©(有)文隣堂あつみ薬局 渥美光廣、2023
2023/6/29、7/12,
経絡病証
「霊枢・経脈篇」の十二経脈の病変に基づく。主に、この経絡が循行する場所に現れる病証をしるす。
1.手の少陰心経病証・・・心中に起こり心系から三枝に分かれ、一枝は小腸に絡し、一枝は目系につらなり、一枝は腋窩から上腕屈側後縁にそって第五指橈側端(心臓発作時は第五指の爪元の少衝を歯で噛むと発作が治まると言われる)に至る。
手の少陰心経病証:心臓部の疼痛(折衝飲)・胸痛・上肢屈側後縁の疼痛や冷えや熱感(腕の裏側屈側は心発作時や大動脈瘤解離の際に痛む部分)。話すと舌がもつれる・咽乾・心煩・胸脇満痛、掌中の熱痛など。
2.手の太陽小腸経病・・第五指尺側端より起こり、前腕・上腕の伸側後縁に沿い肩関節下方をへて肩甲骨部を循行し(肩こり時肩甲骨部の凝りを生ずる)鎖骨上窩で二枝に分かれる。一枝は下に向かい心に絡し(心臓痛)、胃を経て小腸に属す。他の一枝は上向し側頸部に沿って下顎角を通り、外眼角にいたり耳中に入り(聴覚に影響)、分枝を出して頬部(頬の腫塊や癌腫)・眼角・眼下部などに分布する。
聴力減退・嗌アク痛(咽喉の食道開口部周辺)、顎腫、頬腫があり頚を動かしたり振り向いたりできず(独活葛根湯)、頸・肩・上腕(臑ジュ)・肘・臂ヒ(前腕)の尺骨外側(上肢伸側後縁)に沿って痛み・心臓痛、甚だしい場合肩がぬけたか、上腕が折れたかのようになる。
3.手の太陰肺経病証・・中焦に起こり、大腸に絡し反転して幽門から噴門に沿って上行し肺に属す。気管・喉嚨を経て鎖骨にそい腋窩にいたり、上肢屈側前縁に沿い肘窩・寸口・魚際ぎょさい をへて第一指橈側端に至る(親指の付け根痛)。手首の後ろで分枝し第二指橈側端にいたる。
咳嗽・咽中がふさがる感覚で呼吸困難・呼吸促迫・胸悶脹満・感冒の発熱・悪寒・頻尿・鎖骨上窩と上肢屈側前縁の疼痛・厥冷・歯痛、喉痺、頸腫(大柴胡湯合半夏厚朴湯・加味逍遙散合半夏厚朴湯:頚部の腫脹(こぶとりじいさんのコブ・甲状腺腫)、目黄、口乾、肩の前面痛、腰痛、拇指痛、示指(人差し指)痛。
4.手の陽明大腸経病証・・第二指橈側端から起こり、合谷を通り上肢伸側前縁を上向し、肩から欠盆におれ、鎖骨上窩で二枝にわかれ、肺に絡し、大腸に絡す。一枝は鎖骨上窩を上行し頸部をへて頬部から下歯槽に入り口角と上唇を経て、反対側の鼻翼の傍ら迎香に至る。
肺部がはれ、咽部の腫脹と疼痛・鼻出血・口乾・頬部の熱感と腫脹・気喘し、胸部満悶、寒邪が皮毛経絡を侵せば悪寒して寒熱する。風に破れれば自汗する。風熱が経絡を壅遏ようあつ すれば欠盆(胃経)の中や臑臂じゅひ の前面(伸側前縁)が痛み、疼痛や運動障害は陽明大腸経の上肢伸側前縁にそって現れる。
臑ジュ(上腕)・臂ヒ(前腕)
5,足の太陰脾経病証・・第一趾:内側端(隠白)から起こり、内踝前面の商丘を通り三陰交をへてふくらはぎの中央を上行し、膝の陰陵泉をへて大腿内側前縁を通り衝門をへて、脾に属し胃に絡し、横隔膜を貫き胸部に入り、咽部を上行し、舌根に連なり舌下に分布する。胃部での分枝は横隔膜を貫き心中に注入する。
舌本は強ばって運動障害・舌根疼痛(脾脈は舌本に連なり、舌下に散る)、体が重だるく動かせず、安眠できない。倦怠無力感・食欲不振・腹脹して痛み排ガスで減少・泥状~水様便・噯気げっぷ・嘔吐・尿少・黄疸・股膝の内側が腫れ痛み冷え、拇趾がきかない。
6.足の陽明胃経病証・・鼻根部(承泣)から起こり、上歯槽に入り、下顎骨前縁を後方に向かい、顔面動脈の拍動部(大迎)で上下に分枝し、下顎・耳前(下関)・前額に分布。一枝は下降し喉嚨にそって鎖骨上窩(欠盆)にいたる。鎖骨上窩で二枝に分かれ、一枝は胃に属し脾に絡し、鼠径部に至り、もう一枝は乳頭(乳中)をへて鼠径部(気衝)で合流する。下肢前外側を下行し、外膝眼から足三里を通り第二趾外側端に至る。分枝は第三趾外側に下降し、もう一枝は衝陽で分岐し第一趾端に至る。
陽明経のため高熱・発汗し、身体前面部の症状が強く、鼻痛、鼻づまり、鼻出血、口唇の発疹(食べすぎで脾虚となり風邪の華と言われる口唇ヘルペス)・歯痛、口眼喎斜、咽痹、消穀善飢・尿黄・精神異常・驚悸・狂躁状態・浮腫・腹満・腹水・頭痛・顔面神経麻痺・頸腫、膝髕シツヒン(膝蓋部:外膝眼)の腫痛、乳脹痛・乳部から気街(気衝)痛、股痛・伏兎痛・脛の外縁痛・足背痛や腫脹(脾虚)、足の第三趾痛や運動障害(脾虚の症状)。
髕ヒン:ひざのさら
7,足の厥陰肝経病証・・第一趾背面の爪後部より起こり、内踝前方(中封)を通り下腿内側前方を上行し、三陰交で太陰脾経と交叉し曲泉を通り、後方に大腿内側を上行し外生殖器をめぐり小腹を入り肝に属し胆に絡し、肺に注入し喉嚨後面に沿って鼻咽部に入り目系に連なる(肝の昂ぶりは眼に症状が出る)。目系から分枝し一枝は下に口唇の裏面をめぐり(キスは性器に通じる)、一枝は外眼角で分枝し、上に向かい前額から頭頂にいたる。
脇部の脹痛・悪心・嘔吐・咽乾・下痢・頭痛(昔の老女は外眼角の上部にアロエを貼っていた)、目赤・耳聾、ストレスで生ずる頬腫キョウシュ、卵巣機能不全で両少腹腫痛(桂枝茯苓丸)、両側下腹部の疝痛(当帰四逆加呉茱萸生姜湯)・遺尿・尿閉・遺精・陰嚢が腫れる(陰嚢水腫に五苓散だけでなく加味逍遙散を併用する)・腰痛。
8,足の少陽胆経病証・・外眼角より起こり、側頭部(胆経頭痛)・耳前・耳後(風池)をめぐり耳中に入り(耳は肝胆経が通る:柴胡剤を使う) 、頸部側面から肩井を通り、鎖骨上窩(欠盆)に入り二枝に分かれる。一枝は胸腔に入り肝に絡し、胆に属し、鼠径部をへて陰毛辺縁をめぐり股関節に入る。もう一枝は腋窩を経て胸・腹の側面体表部に分布する(胸脇苦満)。両枝は股関節(環跳)で合流し(股関節痛に柴胡桂枝湯)、下肢外側中央を下行し、陽陵泉を通り外踝前面(丘墟)を経て第四趾外側端に至るが、途中の足臨泣で分枝し第一趾の爪後部に至る。
少陽は枢かなめ を主り、往来寒熱する。経絡上に症状が現れる。頸や液下のリンパ節腫大(小児や虚弱者に多い)・瘧疾・口苦・胸脇痛(胸脇苦満:柴胡剤の適用)・ため息が多い(肝鬱の症状)・欠盆痛けつぼんつう、腋下痛(淵液)・偏頭痛(側頭部痛の胆経頭痛)・頭額痛(陽白・頭臨泣)、外眼角痛、耳痛、耳鳴り、耳聾(耳は肝胆経が通る:柴胡剤を使う)、瘰癧るいれき(頸部リンパ腺炎:甲状腺腫:加味逍遙散合半夏厚朴湯)、足の小趾、第四趾の疼痛と運動障害・股関節や膝や下腿外側中央の疼痛(柴胡剤:柴胡桂枝湯)。
9.足の少陰腎経病証・・第五趾の蹠側せきそく から起こり、足心を斜行し内踝下方(大鐘)にいたり、分枝を踵部に出し(かかと痛は腎虚の症状)、下肢内側の後縁を上向し、腹に入り脊柱をつらぬき腎に属し、膀胱に絡す。上向し肺中に入り肺から二分枝がでて心に絡し、一枝は舌根両側に至る。
蹠セキ:あしのうら。
口が熱し、舌が乾燥し、嗌アク(咽喉の食道開口部周辺)が乾き、咽が腫痛し、咳し、呼吸促迫・呼吸困難(腎虚では吸気できない)・頭昏目眩・落ち着かない・動悸・咳嗽・喀血・唾に血がまざり、胸痛・黄疸・慢性の下痢・食欲不振・腰背痛・煩心して脊や股の内側後部にそって痛み、踵痛しゅつう・下肢無力で長時間立てず(腎虚)、足の裏が熱痛(腎陰虚)する。
10.足の太陽膀胱経病証・・内眼角(睛明)より起こり、眉頭の攅竹から額を上向して頭頂(承光)で督脈と遇い、そこからの分枝は耳上方から頭蓋内へ脳に絡し(精神障害)、外に出て項後部で二枝に分かれる。一枝は下行し、腎に絡し膀胱に属し、大腿後側を経て膝膕シッカク(委中)に入る。もう一枝は項部から臀部にいたり股関節を経て、膝膕で両枝が会合する(委中) 。ひきつづき下行し外踝の後方(崑崙・僕参)から足背外側にそい第五趾外側端(至陰)に達する。
膕カク:膝窩部シツカブ。
頭項強痛・腰背痛と運動障害・目黄、流涙・鼻出血・耳鳴・てんかん・精神錯乱・中風の発語障害や半身不随・瘧疾・痔、気上衝で頭痛し、目が脹って痛みとびだすようで、項うなじ が抜け、腰が折れたようで、髀ヒ(股関節部)が曲がらず、膕カク(膝窩部シツカブ)は固まり屈伸不利、腨セン(ふくらはぎ)は裂けたかのよう。。足・第五趾の疼痛や運動障害。
11.手の小腸三焦経病証・・第四指末端より起こり尺側縁をへて、上肢伸側中央から肩関節後面に至り、鎖骨上窩(欠盆)に入り、膻中に分布する。膻中で二枝に分かれ、頸部に上り耳後に沿い耳前に至り眼下に至る。別の一枝は膻中から心包に絡し横隔膜を貫いて順次上中下焦に属す。耳後で分かれた分枝は耳中に入り(耳聾・耳鳴・耳前や耳後の痛み)、耳前につきぬけ眼外角と眉毛外端(眉尻)に至る。
耳鳴り、耳聾、嗌アク(咽喉の食道開口部周辺)部の乾き、喉痺、眦まなじり の痛み、頬腫痛、耳前や耳後の痛み、肩・上腕(臑ジュ)や臂ヒ(前腕)肘部の外側中央がみな痛み、小指、第四指がきかない。
三焦(上焦・中焦・下焦)は陽気と津液の通路で、全身に分布し広汎であるために、邪によって気機が鬱阻されると(気の昇降出入が阻滞されると)全身に多様な病変があらわれる。
12.手の厥陰心包経病証・・胸中に起こり、心包に属し、下に向かい上中下焦に絡す。別の一枝は乳頭外側で胸腔をつらぬき腋窩に至り、上肢屈側の中央を通り肘窩をへて手掌から第三指末端に至る(中指の腫れの症状は焦燥感を示す)。手掌の中心から分枝が出て第四指尺側にそって指端に至る。
心悸・焦躁感(心煩)・掌心に熱があり、臂肘部ひちゅうぶ が拘攣し、腋窩の腫脹疼痛、強痛あるいは胸満胸痛し、心臓部痛、面色赤く、精神異常・喜笑して止まない。臂ヒ(前腕)や肘のひきつりは心の遣いすぎ出生じる。