潮熱
潮熱とは、潮が満ちるように一定の時間に毎日生じる発熱を指す。
処方:大承気湯・小承気湯・調胃承気湯・涼膈散、大柴胡湯・補中益気湯・六君子湯・清暑益気湯・知柏地黄丸・六味丸・杞菊地黄丸・清骨散加当帰白芍・血府逐瘀湯・逍遥散、小柴胡湯・加味逍遙散・六味丸。
原因
1.陽明腑実の潮熱
2.脾胃気虚の潮熱
3.暑熱傷気の潮熱
4,陰虚の潮熱
5,瘀血内結の潮熱
潮熱とは、潮が満ちるように一定の時間に生じる発熱を指す。
「傷寒論」では、「日晡潮熱にっぽちょうねつ」。
後世では「午後潮熱」ともいう。
潮熱は一日一回の発熱だけで悪寒は無く、
一日に数回ある発熱は潮熱ではなく往来寒熱などである。
1,陽明腑実の潮熱・・承気湯類:表邪が裏に入り化熱し、熱邪が腸内の不消化物と結合した「胃家実」:腹が硬く脹って痛む、便秘又は熱結旁流:陽明の気は申酉さるとり(午後4時~8時)に旺盛で「日晡潮熱」となる:陽明病:汗出るといえども悪寒せず。
大承気湯:峻下熱結:大黄2 芒硝3 厚朴5 枳実3:芒硝・元明粉、玄明粉:硫酸ナトリウム:鹹苦寒:瀉熱通便:腸に停滞する熱邪を排便によって瀉する。
「燥糞内結の証候」「胃家実いかじつ」:特徴は夕方から発熱し高熱・大汗・口渇、腹部の膨満・便秘・舌苔黄褐色。
熱結旁流ねっけつぼうりゅう:証の名称。熱病を外感して陽明腑実証をあらわし、腸内に化熱した燥糞そうふん が結し、また臭水しゅうすい を下痢するもの。大承気湯・小承気湯で実熱を下すとよい。子供には浣腸で対応。
2.脾胃気虚の潮熱・・甘温除熱の補中益気湯:過労・飲食の不摂生などで中気が不足し、穀気が下流して陰火が生じ発生:
午前に発熱し午後に解熱、又は午後に発熱。気虚の症状:脾胃気虚の潮熱は微熱で成人に多く、ダイエットする若い女性に多い。
気虚の全身症状:倦怠無力感(鬱的)・元気不足・息切れ・物を言うのがおっくう・動きたがらない・すぐ居眠りする・声に力がない・自汗・舌質が淡色あるいは胖大・脈は細数で無力:補中益気湯・六君子湯。
3.暑熱傷気の潮熱・・清暑益気湯:小児は陰液・陽気ともに不足しがちで暑熱に耐えずに、気陰消耗し潮熱を生じる。小児の夏季熱に多い:午前に発熱し午後に解熱、又は 午後に発熱し翌朝に解熱:口渇・水分を欲す:気陰両虚(肺気陰両虚と同じ)の症状。
肺気陰両虚を呈する時は、益気養陰するために四君子湯合八仙丸や補中益気湯合八仙丸とする。
気陰両虚の症状:口渇、多飲、しわがれ声、倦怠感、元気がない、午前に発熱し午後に解熱、あるいは午後に発熱し翌朝に解熱:清暑益気湯・四君子湯合八仙丸・補中益気湯合八仙丸。
清暑益気湯:脾胃論:益気生津・清熱利湿・解暑:黄耆5 党参5 麦門冬5 白朮5 当帰4 沢瀉3 葛根3 神麹3 升麻2 陳皮3 五味子2 炙甘草1 青皮2 蒼朮2 黄柏2 生姜2 大棗3(17味):温熱経緯の清暑益気湯は湿気をもたらすので利湿には不適で、日本の湿気のある夏には不向きである。
4,陰虚の潮熱・・知柏地黄丸・六味丸・杞菊地黄丸・清骨散加当帰・白芍:陰虚体質又は発汗・嘔吐・下痢・出血・脱水などによる傷陰で虚火上炎したり、慢性疾患や急性熱性疾患の後期に発生し「骨蒸潮熱」とも言われる:陰虚による虚火上炎の症状を示す。
骨蒸潮熱:発熱の状態が骨髄から発するようにおぼえ、陰虚内熱が原因で潮熱が裏の奥深いところからでる状態:午後あるいは夜間の発熱:陰虚の症状を呈する。
陰虚による虚火上炎:午後の潮熱、顔ののぼせ・目赤・イライラ・頬部の紅潮(顴紅かんこう)、五心煩熱・手足がほてる、盗汗、口乾・舌質紅、脈細数・夕方や夜に悪化。
陰虚の症状(陰虚陽亢いんきょようこう):顔がのぼせ・目赤・イライラ・顴紅・口が乾き・手足がほてる・夜や夕方悪化・五心煩熱・寝汗・消渇では陰虚となるので痩せてくる。
清骨散せいこつさん:証治準縄しょうぢじゅんじょう:清虚熱:
銀柴胡3 鼈甲3べっこう 地骨皮3じこっぴ 知母3 秦艽2じんぎょう 青蒿2せいこう 胡黄連2こおうれん 炙甘草1。
清骨散の銀柴胡・銀胡:ナデシコ科銀柴胡の根:甘微寒:腎胃経:涼血・退虚熱:「虚熱の良薬」:血熱を冷ますが発散しない。
清骨散の青蒿せいこう:キク科カワラニンジンの全草:苦寒:清熱解暑・退虚熱:発散作用。
清骨散の鼈甲:スッポン科シナスッポンの背部甲羅:滋陰・清熱・破血・軟堅・散結。
清骨散の地骨皮じこっぴ:ナス科クコの根皮:甘淡寒:肺腎系」清熱涼血・退虚熱:虚熱・労熱に用いる:血熱を冷ますが発散しない。
清骨散の酸棗仁湯の知母:からだを潤し、のぼせ、ほてりなどの上焦の熱を取り除く:ユリ科ハナスゲ(花菅)の根茎:苦寒:清熱瀉火:滋腎潤燥:清熱潤燥薬。
清骨散の秦艽じんぎょう:リンドウ科秦艽の根:袪風湿・退黄疸・除虚熱。
清骨散の胡黄連・胡連:ゴマノハグサ科胡黄連の根茎:苦寒:肝大腸胃経:清熱燥湿・退骨蒸:黄連とほぼ同じ:小児の疳積に対する主薬。
知柏地黄丸:滋補肝腎・清熱瀉火:知母 黄柏 地黄 山薬 山茱萸 さんしゅゆ 沢瀉たくしゃ 茯苓 牡丹皮:陰虚火旺の虚熱証に適用:体重減少の消渇病:陰虚では痩せる:飲酒の熱を冷まし口渇を潤す。
5,瘀血内結の潮熱・・血府逐瘀湯加大黄・牡丹皮:打撲・外傷・寒凝気滞・血熱妄行で血流が停滞して、血瘀が生じ、内欝した瘀血が化熱して潮熱となる・・午後又は夜間の発熱が化熱して潮熱が発生する。:午後あるいは夜間の発熱・咽喉乾燥と瘀血の症状。
大黄は活血化瘀の作用を助け、陳を除いて新を生じ、血熱を清瀉する。
牡丹皮:牡丹の根の皮:苦辛微寒:清熱涼血・活血袪瘀・清肝瀉火:清熱袪瘀薬:冷やし活血して瘀血を去る。
血熱(妄行):血分に熱があり症状は、出血傾向となり、吐血・衄血(鼻血)・喀血・便血・尿血・斑疹・午後の発熱。月経先期(月経が早く来ること)、脈弦数。または出血・貧血に伴う発熱。
瘀血の症状:午後や夜間の潮熱、固定痛や硬結、肌膚甲錯、舌瘀斑青紫色:全身的な血流停滞・内出血。瘀血は臓腑・組織の血行を阻害し疼痛・腫瘤・内出血、顔や目の周りが黒い・口唇舌辺の瘀斑・脈細や脈渋:瘀血は血の生成を阻害し血虚を招きやすいので瘀血薬には補血薬が配合される傾向がある。
潮熱は、実証では外感によって生じることが多く、虚証の潮熱は過労や内傷によって生じることが多い。急性熱性疾患の後遺症で潮熱がみられることもある。
「雑病広要・内因類」
潮熱、もし大便堅渋にして冷をこのみ熱を畏れ、睡臥著しからずは涼膈散りょうかくさん、大柴胡湯にてこれを下す。
涼膈散:清熱解毒・瀉下:連翹2 黄芩2 薄荷2(後下) 淡竹葉1 生甘草1 大黄2(後下) 芒硝2(沖服):熱盛を瀉下して治す。
大柴胡湯:肝火上炎・肝気鬱結・胃実熱・心下痞硬に適応する
柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1(上腹部の脹り・苦満)。
胃気消乏し、精神憔悴し、飲食減少して、痩せ、五心常に余熱を有するは、これ虚証に属し、逍遥散、小柴胡湯の加減に宜し。
夜に身体微熱を発し、飲食常のごとし、別証なし、ただこれ血虚し、陰は陽を救わず、朝に加味逍遙散を用い、暮れに六味丸を用い、応ぜざれば、当帰補血湯、加減八味丸を用いる。
逍遙散:肝気鬱結・血虚・脾虚・湿邪:衝任不調:柴胡3 白芍3 当帰2 白朮3 茯苓3 生姜3 炙甘草2 薄荷1:痰飲はとれないので半夏厚朴湯・苓桂朮甘湯・二陳湯などを合方する。
小柴胡湯:傷寒論:和解少陽・清熱透表・疏肝解鬱・補気健脾・和胃止嘔:柴胡7 黄芩3 半夏5 生姜4 人参3 大棗3 甘草2。
加味逍遙散:肝鬱化火・脾虚湿性・血虚:柴胡3 芍薬3 薄荷1 当帰3 牡丹皮2 山梔子2 茯苓3 白朮3 乾姜1 甘草2(人参・大棗が無いのは化火を増悪させるため)。
六味丸:滋補肝腎・清虚熱・利湿:三補三瀉:八味丸から六味丸が出来た。
当帰補血湯:気血両虚を峻補・補気生血の基本:
黄耆15 当帰3g:
重度の貧血・再生不良性貧血・慢性腎炎・褥創じょくそう
(黄耆は肉芽再生の効果があり、補気の主薬で摂血力がある)。