下肢の腫脹と疼痛
本症は、膝関節より下の、下肢全体の腫脹と疼痛を指す。
1,寒湿の下肢腫脹と疼痛:除湿散寒:烏頭湯・除風湿羗活湯・平胃散・桂枝加朮附湯合平胃散・五積散・苓姜朮甘湯・疎経活血湯・大防風湯・桂枝芍薬知母湯・苓桂朮甘湯・真武湯・
2,湿熱の下肢腫脹と疼痛:清熱袪湿:拈痛湯・三妙丸・二妙散
3,瘀血の下肢腫脹と疼痛:活血化瘀:身痛逐瘀湯・桂枝茯苓丸加薏苡仁合半夏厚朴湯・血府逐瘀湯加減合半夏厚朴湯・
4,労倦の下肢腫脹と疼痛:牛車腎気丸・炙甘草湯合真武湯・参苓白朮散合真武湯
1,寒湿と 2,湿熱の下肢腫脹と疼痛
両側か一側性で、冷えで増悪し、皮膚の色の変化はない。関節の運動障害・身重・悪風して服を脱ぎたがらない・脈弦緊または脈弦遅、苔白滑。
外邪が原因で、湿邪が皮膚筋肉に侵入して発症する。
湿気の多いところに住んだり(住まいは以前は田んぼ、川のそばなど)
雨露にさらされたり
水に長くつかったり。
体質が陽虚では湿邪は寒湿となる。
体質が陰虚では湿邪は湿熱となる。
何れも湿邪が経絡を阻滞したたいめに疼痛を来す。
1,寒湿の下肢腫脹と疼痛の処方:烏頭湯・除風湿羗活湯
風湿の烏頭湯うずとう(金匱要略):寒湿・寒痹:温経散寒・逐痹止痛:烏頭は毒性が強いので附子を使う:附子 麻黄 白芍 黄耆 甘草:寒湿凝滞の四肢の浮腫・腫脹・散寒除湿:烏頭に麻黄を配合すると、骨に入り込んだ風寒を除くことができるので、烏頭+麻黄が烏頭湯の主薬となっている:温めることで湿を除いている。
烏頭うず:烏頭は袪風・止痛で鎮痛作用は附子より強い。附子は強心・袪寒・救急作用が強い。烏頭は風寒による痺痛によく用いる。附子は補益剤に配合するが、烏頭は補益剤に配合できない。
寒湿の烏頭湯に加える輔薬として、黄耆は益気・固表、芍薬が養血、甘草と蜂蜜が痛みを緩め、解毒する。草烏頭ソウウズの力の方が川烏頭センウズより峻烈である。
寒湿に除風湿羗活湯:張氏医通・除湿散寒:羗活 防風 柴胡 藁本コウホン 蒼朮 升麻 生姜。
風寒の藁本・川藁本:セリ科藁本の根茎:辛温:膀胱経:袪風散寒止痛・鎮痛:風寒・風湿の外感頭痛に。
羗活芎藁湯きょうかつきゅうこうとう:はげしい感冒頭痛に:羗活・川芎・藁本・白芷・防風 各3g:
風寒の頭痛に川芎茶調散:散寒燥湿・解表・袪風湿・止頭痛:寒湿の頭痛薬::川芎3 荊芥3 薄荷3 羗活2 白芷2 炙甘草1 防風2 細辛1、の粉末を緑茶で服用。川芎茶調散の代用処方は、苓桂朮甘湯。
川芎は頭部への引経薬であるので、頭痛に使うが、川芎の配合されている当帰芍薬散(当帰3 白芍4 白朮4 茯苓4 沢瀉4 川芎3g)は、のぼせている人には使わない。
風湿に白芷:辛温:袪風解表・止痛・消腫排膿・燥湿止帯おりもの、激しい燥性:発汗解表薬:その気 芳香にしてよく九竅を通ず:発散作用が強い。
風湿に蒼朮そうじゅつ:キク科ホソバオケラの根茎:苦辛温:燥湿健脾・袪風湿・風湿の筋肉や関節疾患の鎮痛薬。(白朮はオオバナオケラの根茎)
寒湿に平胃散:理気化湿・和胃:蒼朮4 厚朴3 陳皮3 大棗2 生姜1 甘草1:蒼朮が主薬の平胃散は、理気し湿気を去る鎮痛剤でもある。
口渇・小便不利で浮腫がある糖尿病は胃苓湯(平胃散+五苓散)を使う。
(股陰痛の病機)寒湿の邪を感受するか慢性病で陽気が衰微して寒湿が生じ、寒湿が経絡を凝滞するために発生する:温経利湿・活絡:胃苓湯・除湿湯に桂枝・附子・地竜を加える。
寒湿に桂枝加朮附湯合平胃散:湿邪による神経痛に桂枝加朮附湯はあまり効かないが平胃散を加えるとだるさ痛みが取れる。
風寒湿に五積散は「風寒湿」に使う:1.腰冷痛、2.腰腹攣急、3.上熱下冷、4.小腹痛の四症が目標となる:寒いと小便頻数となる人・のぼせる人の神経痛・腰痛・手の痛みに効果がある。
麻黄附子細辛湯:温経散寒法で表裏双解:麻黄4 附子1 細辛1:肩や肘の関節痛に使う:風寒+陽虚の状態に適応。冷えて活動エネルギーがない状態で手足の冷えと倦怠感があるカゼの初期に使います。
寒湿に苓姜朮甘湯・甘姜苓朮湯・甘草乾姜茯苓白朮湯・腎著湯じんちゃくとう:袪湿散寒・止痛:下焦の寒湿に適応:茯苓6 乾姜3 白朮3 甘草2:寒湿の腰痛・クーラーの冷え症(五積散も適用)。
腰痛とともに下肢の冷えがある時は、疎経活血湯合苓姜朮甘湯とする。
寒湿に疎経活血湯:袪風湿・補血・活血化瘀:四物湯 + 蒼朮 茯苓 桃仁 牛膝 防已 威霊仙 羗活 防風 白芷 竜胆草 陳皮 生姜 甘草。
寒湿に羗活きょうかつ:セリ科羗活の根や根茎:辛苦温:散寒燥湿・解表(カゼ薬)・袪風湿・止痛;羗活は風邪薬・神経痛薬によく配合される:荊防敗毒散・川芎茶調散・疎経活血湯・大防風湯。
寒湿に大防風湯:袪風湿・散寒・補気血・益肝腎・活血止痛:気血両虚・肝腎不足の風寒湿痺:四物湯 人参 白朮 甘草 黄耆 生姜 大棗 杜仲 牛膝 防風 羗活 附子。
寒湿に桂枝芍薬知母湯:金匱要略:散寒袪湿・止痙刺痛・清熱:寒湿痺の熱痛:桂枝3 白芍3 防風3 白朮4 知母3 附子1(先煮) 麻黄3 炙甘草2 生姜3:関節に発赤・熱感・疼痛のみられるものに適応。
寒湿に苓桂朮甘湯:温化寒飲・通陽化痰・健脾利水:茯苓6 桂枝4 白朮3 甘草2:心陽虚に用い:眩暈・頭痛(包裹痛)・頭重感・緊張でのぼせ・肩こり(桂枝は気逆を降逆する)・足冷:もともと心臓の薬で痰気鬱血薬。
耳鳴りにも、苓桂朮甘湯の適応がある。
寒湿に真武湯:回陽救逆・温陽利水:附子1 茯苓5 白朮3 白芍3 生姜3:腎陽虚・寒湿に適応:下半身の冷えが目標・寒湿の痔にも使う・白芍+白朮は腹痛して下痢につかう。
痛瀉要方:景岳全書:防風3 白朮3 白芍4 陳皮2:腹鳴・腹痛して下痢・五更瀉:白朮+白芍の組合せは、お腹の痛みを止める薬であるので、過敏性大腸炎に使える。
2,湿熱の下肢腫脹と疼痛の処方:拈痛湯・三妙丸:患部に熱感がある。特に足底部の熱感が強い。天候では疼痛不変。脈弦滑数、舌苔は舌苔黄じ(黄色がかった厚ぼったい舌苔)。
湿熱の当帰拈痛湯・拈痛湯:医学発明:清利湿熱・益気活血:前腕や下腿の湿疹や腫脹疼痛・湿熱下注の脛痠:白朮 人参 苦参 升麻 葛根 蒼朮 防風 知母 沢瀉 黄芩 猪苓 当帰 甘草 茵蔯蒿 羗活:製品無し。
湿熱の三妙丸(散):医学正伝:蒼朮 黄柏 牛膝。
湿熱の三妙丸(散):外科真詮げかしんせん:檳榔子 黄柏 蒼朮。
蒼朮:キク科ホソバオケラの根茎:苦辛温:燥湿健脾・袪風湿・風湿の筋肉疾患の鎮痛薬。(白朮:オオバナオケラの根茎)。
平胃散はの蒼朮は、湿邪を去り運化作用を回復する。平胃散の主薬である。厚朴は、蒼朮に協力し、湿邪を取り除く。また、厚朴には理気作用があり、陳皮とともに脾胃の気滞を改善する。
平胃散:理気化湿・和胃:蒼朮4 厚朴3 陳皮3 大棗2 生姜 1 甘草1
厚朴コウボク:モクレン科ホオノキなどの樹皮:苦辛温:下気除満・燥湿化痰:2~5g:上腹部膨満・のどのつまり(半夏厚朴湯)・寒湿による下利・腹痛(平胃散)。
牛膝ごしつ:ヒユ科イノコズチモドキ:平:活血袪瘀止痛・活血通経・舒筋利痹・補益肝腎・強筋骨・薬を下行させる引経薬で膝や下半身の痛みに繁用する。
気滞は、打撲などでは脹ってくる痛みの脹痛が特徴で、ストレスで生ずる肝の症状である:半夏厚朴湯。
リウマチなどの痛みで脹痛には、半夏厚朴湯を併用する。
下肢痛には牛膝4、木瓜2gを加え、
関節腫脹には防已・牛膝を加える。
檳榔子びんろうじ・大腹子だいふくし・尖檳せんびん:シュロ科ビンロウジュの成熟種子:辛苦温:胃・大腸経:殺虫・消積・利気・健胃・行気導滞・利気逐水:刺身の蛔虫の臍腹痛アニサキスに。
桂枝茯苓丸:活血化瘀:消癥瘕チョウカ(腹腔内の塊を去る):桂枝4、茯苓4、桃仁4、赤芍4、牡丹皮4:当帰・甘草が無い:打撲では桂枝茯苓丸合半夏厚朴湯。
半夏厚朴湯:理気化痰:化痰の半夏が主薬:半夏6 厚朴3 茯苓5 生姜4 紫蘇葉2:肝鬱痰飲の薬:竄痛ざんつうの治療薬の理気薬は腫脹痛を治す。
実痹が、湿に偏する着痹の場合は、防已・蒼朮・薏苡仁・蚕砂さんしゃを加える。
3,瘀血の下肢腫脹と疼痛:活血化瘀:身痛逐瘀湯・失笑散・
瘀血の原因は色々で、
外邪が停滞して絡脈瘀滞や、
内傷七情の肝気鬱結で血瘀が生じたり、
捻挫・打撲の外傷で血瘀が生じて、
血瘀が経脈を阻滞させて、下肢腫脹と疼痛を生ずる。
瘀血による下肢腫脹と疼痛の特徴は、刺痛で、夜間増悪、脈渋、舌紫、患側下肢の皮膚の硬化や甲錯。
甲錯は、皮膚の艶がなくなる甚だしいもので、肌膚甲錯は、皮膚が乾し肉のようになり、おろし金のようになる。
瘀血の身痛逐瘀湯:医林改錯:活血化瘀・通絡止痛・袪風湿:桃仁3 当帰2 川芎2 五霊脂2ごれいし 没薬2もつやく 牛膝3 秦艽3じんぎょう 羗活3 香附子3 地竜2じりゅう 甘草1 黄耆(日本に製品は無い)。
瘀血の五霊脂ごれいし:オオコウモリの糞便乾燥物:鹹温:肝経:袪瘀止痛・通経、生では活血、炒用では止血・鎮痛・瘀血による疼痛で婦人科で失笑散として多用・胃を障害しやすい:2~3g:瘀血の失笑散は五霊脂 生蒲黄しょうほおう:妊婦には禁忌。
蒲黄:妊婦には禁忌:ガマの成熟花粉:甘平:肝・心包経:収斂止血・活血袪瘀:子宮収縮作用・血淋の常用薬
瘀血の没薬もつやく:カンラン科没薬樹から産出する樹脂:苦平:肝経:活血袪瘀止痛。乳香と没薬はよく一緒に痛み止めに用いられる:1~4~5g:妊婦や月経過多には禁忌。
袪風薬:秦艽・防風・荊芥・羗活・独活・川芎・桂枝・細辛(風邪フウジャを駆逐する薬)。
風湿の秦艽じんぎょう:リンドウ科秦艽の根:袪風湿・退黄疸・除虚熱:陰虚内熱・骨蒸潮熱:三痺必用の薬:苦辛平:胃・肝・胆経:秦艽鼈甲湯・痔瘻の秦艽防風湯:痔瘻月光等。
秦艽防風湯じんぎょうぼうふうとう:蘭室秘蔵:痔瘻の特効薬:秦艽2 防風2 沢瀉2 陳皮2 柴胡2 当帰3 白朮3 桃仁3 甘草1 黄柏1 大黄1 升麻1 紅花1:製品無し。
瘀血の桂枝茯苓丸加薏苡仁合半夏厚朴湯:活血化瘀:消癥瘕ショウチョウカ:桂枝4、茯苓4、桃仁4、牡丹皮4、赤芍4、薏苡仁+半夏厚朴湯(理気化痰:半夏6 厚朴3 茯苓5 生姜4 紫蘇葉2:肝鬱痰飲の薬:竄痛ざんつう の薬)。
薏苡仁3~10,20~30g・生米仁:甘淡微寒:利水滲湿・清熱・排膿・除痺・健脾止瀉。
瘀血の血府逐瘀湯加減合半夏厚朴湯:行気活血・袪瘀止痛:桃仁 紅花 当帰 赤芍 川芎 柴胡 枳殻 丹参 香附子 延胡索 鬱金+半夏厚朴湯(半夏6 厚朴3 茯苓5 生姜4 紫蘇葉2:肝鬱痰飲の薬:竄痛ざんつう の薬)。
腫れ・腫脹には、半夏厚朴湯を合方・単独使用する。
4,労倦の下肢腫脹と疼痛:長期の起立や歩行により、筋脈が障害され、下肢に鬱滞して生ずる。
労倦の下肢腫脹と疼痛の特徴は、疼痛部に青色の血管拡張があり、顔色が青紫色を呈する。
労倦の下肢腫脹と疼痛の治法は、行気和血・通暢筋脈で、当帰・白芍・生地黄・桂枝・木瓜・黄耆・牛膝・血竭けつけつ等を用い、重症ならさらに虫類の薬物を加える。
血竭けっけつ・キリン血:ヤシ科キリンケツの樹脂:甘鹹平:心包肝経:止血止痛・活血生肌:辛熱で強い燥性があるので陰虚・血熱には禁忌:内服は0.3~0.5g、丸剤・散剤とし、湯剤には用いない。
下肢痛に加える:牛膝4、木瓜2。
木瓜もっか:ボケの成熟果実・カリンも用いる:酸温:舒筋活絡・和胃化湿:湿邪による筋疾患に適応。
労倦の瘀血の牛車腎気丸は八味丸加牛膝・車前子:温補腎陽・補陰陽・下半身の浮腫・乏尿:牛膝は袪瘀止痛・活血通経・補益肝腎・薬を下行させる引経薬:車前子は利水・通淋・止瀉・明目・袪痰止咳・利尿剤・咳止め。
労倦の八味丸:温補腎陽・陰陽両補:熟地黄・山薬・山茱萸・沢瀉・茯苓・牡丹皮・桂枝・炮附子:八味丸は陰陽両虚に使うので陰虚の糖尿病の口渇や小便頻数も治す。下半身だけの浮腫の糖尿病は八味丸。
山薬さんやく:薯蕷しょよ:長芋:ヤマノイモ科甘微温:脾肺経:補脾胃・益肺腎・止瀉・袪痰3~10~30~40g。
沢瀉2~5g:サジオモダカの塊茎:甘・寒:利水・滲湿・清熱。量は多く使わない方がよいという。
茯苓3~6g、10~15g・雲茯苓3~6g:利水滲湿、健脾補中、寧心安神。
牡丹皮2~3g:牡丹の根の皮:苦辛微寒:清熱涼血・活血袪瘀・清肝瀉火:清熱袪瘀薬:冷やし活血して瘀血を去る。
桂枝:発汗解表・温通経脉・通陽化気・通陽利水・上逆を温中降逆。
寒湿の股陰痛:大腿内側に腫瘤・しびれ・疼痛・長引くと足甲部の浮腫や両下肢の脱力:胃苓湯加桂枝・附子・地竜。
炙甘草湯(心陽虚・心血虚):益気通陽・滋陰補血:炙甘草3 人参3 桂枝3 麦門冬6 麻子仁3 生地黄6 大棗3:心気陰両虚の胸痛・狭心症:生脈散や炙甘草湯の加減:不整脈・動悸・息切れ・心不全・下肢の浮腫。
参苓白朮散合真武湯:腎機能低下による下肢の浮腫。
下肢腫脹と疼痛には、部位によって引経薬を撰び、また鍼灸を併用するのもよい。
慢性の下肢腫脹と疼痛で、正気が虚しているものには、補益せず消法のみを用いると、あとあとまで悪化させることになるので注意する。