半身不遂・半身不随
「金匱要略」に、「それ風の病たる、まさに半身不遂す」
1.風中経絡の半身不遂:大秦艽湯
2.肝陽化風の半身不遂:天麻鈎藤飲加減・杞菊地黄丸
3.痰火内閉の半身不遂:至宝丹から、冷羊鈎藤湯
4.湿痰内閉の半身不遂:蘇合香丸から導痰湯加天麻・白僵蚕・石菖蒲
5.陽気虚脱の半身不遂:参附湯
6.陰脱陽浮の半身不遂:地黄飲子の加減
7,気虚血瘀の半身不遂:補陽還五湯の加減
8.肝腎両虚の半身不遂:地黄飲子加減
1.風中経絡の半身不遂:大秦艽湯
風中経絡:知覚麻痺・顔面神経麻痺・発語障害・発熱・悪寒・頭痛・関節痛・関節の拘縮・舌苔白じ・脈浮滑。
大秦艽湯:医学発明:袪風通絡・養血和営:秦艽 石膏 甘草 川芎 当帰 羗活 独活 防風 黄芩 白芍 白芷 白朮 生地黄 熟地黄 茯苓 細辛。
秦艽じんぎょう:リンドウ科秦艽の根:袪風湿・退黄疸・除虚熱。
羗活きょうかつ:セリ科羗活の根や根茎:辛苦温:散寒燥湿・解表・袪風湿・止痛;羗活は風邪薬によく配合される。
独活:セリ科のシシウド・ウコギ科のウド:袪風湿・通経絡:特に項背部の筋肉や下半身の関節の風湿を去る・臀部の痛み・両足のしびれ。
防風:セリ科防風の根:辛甘微温:膀胱肝脾経:袪風解表・袪湿解痙・止瀉止血:発汗・解熱・鎮痛:袪風の主薬。
2.肝陽化風の半身不遂:天麻鈎藤飲加減・杞菊地黄丸
肝陽化風:頭痛・めまい・耳鳴・目花・イライラ・易怒・顔面紅潮・目赤・激しい怒り・半身不遂・発語障害・顔面神経麻痺・嘔吐・意識障害・舌紅・脈弦数。
天麻鈎藤飲:平肝潜陽・平肝熄風・滌痰通絡・柔筋活絡:天麻 釣藤鈎 石決明 山梔子 黄芩 杜仲 牛膝 益母草 桑寄生 夜交藤 茯神:内傷によって生じた内風や脳卒中の薬。
石決明:平肝潜陽・清熱明目:アワビ科の貝殻を乾燥したもの:炭酸カルシウム等:肝陽上亢・骨蒸潮熱に適用。
牛膝ごしつ:ヒユ科イノコズチモドキ:平:活血袪瘀止痛・活血通経・舒筋利痹・補益肝腎・強筋骨・薬を下行させる引経薬で下半身の痛みに繁用する。
益母草:辛微苦微寒:活血通経・行血袪瘀:母を益す:婦人病に。
桑寄生そうきせい:ヤドリギ:補肝腎・袪風湿・強筋骨・安胎(滑胎に寿胎丸):梅寄生もある。
養心安神薬の夜交藤:何首烏のツルドクダミの蔓茎:安神・養血活絡。
3.痰火内閉の半身不遂:至宝丹から、冷羊鈎藤湯
痰火内閉(脳卒中):突然の意識障害と半身不遂・顔面神経麻痺・手を握りしめる・牙関緊急・顔面紅潮・目赤・喘鳴・呼吸促迫・手足を動かす・舌紅・舌苔黄じ・脈弦滑で数。
至宝丹:和剤局方:化濁開竅・清熱解毒:犀角30さいかく 玳瑁30たいまい 琥珀30 朱砂30 雄黄30ゆうおう 竜脳0.3 麝香0.3 安息香45 金箔50片 銀箔50片(製剤は無い)。
玳瑁たいまい:ウミガメ科玳瑁の甲羅:甘寒:心肝経:潜陽熄風・清熱解毒:熱性疾患の意識障害や痙攣発作に涼血清熱解毒:犀角・羚羊角に似ている効果がある。
雄黄ゆうおう・鶏冠石:硫化砒素の鉱石・As2S2二硫化砒素:止痛解毒:神経性皮膚炎・皮膚化膿症・掻痒・蛇の咬傷:硫化砒素は熱すると猛毒の酸化砒素As2O3になるので焼いてはいけない。
竜脳・氷片:熱帯アジアのフタバガキ科の常緑高木、竜脳樹の幹や枝を細かく刻み、水蒸気蒸留して昇華冷却で得られる結晶。ボルネオ樟脳、ボルネオールと呼ばれ爽やかな香りと清涼な味がある。
開竅剤かいきょうざい:麝香じゃこう・竜脳・安息香・蘇合香・菖蒲・牛黄。
冷羊鈎藤湯れいようこうとうとう:肝陽化風に清熱熄風:羚羊角1れいようかく 釣藤鈎6ちょうとうこう 桑葉3そうよう 川貝母4せんばいも 竹筎4 生地黄6 白芍6 菊花4きくか 茯神3 炙甘草1。
貝母:アミガサユリの鱗茎:苦・寒:開泄肺気・清熱散結:鎮咳薬に配合
4.湿痰内閉の半身不遂:蘇合香丸から導痰湯加天麻・白僵蚕・石菖蒲
痰湿内閉:嗜眠・昏睡・手を握りしめる・痰や涎が多い・顔面の浮腫・牙関緊急・体動が無い・面白・口唇のチアノーゼ・四肢冷・舌苔白滑でじ苔・脈沈滑あるいは緩。
蘇合香丸そごうこうがん:蘇合香5 竜脳5 安息香10 犀角10 白朮10 木香10 香附子10 朱砂10 カ子10 檀香10 沈香10 丁香10 蓽撥10ヒハツ 乳香5 蜜丸とし1丸3g:中成薬。
導痰湯(済生方):痰迷心竅:製半夏3 陳皮2 製南星3 枳実2 茯苓2 炙甘草1 大棗1 乾生姜1:痰迷心竅で熱証のみられない舌体白じ・脈弦滑の時に使用:温胆湯の竹筎を製南星に替えた処方。
天麻・明天麻:ラン科オニノヤガラの塊茎:甘微温:肝経:袪風鎮痙・通絡止痛:抗痙攣・鎮静:めまい・頭痛の主薬で、天麻は、薬全体を首から上にもっていく作用がある。
白僵蚕:白僵菌ムスカルジンに自然感染して死んだ蚕カイコ:袪風熱・熄風鎮痙・化痰散結:解熱・抗痙攣・袪痰:眩暈がつよい場合には熄風化痰の白僵蚕・胆南星を加える。
安神薬の石菖蒲・菖蒲:サトイモ科ショウブの根茎1.5g以上使わないこと:辛・温:芳香開竅・逐痰袪濁:痰濁蒙閉心竅:菖蒲鬱金湯。
5.陽気虚脱の半身不遂:参附湯
陽気虚脱:眼を閉じ口が開く・手をだらんと広げる・遺尿・いびき・呼吸微弱・四肢冷・顔面蒼白・額に冷汗・舌痿軟で淡白・脈沈細で微。
参附湯:回陽救逆:人参5 附子4。
6.陰脱陽浮の半身不遂:地黄飲子の加減
陰脱陽浮:顔面神経麻痺・眼を閉じ口が開く・手をだらんと広げる・遺尿・いびき・呼吸微弱・手足冷・両頬部の紅潮・舌痿軟で紅・脈沈細で微。
地黄飲子:宣明論:滋腎陰・補腎陽・開竅化痰:熟地黄・巴戟天はげきてん・山茱萸・石斛せっこく・肉ジュ蓉・炮附子・肉桂・茯苓・麦門冬・菖蒲・遠志おんじ 各2g。
腎精不足の治療薬の巴戟天はげきてん:アカネ科巴戟天の根:辛甘微温:腎経:温腎補陽・強筋骨・袪寒湿:淫羊藿と同じ:腰や膝の寒湿による障害に適す:腎陽虚による失禁・頻尿に用いる。
石斛せっこく:ラン科石斛の茎:甘微寒:肺胃腎経:生津益胃・滋陰潤肺・補陰:胃陰を滋養する:養陰生津薬。
腎精不足の治療薬の肉ジュ蓉にくじゅよう:ハマウツボ科ホンオニクの肉質茎:甘鹹温:腎大腸経:滋腎益精・補陽潤腸:強壮・通便:肉ジュ蓉は補陽でも燥でなく滋してしつこくないので従容という。
7,気虚血瘀の半身不遂:補陽還五湯の加減
気虚血瘀:血虚により筋肉がやせる・知覚麻痺・浮腫・筋拘縮で上肢の屈曲と下肢の伸展・半身の刺痛・顔面蒼白・羸痩るいそう・自汗・肌膚甲錯きふこうさく・舌淡白あるいは暗色で瘀点がある・脈弦細あるいは渋結。
補陽還五湯:気虚・血虚・瘀血の脳卒中後遺症(気虚が必須)・心筋梗塞・高次脳機能障害:代用処方は十全大補湯合血府逐瘀湯:益気活血・和営通絡:黄耆40 当帰3 赤芍3 川芎3 桃仁2 紅花3 地竜3(コタロー製薬の製品)。
8.肝腎両虚の半身不遂:地黄飲子加減
肝腎両虚:高齢者に多い・面色蒼白・腰膝酸軟無力・歯の動揺脱落・耳鳴・健忘・めまい・目花・発語障害・認知症・知能低下・舌淡白・脈沈細で弱。
地黄飲子:宣明論:滋腎陰・補腎陽・開竅化痰:熟地黄・巴戟天はげきてん・山茱萸・石斛せっこく・肉ジュ蓉・炮附子・肉桂・茯苓・麦門冬・菖蒲・遠志おんじ 各2g。
遠志:安神・袪痰・消癰:ヒメハギ科イトヒメハギの根。