益気昇陥法(気虚下陥を治す)
脾胃(胃腸)は中焦にありて、気機の昇降を主どる。
脾虚気陥では
上部では少気懶言らんげん・気短して呼吸困難となり、
下部では子宮脱出や月経過多、悪露おろ が止まず、崩漏や帯下、小便は遺失し、遺尿あるいは尿閉、気虚便秘や脱肛、便血などの証となる。
気機:気の運動形態で、主に、臓腑や経絡の昇降出入をさす。
懶言らんげん:ものうい話し方。
遺尿いにょう:中気(脾胃の気)が不足すると、大小便などを維持できず、不定に漏れることとなる症状に補中益気湯合真武湯・補中益気湯合八味丸。
真武湯しんぶとう:附子1 茯苓5 白朮3 白芍3 生姜3:回陽救逆・温陽利水。
いずれも中焦の気を補い、下陥の陽気を持ち上げ、気機を平常に戻すようにする。故に益気昇陥法は、常に補気健脾の基礎の上に、升麻や柴胡などの昇陽の薬物を配伍する補中益気湯や挙元煎などがその代表方剤である。
挙元煎:景岳全書:益気昇陥法:黄耆8 人参3 白朮3 炙甘草1 升麻2:補中益気湯より黄耆・升麻が多くて、昇挙の力が強い。
補中益気湯:補気健脾・昇陽虚寒・甘温除熱:黄耆4、甘草1.5 人参4 当帰3 陳皮2 升麻0.5 乾姜0.5 柴胡1 白朮4 大棗2
短気(呼吸が浅く速い)は、中気不足と診断し、清陽下陥の症状の特徴の一つである。ただし、寒飲結胸も短気の症状があり、臨床では弁別すべきである。
寒飲結胸:寒飲は寒冷の痰飲をさす。飲食口に入れば吐し‥復吐する能わず・・手足冷え・・下す可からず。
もし膈上に寒飲ありて(寒飲結胸)乾嘔するものは吐すべからず。当に之を温めるべし。四逆湯によろし。
寒飲結胸の短気は胸間に物が有るように自覚するが吐せず、痰多や舌苔が厚く、舌体は胖で膨れている。
補中益気湯などを用いる中気不足による清陽下陥の短気では常に感じるのは呼気と吸気がうまくあわず、その他の気虚症状が有るのが異なる点である。
気虚の全身症状:倦怠無力感(鬱的)・元気不足・息切れ・物を言うのがおっくう・動きたがらない・声に力がない・自汗・舌質が淡色あるいは胖大(厚くブヨブヨ)・脈は細数で無力:補中益気湯・六君子湯が適応する
このほか、中気不足の患者が、常に自覚するのは下墜感や清陽下陥の症状である。
気虚下陥の方剤に最も多く用いるのは黄耆であり、必用な生薬である。
黄耆は良く補気し、陽気を昇挙して、気虚や下陥の証候にもっとも効果がある。
黄耆:補気升陽・固表止汗・利水消腫・托毒排膿:補気の要薬
益気昇陥法の主な作用は、清陽下陥の昇挙である。
清陽下陥では、陽気が内に鬱するために、身熱し(発熱し)、自汗し、渇して熱飲を好み、脈大にして虚すなどの仮熱証を呈するので、益気昇陥法を用いて下陥の陽を昇挙し、清陽を上昇させれば、陽気は外達して熱象は除かれる。これは甘温除熱の方法である。(気虚発熱に補中益気湯)
陽気を昇らせ、下陥をもち挙げる方法は、湿熱の邪の治療に対しては誤りとなる。
湿熱の邪が中焦にあるなら、辛開、苦泄、芳化、淡滲という別の方法をとるすべきである。
湿熱の邪の治療に、もし誤って下法を用いれば、脾陽下陥となり、泄瀉・便溏べんとう となる。
この湿熱証には、柴胡、黄芩、薄荷葉、青蒿せいこう などの昇挙清陽の薬物を配伍し、その一、二味を除湿処方に加えれば昇陽挙陥することができる。
ただし、益気昇陥法の方剤に、生薬を配伍する時は、燥湿化濁の生薬を多く用いて利湿薬が過多となると、多くの場合、昇陽の効果が障害される。そのため補中益気湯では、柴胡は1~2gに抑えられたいる。
補中益気湯(脾胃論)李東垣
組成
黄耆8 党参5 白朮3 甘草2 陳皮3 当帰3 升麻2 柴胡2g
用法:水煎して服用する。もし蜜丸に作る場合は剤量は多くする。子宮脱などの臓器の下垂の証には、黄耆、升麻の剤量を増やす。
あるいは腎虚をうたがえば、真武湯を合方する。
主治
身熱し自汗し、渇して熱飲を好み、頭痛悪寒し、懶言らんげん して食を欲せず、脈大にして虚。
食味が感じられず(口淡無味こうたんむみ)、懶言らんげん(物憂い話し方)、四肢倦怠、労働できず、動けば気喘し、脈虚大無力を呈す。
下血し崩漏、脱肛、子宮脱出、久痢、久瘧きゅうぎゃく(おこり)、小便は頻作で失禁し、あるいは尿閉、および一切の清陽下陥の症状に適用する。
分析
補中益気湯の治す諸証は、中気不足、清陽下陥の症状である。
「脾は昇清を主り、胃は降濁を主る」ので、脾虚下陥により清陽は上達することができず頭痛となるが、
但し此の種の頭痛は、時に痛み、時に止むのが特徴で、外感の頭痛の場合は常時痛むのでこの点で異なる。
脾は、精微の輸布を主り、脾陽下陥では津液を口に上承じょうしょう して輸布することができないので口渇するが、補中益気湯の口渇は熱飲を好み、熱盛のために傷津して冷飲を好むもの(白虎加人参湯)とは同じではない。
脾胃気虚では陽気は下陥して昇らず、すなわち陽気は内欝して外達出来ないので、身熱し(発熱し)、陽気は暫時ざんじ 上昇するときは身熱する時もあり、不熱の時もあるが、手心(てのひら)の熱が主要な症状で、外感による発熱では常に熱があるので同じではない。
清陽の下陥では、皮膚分肉の中に衛え を循環することができないので、悪寒、自汗するが、この種の悪寒は、衣服で温まればすぐに解し、一方、外感病の悪寒では烈火に近づいてもなお悪寒するので区別できる。
気虚して下陥するので気短となるが、この種の気短は吸気と呼気がみだれ、動けばすぐに気喘し、あるいは気はよく下墜し、身体下部の空墜が特徴で、一方 肺気上逆の気喘(麻杏甘石湯など)とは区別できる。
人の血液は、正常ならば経隧けいずい の中を運行していて経脈外に氾溢しないのは脾気の統血作用によるが、黄耆は肉芽再生にも効果があり、補気の主薬で摂血力がある。
脾の統血作用があるのは、「気の摂血を主どる」という説による。今、脾虚気陥では血は統摂されないので、崩漏(不正性器出血)や便血が生じる。
(高齢者は脾虚気陥で突然下血して驚くことがあり、入院して安静にすると治る)
清陽下陥で、気機下陥となれば、脱肛、子宮下垂、泄瀉、久痢(長く続く下利)、小便失禁・下血などの種々の疾患となる。
補中益気湯の治する病証は多いが、みな中気不足、清陽下陥によって生じている。
治法:補中益気、昇陽挙陥法
方解
「素問・至真要大論」が説く「労者(疲労した者)は之を温め・・・損は之を益す」
脾虚気弱の病は、当に甘温薬物をもって脾胃を温養し、中気を補益す。
脾虚気弱の証は脾虚だけではなく、清陽下陥なので治療には両者を同時に行う。
たとえば淡色・反復で腫れもひどくない口内炎・偏平苔癬なら補中益気湯。
たとえば昇陽挙陥して、脾気を充実して清陽を回復させれば陽気の鬱は解消して身熱は治まる。
いわゆる「甘温は大熱を除く」のはこの意味である:つまり気虚発熱・疲労発熱に補中益気湯。
若い女性に多いが、低熱の発熱を繰り返す症例が多く、肝鬱や脾気虚には、柴胡桂枝湯や補中益気湯・小建中湯を用いる。
方中の黄耆は肺気を益し、皮毛を実し、中気を益し、清陽を昇らせる。故に主薬として重用する。
人参、甘草は補脾益気し、白朮は燥湿強脾し、黄耆を補助する。共に補中益気の効果がある。
升麻は脾陽を昇挙し、柴胡は、肝気が上逆すると興奮し、怒り、眩暈・頭痛するので、柴胡は肝気を疏達して上逆を抑え、ともに黄耆を助け、昇陽挙陥とする。
陳皮は理気して醒脾し、補気して気滞が生ずるという弊害を防ぐ。
当帰は養血調肝し、柴胡が疏肝して肝血を損傷することを防ぎ、各々主要な働きをしている。
参考
補中益気湯の用途は広いが、必ず加減すべきで「張氏医通」には補中益気湯の応用を下のように述べている。
思慮過多して脾気が結して昇挙することができず、脾気が下焦に陥入して泄瀉する者は補中益気湯に木香を加えて気をめぐらす。
木香:キク科インド木香の根:辛苦温:行気止痛(行気薬・理気薬)
久瀉で消化不良、あるいは脱肛。すなわち元気が下陥して大腸の機能が低下する者には
補中益気湯に訶子、肉果(肉豆蔲)、五味子、烏梅肉を加え丸剤とする。(丸剤は、徐々に長く効かせる剤型)
訶子かし:シクンシ科ミロバランの成熟果実の乾燥:苦・酸・平:斂肺利咽・渋腸止瀉:慢性の下痢と咳嗽の生薬。
肉果にくか:肉豆蔲にくずく・肉叩:ニクズク科ニクズクの成熟種子の仁:辛温:脾胃大腸経:渋腸止瀉・温中行気:収斂・止瀉・健胃・排気:虚寒による泥状便や水様便。
烏梅うばい:バラ科梅の未成熟果実を種をとり乾燥したもの:酸渋:斂肺・渋腸・生津・安蛔あんかい(駆虫)・袪痰・鎮咳・止瀉・解熱。
五味子:斂肺滋腎・生津せいしん斂汗れんかん・渋精止瀉:飛び出す咳や鼻水や汗を、肺を引き締めて止める。
下利して、裏急し頻繁に衣類を汚す者は気脱である。
補中益気湯から当帰を去り木香を加える:当帰は重濁の性質がある。
裏急后重:頻繁に便意を催し、排便は稀にして肛門部の急迫様疼痛に苦しむ状態(痛瀉要方)。
多くは湿熱気滞によりおこる。裏急:筋脈の攣縮のこと。後重こうじゅう」は「しぶりばら」のこと
下利後に大便が秘結してしぶり、裏急后重し何度も息むが便が出ず、少しばかりの白膿・下血がでるのは気虚下陥であり、之を利するのは慎み、ただ園陽を挙げれば、陰は自ずから降る。補中益気湯に防風を加える。
まず膿血(下血)し、後に白沫・白膿に変わる者は、補中益気湯に炮姜と赤石脂を加えて益気昇陥えっきしょうかん と収斂固渋する。下利が止み、時に生じるなら補中益気湯に肉果(肉豆蔲)・木香を加え、駐車丸を服用する。
駐車丸(千金方):清熱化湿・養陰止痢:黄連4 乾姜1.5 当帰2 阿膠2 粉末にして1日2回2gずつ服用する。
赤石脂シャクセキシ:甘淡渋温:胃大腸経:渋腸止瀉・止血生肌:紅色の鉱石・多水高嶺土・硅酸アルミニウム・カルシウム・マグネシウム・マンガンなど:慢性下痢・虚寒の下痢・虚寒の月経過多・血便。
便秘し、脾虚して運化できず、倦怠懶言らんげん には、補中益気湯に升麻、柴胡、当帰を倍加し煎じて蜂蜜・麻油で調整して服すれば清気は上昇し、濁気は自ずから降る。脾虚して便秘する者は、この煎じ薬で麻子仁丸を服用する。
麻子仁丸:腸燥便秘・切れ痔・風燥の痔:肛門はカサカサの切れ痔に適応:
麻子仁5(研末) 甜杏仁2てんきょうにん 大黄4 枳実2きじつ 厚朴2 白芍2:
肛門が湿っていれば乙字湯が適応する:
乙字湯の体質は神経質な者に適応、加味逍遥散はイライラで発症する症状に適応する。
乙字湯は陰部の掻痒・悪臭を治す。
元気下陥して小便不通の者は、補中益気湯に木通・車前子を加えれば、昇清降濁の効果がある。
労淋の者は、過労すれば直ぐに膀胱炎・尿道炎を生じ、小便の漏れはやまず、尿滴が止まない時は、脾労と腎労の区別がある。
脾労の者には補中益気湯加車前子・沢瀉とし、
腎労の者には、六味丸加麦門冬・五味子(麦味地黄丸)とする。
車前子3g:オオバコの成熟種子:利尿し咳を止める:利水(牛車腎気丸)・通淋(淋証を治す)・止瀉・明目・袪痰止咳(咳止め)。
五淋散:清熱利水・活血止痛:
茯苓6 沢瀉3 車前子3 滑石3 山梔子2 黄芩3 木通3 赤芍2 当帰3 甘草3 地黄3。
沢瀉:サジオモダカの塊茎:甘・寒:利水・滲湿・清熱
老人は気虚下陥して膀胱炎・尿道炎になる;猪苓湯では治らない。
補中益気湯加木通・沢瀉とする。升麻・柴胡は下陥の陽を昇らせ、木通・沢瀉は濁陰を下行させ、これを服用すれば特に効果がある。
小便の漏れが、昼間ひどいものは陽虚であり、まず膀胱炎・尿道炎を病み、その際、利薬(利尿薬)を服用しすぎて尿漏れになった者には、補中益気湯加附子がよい。
小便頻数で疲れると酷くなる者は、脾虚気弱であるので、補中益気湯加山薬・五味子とする。
山薬さんやく・薯蕷しょよ・長芋ながいも:補脾胃・益肺腎・袪痰:腎虚だけでなく脾も治す。
五味子:斂肺滋腎・生津せいしん斂汗・渋精止瀉:飛び出す咳や鼻水や汗を、肺を引き締めて止める。
分利あるいは病後に小便黄赤は脾肺気虚に属し、施化できなければ補中益気湯加麦門冬・五味子とする。(味麦地黄丸)
小便過多で、排尿後に常に滑精(精液が漏れる)する者は、補中益気湯で縮泉丸を服用する。
縮泉丸加味:烏薬 益智仁 山薬 菟糸子 桑螵蛸:腎気不固:精液が漏れ易く、顔色白く、精神疲労、頭眩、腰がだるい、脈沈弱。腎気不固の治法:固腎渋精:金鎖固精丸・縮泉丸・桑螵蛸散。
脱肛し、産後育成および久痢して、力を遣い過ぎ、小児はまだ気血が壮さかん でなく、老人の血はすでに衰え、気虚して、固めることができない者は、大量の補中益気湯を主として、升麻の醋煮を用いる。
脾虚して自汗の者は、その中気をさかんにするには補中益気湯がよい。
月経時に、先立ち泄瀉する者は、脾虚である。(月経時の下利に、参苓白朮散・六君子湯・補中益気湯)
本来、「脾は統血し、湿を嫌う」。
月経での動きは、脾血は、まず血海に注ぎ、しかる後、下に流れて月経となる。脾血がそこなわれると、
脾はその湿を運行することができないので、必ず月経前に下利となる:補中益気湯加炮姜(人参湯)
人参湯・理中湯:温中散寒・補気健脾:脾陽虚:
人参3 白朮3 乾姜3 甘草3:寒滞肝脈の症状で食欲不振に使う。
冷えが原因で汗が出ない人は「寒滞肝脈」といい、肝臓の経絡に冷えが入っているためで、しもやけなどに使う当帰四逆湯・当帰四逆加呉茱萸生姜湯があるが、もともと汗をかきにくい体質である。
月経前下利には補中益気湯加炮姜とし、熱があれば黄連を兼用する。
もし飲食が減少すれば六君子湯や理中湯・参苓白朮散を選用する。
婦人が崩漏するのは脾胃が虚陥して摂血統血できない者で、補中益気湯加酒炒白芍とする。
もし、肝熱を兼ねる者は、再び黄芩を加えて清熱する。
肝腎陰虚崩漏の症状:突然陰道(膣)から出血して多くなったり少なくなったりたらたらと止まらず。
鮮紅色で頭暈・耳鳴・腰膝酸軟無力・顴紅・手足心熱・午後の潮熱;治法は滋補肝腎・清熱固衝の法。
補中益気湯:黄耆4、甘草1.5 人参4 当帰3 陳皮2 升麻0.5 乾姜0.5 柴胡1 白朮4 大棗2。
婦人血崩して心痛がひどければこれは失血心痛である。「心は血を主どる」、心脾血虚して栄養されなければ心痛は刺すように痛む(帰脾湯)。崩漏がひどければ痛みもひどく痛む。崩漏が緩和なら痛みも緩む。
もし、流産して出血過多となれば、心痛もまた甚だしく痛む。
もし小腹喜按で淡色な経血が降れば陰血が消耗しているので、まず烏賊骨うぞっこつ を炒して粉となし、
醋湯で飲めばこれを収斂する。つぎに補中益気湯で昇挙する。
烏賊骨うぞっこつ・別名:海螵蛸かいひょうしょう:コウイカの骨:
鹹微温:肝・腎経:収斂止血・固精止帯・制酸・斂瘡れんそう
四肢がきかなくなり、脈が細小で無力の者は、土(脾胃の力)が及ばずなり、当にその気を補し補中益気湯を証にしたがって加減する。(拯陰理労湯じょういんりろうとう:胃陰虚の重症筋無力症に使う)
拯阴理劳汤:方中以人参、麦冬、五味子之生脉饮为基础,莲子、苡仁、甘草、丹皮、生地、当归、白芍、橘红,肝脾两调,气血双补,龟板、女贞、百合 养阴润燥。参、芪、草 培脾土以生金,当归补血汤以滋化源。
胃陰虚の症候:食欲不振・口乾・舌質紅で無苔(鏡面舌)など陰虚有熱症状と上腹部のつかえ感・食後の腹満・嘔気・嘔吐・乾嘔・胃痛・胸焼け・逆流性食道炎・梅核気・食欲不振・便秘などの胃失和降の症状:麦門冬湯。
旋覆花代赭石湯:嘔気・吃逆・・上腹部膨満感(大柴胡湯適応)・おくびなどの胃気虚。
手の十指や顔面がしびれて、暗色になる者は気虚風盛であり、補中益気湯去白朮・当帰・橘皮、加白芍・五味子。
しびれや顔面晦暗かいあん で体に力が入らず、痒みが生じ肌に白い屑が生じるのは脾気不栄であり、補中益気湯加地黄、芍薬。
中風で遺尿が止まらす、脾胃下陥し膀胱も遺尿するものは、補中益気湯加益智仁。
益智仁やくちにん:ショウガ科益智の果実」辛温:脾腎経:補脾温腎・縮尿:脾腎陽虚に。
九竅(体の穴:目・耳・鼻・口・肛門・尿道など)から出血が労働・疲労によるものは補中益気湯に人参・黄耆を倍加し、応じない場合は帰脾湯に童便・藕節を加える。(これは気不摂血の病理である。帰脾湯は、心脾両虚・気血両虚の気不摂血を治す)。
童便どうべん:5歳以下の男子の尿。
藕節ぐうせつ:レンコンの節:止血作用:痔の薬などの止血薬
上述の用法を除いて、下に述べる諸証にも効果がある。
胎動不安で流産の兆候があれば虚証に属するので、補中益気湯加阿膠・艾葉・続断・桑寄生とする。
芎帰膠艾湯:川芎 当帰 阿膠 艾葉 芍薬 地黄 甘草:止血作用がある。便血・尿血・下血。
長引いた下利(久瀉)は中気虚に属し、陽気不足には、補中益気湯加乾姜・砂仁さじん。
縮砂しゅくしゃ(別名:砂仁さじん):ショウガ科縮砂の成熟果実:辛温:理気寛胸:健胃(消化解鬱剤):寒湿による下痢。
小児の遺尿は、脾気虚に属する。補中益気湯加桑螵蛸、益智仁、或は補中益気湯合縮泉丸。
柴胡桂枝湯ではストレスがとれて頻尿は改善するが、小児の遺尿は悪化し意識せず遺尿となる。
縮泉丸加味:烏薬 益智仁 山薬 菟糸子 桑螵蛸
:腎気不固:精液が漏れ易く、顔色白く、精神疲労、頭眩、腰がだるい、脈沈弱。
目まい・嘔吐(現代医学では内耳性眩暈)には、補中益気湯加葛根、沢瀉。
葛根を加えると毛細血管を拡張し、内耳の充血を減じ、脳の血液循環を改善する。沢瀉は利水消腫する。
沢瀉湯たくしゃとう(沢瀉5 朮2)の眩暈は、ひどい場合は吐き気がでてくる眩暈で、突然めまいが起こってまったく起きられないし、ひどくなるとムカムカして吐いてしまう症状だが、この発作をよく止める。
臓器の下垂を治すには、補中益気湯に補陽薬を加え、高い効果を手に入れられる。重症の無力症にも然り。
小児の疝気せんき にも補中益気湯を用いる。
疝気:疝セン:水気・冷え・瘀血による痛み:腹の痛む病気:発病は肝経と密接な関係があり「諸疝 皆肝に属す」と言われる。瘀血や冷えは夜中に痛み出すのが特徴:折衝飲など。
小建中湯の使用目標:「かかと(腎虚)、ふくらはぎ(脾虚)、すねも痛い(肝血虚)」という子供は
腎虚・肝血虚・脾虚の三つが重なった状態で、小建中湯(疲労倦怠・疲労発熱・成長痛)が適応する。
疝気:疝セン:水気・冷え・瘀血による痛み:腹の痛む病気:発病は肝経と密接な関係があり「諸疝 皆 肝に属す」と言われる。瘀血や冷えは夜中に痛み出すのが特徴:折衝飲
産後に子宮の位置が不正な状態に、補中益気湯は効果がある。
補中益気湯の用途は広く、その効能をすべて述べることはできない。たとえば 低血圧、胃下垂、重症筋無力、頭暈や目眩などの神経衰弱によるもの、遺精、失眠(不眠)など。
補中益気湯の加減法
昇陥湯:黄耆7 知母3.5 柴胡2 升麻1 桔梗2(気が極めて下陥している者は、人参、山茱肉を加え気分の消耗を収斂させる。昇すれば下陥を繰り返さずにさらに良い。もし気が大いに下陥してはなはだしければ少腹下墜して、或はさらに痛みを生ずる者は升麻を1.5 あるいは2gに増量する。
主治:胸中の気 大いに下陥し、気短して呼吸ができない。あるいは努力呼吸、喘し、或は気息きそく まさに停止せんとする時に使用。その兼証は、或は寒熱往来、或は喉は乾き、胸は満悶・動悸は怔忡となり、或は神昏(意識障害)健忘となる。その脈は沈遅微弱である。劇しきものは六脈不全し或は参伍不調となる。