精神異常・痴呆の漢方

癲テン・精神異常・痴呆

1,痰気鬱血の精神異常・痴呆:抑鬱感・無表情・眼神が無い・異常行動・言語錯乱・喜笑流涙定まらず・独語・幻視・幻聴・しかめ顔・寡黙・易怒・浅眠・食少・乱雑・舌苔が厚い・痰気鬱血の脈弦滑:温胆湯加石菖蒲遠志鬱金・重篤なら三聖散で嘔吐させる。

2,心脾両虚の精神異常・痴呆:無表情・遅鈍・恍惚状態・動悸・易驚・無欲・よく泣き悲しむ・疲労倦怠感・面色無華・食少・舌淡・脈細弱:養心湯・帰脾湯。

1,痰気鬱血の精神異常・痴呆:(発症原因)思慮過度・欲求不満・恐怖や驚きで、気血が逆乱し気鬱が生じ、気鬱による津液の停滞から痰となり痰が心竅を阻害して発症する。痰濁中阻により食少となる:

温胆湯加石菖蒲遠志鬱金。重篤なら三聖散で嘔吐させる。

三聖散:儒門事親:瓜蔕かてい 蔾芦りろ 防風。

瓜蔕かてい・甜瓜蔕・香瓜蔕・苦丁香:ウリ科甜瓜の瓜蔕を陰干し:苦寒・小毒:胃経:湧吐痰涎宿食ゆうとたんせんしゅくしょく:現在はあまり使用しない。毒物誤飲・多痰がつまり熱象の癲癇や脳卒中にたまに使用する。

蔾芦りろ:ユリ科ユウスゲの根など:苦辛寒:有毒:肝肺胃経:

湧吐風痰:蔾芦湯。

蔾芦湯りろとう:蔾芦1g、天南星2g、蜈蚣1匹、地竜3g、杜仲4g、法半夏3gを水煎服用する:脳卒中で痰がつまって吐けない時に。

2,心脾両虚の精神異常・痴呆:慢性病で心脾が消耗し、脾虚のため気血の生成不足となり心神を養えず精神異常を発症する:養心湯・帰脾湯。

養心湯:心気虚:半夏麹 肉桂 酸棗仁 遠志 五味子 黄耆 人参(党参) 炙甘草 茯苓 茯神 当帰 川芎 柏子仁。

養心湯:人参 山薬 茯神 茯苓 麦門冬 酸棗仁 当帰 白芍 蓮肉 遠志 芡実 蓮鬚レンシュ(蓮の花芯:渋精止血:遺精・白色帯下・頻尿:腎虚薬)

酸棗仁さんそうにん:クロウメモドキ科サネブトナツメの成熟種子の乾燥:甘酸平:心脾肝胆経:養肝・寧心・安神・斂汗:不眠・動悸・不安・自汗・盗汗。心臓神経症・神経衰弱・精神異常・鎮静:3~6g、7~8g、10g。

遠志おんじ:ヒメハギ科イトヒメハギの根:安神・袪痰・消癰しょうよう。

芡実けんじつ:スイレン科芡の成熟種子の仁:甘渋平:脾腎経:健脾止瀉・補腎固精・袪湿止瀉:3~6~10g:芡実は補腎固渋し健脾するが、蓮子は清心が主で益気健脾する:金鎖固精丸。

蓮肉レンニク・蓮子レンシ:清心益腎・健脾止瀉・益腎固渋・収斂・鎮静・軽度の滋養・清心火・清熱・心腎不交(心腎不交は黄連阿膠湯も)。

黄連阿膠湯:黄連3 黄芩2 白芍3 阿膠3g 鶏子黄1個。

心気虚:炙甘草湯・補中益気湯・磁朱丸・養心湯。

帰脾湯:補脾・養心安神・摂血:心脾両虚・心血虚による精神異常:不安感・動悸・不眠・気血両虚を気血双補:黄耆2 人参3 白朮3 当帰2 茯苓3 竜眼肉3 酸棗仁3 遠志2 炙甘草1 木香1 大棗2 生姜1g。

竜眼肉:補心安神・補脾養血:心血虚の動悸。

精神異常の口訣

大柴胡湯:精神異常:驚き易く動悸する(驚悸:パニック障害・不整脈)。

大柴胡湯:和解半表半裏・瀉下熱結・疏肝解鬱・理気止嘔:少陽病と陽明病の合病:柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1:肝火上炎・肝気鬱結・胃実熱・心下痞硬:精神異常。

脾に影響がおよぶと種々な精神異常が出てくるので治療には脾の薬を使う。帰脾湯や逍遙散、柴胡桂枝湯、胃熱からの精神異常には大柴胡湯・三黄瀉心湯などである。

560:痰飲に基本的な症状は、四つある。むくみ(浮腫)・めまい(眩暈)・痰が多い(多痰)・いつも眠い(嗜眠)などだが、症状は他にもたくさんあり、精神異常も痰飲で生じる:浮腫眩暈多痰嗜眠。

精神症状に口臭・口渇・便秘の胃熱の症状があれば三黄瀉心湯。

三黄瀉心湯:大黄3 黄連3 黄芩3:清熱涼血の法:胃熱を冷ます:心火旺・血熱妄行・肝胆湿熱・脾胃湿熱・熱盛。

感情には「喜・怒・憂・思・悲・驚・恐」という七情があるが、

七情過剰になると関連する臓腑が異常を起こし精神異常になる。

内傷七情(七情鬱結:喜・怒・憂・思・悲・驚・恐が過ぎて瘀血が生じる)によって、瘀血が生じて精神に異常を起こす(桃核承気湯・抵当丸)。

桃核承気湯:清熱瀉下・活血逐瘀・瘀血と熱状で狂状:調胃承気湯+桃仁・桂枝:桃仁5 桂枝4 大黄3 甘草2 芒硝2:

瘀血と熱状で狂状を現す時に適応:生理時の盗癖・拒食症など。

抵当丸ていとうがん:傷寒論:破血逐瘀:

大黄2 虻虫ぼうちゅう0.3 水蛭すいてつ0.3(ヒル) 桃仁0.3gの粉末を蜂蜜で丸とし1日1回1gずつ内服:狂症に使う:

代用処方桃核承気湯合水蛭。

精神異常は、直接は心の働きで生ずるが、二次的には肝も肝鬱によって大きな影響を心に与える。

督脈は、脳・脊髄の生理を反映し、脳と脊髄と内生殖器とを連系させているので、後弓反張、背部の強直と背部痛、精神異常、小児のひきつけ(驚厥)、不妊、瘧疾と関係している。

督脈の作用:「陽脈の海」である。六条の陽経は大椎で督脈と交会するので督脈は陽脈に対し調節作用をもち「一身の陽経を総督す」と称される。

督脈:骨盤腔内の内生殖器の胞中から起こり、下って会陰から背部正中線を上行し尾底部、腰部、項部を経て脳内へ脳に属し、別に頭部正中線を項部から頭頂、鼻部を経て上口唇内部の唇小帯へ。支脈は腎に絡し心を貫く。

脾の異常や失血や火傷でも精神異常がでてくる。

ヤケド:桂枝加桂湯は、火傷の時の「動悸の薬」である。

桂枝去芍薬加蜀漆竜骨牡蠣救逆湯(重症の火傷の特効薬で、火劫による心陽虧損から生ずる心虚驚狂証に効果がある):

桂枝4 生姜4 大棗4 甘草2 蜀漆4 竜骨5 牡蠣6g。

蜀漆ショクシツ:ユキノシタ科黄常山ジョウザンアジサイの苗:

辛平有毒:催吐作用:化痰抗瘧・清熱利水。

血圧が高い人はイライラで気のながれが阻滞されて瘀血ができると、瘀血によって精神異常が起きることがある。桃核承気湯・抵当丸。

酸棗仁湯:心血虚・心肝火旺に養心安神・清熱除煩(精神異常):酸棗仁5 茯苓5 知母3 川芎3 炙甘草1):疏肝作用の逍遥散・抑肝散を合方する。思慮過度して生ずる、のぼせ・イライラや不安感・不眠を鎮める。

柴胡加竜骨牡蠣湯:柴胡5 黄芩3 半夏4 生姜3 人参3 茯苓3 大棗3 桂枝3 竜骨3 牡蠣3 大黄1:肝陽上亢・肝風内動・のぼせ・めまい・肝気鬱結・体が重だるい、不安感、動悸・精神異常。

半夏厚朴湯:少腹より咽に向かって下から何物かがつき上ってきて(西洋医学ではヒステリー球という精神異常)、息がつまるようで、ひっきりなしにせきが出る。せきのたびに泡沫様の痰が出てくる。

精神的な抑鬱によって食欲のないもの、神経性不食症・拒食症・精神異常・ノイローゼ:半夏瀉心湯・抑肝扶脾散・半夏厚朴湯・小柴胡湯・柴朴湯。

小柴胡湯:食欲不振・拒食症(精神異常)・悪心・腹痛・動悸・咳・小便不利。

柴朴湯は、喘息だけでなく、咳嗽にも適応する。やはり、精神的な素因(精神異常)で発症する場合に有効なのである。

いわゆる神経性咳嗽には柴朴湯である。

抑鬱感が強い精神異常の時:小柴胡湯合香蘇散:柴蘇飲。

精神抑鬱(精神異常)には逍遙散を使う。肝鬱の逍遙散の代用処方は当帰芍薬散(当帰+芍薬)や柴胡桂枝湯(柴胡+芍薬)で、強いイライラには柴胡桂枝湯を使うが、逍遙散の使用が基本である。

帰脾湯の心脾両虚:精神不安よりも貧血の症状に似て動悸・不安感・不眠の他に疲れ易い・食欲がないなど自律神経失調症に似て気血不足の症状(気血両虚)を呈す。帰脾湯は不安感のある気血両虚に使用。