であり、両方の証状が同時に出現していて、これは少陽証とともに裏気壅実の胆胃実熱の病理である。
壅実ようじつ:ふさがって実している。
治法:清瀉胆胃法
方解
邪は少陽、陽明にあり。
もし単に小柴胡湯の和解少陽を用いれば、裏実は去らず、
もし単に承気湯で陽明の積をのぞくだけでは、少陽の証はまた解消することができないので、小柴胡湯合小承気湯の加減で治療すべきである。
小柴胡湯は往来寒熱、胸脇脹痛、嘔吐不食などの少陽証に設けられ但し大柴胡湯証は嘔吐止まず・便秘などの実証なので補薬を用いるのはその邪を益し、さらなる障害となるのを畏れるので人参、甘草を去っている。
小承気湯は心下痞硬、満痛、便秘、舌苔黄などの陽明実熱証に対して設けられ、但し大柴胡湯証では、腹はひどく満痛するのではなく心下結痛しているだけなので、行気寛満の厚朴を去り、解痙止痛の白芍を加えて病状に投じている。
大柴胡湯を胆胃実熱型の嘔吐に用いれば効果は佳くなる。古人は長い臨床実践中の観察によって胆道疾患は容易に胆気犯胃を引き起こし、胃気上逆して嘔吐するとして、胃が嘔吐するのではなく胆木が胃を障害して嘔吐させているとした。
大柴胡湯は
柴胡で疏肝して胆の鬱を解し、
黄芩で肝胆の熱を冷まし、
枳実で胆胃の気を降泄し、
白芍で平肝解痙しその急迫の勢いを弛め、
疏肝、清肝、平肝などの通して、肝胆の気が胃を犯さないようにして、一連の薬が肝胆を治す。
大柴胡湯は胃気上逆だけでなく、胆気犯胃の病理を更に深く考慮して腑気の通調をはかっている。
正常な情況下にあっては、胃腸は通降下降を順とする。
もし腸中に積滞があれば腑気は不通となり、その胃気の正常な下降に影響し、上逆して嘔吐するので瀉下通腑して胃気を下行させる。
大柴胡湯は瀉下通腑の大黄を配合しているのは此の意味である。
上に病をみれば下を治するの法則である。
これにより、大柴胡湯は胆胃実熱型の嘔吐に有効な方剤となる。
大柴胡湯の治するところは胸脇脹痛、心下痞硬、結痛などの証で、急性胆嚢炎、胆石症、急性膵炎の臨床症状の治法に適合する。
大柴胡湯に木香・鬱金・茵蔯・芒硝の類を加えれば上述の病にさらに効果がある。
大柴胡湯を協熱下利に用いればよく適合する。
下利に(下剤である)通腑の大黄を用いる意味は?
もし下利が腸中の積滞によるものならば、積滞の影響によって腸道の伝導に異常が生ずるので大黄の瀉下作用で積滞を去れば伝導は正常になり下利は止む。
もし下利が、積滞がなくても熱毒が比較的盛んならば、大黄の瀉下作用で熱を去り、毒素を排除する作用は、「通因通用」の治療法である。
大柴胡湯に青黛、山梔子、牡丹皮、芒硝などの清肝瀉下薬を加えると肝火上攻の狂症に有効である。
青黛せいたい:大青葉たいせいように水を加えてたたきつぶし石灰水などを加え表面に浮いた青藍色の粉末をすくい取り日干しにしたもので、インディゴの残滓を含むが、これは黄色ブドウ球菌を抑制する。
大青葉たいせいよう:キツネノゴマ科馬藍、アブラナ科の葉:苦鹹・大寒:心胃経:清熱解毒・涼血・解熱。乙脳方(日本脳炎方)
乙脳方おつのうほう(日本脳炎方):大青葉10 生石膏40(先煮)黄芩4 焦山梔子3 紫根3 牡丹皮3 鮮地黄20 元明粉2(衝服) 黄連1 水煎服。
「類聚方広義」に大柴胡湯は「狂症、胸脇苦満、心下痞塞、膻中たんちゅうの動悸が、甚だしい者には鉄粉を加えて奇効がある」。
古今の大柴胡湯の経験からの応用として、およそ肝胆の火が上攻した頭痛、耳鳴り、耳聾、眼目の雲翳・赤眼疼痛、発狂、脳卒中、動悸、及び胆胃不和による嘔吐不止、心下急痛、胸脇痞硬痛などの証で、もし口苦、舌紅、舌苔黄、脈弦数なら大柴胡湯を応用できる。
参考
加味大柴胡湯:大柴胡湯加桃仁、赤芍は経水(帯下)、熱入血室、腰、脇、少腹が満痛する者に用いる。(少腹痛に袪瘀血薬の桂枝茯苓丸)。
(熱入血室:往来寒熱・胸脇苦満・小腹拘急・夜間言語錯乱・意識異常・月経中断或は来経・身重・頭汗)
加減大柴胡湯:柴胡3 黄芩3 枳殻3 白芍6 大黄3 川楝子3 玄胡(延胡索)3 木香3 蒲公英10 生甘草2。
川楝子せんれんし・金鈴子きんれいし・苦楝子くれんし:センダン科トウセンダンの成熟果実:苦寒:理気止痛・殺虫:アニサキスに。
延胡索えんごさく:活血・理気・止痛・鎮静・鎮痙:気滞血瘀に対して活血行気で血滞を除き止痛する。折衝飲・金鈴子散・芎帰調血飲第一加減に配合。
瘀血の心筋梗塞や腰痛に折衝飲:活血化瘀・理気止痛:心筋梗塞痛・瘀血の腰痛・足痛・膝痛:当帰5 桃仁5 牡丹皮3 川芎3 赤芍3 桂枝3 牛膝3 紅花2 延胡索3g
重症の腹腔感染症には銀花(金銀花) 連翹れんぎょうなどの清熱解毒薬を加減大柴胡湯に加え、便秘の者には芒硝を加え、瘀血が重い者には桃仁、紅花、生蒲黄、川芎などの活血袪瘀薬を加える。水煎して服用し毎日1~2剤を用いる。
加減大柴胡湯は潰瘍穿孔かいようせんこうに用いる。症状が緩解してきた後に中焦の鬱熱による上腹部の満痛、口苦、苔黄、便秘、尿赤、脈弦数あるいは脈滑数の者に用いる。
柴胡陥胸湯:柴胡4 半夏3 黄芩3 木香3 鬱金3 炒枳実3 黄連2 熟大黄3 玄明粉(延胡索)3(衝服) 白芍10.水煎服。治す急性胆嚢炎、慢性胆嚢炎の急性発作、発冷発熱し、右上腹部拒按、大便秘結、舌苔黄じなどの症状には皆効果がある。
獲・穫:得る、捕らえる、手に入れる。
加減大柴胡湯:柴胡 木香 枳殻 川楝子 延胡索 生大黄(後下) 黄芩 各3g。治す:気滞型胆嚢炎、右脇脹痛、噯気で弛む、胸悶納呆、反復発作、顕著な発熱や黄疸は無く、舌苔薄、脈弦。
胃もたれ(納呆のうほう・胃中不和)
加減茵蔯大柴胡湯:茵蔯10 柴胡3 生山梔子4 黄芩3 大黄3(後下) 芒硝3(衝服) 枳殻2 青陳皮2 木香3。
加減茵蔯大柴胡湯:治す湿熱型胆嚢炎、胆石症、右脇絞痛、口苦納呆、高熱畏寒、大便秘結、小便短赤、或は黄疸を伴い、舌苔黄じ、脈弦滑数。
大柴胡湯 だいさいことう (傷寒論)
組成
柴胡6 黄芩3 芍薬3 半夏4 生姜4 枳実きじつ2 大棗3 大黄1~2
小柴胡湯:傷寒論:柴胡7 黄芩3 半夏5 生姜4 人参3 大棗3 甘草2 (瘰癧加味方:貝母3 夏枯草3 瓜呂根2 牡蠣2 青皮2)
大柴胡湯を適用する症状・・心下痞硬(重要な目標)・肝火上炎・肝気鬱結で憂鬱感が強くイライラ・胃実(胃熱)で食欲旺盛・口渇・腹部膨満感・腹痛・便秘・尿黄・舌質紅・舌苔黄・脈数を伴う以下の症状・・・この前提がいくつかある場合に限り下記の症状が適応する。(脾虚・食欲不振・軟便・下利には大柴胡湯は原則は不適だが下利が治る場合もある。心下痞硬や胸脇苦満・イライラが強ければ大柴胡湯去大黄とすれば軟便・下利気味でも使える)
少陽病の七症、持続性の高熱(陽明病)・感冒・インフルエンザ・肺炎・潮熱・日晡潮熱(毎日定時的な発熱)・熱盛(口唇の発疹や腫れ・咽の腫れや痛み)・精神異常・神経症に応用(狂躁状態・驚悸・パニック障害・不眠・神経性インポテンツ・譫語せんご・煩躁・不整脈)・腹満・心下部の膨満感(心下痞硬):腸鳴・急性肝炎・腹水・黄疸(大柴胡湯合茵蔯蒿湯)・胆嚢炎・胆管炎・胆石痛(痛みに大柴胡湯合芍薬甘草湯)・肝火上炎(頭痛・めまい・顔面紅潮・顔面神経麻痺・鼻腔の炎症・鼻出血)・目や耳や鼻の慢性的な発赤や腫脹(荊芥連翹湯):蓄膿症(肝熱:大柴胡湯加桔梗石膏、胃熱:防風通聖散合大柴胡湯):(耳鳴・耳聾:急性:大柴胡湯合竜胆瀉肝湯・慢性:大柴胡湯合六味丸・大柴胡湯合八味丸・大柴胡湯合耳鳴丸):中耳炎(肝経・脾虚・腎虚)・耳下腺炎(肝経)・結膜炎・虹彩炎・角膜炎)・頚部の腫脹こぶとりじいさんのコブや甲状腺腫(大柴胡湯合半夏厚朴湯・加味逍遙散合半夏厚朴湯)・胆経や胃経の経絡上の炎症や腫れ:乳房脹痛・鼠径部の痛み・下腿前面の痛み・足背の痛み・第3趾の疼痛(大柴胡湯)や運動障害・膝痛・熱盛下痢(急性の便臭の有る下痢)・咽喉痛・歯茎の発赤や腫脹(甘露飲)・歯齦炎や歯槽膿漏の 初期・口内炎・歯齦炎・歯痛・消穀善飢・脘腹脹満かんぷくちょうまん・胃炎・悪心嘔吐・胃酸過多症・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・噫気あいきゲップ・大便秘結・急性大腸炎(下血・腹痛で救急車で何度も運ばれる)・黄粘痰を伴う咳嗽・少陽胆経に発赤や腫脹や疼痛(扁桃炎・リンパ節腫・フルンケル・麦粒腫)・口苦・筋緊張の加重(肩こり・腰痛・癲癇)・肝鬱の食滞型(中高年以降に発症する食滞型の喘息:大柴胡湯合半夏厚朴湯)・高血圧症、常習性頭痛・膝関節症・健啖家の糖尿病(大柴胡湯合六味丸・大柴胡湯合八味丸)・食毒熱滞留の食欲不振・大腸ポリープ・肥満(大柴胡湯合甘草湯)・胃腸湿熱の痔疾・痔の刺痛(大柴胡湯合桂枝茯苓丸)・半身不随・狂症で腹に動悸(大柴胡湯加鉄粉)
大柴胡湯との合方処方(心下痞硬・肝火上炎・肝気鬱結で憂鬱感が強くイライラ・胃実で食欲旺盛・口渇・腹部膨満感・腹痛・便秘・熱性下利・尿黄・舌質紅・舌苔黄・脈数などを伴うことが大柴胡湯を選択する前提である)
大柴胡湯去大黄:脾虚の肝気鬱結で憂鬱感が強く・心下痞硬
大柴胡湯合茵蔯蒿湯:黄疸・肝炎
茵蔯蒿湯の清肝瀉火の山梔子:清熱瀉火・涼血解毒・利湿熱:三焦の熱を冷まし乾かす。黄疸に茵蔯蒿湯(山梔子3+茵蔯蒿4+大黄1)
加味逍遥散は肝胆経に沿った部分に、腫塊を生ずることがあり脇下の腫塊を目標に慢性肝炎に使用される。
茵蔯蒿湯:肝胆湿熱:胆石・胆嚢炎・黄疸・肝炎・急性膵炎:山梔子3+茵蔯蒿4+大黄1
大柴胡湯合芍薬甘草湯:胆石痛(一般に結石痛や胃痛みには芍薬甘草湯を合方する)
大建中湯:温中散寒・解痙止痛・補気健脾・殺虫・結石痛:蜀椒2しょくしょう 乾姜4 人参3 膠飴こうい20:寒実証(実寒証)で、冷えが体に侵入した状態になると腸がモコモコ動いたりブチブチと音をたてて動く。
大建中湯の蜀椒・花椒かしょう・川椒せんしょう・山椒さんしょう:ミカン科カホクサンショウの果実:辛大熱有毒:脾胃肺腎経:温中・止痛・袪湿・駆回虫:目に良いとして毎日お湯に溶かして服用したら辛大熱有毒のため鼻衄が出た。
大柴胡湯加桔梗石膏:蓄膿症(肝熱による蓄膿症)
防風通聖散:食べすぎると蓄膿症がひどくなるのは余計なものが体内に入るので脾の実証である。食べすぎ・食欲旺盛で太り気味の蓄膿症には脾の実証の防風通聖散を使う。
大柴胡湯合防風通聖散:蓄膿症(肝熱・胃熱による)
肝熱による:眩暈・嘔吐・耳鳴り・メニエル病:小柴胡湯合二陳湯・小柴胡湯合苓桂朮甘湯
大柴胡湯合竜胆瀉肝湯:急性の耳鳴り・耳聾・陰腫:慢性の耳鳴りは腎虚を兼ねるので大柴胡湯合六味丸・大柴胡湯合八味丸。
竜胆瀉肝湯:耳聾・耳鳴・肝経湿熱の陰部のしこり:解毒症体質:青年期や女性や泌尿器疾患。
大柴胡湯合六味丸・大柴胡湯合八味丸・大柴胡湯合耳鳴丸・大柴胡湯合耳聾左慈丸:慢性の耳の症状・耳だれ・耳鳴・耳聾(耳は肝経が通っているので大柴胡湯・腎は耳に開竅しているので六味丸・八味丸)
大柴胡湯合半夏厚朴湯・加味逍遙散合半夏厚朴湯:頚部の腫脹・こぶとりじいさんのコブ・甲状腺腫。
大柴胡湯合半夏厚朴湯:気管支喘息(中年に多い食滞型喘息)
大柴胡湯合六味丸・大柴胡湯合八味丸:糖尿病(健啖家の食滞型・慢性に移行した耳鳴り・難聴・耳だれ)
大柴胡湯合甘草湯:肥満(甘草湯の構成は甘草一味)
大柴胡湯合桂枝茯苓丸:胃腸湿熱の痔の刺痛(刺痛・固定痛は瘀血の痛み:桂枝茯苓丸加大黄:大黄は駆瘀血薬)
大柴胡湯加鉄粉:狂症で腹に動悸がする。
方解(大柴胡湯は)
傷寒論の少陽病から陽明病に移りつつある時に適応する方剤である。
少陽病:柴胡証の七症を示す時に適応する。
少陽病(柴胡証)の 七症:往来寒熱・胸脇苦満・口苦・咽乾・目眩・黙黙不欲飲食・心煩喜嘔の一症があれば少陽病なので半表半裏証を柴胡剤(小柴胡湯・柴胡桂枝湯・大柴胡湯など)を使って和解する。
七症を記憶すること。(大柴胡湯は脾虚には使わないで、強いストレスで症状が強い脾虚には大柴胡湯去大黄とする)
小柴胡湯:和解少陽・清熱透表とうひょう・疏肝解鬱・補気健脾・和胃止嘔
柴胡桂枝湯:太陽病(表寒虚証の桂枝湯:自汗)と少陽病(小柴胡湯)の合病
大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結(心下痞硬の胃熱を去る:胃熱のため胃が脹って苦しい)・疏肝解鬱・理気止嘔:少陽病から陽明病に移りつつある状態に使う:肝火上炎・肝気鬱結・胃実熱
:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1。
大柴胡湯:和解半表半裏・肝気鬱結・疏肝解鬱・肝火上炎・胃実熱・理気止嘔・瀉下熱結
傷寒論の六経病:太陽病・少陽病・陽明病・少陰病・太陰病たいいんびょう・厥陰病けっちんびょう
陽明病:傷寒論の六経病の一つ。陽明経証(白虎加人参湯)と陽明腑証(承気湯類)に分けられ、胃家実(胃熱があり食欲がある)であり、実熱性の病変がある。(虚熱ではない。)
陽明経証:無形の邪熱が陽明経に盛んで、大熱・大汗・大煩渇・脈洪大が特徴。白虎加人参湯(白虎湯)が代表方。
陽明腑証:邪熱と糞便などの燥実内結し壮熱・日晡潮熱にっぽちょうねつ・手足に汗出で・大便秘結・尿黄にょうおう・脈沈滑で、治療は攻下燥結で、三種の承気湯を用いる。大承気湯・小承気湯・調胃承気湯
三種の承気湯:
小承気湯(傷寒論):大黄2 枳実2 厚朴3:枳実2・厚朴3の理気行気作用が強い。
調胃承気湯:大黄2 甘草1 芒硝1:芒硝1の瀉下作用が強い。
大承気湯:峻下熱結:大黄2 芒硝3 厚朴5 枳実3。
四逆散の枳実(強い作用)・枳穀(弱い作用):行気消積・行気寛中する行気薬である。
厚朴:苦辛温:燥湿除煩・行気降逆:(気滞や気逆の治療原則:理気・行気・降気)
柴胡証・少陽病の七症:往来寒熱・胸脇苦満・口苦・咽乾・目眩・黙黙不欲飲食・心煩喜嘔:この7つの症状を記憶する。
陽明:足の陽明胃経と手の陽明大腸経の経脉のこと。陽気の最も盛んなことを意味する。
足の陽明胃経:鼻の付け根から起こり、眼下の承泣しょうきゅう、四白しはく、巨髎こりょうをくだり、上歯槽に入り、上方に貫通したのち口角をめぐり、反対側の経と下口唇で交わり、下顎骨前縁を後ろに向かい、顔面動脈の拍動部の前方の大迎だいげいで上下枝に分岐し、一枝は上にのぼって下顎の頬車きょうしゃ・耳前の下関げかん・前額の頭維ずいなどに分布する。
もう一枝は下に向かい喉嚨こうろうにそって鎖骨上窩の欠盆けつぼんに入る。鎖骨上窩で再び内外の二枝に分かれ、一枝は体内に入り、胸腔をへて鼠径部そけいぶにいたり、もう一枝は欠盆から体表部を下がり、乳頭の乳中をへて腹部正中線横2寸を下向し、両枝は鼠径部で合流する。
その後さらに下肢前外側の髀関ひかんを下向し、外膝眼から足三里、下巨虚へと下り、足背のかいけい~衝陽しょうようで第二・三中足骨の間を通り、第二趾外側端にいたる。
このほか、小さな二つの分枝があり、一枝は膝下3寸の足三里で分かれて第三趾外側に下向し、もう一枝は足背の衝陽で分かれて第一趾端に至る。
足の陽明胃経の主な症候:高熱と発汗(陽明経は、陽気の最も盛んな経で熱盛である:大柴胡湯)
足の陽明胃経の主な症候:鼻出血(鼻横の承泣しょうきゅう や四白しはく・巨髎こりょうの経上の熱のために出血する:大柴胡湯)
足の陽明胃経の主な症候:口唇の発疹(陽明胃経は口角をめぐっている:口唇ヘルペス・唇の腫れ:大柴胡湯)
足の陽明胃経の主な症候:咽喉の腫脹・疼痛(大迎から下向し喉嚨から欠盆けつぼんへ:いつも咽の一点に痛みがあり喉頭癌ノイローゼになり易く、カゼを引くと咽の腫れがひどくなり呼吸困難になりやすい:食欲旺盛な人・胃熱がある人で心下痞硬:大柴胡湯)
足の陽明胃経の主な症候:消穀善飢(食べても満腹感ない:胃熱による心下痞硬をともなう・腹満を苦しむ。胃熱により過食となり胃が毀れる前兆の場合もある:大柴胡湯)
足の陽明胃経の主な症候:心下痞硬:胃のあたりがすごく脹ってくるのは胃熱による心下痞硬があり胃を押すと苦しい場合に、大柴胡湯である。
大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結(心下痞硬の胃熱を去る:胃熱のため胃が脹って苦しい)・疏肝解鬱・理気止嘔:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3たいそう 枳実2きじつ 大黄1
大柴胡湯:尿が濃い(尿黄:陽明病の症状)
大柴胡湯:精神異常:驚き易く動悸する(驚悸:パニック障害・不整脈:食欲旺盛・心下痞硬の人に生ずる)
(天王補心丹:心腎陰虚:パニック障害)
心腎不交:心陰虚の一種(黄連阿膠湯・桑螵蛸散)の症状:焦躁感・睡眠時不安・不眠・動悸・手足の火照り・口乾・顔面紅潮・のぼせ・夢精・鬼交、頭暈、神経疲労・耳鳴・難聴・目花・小便黄赤で量少・排尿時に熱感。(黄連+黄芩で、心火(不安感)・胃火・胆熱を冷ます)
黄連阿膠湯:心腎不交:黄連3 黄芩2 白芍3 阿膠3 鶏子黄1個:焦躁感・睡眠時不安・不眠・悪夢(レビー小体型認知症)・動悸・手足の火照り・口乾・顔面紅潮・のぼせ・夢精し鬼交、頭暈、神経疲労・小便黄色・小便量少で熱感がある。(黄連+黄芩で、心火・胃火・胆熱を冷ます)
心腎陰虚(天王補心丹):虚熱を伴い、眩暈・耳鳴・口乾・体の熱感(五心煩熱)・腰重・遺精・盗汗・脈細数・舌紅無苔の腎陰虚の症状に、不眠・動悸・健忘・多夢などの心陰虚の症状を伴う。
桑螵蛸散:本草衍義ほんぞうえんぎ:心気不足と腎虚不摂による心腎不交である:桑螵蛸そうひょうしょう 遠志おんじ 菖蒲しょうぶ 竜骨 人参 茯神 当帰 醋炙亀板すしゃきばん(酢を塗って炙った亀板) 各等分を粉末にして1日3回2gを人参湯で服用する。2gを水煎服用してもよい:調補心腎・固精止遺・縮尿:ぼんやりする・見当識障害・健忘。
桑螵蛸そうひょうしょう:カマキリ科ハラビロカマキリの巣を炙あぶる:甘鹹平かんかんへい:肝・腎経:補腎・固精・縮尿:桑螵蛸散は夜尿症・頻尿・遺尿・尿失禁・遺精・滑精・頭昏・健忘を治す
五心ごしん:掌心・足心の裏・胸の五カ所をさす。
盗汗とうかん:寝汗のこと
大柴胡湯:狂躁状態:手足は陽明の支配であり、陽明病では暑苦しく感じるので手足を動かし、体も暑苦しくて衣服を脱いで裸になり、屋根や煙突に登ってわめく(肝鬱と脾胃の湿熱のために、手足の煩熱で高所にのぼり裸になる。
手足は、脾胃の支配する場所で煩熱によって手足を無闇に動かしたがるので高い煙突や屋根に登ってわめく、あるいは狂躁状態で手足を持て余し、家人を殴るなどが生ずる。
浮腫、
大柴胡湯:腹満(脘腹腸満かんぷくちょうまん:胃熱の症状で大柴胡湯は食欲が有る)
大柴胡湯:腹鳴・腸鳴(腸鳴:半夏瀉心湯の寒熱錯雑さくざつの症状は、腸鳴・嘔気・臭いのあるゲップ・面紅・心下痞しんかひ・胃不和でなんとなく落ち着かない症状を半夏瀉心湯は改善し・食欲不振・消化不良・下利・軟便を治す)
半夏瀉心湯は心下痞:上腹部のつかえをとる。
大柴胡湯:腹水(肝炎の留守番処方:加味逍遙散加田七・柴胡桂枝湯加田七
肝炎で怠ければ補中益気湯・
肝炎で食少なら六君子湯・
肝炎で心下痞硬なら大柴胡湯・
肝炎で黄疸・尿黄なら茵蔯蒿湯・大柴胡湯合茵蔯蒿湯
大柴胡湯:頭痛(足の陽明胃経は「頭維ずい」をめぐっているため)
大柴胡湯:鼻血・鼻腔の炎症:腫れ・炎症・出血する。
大柴胡湯:顔面神経麻痺(足の陽明胃経は鼻根部に発し顔面の承泣しょうきゅう・四白・巨髎こりょうの麻痺:食欲旺盛・心下痞硬:飲酒で顔面神経麻痺は悪化する人に)
大柴胡湯:頸部の腫脹:足の陽明胃経の下顎拍動部前の大迎だいげい~人迎~欠盆けつぼん:こぶとりじいさんのコブ・甲状腺腫:加味逍遙散合半夏厚朴湯・大動脈瘤合半夏厚朴湯
大柴胡湯:乳房の張った痛み(足の陽明胃経は乳首の乳中を通る)
大柴胡湯:足の陽明胃経の鼠径部そけいぶ(気衝きしょう)の痛み
大柴胡湯:下腿前面の痛み(足の陽明胃経の髀関ひかん~伏兎ふくと~梁丘りょうきゅうの経絡)
大柴胡湯:足背の痛み(足の陽明胃経のかいけい~衝陽しょうよう:第二~第三中足骨の間)
大柴胡湯:第三趾だいさんし の疼痛や運動障害(胃熱による胃腸湿熱・肝鬱の症状:リウマチ患者の初発場所は第三趾に多い)
(陽明病:傷寒論の六経病の一つで、二分類される。
陽明経証:大熱・大汗・大煩渇・脈洪大が特徴の白虎加人参湯。
白虎加人参湯:適用の目標は「夜中でも冷蔵庫から冷たい水をたくさん飲む」実熱証の人に適応:体重減少(陰虚)の消渇病には虚熱証の知柏地黄丸を使う。
白虎加人参湯:清熱瀉火・生津止渇・補気:気分熱盛・陽明経証:生石膏15 知母5 生甘草2 粳米8 人参3
:消渇病(実熱証)の多飲・大汗・多尿で体重減少が少ない人(陰虚ではない人)
陽明腑証:治法は攻下燥結で三種の承気湯の中から選ぶ。
三種の承気湯:
小承気湯:大黄2 枳実2 厚朴3:
調胃承気湯:大黄2 甘草1 芒硝1:
大承気湯:峻下熱結:大黄2 芒硝3 厚朴5 枳実3
陽明経証も陽明腑証とも、胃家実いかじつであり、実熱性の病変がある)
(陽明経証:無形の邪熱が陽明胃経に盛んで、身熱・汗出で・口渇・脈洪大が特徴。大熱・大汗・大煩渇・脈洪大(4症を記憶する)白虎加人参湯(白虎湯)が代表方剤)
(白虎加人参湯:清熱瀉火・生津止渇+補気:陽明経証に適用、大熱、大汗、大煩渇、脈洪大の4大症を記憶する)
(白虎加人参湯:清熱瀉火・生津止渇せいしんしかつ
:生石膏せいせっこう15 知母5 生甘草2 粳米こうべい8 人参3)
白虎加人参湯の生石膏15せいせっこう(含水硫酸カルシウム)
参考:焼石膏しょうせっこう(無水硫酸カルシウム)
白虎加人参湯の知母5:ユリ科ハナスゲの根茎:苦寒:清熱瀉火:滋腎潤燥
白虎加人参湯の生甘草2しょうかんぞう:清熱解毒:炎症を冷やし・化膿症に適応。炙甘草:健脾益気・補中益気の効能が強い。胃寒・血虚・陰虚に対する補益薬に配合する時は炙甘草を使う。
白虎加人参湯の粳米8こうべい(ねばりけがなくかたい米の意。うるち米)
白虎加人参湯の人参3:大補元気だいほげんき・安神益智あんじんやくち・健脾益気・生津しょうしん:潤うるおいを生じる。
白虎湯:生石膏15せいせっこう含水硫酸カルシウム(先に煎じる):、知母5 生甘草2 粳米8:焼石膏しょうせっこう
生石灰:炭酸カルシウムCaO:水と反応して発熱する。
消石灰:水酸化カルシウムCa(0H)2
焼き石膏:硫酸カルシウム二水和物(二水石膏)の乾式焼成によって得られる2分の1水和物(半水石膏)CaSO4・1/2H2Oを指す。
知柏地黄丸:滋補肝腎・清熱瀉火
:知母 黄柏 地黄 山薬 山茱萸 沢瀉 茯苓 牡丹皮
:陰虚火旺の虚熱証に適用する:痩せてくる:食少・多飲・多尿の糖尿病で痩せてくる。
陽明腑証:有形の邪熱・糞便などが邪熱で燥実内結し壮熱・日晡潮熱で毎日午後4~8時に発熱・手足に汗出で・大便秘結・尿黄・脈沈滑で、治療は攻下燥結で、三種の承気湯を選んで用いる。または、陽明腑証の子供には浣腸を用いる:熱に苦しむ状態。
(小承気湯:大黄2 厚朴3 枳実2;最も弱い瀉下陽明剤)
(調胃承気湯:大黄2 芒硝1 甘草1:中程度の瀉下剤)
(大承気湯:峻下熱結:大黄2 芒硝3 厚朴5 枳実3):強い瀉下作用
承気湯の芒硝ぼうしょう・元明粉げんめいふん、玄明粉:硫酸ナトリウム:鹹苦寒かんくかん:瀉熱通便
承気湯の厚朴:苦辛温:燥湿除煩・行気降逆:気滞・気逆の治療原則は理気・行気・降気であり、厚朴で気滞を解消して便秘を治す。
承気湯の枳実・枳穀:行気消積・理気化湿・行気寛中(気の流れを促す理気剤):胃腸の蠕動を促進し他薬の消化吸収を補助する(虚弱体質には弱い作用の枳穀きこくを用いる)
したがって、
大柴胡湯の構成は、
小柴胡湯で、少陽病の半表半裏を和解し、かつ、
承気湯(大黄・枳実)で胃実熱を瀉下する作用となる。
(小柴胡湯:肝鬱胆熱・脾虚・嘔気・往来寒熱・胸脇苦満:
「柴胡証の七症」のうち一症があれば小柴胡湯は適用する:
柴胡7、黄芩3、半夏5、生姜4、人参3、大棗3、甘草2)
柴胡証の 七症:往来寒熱・胸脇苦満・口苦・咽乾・目眩・黙黙不欲飲食もくもくとしていんしょくをほっせず・心煩喜嘔しんぱんきおう:記憶すること。
大柴胡湯は、
小柴胡湯(和解少陽:清肝解鬱・補気和胃)と
小承気湯(大黄2 厚朴3 枳実きじつ2)
の合方加減である。
(大柴胡湯には、厚朴は無い)
小承気湯の厚朴:苦辛温:燥湿除煩・行気降逆
大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1:胃熱があり心下痞硬があり胃部を押すとつまる感じがある:大黄があるので下利に注意させる。
大承気湯:峻下熱結しゅんげねっけつ:大黄2 芒硝3 厚朴5 枳実3きじつ
柴胡・黄芩の組合せは、少陽の経(足の少陽胆経)と(肝胆)腑の熱邪を除く(肝胆湿熱を、冷やして乾かす作用がある)。
大柴胡湯の柴胡:苦微寒:解表・解熱・疏肝解鬱・升挙(柴胡+升麻は昇挙作用:補中益気湯)。
補中益気湯:補気健脾・昇陽虚寒・甘温除熱:黄耆4、甘草1.5 人参4 当帰3 陳皮2 升麻0.5 柴胡1 乾姜0.5 白朮4 大棗2:中気下陥・脱肛や子宮脱に真武湯を合方・疲れると気虚発熱を治す。
大柴胡湯の黄芩:清熱燥湿・瀉火解毒・安胎:乾かし冷やす薬。
大柴胡湯の黄芩は、少陽の鬱熱および鬱変した胆火を清する。
胆道疾患に使う。
大柴胡湯の大黄・枳実は、陽明胃(足の陽明胃経)の熱結(燥糞そうふん)を下す。
大柴胡湯の大黄:苦寒:攻積導滞こうしゃくどうたい・瀉火涼血・袪瘀通経:下剤作用だけでなく瘀血の薬である。
大柴胡湯の枳実・枳穀:行気消積ぎょうきしょうしゃく・行気寛中:気を巡らし気滞や腹痛を緩和。
大柴胡湯の柴胡・黄芩・大黄・白芍・枳実の五薬が大柴胡湯の基本的な成分である:強い肝鬱(柴胡+白芍+枳実)・肝胆湿熱の清熱袪湿(柴胡+黄芩)。
大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1:肝鬱ストレス・熱結・便秘による皮膚症状にも使う。
大柴胡湯:和解半表半裏(七症を示す時の風邪薬・燥糞のため高熱・悪熱・潮熱の時の風邪薬)・瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔・清熱瀉下:肝鬱の陽明腑証に適応する。
陽明腑証:邪熱と糞便ふんべんなどの燥実内結し壮熱・日晡潮熱にっぽちょうねつ・手足に汗出で・大便秘結・尿黄・脈沈滑で、
治療は
攻下燥結で、三種の承気湯類を用い、
肝鬱を兼ねれば大柴胡湯を用いる。
三種の承気湯:
小承気湯:大黄2 枳実2 厚朴3:強い行気導滞作用の枳実厚朴がある。
調胃承気湯:大黄2 甘草1 芒硝1:強い瀉下社用の芒硝がある。
大承気湯:峻下熱結:大黄2 芒硝3 厚朴5 枳実3
陽明腑証で肝鬱を兼ねれば承気湯類ではなく大柴胡湯を用いる!!!
(日晡にっぽ:ひぐれ:晡は申さるの刻。午後4時頃で陽明の気が盛んで日晡潮熱は、日暮れ時に潮熱する病証)
潮熱:潮熱とは、潮が満ちるように一定の時間に生じる発熱をさす。傷寒論では日晡潮熱:午後4~8時の発熱が毎日反復する:大柴胡湯、後世方では午後潮熱という。
潮熱の原因となる5種の病理:
陽明腑実:大承気湯・小承気湯・調胃承気湯、
脾胃気虚:補中益気湯、小建中湯
暑熱傷気:清暑益気湯、
陰虚:清骨散加当帰・白芍、知柏地黄丸、小建中湯(腎虚・肝血虚・脾虚)
瘀血内結:血府逐瘀湯加製大黄・牡丹皮
小建中湯:腎虚の腰痛で食欲がなければ陰虚でも陽虚でも小建中湯
大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1:肝鬱・熱結による皮膚症状にも用いる。
大柴胡湯の芍薬は、柴胡・黄芩に協力:芍薬は乾かしすぎるのを予防するために滋陰し、胆熱(肝鬱)を除く(柴胡+芍薬は肝鬱の基本の組合せ、柴胡+黄芩は冷やして乾かす作用)。
大柴胡湯の芍薬:酸苦微寒:補血・滋陰・緩急止痛:芍薬甘草湯は痙攣痛を除く(足の痙攣は肝鬱血虚・疲労による血虚・陰虚・発汗による津液不足で筋の痙攣が生ずる)
大柴胡湯の柴胡+黄芩+芍薬:胆熱・肝鬱・肝胆鬱熱を冷やし・疏肝して調える。
また、大柴胡湯の芍薬は、大黄と組んで、腹痛を解消する。
大柴胡湯の大黄の瀉下による腹痛を緩和し、芍薬は滋陰・緩急止痛し緩和する。
大柴胡湯の芍薬:酸苦微寒:補血・滋陰・緩急止痛:芍薬甘草湯は酸甘化陰だが大柴胡湯には甘草は無い。
芍薬甘草湯は酸甘化陰で補陰作用があり、ひきつれた筋肉の痛みを取り除く。肝鬱・血虚・発汗・疲労にる陰虚から生じる足の痙攣に適用する。
大柴胡湯の半夏・生姜は、痰飲による胃気の上逆を引き下げ嘔気をおさめる(降逆止嘔の作用がある)。
大柴胡湯と同じ半夏・生姜の配合されている半夏瀉心湯は、辛辣な食べ物や飲酒による嘔気を止め・二日酔・つわりをおさえ、黄連+黄芩で、心火(不安感)・胃火・胆熱(イライラ)を冷ます。
半夏瀉心湯:和胃降逆・消痞(胃のつかえ)・安寧・心火や胃熱を冷ます精神安定剤:半夏5 乾姜3 黄芩3 黄連1 人参3 炙甘草3 大棗3:下利・軟便・嘔気につかう。
大柴胡湯の柴胡+黄芩+芍薬:胆熱・肝鬱・肝胆鬱熱を除き、胃の熱結による胃気の上逆を冷やして引き下げ嘔気を鎮める。
大柴胡湯の黄連:清熱燥湿・瀉心火しゃしんか・解毒:冷やし乾かし解毒し精神安定作用。
大柴胡湯の半夏:辛・温・有毒:和胃止嘔・燥湿袪痰・散結消腫:生姜を配合して修治し半夏の毒性を消する:製半夏は生姜で修治したもの。
大柴胡湯の生姜:発汗解表・温中止嘔・半夏の解毒作用(製半夏にする)
小半夏加茯苓湯:和胃降逆・化痰利水:つわり:半夏6 生姜6 茯苓5:燥性が強いので長期には使わない。
小半夏加茯苓湯:痰飲の胃気上逆に適し、陰虚には燥性が強く不適なため、妊娠嘔吐には頓服で使い傷陰を防ぐ。妊婦は陰虚になりやすく、ひどく痩せてお腹だけ膨れるタイプがある。産後、太る人(痰飲)と痩せて枯れ尾花のようになる人(陰虚)がいる。
半夏瀉心湯にも、半夏・生姜が含まれ、止嘔気、辛温で、和胃降逆・散結消痞:胃が冷える食欲不振症・水分の摂り過ぎや食べすぎの痰飲による悪心・二日酔いの飲酒の熱を冷ます(寒熱錯雑)。
半夏瀉心湯は、心下痞:上腹部のつかえをとる。
寒熱錯雑を、半夏瀉心湯で和解解消する(和解剤でもある)。
半夏瀉心湯:酒熱・胃熱を黄芩・黄連は胆胃熱をさます。つまり胃火・心火をさまし酒熱もさます。半夏・生姜は痰飲を辛温で和胃降逆し、胃のつかえ(胸脇苦満)を消す。
半夏瀉心湯:酒の酔い止め・食べ過ぎ・食欲不振・つわり・車酔い・下利に有効:便秘体質では便秘は悪化する。(大黄を加える人もいるが転方する)
半夏瀉心湯:和胃降逆(吐き気・つわり)・消痞・止瀉・清熱・調和腸胃:半夏5 乾姜3 黄芩3 黄連1 人参3 大棗3 炙甘草3
黄芩・黄連は、胆胃熱をさまし、(胃火・心火をさます・酒熱もさます。
大柴胡湯の大棗は芍薬とともに、
熱結による傷陰を防ぎ(大棗+芍薬:潤す滋陰・補血作用がある)
大柴胡湯の大棗+芍薬:大柴胡湯の大黄・枳実の瀉下作用による、腹痛・傷陰を緩和する。
大柴胡湯の大棗たいそう:甘温:補脾胃・養営安神・緩和薬性
大柴胡湯の芍薬:酸苦微寒:補血・緩急止痛
雑病ざつびょう(慢性病)に大柴胡湯を応用する場合には、
小柴胡湯(柴胡7、黄芩3、半夏5、生姜4、人参3、大棗3、甘草2)
小承気湯(三味:大黄2、枳実2、厚朴3)
四逆散(四味:柴胡、芍薬、枳実、甘草)
の三方剤を合方し、加減した処方とみなす。
(大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1)
(小柴胡湯:肝鬱胆熱・脾虚・嘔気:七味:柴胡7、黄芩3、半夏5、生姜4、人参3、大棗3、甘草2)
大柴胡湯の柴胡・黄芩の配合は、肝胆の熱実(肝火)を瀉するが、これには大黄も協力している。
大柴胡湯の柴胡+黄芩+大黄:肝火上炎を鎮め肝胆実熱を清熱
大柴胡湯の柴胡・芍薬・枳実は、四逆散去甘草である。
そこで、
大柴胡湯:柴胡・芍薬・枳実、があるので、相当強い 疏肝理気作用をそなえている。
大柴胡湯証は強いイライラの性格や症状を示す。
さらに強いイライラには竜胆瀉肝湯合大柴胡湯:耳鳴り・耳塞の処方にも使う。
小承気湯の配合から胃実熱がある場合(食欲旺盛)に適応する。
常に下痢・軟便傾向の脾虚に大黄が入っている大柴胡湯は不適:大柴胡湯去大黄を使う場合もある。
大柴胡湯は食べ過ぎの熱盛下痢、臭気のある熱結下痢には有効。(大黄が入っているがこのような下利に使う場合もある:食欲旺盛が必要)
小承気湯:三味:大黄2、枳実2、厚朴3
したがって、
大柴胡湯は、肝火上炎・肝気鬱結・胃実熱に適応する。
大柴胡湯は胃実熱なので食欲旺盛・イライラ・のぼせ・食毒熱滞留なので食欲不振もある。
効用
大柴胡湯は和解少陽・瀉下陽明(少陽病の七症を和解し、熱盛を瀉下する:高熱・顔面紅潮・頭痛・咽喉痛・口内炎・歯痛・鼻出血・熱感・口渇・腹部膨満感・腹痛・便秘・尿黄・舌質紅・舌苔黄・脈数)
大柴胡湯は疏肝清熱・瀉下胃腑
主治(大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1があることが特徴)
大柴胡湯:柴胡証の七症もある:往来寒熱・胸脇苦満・口苦・咽乾・目眩・黙黙不欲飲食・心煩喜嘔
四逆散:柴胡 白芍 枳実 甘草:イライラが強い
枳実・枳穀:行気消積・行気寛中
和解少陽・瀉下陽明(大柴胡湯)
傷寒や「少陽病と陽明病の合病」:大柴胡湯
陽明病:傷寒論の六経病の一つ。
陽明経証(白虎加人参湯)と
陽明腑証(承気湯類)に分けられ、
胃家実であり、実熱性の病変がある。
白虎加人参湯:清熱瀉火・生津止渇・補気:気分熱盛:陽明経証:生石膏15 知母5 生甘草2 粳米8 人参3:
消渇病の多飲・大汗・多尿で体重減少が少ない人(つまり陰虚ではない人)
知母:ユリ科ハナスゲ(花菅)の根茎:苦寒:清熱瀉火:滋腎潤燥:清熱潤燥薬
大柴胡湯は、往来寒熱(柴胡・黄芩:七症)あるいは身熱あるいは潮熱ちょうねつ、
潮熱:一定時刻に潮が満ちるように発熱を繰り返す。夕方が多い:日晡潮熱にっぽちょうねつ:日晡:午後4時頃:午後4時~8時
(大柴胡湯)
大柴胡湯:胸脇苦満:柴胡・白芍:柴胡証の七症の一症
大柴胡湯:悪心嘔吐:半夏・生姜で胃気上逆を降ろす
大柴胡湯:鬱々微煩:心煩喜嘔(柴胡証の七症の一つ)
大柴胡湯:口苦(七症の一症・胆熱の症状)
大柴胡湯:心下満痛または心下痞硬:柴胡・芍薬・枳実:胸脇苦満(七症の一症)
大柴胡湯:大便不解(大黄・芍薬・枳実)
大柴胡湯:下利(胃熱・食欲旺盛・食熱毒を瀉下陽明する)
大柴胡湯:小便黄赤(瀉下胃腑)
大柴胡湯:舌質紅、舌苔黄
大柴胡湯:脈弦有力(陽明病)。
(大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1)
B. (大柴胡湯)
疏肝清熱(強いイライラ:柴胡・黄芩・白芍・枳実・大黄)
瀉下胃腑(胃熱・心下痞硬・食欲旺盛・健啖家:柴胡・黄芩・大黄・枳実)
肝鬱化火(面紅・のぼせ・めまい:柴胡・黄芩・白芍・大黄)
胃実熱(清熱瀉下・便秘・食欲旺盛:黄芩・枳実・大黄)
抑鬱易怒よくうついど(柴胡・黄芩・芍薬・枳実)
面紅目赤めんこうもくせき(肝火上炎・のぼせ・めまい:柴胡・黄芩・大黄)
胸脇苦満(肝鬱易怒よくうついど・少陽病の一症:柴胡・白芍)
心下満痛あるいは心下痞硬(胸脇苦満:胃熱:柴胡・黄芩・芍薬・枳実)
悪心嘔吐(胃熱:柴胡・黄芩・芍薬・大黄。心下逆満:半夏+生姜)
口苦(少陽病の七症の一症・胆熱:柴胡+黄芩+芍薬:胆熱・肝鬱・肝胆鬱熱を除く)
大便秘結(陽明病:大黄・芍薬・枳実:日晡潮熱)
舌質紅、舌苔黄
脈弦数(陽明病の脈)
応用
A(大柴胡湯)和解少陽・瀉下陽明
大柴胡湯証の熱型は:少陽病の往来寒熱を原則とするが、
陽明病の潮熱もある。
大柴胡湯は、少陽病に陽明病をかねているので、小柴胡湯証に較べ、熱状・イライラは強い。
(小柴胡湯証もかなり高熱になる:柴胡7 黄芩3)
(小柴胡湯:柴胡7 黄芩3、半夏5 生姜4 人参3 大棗3 甘草2)
(大柴胡湯:柴胡6、黄芩3、白芍3、半夏4、生姜4、枳実2、大黄1~2、大棗3)
時には、大柴胡湯は、傷寒論の陽明病をかねることから、持続性の高熱や、定時的な発熱の場合もある。(潮熱:日晡潮熱:浣腸も効く)
(陽明病:傷寒論の六経病の一つ。陽明経証と陽明腑証に分けられ、胃家実であり、実熱性の病変がある)
(日晡潮熱:午後4~8時の発熱が毎日反復:大柴胡湯)
胸脇部の脹満感も強いが(肝鬱が強い胸脇苦満)それにもまして、心下部に脹満感・痛み・つかえ(胃実の症状)のあることが特徴である。
これは、胃実による(上腹部が出ている)。
(胃実:胃腸に熱が盛んで傷津し、胃気が通じない証候。主症状は脘腹脹満かんぷくちょうまん・噫気(あいき:ゲップ)・大便秘結・譫語せんご・煩躁・発熱)
(大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1)
(大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔・清熱瀉下)
(小柴胡湯:柴胡7 黄芩3 半夏5 生姜4 人参3 大棗3 甘草2)
さらに、
大柴胡湯:胃熱で悪心があり、むかむかして嘔吐(黄芩・半夏・生姜)する。
大柴胡湯:憂鬱感が強くイライラする。
大柴胡湯:口が苦い(柴胡証の七症のひとつ:柴胡・黄芩)。
大柴胡湯:大便は秘結(大黄・枳実・芍薬)することが多いが、時には下利となるが、下利の場合は臭気が強い。
(脾虚はいつも軟便気味・下痢気味なので大柴胡湯は不適だが、心下痞硬や胸脇苦満・イライラがあれば大柴胡湯去大黄とする)
大柴胡湯の作用は瀉下陽明で、臭気の強い下痢に使うが通常の使用目標は便秘気味。脾虚の軟便・下痢には不適である。
小便は濃い色。
舌質は紅く、舌苔は黄色い。
以上の病態から(大柴胡湯は)
感冒
流感(インフルエンザなどの高熱の解熱作用)
肺炎
急性肝炎(大柴胡湯の疏肝清熱:柴胡・黄芩・大黄・枳実)
胆嚢炎(大柴胡湯の疏肝清熱:柴胡・黄芩・大黄・枳実)
急性大腸炎(大柴胡湯の瀉下陽明:油じゆじ・膏梁厚味こうりょうこうみの多食)など、多くの発熱性疾患(陽明病)に応用される。
(大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1)
(大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔・清熱瀉下)
咳嗽にもよい。(大柴胡湯:中年以降の食欲旺盛の健啖家の喘息に)
大柴胡湯:黄色い(熱状)粘った痰をともなう咳嗽。
黄疸を呈する場合には、大柴胡湯(柴胡・黄芩)に茵蔯蒿湯(茵蔯蒿、山梔子、大黄)を合方する。
(黄疸:大柴胡湯合茵蔯蒿湯)
茵蔯蒿湯:清熱利湿・退黄:カワラヨモギの幼苗で、苦平微寒の茵蔯蒿、山梔子、大黄:利胆と熱を冷す力が強い。
熱性の下利の場合にも、適応する。
大柴胡湯の少陽病では、
(少陽)胆経・(陽明経)胃熱があり胃経にそった部位に、大柴胡湯証は、発赤・腫脹・疼痛を現すことがある。
中耳炎(少陽胆経:小柴胡湯も適応)・扁桃炎・リンパ節腫・フルンケル・麦粒腫などが大柴胡湯の適応である。
大柴胡湯証は、
胃実があるので、食欲が有り、よく食べて、一見ふところが広く鷹揚に見える面もなくはないが、実は強い肝気鬱結があるので、抑鬱感はかなりである。
いつもイライラして怒りっぽく、せっかちである。
精神的な刺激に対して、すぐに怒るというよりは、すこしためこんで爆発する傾向がある。
胸脇部には脹満感があるが、特に鬱状が増すにつれて加重する。
(大柴胡湯:胸脇苦満:柴胡・黄芩・芍薬・枳実)
しかし、大柴胡湯証で、常時感じているのは、心下部の膨満感である。
(大柴胡湯:胃実・胃熱による上腹部膨満:半夏瀉心湯も生ずる)
脹る・重苦しい・つかえるなど、訴えはさまざまである。
(大柴胡湯:食欲不振となり痩せる人もいる。通常は食欲有り)
また、大柴胡湯証は、悪心嘔吐(胃熱・胆熱・痰飲)しやすく、
口は苦い(イライラによって胆熱が生じるため)。
大柴胡湯では大便は秘結するが、やや粘性を帯び便器に便がこびりつく。(黄芩は湿熱を乾かす)
舌質は紅く、舌苔は黄色い。
(黄芩:清熱燥湿:乾かす作用・瀉火解毒・安胎)
(大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1)
(大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔・清熱瀉下:少陽病~陽明病)
1. 浅田宗伯あさだそうはく は
「いわゆる癇証の鬱塞に用いるときは大柴胡湯は、非常の効を奏そうす」と述べている。
大柴胡湯証は、強い抑鬱を特徴とする。
(柴胡・芍薬・黄芩・枳実:強い抑鬱に適応)
(枳実:理気・行気消積・行気寛中)
そこで、大柴胡湯証は、さまざまな神経症に応用される。
抑鬱が強くなるにつれて、大柴胡湯証は、頭痛・眩暈めまいが生じる:怒ると頭痛し鎮痛剤を欲し、怒りでよろめく。
大柴胡湯証は、イライラして眠れない不眠症。神経性のインポテンツ。
肝気の鬱結は、筋肉の緊張を加重する。
そこで、大柴胡湯は、肩こり・腰痛:神経性腰痛・癲癇てんかん
(便秘・食欲旺盛・肝鬱イライラ) などに応用される。
2. 中高年以降に発症する気管支喘息は、食滞型が多い。そこで、承気湯類が基本となる。そのなかには肝気鬱結をかねるものが少なくない場合は、大柴胡湯の適応である。
肝鬱食滞胃熱の喘息の緩解期に大柴胡湯を服用する。
(急性の喘息発作期には効かない)
(食滞型の肝鬱の喘息の緩解期:大柴胡湯)
(脾虚の喘息の緩解期:六君子湯・柴朴湯)
肝気鬱結が強く、大柴胡湯証に、
痰飲をかねる場合には、半夏厚朴湯を合方する。
(中年以降の食滞の肝鬱喘息の緩解期に痰飲をかねる場合に
:食滞型の痰飲と肝鬱の喘息:大柴胡湯合半夏厚朴湯)
(脾虚・痰飲・肝鬱の喘息:小柴胡湯合六君子湯や柴朴湯さいぼくとう:小柴胡湯合半夏厚朴湯)
小柴胡湯:和解少陽:カゼの少陽病(七症の症状)に使う
少陽病の 七症:往来寒熱・胸脇苦満・口苦・咽乾・目眩・黙黙不欲飲食・心煩喜嘔の一症があれば少陽病なので半表半裏証を和解する
小柴胡湯:清熱透表:麻疹はしか などで発疹が出ない時、透表し解熱に使う。
小柴胡湯:疏肝解鬱:イライラや肝炎に使う(柴胡・黄芩:肝胆鬱熱)
小柴胡湯:補気健脾:小柴胡湯は拒食症に使う。食欲不振に使う
(半夏瀉心湯も食欲不振に使う)。
小柴胡湯:和胃止嘔:カゼ時嘔吐・イライラの嘔気に小柴胡湯を使う
痰飲たんいん:体内の過剰な水液で発生する疾病、飲邪が腸胃に停滞して生ずる胃内停水ポチャポチャ音、食欲不振など。
痰飲:体内の輸化されない過剰な水液が停留して発生する疾病。また、飲邪が腸胃に停留して発する疾病。胃内停水。太っていた体が痩せてきたり、飲食減少、身体沈重、頭暈目眩、腸鳴軟便や心悸短気や悪心煩。
痰飲:起床時に、症状の具合が悪くなる・肩がこる・頭痛がする・手が浮腫みこわばる・小便不利では下痢する。胃内停水でポチャポチャ音・お腹がグチュグチュ鳴るのも痰飲。痰飲の眩暈には苓桂朮甘湯が適応する
胃内停水でポチャポチャ音は脾虚・痰飲である。
(大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1)
(大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔・清熱瀉下)
3. 大柴胡湯証では、
大柴胡湯証:肝火が上炎する(肝火上炎:加味逍遙散・竜胆瀉肝湯)
大柴胡湯証:のぼせて顔が紅く(肝火上炎・肝陽上亢)
大柴胡湯証:目が充血し(肝火上炎・肝陽上亢)
大柴胡湯証:耳が鳴り(竜胆瀉肝湯合大柴胡湯:肝火上炎)
大柴胡湯証:頭痛や眩暈が起こり(肝火上炎・肝風内動)、あるいは
大柴胡湯証:鼻血がでる。(肝火上炎)
このような状態にも、大柴胡湯は適応する。
(陰虚火旺と大柴胡湯との鑑別:
知柏地黄丸は、陰虚火旺に対し潤して冷ます方剤として使う)
(大柴胡湯:瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔・清熱瀉下:
柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2
大黄1:大柴胡湯は冷やして乾かす作用がある。乾かしすぎると傷陰し陰虚になるので四物湯・六味丸を、少量合方して傷陰を予防する)
陰虚の症状(陰虚陽亢いんきょようこう):顔がのぼせ・目赤・イライラ・顴紅かんこう・口が乾き・手足がほてる・夕方悪化・五心煩熱・寝汗・消渇は陰虚となるので痩せてくる。
知柏地黄丸:滋補肝腎・清熱瀉火:知母・黄柏+六味丸:知母 黄柏 地黄 山薬 山梔子 沢瀉 茯苓 牡丹皮:陰虚火旺を、潤して冷やす方剤。
陰虚火旺:陰精の虚損により虚火が亢盛する病理変化:セックス過多でも肝鬱化火でも、陰精の虚損が生じる。
陰精:天地間の滋潤の精気のこと。人が欲情する時に発泄する精のこと。
陰虚火旺の主症状は、性欲亢進・煩躁易怒・面顴紅潮めんかんこうちょう・口乾・咳血(怒りで血痰を吐す等)など:面顴紅潮:頬骨の部分の赤み:顴紅かんこう。
(陰虚火:腎虚火動ともいう。陰は水で腎に相当し、火は陽で心に相当する。
水と火は相剋の関係にあるから、水である腎が房事過度(セックス過度)や長期の疲労などで衰えると陰虚となり火である心の働きが強くなって、臍部に動悸がたかまる。これを陰虚火動といい、滋陰降火湯など地黄剤の適応。
滋陰降火湯:滋補肺腎・清熱:当帰 白芍 生地黄 熟地黄 天門冬 麦門冬 白朮 陳皮 黄柏 知母 炙甘草 生姜 大棗:肺腎陰虚に:肺腎陰虚の八仙丸・八仙長寿丸・麦味地黄丸:六味丸+五味子・麦門冬。
滋陰降火湯:肺腎陰虚に適応:乾咳・粘痰・咽乾・血痰・呼吸促迫(肺陰虚)・ほてり・のぼせ・ふらつき・腰膝酸軟(腎陰虚)・寝汗(陰虚)・舌紅で乾燥・舌苔少。脈細数
肝火上炎では、大柴胡湯証は、高血圧症、常習性頭痛、耳鳴り、眩暈などを主訴とする疾患である。
慢性的な耳鳴り・耳聾じろうは腎虚によるものが多いが、
急性に起こった耳鳴り・耳聾は肝火上炎によるものが多い。
(漢方では耳鳴りと耳聾は、同じ原因による症状とみている)
(急性の耳聾:耳が遠い・耳鳴り:肝火上炎:大柴胡湯)
強い肝鬱の突然の耳鳴り:竜胆瀉肝湯合大柴胡湯
電話機を耳にあてた時に、片耳が聞こえないことに気づく人が多い:ストレスが続いた後に急に発症する。
竜胆瀉肝湯:疏肝解鬱・瀉火・利湿・補血:
竜胆草 柴胡 黄芩 山梔子 木通 車前子 沢瀉 当帰 地黄 甘草
胃弱の場合の肝鬱の耳鳴り:竜胆瀉肝湯合小柴胡湯
慢性的な腎虚耳鳴・耳だれ:杞菊地黄丸・耳聾左慈丸(耳鳴丸):竜胆瀉肝湯合大柴胡湯合八味丸・竜胆瀉肝湯合大柴胡湯合六味丸
大柴胡湯合六味丸・大柴胡湯合八味丸:糖尿病(健啖家の食滞型・慢性に移行した耳鳴り・難聴・耳だれ)
杞菊地黄丸:六味丸+枸杞子・菊花、肝腎陰虚:育陰潜陽
杞菊地黄丸:滋補肝腎・清肝火・明目:疲労により生じる腎虚症状に適応する:運動会や遠足後・運動後のかかと痛:枸杞子・菊花・沢瀉・茯苓・牡丹皮・地黄・山茱萸・山薬。
枸杞子:滋補肝腎・生精血・明目
菊花:疏散風熱・清熱明目・清熱解毒・平肝陽
耳聾左慈丸じろうさじがん:六味丸加磁石じせき・石菖蒲せきしょうぶ・五味子ごみし
:熱病後期、退熱後、腎虚精脱による耳鳴りと耳聾を治す。
安神薬の石菖蒲・菖蒲・菖蒲根:サトイモ科ショウブの根茎:辛・温:芳香開竅・逐痰袪濁:痰濁蒙閉心竅:菖蒲鬱金湯:少量に制限。
肝火上炎は、時にふけや脱髪を生じる。そこで、大柴胡湯はふけ症・脱毛症・円形脱毛症などにも応用する。
(強いストレスから生じる肝火上炎による円形脱毛症・ふけ症:大柴胡湯)
(腎虚・虚弱者の円形脱毛症:桂枝加竜骨牡蛎湯+四物湯)
(皮膚科の医者は円形脱毛症に桂枝加龍骨牡蠣湯を処方しているが効かない場合が多く血虚なら四物湯を合方、肝鬱が原因なら加味逍遙散・大柴胡湯や柴胡加竜骨牡蠣湯が適応する)
柴胡加竜骨牡蛎湯:疏肝清熱・潜陽安神)円形脱毛症に応用される:円形脱毛症;肝鬱が脱毛の原因なら加味逍遙散・大柴胡湯
桂枝加龍骨牡蠣湯けいりゅうぼ:陰陽双補・補腎安神
桂枝加竜骨牡蛎湯:桂枝湯+竜骨3・牡蠣3g
柴胡加竜骨牡蠣湯:さいりゅうぼ
清熱安神・補気健脾・化痰止嘔
:柴胡5 黄芩3 半夏4 生姜3 人参3 大棗3
桂枝3 茯苓3 竜骨3 牡蠣3 大黄1
柴胡加竜骨牡蠣湯:肝陽上亢・肝風内動・のぼせ・めまい・肝気鬱結・(3特徴)体が重だるい、不安感、動悸:心腎不足の不安・動悸
柴胡加竜骨牡蠣湯:肝陽上亢・肝風内動・のぼせ・イライラ・めまい:心腎不足の不安・動悸に適応・ふわふわと歩く感じ(苓桂朮甘湯もふわふわ歩く)
竜骨:鎮静安神・固精・平肝潜陽
牡蠣:重鎮安神・平肝潜陽・収斂固渋・軟堅散結・制酸止痛
4.(大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1)
悪心嘔吐、心下部の脹満感・疼痛(胃熱)などを目標に、大柴胡湯は消化器疾患に応用する。胃炎・胃酸過多症・胃潰瘍・十二指腸潰瘍などである。
胆石で、とくに疝痛をともなう場合には、大柴胡湯は肝胆鬱熱:柴胡・黄芩:で生じた胆石に多用される。
小柴胡湯:柴胡7 黄芩3 半夏5 生姜4 人参3 大棗3 生姜4 甘草2。
柴胡桂枝湯:柴胡5 黄芩1 半夏4 生姜1 人参1 大棗2 甘草1.5 桂枝2.5 白芍1(柴胡+黄芩と柴胡+白芍があり、肝胆鬱熱と肝鬱を解消するが、黄芩1g・柴胡5でやや清熱作用が小柴胡湯より弱いが、桂枝で温通心陽がある)
胆石で疼痛の強い場合には、芍薬甘草湯を合方する:大柴胡湯合芍薬甘草湯。
(芍薬:酸苦微寒:補血・緩急止痛)
(甘草:健脾益気 緩急止痛 諸薬調和)
(胆石:大柴胡湯合芍薬甘草湯:肝鬱脾虚では柴胡桂枝湯の場合もある)
(胆石・柴胡桂枝湯合芍薬甘草湯:胃実熱ではなく肝鬱脾虚の場合に適応する)
柴胡桂枝湯は肩や背中のこり、痙攣、書痙、ジストニア・音楽家ジストニア、ふるえなどである。斜頚しゃけい・チック病・癲癇てんかん、あるいは腰や腹が引きつって痛むものなどに応用される。
大柴胡湯:舌質紅、舌苔黄
肝炎・胆嚢炎・胆管がんなどの肝胆疾患に大柴胡湯
(柴胡・黄芩;肝胆の熱をさます:肝鬱・陽明熱)に大柴胡湯を応用する。
(大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔・清熱瀉下)
従来、
肥満症、あるいは肥満にともなう成人病予防治療に使用されている。
大柴胡湯適応の肥満は、筋肉質で堅太り、腹部は(胃熱のため)上腹部が膨満している。そして、健啖家(食欲旺盛)である。
しかし、
上記の肥満に適応
(抑鬱易怒、急躁性急、面紅目赤、胸脇苦満、心下痞硬・心下満痛~痞硬、口苦、大便秘結)が大柴胡湯の肥満対策の適用に必要であることは言うまでもない。
大柴胡湯は急性の便臭の有る下痢に使うが、軟便・下痢しやすい脾虚の体質には大柴胡湯は不適
肥満の改善には、甘草を加える。
(健啖家の肥満:大柴胡湯加甘草湯)
体重の増加は膝に負担をかけ、疼痛を生ずるので、大柴胡湯は、膝関節症に応用する。
これは、膝と肝との関係が、漢方の基礎理論にあるためストレス・肝の昂ぶり等、怒りやイライラ・不満・不安による膝痛に大柴胡湯
7. 大柴胡湯は、特に、健啖家の糖尿病に適応する。
ただし、糖尿病は原則的には消耗性疾患なので陰虚証が背後に存在する。
そのため、大柴胡湯を単独で糖尿病に使用することは好ましくない。一般に地黄(六味丸や四物湯)を加える。
糖尿病:大柴胡湯加地黄、大柴胡湯合四物湯、大柴胡湯合瓊玉膏けいぎょくこう
あるいは
陰虚証か陰陽両虚証かを判断し、大柴胡湯に六味地黄丸(陰虚証)あるいは八味地黄丸(陰陽両虚証)を合方する。
大柴胡湯は胃実熱なので心下痞硬・食欲旺盛・イライラ・のぼせの糖尿病につかうが、食毒熱滞留なので食欲不振の場合もある。長期使用では陰虚を補う四物湯や六味丸を少量加える
体重減少の陰虚の糖尿病:大柴胡湯合六味丸
冷え症・夜間多尿・口渇の陰陽両虚の糖尿病:大柴胡湯合八味丸
八味地黄丸の別名:八味丸;金匱腎気丸きんきじんきがん
:桂附地黄丸けいぶじおうがん
桂枝・附子:陽虚生薬+六味丸:陰陽両虚証につかえる
大柴胡湯は、
肝に熱のあることから、
関連する部位(肝は眼に開竅し、耳は肝経が通っている)、例えば、
目や耳の慢性的な発赤・腫脹に大柴胡湯は適応する。
結膜炎・虹彩炎・角膜炎(肝は眼に開竅する:大柴胡湯)
中耳炎、耳下腺炎、耳鳴り、難聴(肝鬱が原因で大柴胡湯証は突然、耳鳴り・耳聾じろうとなる:耳には肝経が通っているため)など。
(腎は耳に開竅する:大柴胡湯に合方:六味丸・八味丸・耳鳴丸:耳聾左慈丸じろうさじがん:耳鳴り・難聴に六味丸加磁石じせき・石菖蒲せきしょうぶ・五味子:熱病後期、退熱後、腎虚精脱による耳鳴りと耳聾を治す)
歯茎は、陽明の支配である。
大柴胡湯は少陽病から陽明病に移る時の処方
陽明:足の陽明胃経と手の陽明大腸経の経脉のこと。陽気の最も盛んな経脈・病態
大柴胡湯証の胃熱は、食欲はあるが歯茎の発赤・腫脹の原因となる。大柴胡湯は、歯茎の偏平苔癬へんぺいたいせんなどに適応。
そこで、肝鬱と胃熱によって生じた歯齦炎・歯槽膿漏の初期に大柴胡湯を応用する:慢性では腎虚を考慮する。
蓄膿症は、肝熱からも(大柴胡湯)、胃熱からも(防風通聖散・大柴胡湯)発症する。
辛夷清肺湯:清熱解毒・通竅・潤肺化痰:蓄膿症にはやや良いが治らない:本来鼻茸に使う。小児・児童の蓄膿症は六君子湯か半夏白朮天麻湯。
辛夷清肺湯:辛夷 枇杷葉 黄芩 山梔子 知母 石膏 升麻 百合 麦門冬:蓄膿症は完治しない
防風通聖散:臓毒証体質・疏風解表(風邪薬)・瀉熱通便
大柴胡湯は、その肝胃の熱を同時に解消する方剤である。
そこで、大柴胡湯は蓄膿症に(適応)する(防風通聖散合大柴胡湯も適応)
蓄膿症には、大柴胡湯に桔梗石膏を加える。
肝胃の熱の蓄膿症:大柴胡湯加桔梗石膏
肝胃の熱:肝鬱いらいら・のぼせ・目赤・胃痛・心下痞硬・便秘・口臭・口の乾き・食欲旺盛
食欲旺盛の蓄膿症:大柴胡湯合防風通聖散
11. 大柴胡湯は、
承気湯(大黄 厚朴 枳実)のあることから、当然 便秘に応用される。
しかし、
柴胡・黄芩が加わることから、やや湿熱をおびた便秘に適応する。つまり、べとべとしている。(柴胡・黄芩)
黄芩:苦寒:清熱燥湿・瀉火解毒・安胎
また、
肝気鬱結が加わり、(柴胡・黄芩・白芍・枳穀)痙攣性便秘の特徴をそなえる。
大柴胡湯証は、どうもすっきりでない(便秘気味)と訴えるのである。
(大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1)
大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔・清熱瀉下:胃熱で心下痞硬・目赤・のぼせ・風邪・便秘・嘔気・胃痛・柴胡証の七症:往来寒熱・胸脇苦満・口苦・咽乾・目眩・黙黙不欲飲食・心煩喜嘔のどれか一症あれば使用可
胃腸の湿熱は、痔疾の原因ともなる。
大柴胡湯の胃腸湿熱は痔疾に応用される。(乙字湯の大腸湿熱も痔疾の原因。麻子仁丸は腸燥便秘・切れ痔:肛門はカサカサの切れ痔に適応)
痔や大腸ポリープは大腸湿熱が最も多い原因である。
通常の大腸湿熱の痔:乙字湯・槐角丸かいかくがんが適応)
乙字湯:大腸湿熱:柴胡 升麻 炙甘草 大棗 生姜 黄芩 大黄:肛門は湿っている。陰部の悪臭・掻痒症。
槐角丸:清熱止血・理気活血:
槐角かいかく 地楡ちゆ 当帰 防風 黄芩 枳穀きこく。
防風:袪風解表・袪湿解痙・止瀉止血
槐角:槐エンジュの果実:清熱涼血・痔の炎症と出血・血便に用いる:槐花米より止血作用は弱いが清熱は強い
地楡じゆ・ちゆ:バラ科ワレモコウの根茎と根:苦酸微寒:肝大腸経:涼血止血・清熱収斂:血便・痔出血
(痔に)刺痛(刺痛:瘀血の特徴症状)があれば、桂枝茯苓丸を合方する。
(痔の刺痛:大柴胡湯合桂枝茯苓丸:大柴胡湯は胃実熱なので心下痞硬・食欲旺盛・イライラ・のぼせと、桂枝茯苓丸の刺痛)
桂枝茯苓丸:以下 五味、各等分:桂枝 茯苓 牡丹皮 桃仁 芍薬:内傷の血瘀証の主症状:関節痛、刺痛、チクチク刺されるように痛む、少腹痛(足の付け根痛)、しびれ、クモ状血管腫、夜間悪化、舌紫あるいは舌黒紫、舌青紫色:疎経活血湯・血府逐瘀湯・折衝飲・冠心二号方・補陽還五湯も適応
牡丹皮:苦辛微寒:清熱涼血・活血袪瘀・清肝瀉火
桃仁:桃の果実の仁:破血袪瘀・潤燥滑腸:血府逐瘀湯(血府逐瘀湯は桃紅四物湯加減)
芍薬:酸苦微寒:補血・緩急止痛
麻杏甘石湯も痔の治療に使う
麻杏甘石湯:肺熱を冷まし清肺平喘・止咳(肺と大腸は表裏の関係で痔に適応する場合がある):麻黄4 杏仁4 生石膏10 生甘草2
五虎湯:麻黄4 杏仁4 生石膏10 生甘草2 桑白皮
桑白皮:桑マグワの根の皮は白い:甘・辛・寒:瀉肺平喘・行水消腫・利尿・消炎:肺熱を清し利水消腫す
蕁麻疹には、胃熱によるものが少なくない。さらに、肝気鬱結によるものもある。この混合型に、大柴胡湯は適応する。
たべすぎの胃熱と肝気鬱結の蕁麻疹:大柴胡湯:心下痞硬・食欲旺盛・肝鬱:イライラ・易怒・胸脇苦満・口苦・咽乾・目眩
肝気鬱結(肝鬱)すると:柴胡証の七症(往来寒熱・胸脇苦満・口苦・咽乾・目眩・黙黙不欲飲食・心煩喜嘔)両脇が 脹痛、隠痛し、胸悶し、あるいは悪心嘔吐・食欲不振・腹痛腹瀉・全身の隠痛・舌苔薄、脈弦を呈す
茵蔯五苓散:清熱利水・退黄(黄疸):茵蔯蒿+五苓散
:茵蔯蒿 桂枝 猪苓 沢瀉 茯苓 白朮
:利胆作用+湿を除く作用が強い。蕁麻疹)
茵蔯蒿:苦平微寒:清熱利湿・退黄疸:胆汁分泌促進・黄疸の主薬で湿熱を去る
五苓散:口渇・小便不利・水逆・自汗(多汗):口の乾きのある蕁麻疹に茵蔯五苓散
反復する癰疽ようそ(フルンケル・カルブンケル)
を発症するものに(肝鬱で大食の胃熱者・相撲取りに多い)大柴胡湯の適応がある。
(大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1)
大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔・清熱瀉下:健啖家・胃熱・心下痞硬・便秘・嘔気・イライラ・健啖家の蕁麻疹・癰疽・脾胃湿熱の痔
出典
「傷寒論・辨太陽病脈証并治・中」
太陽病、過経十余日、反って二三これを下し、後四五日、柴胡証なお在る者は、先ず小柴胡湯を与う。
嘔止まず、心下急し(心下に物がつまった感じがする:心下痞硬)鬱鬱として微かに煩する者は(七症:心煩喜嘔)未だ解せずと為すなり。大柴胡湯を与え これを下せば、即ち愈ゆ。
心下支結・心下痞硬:胃脘痛部に物がつかえて煩悶してすっきりしないこと。これは少陽病の胸脇苦満の軽症である
大柴胡湯方
柴胡半斤 黄芩三両 芍薬三両 半夏半升(洗う) 生姜五両(切る) 枳実四枚(炙る) 大棗十二枚(擘つんざく)大黄二両
右七味、水一斗三升を以って、煮て六升を取り、滓かすを去り、再び煎じ、一升を温服す。日に三たび服す。
「傷寒論・辨太陽病脈証并治・下」
傷寒十余日、(なかなか熱・潮熱を発して治らない)
熱結して裏に在り、(便秘。浣腸でも効く)
復た往来寒熱する者は、(往来寒熱は少陽病の特徴)
大柴胡湯を与う。(少陽病合陽明病)
傷寒発熱し、汗出いずるも解せず、心下痞硬し(心火痞硬は胃熱のため)、嘔吐して下利する者は、大柴胡湯これを主どる。
(心下痞硬:胃脘部に胃熱のため痞満硬痛の感じがある)
「金匱要略・腹満寒疝宿食病脈証治」
これを按じて心下満痛する者は、これ実と為すなり。当にこれを下すべし。大柴胡湯に宜し。
(大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1)
(大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔・清熱瀉下:心下満痛・心下急)
参考:大柴胡湯:当今の半身不遂はんしんふつい(半身不随)して不語する者に、(言語障害)世医 皆 中風を以って名くれども
肝積経絡を塞ふさぎ、血気の順行あしき半身不遂(遂:スイ:ズイ:なしとげる・のびのびしている)の症、世に少なからず。
肝実に属する者には、大柴胡湯を用ゆべし。
大柴胡湯の肝実に属する半身不随:尤も左脇より心下にかけて擬こりあり、或は左脇に筋脈拘攣し之を案じて痛み、大便秘・喜怒等の症を目的とすべし。「餐英館治療雑話」
(喜怒きど:しばしば怒る)
(便秘なく、脾虚気味の胸脇苦満は、小柴胡湯・柴胡桂枝湯)
狂症にて、胸脇苦満し、腹拘攣し、膻中たんちゅう:ダンチュウの呼びが一般的)の動甚だしい者を治す。
(心は火のため、腹に動悸する大柴胡湯に鉄粉(鉄砂)を加え、奇効有り。
(腹部の動悸・狂症:大柴胡湯加鉄粉)
(大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1)
(大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔・清熱瀉下)
平日 心思鬱塞し、胸満し食少なく、大便二三日、あるいは四五日に一行、心下 時時痛を作し、宿水を吐する者、その人多く 胸肋妨張し、肩背強急し、臍傍さいぼうの大筋堅靱けんじん にして、上は胸肋に入り、下は小腹に連なり、あるいは痛み、あるいは痛まず、これを按じて必ず攣痛し(実証である)、あるいは呑酸嘈雑等症どんさんそうざつを兼ぬる者、俗に疝積留飲痛せんしゃくりゅういんつうと称す。宜しく この方(大柴胡湯)を長服すべし。
「類聚方広義るいじゅほうこうぎ」尾台榕堂著
’(尾台榕堂おだいようどう
吉益東洞の「類聚方」を研究し現した「類聚方広義」尾台榕堂著が有名
没年:明治3.11.29(1871.1.19)
生年:寛政11(1799)
尾台榕堂は幕末・明治期の漢方医。
16歳で江戸に出て尾台浅岳(岑少翁の弟子)の門に入り,古方医学を学ぶ。浅岳の没後請われて尾台姓を継いだ。
吉益東洞よしますとうどうを信奉してその著書『類聚方』などを実用の立場から深く研究した。
名医の評判が高く,幕末の江戸にあって浅田宗伯あさだそうはくと名声を二分した。
著書『類聚方広義』尾台榕堂著は
今日の漢方界においても高い評価を得ている。)
(大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1)
(大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔・清熱瀉下)
医案
1. 十数年前のことである。
頑丈な男子で、顔面に次から次とフルンケル(癤せつ)ができたり、眼瞼に麦粒腫(ものもらい)ができて、気分が重く、鬱々として楽しまないという患者があった。
この時、私は胸脇苦満と便秘と鬱鬱微煩を目標にして
大柴胡湯を用い たちまちにして全治せしめたことがあった。
ところがこの患者が昨年の夏、とつぜんたずねてきた。
「あれ以来すっかり忘れていた顔の吹出物が、今年は四月頃からでき始め、いろいろ手をつくしたが、どうしてもよくならない。
先生の薬をのめば、よくなることはわかっていたが、罹災後(関東大震災)の転居先が不明で困っていましたが、ようやく探しあてました」という。
診察してみると、先年と全く同じである。そこで大柴胡湯を与えたところ、三週間ほどで全治した。
「漢方診療三十年」大塚敬節おおつかけいせつ著
(大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔・清熱瀉下:顔のフルンケル・カルブンケル)
2. 劉婦新連、
性躁さがそうにして善よく怒りおよそ事意の如しからざれば(自分の意にそぐわないと)、即ち情緒索然さくぜん(涙のおちるさま、おもしろみのないさま)、心に抑鬱し、これに因り肝気舒のびず、(治療には疏肝解鬱が必要)
常に胸脇脹痛 噫気あいき(おくび、げっぷ)不休の証を見あらわす。(後から後からゲップがでる)
ただ芳香調気薬を服すれば即ち愈ゆ。
今秋こんしゅう天候異常、応に涼なるべきに反って熱し、
儼然げんぜん として炎夏のごとし。いわゆる当に去るべくして去らず、非時の候なり。
婦 時気に感じ、前病発作す。
胸脇ますます疼いたみ、(胸脇苦満)
心下痞硬し 嘔せんと欲す。(胸脇苦満、理気止嘔)
医 前薬を用い これを治するも効あらず。
往きて会診するを邀もとめら る(邀:ヨウ)
脈を切せつする(脈診)に弦数、口苦く、舌乾燥し、
胸胃痞脹ひちょう し、尿黄ばみ便結す。審つまびらかにし肝燥胃熱となす。大柴胡湯証に類する有り。
天候失常(天候不順)に由り、燥熱 患わずらいをなす。
およそ前の芳香燥薬は、すでに宜しき所に非ず。
当に証情に異りに随って、解鬱疏肝清熱調胃法を用うべし。
処するに大柴胡湯を以ってし香附(香附子)・青皮せいひ・じょうひ・鬱金うこん・梔仁(山梔子さんしし・クチナシ)の諸品を加え煎じ服す。
(青皮じょうひ・せいひ:ミカン科柑桔の青い未成熟果皮:疏肝破気・散積化滞:成分は陳皮と同じ)
Vb
にわかに心胸朗快を覚え、須臾しゅゆ(すぐに、しばらくの間に)に大便数行、嘔痛にわかに失う。
故に医者は天時の変を察するを貴び、証の宜よろしき を審らかにし、方は証の変に随い、薬は時を以って施す。
「治験回憶録」
(大柴胡湯:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1)
(大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔・清熱瀉下)