高血圧病

2024/7/2、8/6改訂

高血圧病

高血圧病は、また原発性高血圧と称し、動脈血の血圧が上昇し、しかも最低血圧が持続的に高血圧を維持するという特徴のある全身性、慢性血管疾患である。

高血圧病は、頭痛と頭暈と乏力(だるい)などが比較的見られる常見症状である。

高血圧病の主要症状は、病気の過程で変化する臨床実態と中医中薬の治療を観察し総合的な分析を加えると、大部分の症状は「眩暈」や「肝陽」の医学の範囲に属する。

病気の原因と病理

高血圧病の発病は、人体の陰陽の消長のバランスが失調して肝腎の二経に及ぼす影響が高血圧病の主原因となり、心経は副次的に関係し、長期間の陰陽失調の状態下で、肝陽上亢、肝腎陰虚が形成され上盛下虚の病理現象となって高血圧病となる。

早期には多くは肝陽上亢となり、以後は陽亢により漸次、肝腎陰虚(陰虚陽亢:杞菊地黄丸)に進展し、最後には陰損は陽損に及び、陰陽両虚(八味丸)を呈する。

杞菊地黄丸:肝腎陰虚:滋補肝腎・清肝火・明目:高血圧症・自律神経失調症:月経異常・頭痛・めまい・目糊ぼやける・目花かすむ・視力減退・不妊。

八味丸:温補腎陽・補陰陽:腎の陰陽両虚に使う。

1.精神的な原因で、たとえば長期間の精神的緊張や怒りや思慮過度が続いて、遂に肝陽化風や心火上擾、風火が相い戦い、腎陰を消耗して肝腎陰虚となり水(腎)が木(肝)を灌しない症状となる。ストレスが高血圧の原因となる。

2.飲食失節:食生活で、いつも甘味や肥る脂っこいものを過食し、あるいは、常に強い酒を多く飲み、湿濁が体内に発生して痰を生じ、痰が化熱して長期となれば陰を傷り、痰濁が経絡を阻んで、肝風が内生し高血圧病が生ずる。痰飲が肝風を生じて高血圧を招く。

3.正気虚損:過度の労働で正気が虚衰し、あるいは老年となり腎が虧損され、肝陽や肝風が上逆して高血圧病が生ずる。慢性疲労で肝陽上亢となり高血圧が生ずる、あるいは慢性疲労で腎虚となり高血圧が生ずる。

4,衝任失調:多くは更年期に発生し、長期間の衝任不調を経て、腎陰を消耗し、腎陽が虚弱となり、それによって相火は上亢し、肝腎が病む時に、衝任は更に不調となる。長期の衝任失調により腎陰陽両虚となり高血圧が生ずる。

肝気鬱結が、衝脈・任脈の二脈に影響が及ぶと、月経痛・無月経(経閉)・月経期の乳房の脹痛・乳房の腫塊(乳癌)・月経不順などが生ずる。

任脈にんみゃく:「陰脈の海」で、足の三陰経は小腹で任脈と交わり、左右の陰脈を連系し調節するので「一身の陰脈を総任す」と称され、月経・胎児を調節し養うので「任脈は胞胎ホウタイを主る」という。

任脈:月経不順・無月経、白帯下、流産、不妊、疝気せんき、遺尿いにょう、下腹部の腫瘤に関係する。

督脈とくみゃく:「陽脈の海」である。六条の陽経は大椎で督脈と交会するので督脈は陽脈に対し調節作用をもち「一身の陽経を総督す」と称される。

督脈は、脳・脊髄の生理を反映し、脳と脊髄と内生殖器とを連系させているので、後弓反張、背部の強直と背部痛、精神異常、小児のひきつけ(驚厥)、不妊、瘧疾と関係している。

衝脈:「経脈の海」である。十二経の気血を調節し、主な生理は月経調節であるので、「衝は血海たり」と称される。

衝脈の症状:不正性器出血、流産、無月経、月経不順、乳汁分泌不全、小腹痛、女性の生殖器系の病変、吐血、奔豚気(気逆上衝)。

任脈・督脈・衝脈はすべて胞中より起こるので「一源にして三岐さんき」と呼ばれる。三脈は生殖機能の調節をしているので「調理衝任」が月経病の治療の一つで、温養任督が生殖機能低下の主要な治療法となる。

鑑別と治療法

高血圧病の標は、風、火、痰、湿であり、肝腎の虚が本である。

臨床実践の観察では、

高血圧病は、虚証が多く、実証は少ない。

高血圧病は、陰虚が多く、陽虚は少ない。

治療過程の分析では、陽亢は標で、陰虚が本である。そのため病の過程では、陽亢と陰虚が同時に互いに出現し、陽亢になったり、陰虚に偏ったりして、その間に風を挟み、痰や瘀血を挟んで兼証をともなう。

婦女の高血圧病は、多くは衝任失調と関係があり、治療上はおのおのは偏重され、錯雑した病なので多方面を考慮する必要がある。

(1)陰虚陽亢の類

1,陰虚偏重の場合

主症状は、頭暈、目糊、心煩、耳鳴、不眠、脈弦細、舌紅絳。

治療方法は、育陰潜陽で、珍珠母丸加減・天王補心丹(心腎陰虚)・杞菊地黄丸(肝腎陰虚)・知柏地黄丸(滋補肝腎・清熱瀉火:陰虚火旺)

珍珠母ちんじゅぼ5~10g(先煮) 当帰3~4g 生地黄3~4g 牡蛎5~10g(先煮) 柏子仁3~4g 酸棗仁3~4g 枸杞子3~4g

真珠しんじゅ・珍珠ちんじゅ:痙攣発作・熱性痙攣に用いる。

真珠・真珠末・珍珠・真珠層粉・珍珠層粉:ウグイスガイ科ままぐり類やアコヤ貝の病理産物の核の真珠。真珠層粉(貝殻の内側の薄層の真珠質):甘鹹寒:肝心経:安神定驚・清熱解毒・収斂生肌:精神安定・鎮痙。

安神薬の柏子仁はくしにん(ヒノキ科コノテガシワの成熟種子を乾燥:寧心安神・潤腸通便・止汗:柏子養心丸)

酸棗仁さんそうにん:クロウメモドキ科サネブトナツメの成熟種子の乾燥:養肝・寧心・安神・斂汗:帰脾湯・酸棗仁湯。

肝を養う「養血の薬物」:当帰・白芍・地黄・首烏シュウ・枸杞子・女貞子ジョテイシ・旱蓮草カンレンソウ・桑椹子ソウジンシなどの薬物。

杞菊地黄丸の枸杞子:クコの実:滋補肝腎・生精血・明目:滋補肝腎・清肝火(肝鬱化火を冷ます)・明目。

補血薬で滋腎陰薬の何首烏かしゅう・首烏:タデ科ツルドクダミの塊状根:苦甘渋温:肝腎経:滋陰・強壮・益精補血・緩下・養血熄風:夜交藤(タデ科何首烏ツルドクダミの蔓茎:安神・養血活絡)

加減法

1,もし舌紅絳コウコウで、口が乾き、心煩などの陰虚症状が明らかなら

玄参5g、天門冬3g、麦門冬3g、石斛4g、白芍4gなどの1~2味を加えて滋陰生津する:知柏地黄丸。

陰虚が明らかなら玄参3.5g 石斛3g 鼈甲4g(先煎) 白芍4g 当帰3g。

玄参げんじん:苦鹹寒:心肝肺経:ゴマノハグサの玄参の根:涼血解毒・降火滋陰:涼血・滋陰しまた解毒作用を示す要薬。皮膚・頭頸部に働く。冷やし潤す:滋腎陰薬:肺胃腎経:滋陰清熱・瀉火解毒(腎陰虚の薬)。

天門冬てんもんどう:ユリ科クサスギカズラの塊状根:甘・苦・大寒:

滋陰潤燥・清熱化痰・肺陰虚の虚熱の咳嗽:清熱滋陰潤燥化痰。

石斛せっこく:ラン科石斛の茎:甘微寒:肺胃腎経:生津益胃・滋陰潤肺・補陰:胃陰を滋養する:養陰生津薬。

2.陽亢の症状に偏重している者には、石決明10g、磁石10g、竜骨10g、牡蛎10gなどを1~2味を加える。

石決明せきけつめい:平肝潜陽・清熱明目:アワビ科の貝殻を乾燥したもの:炭酸カルシウム等:肝陽上亢・骨蒸潮熱に適用

重鎮安神剤の磁石じせき;天然磁鉄鉱・霊磁石・活磁石:

重鎮安神・納気平喘・益腎潜陽:耳鳴丸。

龍骨・牡蠣には、肝陽の上亢をおさえ、肝風をしずめる作用がある:柴胡加竜骨牡蠣湯・桂枝加龍骨牡蠣湯など。

3.夏枯草の苦寒は肝に入るので、高血圧病に対しては、陰虚や陽亢に偏していても、均しく4~5g加えて効果を得ることができる。夏枯草は肝熱を清し降圧の作用があり、頭痛目眩に治療効果がある。

夏枯草かごそう:シソ科ウツボグサの花序と果穂:苦辛寒:肝胆経:

清肝熱・散結:利尿・降圧:頭痛目眩・瘰癧るいれきに効果・抗腫瘍。

2,陽亢偏重の場合

主要症状は、頭痛し頭が脹って、顔が赤く、眼も赤い、口乾易怒コウカンイド、便秘し、脈弦、苔薄白、あるいは薄紅色あるいは舌苔黄燥。

治法は、平肝瀉火で、千金竜胆湯加減・加味逍遙散・竜胆瀉肝湯・大柴胡湯

竜胆草2~3g 鈎藤3~5g(後下) 黄芩2~3g 夏枯草3^4g 藁本3~3.5g 川芎1~2g 磁石3.5~10g(先煮) 牡蛎3.5~10g(先煮)

藁本こうほん・川藁本:セリ科藁本の根茎:辛温:膀胱経:袪風散寒止痛・鎮痛:風寒・風湿の外感頭痛に。

羗活芎藁湯きょうかつきゅうこうとう:はげしい感冒頭痛に:羗活きょうかつ・川芎・藁本・白芷びゃくし・防風各3g。

牡蠣ぼれい:牡蠣カキの貝殻:鉱物など重い生薬は重鎮安神作用がある:鹹寒:重鎮安神・平肝潜陽・収斂固渋・軟堅散結(軟堅消痞)・制酸止痛。

加味逍遙散:肝鬱化火・脾虚湿性・血虚:柴胡3 芍薬3 薄荷1 当帰3 牡丹皮2 山梔子2 茯苓3 白朮3 乾姜1 甘草2(人参・大棗が無いのは化火を増悪させるため)。

竜胆瀉肝湯:疏肝解鬱・瀉火・利湿・補血:竜胆草 柴胡 黄芩 山梔子 木通 車前子 沢瀉 当帰 地黄 甘草。

大柴胡湯:肝火上炎・肝気鬱結・胃実熱のため心下痞硬。

加減法

1,もし肝陽偏亢の者には、白蒺蔾3~4g 決明子4~5g 菊花2~3g 苦丁茶(瓜蔕)3g。

蒺蔾子しつりし・白蒺蔾・刺蒺蔾:ハマビシ科ハマビシの果実:辛苦微温:肝経:疏肝熄風・行瘀袪滞・解鬱・明目・止痒:降圧・鎮静・眼科の常用薬

瓜蔕かてい・甜瓜蔕・香瓜蔕・苦丁茶:ウリ科甜瓜てんかの瓜蔕を陰干ししたもの:苦寒・小毒:湧吐痰涎宿食ゆうとたんせんしゅくしょく:瓜蔕散:毒物の誤飲・多量の痰がつまり熱象を呈するてんかんや脳卒中にたまに使用するだけである。

決明子けつめいし・草決明:マメ科エビスグサの成熟種子:甘鹹微寒:肝胆経:清肝明目・袪風熱・通便・降圧:下利・低血圧には禁忌。

釣藤散の 菊花きくか:疏散風熱・清熱明目(杞菊地黄丸:肝腎陰虚)・清熱解毒(刺身のツマ)・平肝陽:釣藤鈎+菊花で肝鬱に適応。

肝気上逆の釣藤散:平肝潜陽・明目・補気健脾・化痰(痰飲):脾胃気虚・痰湿の肝陽化風に:釣藤鈎 菊花 防風 石膏 麦門冬 半夏 陳皮 人参 茯苓 生姜 甘草:釣藤鈎+菊花で肝鬱に適応。

2.便秘甚だしい者には生川軍(大黄)3g、玄明粉3g(芒硝)(衝服)を加えて瀉火通腑とする。

衝服しょうふく(沖服ちゅうふく):少量の散剤をもつ薬湯を服用するとき、散剤を湯に入れて攪拌して服用すること。琥珀・朱砂の粉末は浮きやすく沈みやすいので衝服するときは蜜で調えてから服用する。

大黄は薬効が激しいため「将軍」という別名があり、四川省産を「川軍(せんぐん)」、生の ものを「生軍しょうぐん・生川軍きせんぐん・しょうせんぐん」、酒で加熱したものを「酒軍(しゅぐん)」という。、四川省産の他の生薬もしばしば「川」が頭につく。

3.尿黄の者には、焦山梔子3g、黄柏3gを用いて火を下行に導く:茵蔯蒿湯、結膜出血者には黄連上清丸1gを一日2回呑服する。

黄連上清丸:風火上攻、三焦実熱:黄連、梔子、連翹、防風、菊花、薄荷、大黄(酒炒)、黄柏(酒炒)、桔梗、石膏、旋覆花、甘草:目眩、咽喉赤腫、口内炎、耳痛耳なり、歯齦腫痛。

旋覆花せんぷくか:上逆した肝気を正常にめぐらす:キク科旋覆花の頭状花序を包煎(全草は金沸草きんふつそう):苦辛微温:肺脾胃大腸経:止嘔逆・軟堅痰:制吐・袪痰作用:痰飲を消し、上逆した気を下降させ、邪気の結集を分散せしめる。

黄連上清丸:高血圧の目眩、耳鳴り:急性の諸症:口内炎、扁桃炎、結膜炎、中耳炎、胃腸炎、細菌性赤痢(初期)、及び目眩(内耳迷路炎、前庭性神経元炎、血管性神経頭痛)。

黄連上清丸:目眩、咽喉赤腫、口内炎、耳痛耳なり、歯齦腫痛・歯痛(歯根炎、歯髄炎、歯周炎、口腔潰瘍)。

茵蔯蒿湯:肝胆湿熱:黄疸・肝炎・急性膵炎・胆石・胆嚢炎:山梔子3 茵蔯蒿4 大黄1:小便不利・無汗・口渇・多飲・心煩懊憹・軽い腹満・黄疸。

4,顔面抽搐の者には、天麻3gは厥陰の風を治す、竜歯10g(先煎)を加えて平肝熄風する。頭痛の者には更に効果がある。

竜歯:古代脊椎動物の歯牙の化石。性質は渋・涼で効能は竜骨とほぼ同じ。鎮静安神作用は竜骨より強い。不眠・煩躁・全身痙攣・筋肉の痙縮には竜歯を用いる。下痢や遺精には竜骨が良い。

(2)陰陽両虚

1,陰陽両虚で陰虚偏重の場合

主要症状は、頭暈、耳鳴り、気息、少寝(不眠)、足に力が入らず冷えている、脈弦細、沈細、舌紅絳で剥苔。

治法は、養陰益腎で、河間地黄飲子加減

天門冬3~3.5g 麦門冬3~3.5g 生地黄3~4g 石斛3~3.5g 桑寄生3~4g 竜骨7~10g(先煎) 巴戟天2~3.5g 牡蛎7~10g(先煎)

天門冬てんもんどう:ユリ科クサスギカズラの塊状根:甘・苦・大寒:滋陰潤燥・清熱化痰・肺陰虚の虚熱の咳嗽:清熱滋陰潤燥化痰。

麦門冬・麦冬:ユリ科ジャノヒゲの塊状根:甘微苦微寒:潤燥生津・化痰止咳:性質が滋潤で、肺を滋補するが痰を生じ易いので解表には不利。

石斛せっこく:ラン科石斛の茎:甘微寒:肺胃腎経:

生津益胃・滋陰潤肺・補陰:胃陰を滋養する:養陰生津薬。

桑寄生そうきせい:ヤドリギ:補肝腎・袪風湿・強筋骨・安胎(滑胎に寿胎丸):梅の木に寄生するヤドリギの梅寄生バイキセイもある。

腎精不足の治療薬の巴戟天はげきてん:アカネ科巴戟天の根:辛甘微温:腎経:温腎補陽・強筋骨・袪寒湿:淫羊藿と同じ:腰や膝の寒湿による障害に適す:腎陽虚による失禁・頻尿に用いる。

加減法

1,若し陰虚甚だしい者には、当帰3.5g 白芍4g 玄参4g 夜交藤10g 炒酸棗仁3g、寧神安神には柏子仁3.5gを加える。

養心安神薬の夜交藤やこうとう:何首烏のツルドクダミの蔓茎:安神・養血活絡。

安神薬の柏子仁はくしにん(ヒノキ科コノテガシワの成熟種子を乾燥:寧心安神・潤腸通便・止汗:柏子養心丸)。

2,もし陽虚に偏する者には、仙茅センボウ3g、鹿角3g、補骨脂3.5gなどを加える。

仙茅:ヒガンバナ科仙茅(キンバイザサ)の根茎:辛熱有毒:腎経:温補腎陽・強筋骨:補益薬として長期服用しないこと。陰虚火旺・熱証・鼻出血には使用すべきではない。

鹿角ろっかく:雄ジカの骨質の角:鹹温:温腎補陽・活血袪瘀。

補骨脂ほこつし:マメ科オランダヒユの果実:辛苦大温:脾・腎経:補腎温脾・固精縮尿:五更瀉ごこうしゃに用いる。

縮泉丸加味:固精縮尿・腎気不固:烏薬 益智仁 山薬 菟糸子 桑螵蛸::精液が漏れ易く、顔色白く、精神疲労、頭眩、腰がだるい、脈沈弱。

2,腎虚の者には、肉ジュ蓉3g、仙霊脾3g(イカリソウ)、菟糸子3g、黄精4gなどで助陽滋陰する。

腎精不足の薬の肉ジュ蓉にくじゅよう:ハマウツボ科ホンオニクの肉質茎:甘鹹温:腎大腸経:滋腎益精・補陽潤腸:強壮・通便:肉ジュ蓉は補陽でも燥でなく滋してしつこくないので従容という。

補腎益精の生薬:続断・桑寄生・菟糸子・鎖陽・巴戟天・肉ジュ蓉・杜仲・鹿茸・紫河車

2,陰陽両虚で陽虚偏重

主要症状は、動悸、気短、寒がり、四肢冷、腰が重だるく多尿、脈細弱、沈脈、結代(不整脈)、苔薄白、薄紅、舌淡胖(舌の色が白っぽく膨れている)

気短:呼吸が浅く速い状態・息切れ。

気息:いき、呼吸すること:または気息奄奄の略。

気息奄奄きそくえんえん:息が絶え絶えで、今にも死んでしまいそうなさま。

治法は、壮陽滋陰で、右帰丸加減を用いる・八味丸

麦門冬3.5g 生地黄3.5g 熟地黄3.5g 附子3g(先煎)、肉桂1.5g(後下) 菟糸子3g 杜仲トチュウ3g 仙霊脾センレイヒ3g。

菟糸子としし:ヒルガオ科ハマネナシカズラの成熟種子:辛甘平:肝腎経:補腎益精・明目・止瀉・安胎(滑胎に寿胎丸)

杜仲:トチュウ科杜仲の幹皮:甘微辛温:補肝腎・強筋骨・安胎。

仙霊脾センレイヒ:淫羊藿イニョウカク・羊藿・碇草イカリソウ:辛温:肝・腎経:補腎壮陽・袪風湿:腎陽虚のEDや婦人の月経不順や不妊症の陰陽両虚に八珍湯と用いる。

加減法

1,もし陰虚が明らかなら玄参3.5g 石斛3g 鼈甲4g(先煎) 白芍4g 当帰3gなどの1~2味を加える。

2,もし陽虚に偏する者には、仙茅3g、鹿角3g、補骨脂2.5gを加える。

補骨脂ほこつし:マメ科オランダヒユの果実:辛苦大温:脾・腎経:

補腎温脾・固精縮尿:五更瀉ごこうしゃに用いる。

3,夜間尿が頻繁の者のには、縮泉丸3.5g(包煎)、あるいは金桜子4g、芡実けんじつ4gを加えて、収斂し下半身を固める。

金桜子きんおうし:バラ科金桜子ナニワイバラの成熟果実:酸渋平:腎大腸経:渋精止瀉・縮尿・収斂・強壮・抗菌:補虚・固渋に用いる。腎陽虚の遺精・頻尿・夜尿、脾虚の水様便・泥状便・白色帯下に用いる。

縮泉丸加味:烏薬 益智仁 山薬 菟糸子 桑螵蛸:腎気不固:精液が漏れ易く、顔色白く、精神疲労、頭眩、腰がだるい、脈沈弱。

烏薬うやく:クスノキ科テンダイウヤクの根:辛温:行気止痛・散寒温腎。

益智仁やくちにん:ショウガ科益智の果実:辛温:脾腎経:補脾温腎・縮尿:脾腎陽虚に。

芡実けんじつ:スイレン科芡の成熟種子の仁:甘渋平:脾・腎経:

健脾止瀉・補腎固精・袪湿止瀉:金鎖固精丸。

菟糸子としし:ヒルガオ科ハマネナシカズラの成熟種子:辛甘平:肝腎経:補腎益精・明目・止瀉・安胎(滑胎に寿胎丸)。

(3)衝任失調

主要症状は、頭痛、腰酸(腰がだるい)、面紅昇火、出汗易怒、少寝。老年では脈多くは弦動、若い者は脈は多くは細弦、舌苔薄紅、薄白。

治法は、温陽苦泄で二仙湯を用いる:知柏地黄丸加附子・知柏地黄丸合十全大補湯・知柏地黄丸合八味丸。

当帰3~3.5g 知母3~3.5g 黄柏3~3.5g 仙茅3~3.5g 仙霊脾3~3.5g 巴戟天3~3.5g

仙茅せんぼう:ヒガンバナ科仙茅(キンバイザサ)の根茎:辛熱有毒:腎経:温補腎陽・強筋骨:補益薬として長期服用しないこと。陰虚火旺・熱証・鼻出血には使用すべきではない。

仙霊脾センレイヒ・淫羊藿インヨウカク・羊藿・碇草イカリソウ:辛温:肝・腎経:補腎壮陽・袪風湿:腎陽虚のEDや婦人の月経不順や不妊症の陰陽両虚に八珍湯と用いる。

腎精不足の治療薬の巴戟天はげきてん:アカネ科巴戟天の根:辛甘微温:腎経:温腎補陽・強筋骨・袪寒湿:淫羊藿と同じ:腰や膝の寒湿による障害に適す:腎陽虚による失禁・頻尿に用いる。

八珍湯:気血両虚に:当帰・白芍・川芎・熟地黄・人参・白朮・茯苓・甘草(四物湯+四君子湯)

加減法

1,頭暈目眩には、夏枯草かごそう4~5g、潼蒺蔾、白蒺蔾各3gを加える。

潼蒺蔾トウシツリ:マメ科の扁茎黄芪の成熟種子:甘温:肝・腎経:補腎固精・養肝明目:菟糸子とほぼ同じ:遺精・早漏・神経衰弱・肝腎不足による視力障害:白内障初期に補腎明目散(湯)。 

滋腎明目湯:当帰3 芍薬3 川芎3 熟地黄3 生地黄3 桔梗1.2 人参1.2 山梔子1.2 黄連1.2 白芷1.2 蔓荊子1.2 菊花1.2 甘草1.2 細茶1.2 灯心草1.2:

蒺蔾子しつりし・白蒺蔾・刺蒺蔾:ハマビシ科ハマビシの果実:辛苦微温:肝経:疏肝熄風・行瘀袪滞・解鬱・明目・止痒:降圧・鎮静・眼科の常用薬。

2,微熱の続く者には、銀柴胡3g、青蒿3g、白薇3gを加える。

銀柴胡・銀胡:ナデシコ科銀柴胡の根:甘微寒:腎胃経:涼血・退虚熱:「虚熱の良薬」:血熱を冷ますが発散しない。

青蒿せいこう:キク科カワラニンジンの全草:苦寒:清熱解暑・退虚熱:発散作用。

白薇びゃくび:ガガイモ科フナバラソウの根や全草:苦鹹寒:肝胃経:清熱涼血:解熱・利尿作用:婦人科によく用いる・産後の衰弱で発熱・発汗過多・頭のふらつき:虚熱を冷ます作用と発散作用。

3.寝付きが悪く多夢の者には、柏子仁3g、竜骨10g、牡蛎10g、を加え、諸症が消え血圧が安定したら、原方に戻して服用可。

(4)兼挟症の治療

1,挟風、四肢麻痺、肉瞤、語渋、眼の抽搐には、双鈎藤3~7g(後下)、天麻2~3g、全蠍粉0.5~1g(分呑)、地竜3g、、白僵蚕3g、鼈甲4g(先煎)、亀板4g(先煎)。

全蝎・全蠍ぜんかつ・全虫・蝎尾かつび:キョクトウサソリ科のキョクトウサソリの全身:辛平小毒:肝経:熄風鎮痙・袪風止痛・解毒散結:破傷風・熱性痙攣・半身不随・顔面神経麻痺。

地竜じりゅう:ルムブリクス科 蚯蚓きゅういん:ミミズ:鹹寒:胃・脾・肝・腎経:清熱・解熱・鎮驚(夜泣き)・定喘・活絡・気管支拡張作用:今も使うが、昔はよく熱冷ましに使った。

白僵蚕・僵蚕:白僵菌ムスカルジンに自然感染して死んだ蚕カイコ:袪風熱・熄風鎮痙・化痰散結:解熱・抗痙攣・袪痰:眩暈がつよい場合には熄風化痰の白僵蚕・胆南星を加える。

鼈甲べっこう:スッポン科シナスッポンの背部甲羅:滋陰・清熱・破血・軟堅・散結:強壮・滋養・鎮静・造血作用。

亀板きばん:ツチガメ科クサガメの腹部甲羅・背部甲羅:滋陰潜陽・強筋骨・涼血補血・止血。

2,挟痰して胸悶し多痰で、肢体麻木に

(1)熱痰には、天竺黄3g、栝楼3~5g、川貝母2~3g、竹瀝7g(衝服)、竹筎3g、橘紅2g。

天竺黄てんじくおう・竹黄精・竹黄:イネ科大節竹の節穴に分泌される液を凝結させて結晶塊としたもの:甘微寒:心肝経:清化熱痰・涼心定驚・袪痰。

栝楼・栝楼仁:楼仁:楼実:ウリ科シナカラスウリ・キカラスウリの成熟種子:苦寒:肺胃大腸経:清熱化痰・潤肺化痰・利気通便・理気寛中:栝楼薤白半夏湯は気滞血瘀で生じた胸痞に適応。

肺熱を冷やし潤す川貝母:苦寒:潤燥:ユリ科川貝母アミガサユリの鱗茎:潤燥化痰:慢性の咳嗽:肺陰虚:咽乾・煩熱・痰少・血痰・胸部や上腹部が脹って苦しい・食欲不振:薬性がおだやかなので慢性の咳嗽に使う。

竹瀝ちくれき:イネ科ハチクの新鮮なものを火であぶると流出する液体を碗にとって用いる:甘大寒:心肺胃経:清化熱痰:入手困難では天竺黄や竹筎を代用とする。

竹筎ちくじょ:イネ科ハチクの第二層皮:甘微寒:肺胃経:清熱化痰・止嘔:竹筎は胃熱を冷まし清熱化痰し、淡竹葉は心火をさまして煩熱を除き小児夜啼やてい などを治す。

(2)湿痰には、半夏3g、天南星3g、遠志2g、白附子3g、石菖蒲3g、陳皮2~3g。

天南星てんなんしょう:胆南星たんなんしょう:サトイモ科天南星の根茎:微辛・辛苦・温:熄風解痙・燥湿化痰。

遠志:安神・袪痰・消癰:ヒメハギ科イトヒメハギの根。

白附子・禹白附・関白附:サトイモ科禹白附の塊茎、キンポウゲ科の独角蓮・関白附・花烏頭キバナトリカブトの塊根:辛甘温:胃経:袪風痰・燥寒湿:脳卒中の顔面神経麻痺に牽正散:上焦の寒湿を除く・風痰頭痛に適応。

安神薬の石菖蒲・菖蒲:サトイモ科ショウブの根茎1.5g以上使わないこと:辛・温:芳香開竅・逐痰袪濁:痰濁蒙閉心竅:菖蒲鬱金湯。

3、瘀血を示す者の胸悶痞痛には、紫丹参3~7~7g、川芎3g、桃仁3g、紅花g、五霊脂3g(包煎)、乳香3g、没薬3gを加える。

養心安神薬の丹参:シソ科タンジンの根:活血袪瘀・涼血・養血安神。

五霊脂:オオコウモリ科オオコウモリの糞便乾燥物:鹹温:肝経:袪瘀止痛、生では活血、炒用では止血:婦人科で多用。

乳香にゅうこう:カンラン科の乳香樹の樹皮より滲出した樹脂:辛平温:心・肝・脾経:活血・止血・舒筋:鎮痛・消炎:乳香と没薬はよく一緒に用いられる。

没薬もつやく:カンラン科没薬樹から産出する樹脂:肝経:活血袪瘀止痛。乳香と没薬はよく一緒に痛み止めに用いられる。

4,動悸と持続するひどい動悸(怔忡)には、柏子仁3g。酸棗仁湯3g、磁石10g(先煎)、竜骨10g(先煎)、牡蛎10g(先煎)を加える。