麦門冬:別名ヤブラン・ジャノヒゲ・老翁草:味甘平。心腹の結気、胃の絡脈絶つ、羸痩、短気、客熱、口乾燥渇を主り、嘔吐を止め、痰飲を下し、肺痿吐膿を治す。
麦門冬は、味甘平、熱を瀉し、燥を潤し、咳を止め、気を下す。その効 五味子と相近し。而して五味子は徒らに上焦の燥熱を潤し、麦門冬は、ひろく血分に走る。是を以って生津の功に広狭の別あり。
竹葉石膏湯をカゼの解する後に用いたり、麦門冬湯の労復および肺痿における適用や、薯蕷圓を虚労に用いるのは皆 津液欠乏の虚に邪が乗ずる状態に、麦門冬を配合して用いている。
このように麦門冬は、石膏、柴胡、人参、当帰などの清解滋潤をあいあわせて処方において、その効果を発揮している。
炙甘草湯の脈結代や肺痿に麦門冬は用いられ、温経湯の婦人の瘀血に対して血弱津枯による、脈道や血海における流れの阻滞に対して麦門冬を用いている。
温経湯は麻子仁、牡丹皮、地黄、阿膠を用いて血熱を清め、麦門冬で津液をさかんにして流れの阻滞を解消している。
麦門冬は、地黄、阿膠、麻子仁と同じように経脈を潤し、血を益し、脈を復し、心を通ずる方剤とし、五味子、枸杞子とともに生脈の剤を為している。
しかし、麦門冬の性質は滋潤、血脈を清利するが、その用法は広いが、邪を去り正を扶けるの策の一つにすぎないのに、後世は漫然と復脈・生脈などの処方をみて、麦門冬を虚脱挽回の主薬としている。これに対して仲景は別に通脈四逆湯を設けている。膚冷脈絶はひとり麦門冬だけが、虚脱挽回をなすものではない。