麦門冬湯の解説

2025/11/5~6

麦門冬湯:「類聚方広義」吉益東洞原著、尾台榕堂校註

・麦門冬湯:消渇にして、身熱あり。喘して、咽喉利せざる者を治す。天花粉を加う:
肺胃陰虚:麦門冬湯加栝楼仁。

・麦門冬湯:大便燥結し、腹が微満する者は調胃承気湯を兼用する。
麦門冬湯合調胃承気湯。

・麦門冬湯:久咳、労嗽にして、喘満し、短気し、咽喉利せず。時に悪心嘔吐ある者を治す。

(労嗽ろうそう:結核などの消耗性疾患にみられる咳嗽。)

(短気:軽度の心不全・喘息状態で、短く浅く早い呼吸。)

麦門冬湯:肘後方に曰く、肺痿にして、咳唾、涎沫止まず、咽喉乾燥して渇する者を治す。按ずるに、生姜甘草湯症の効能は同じだというのは疑うべきである。今、生姜甘草湯を病者に試してみると麦門冬湯の方が効果は勝るようだ。

(肺痿はいい:肺の陰虚内熱による病証。咳嗽、吐痰、発熱、盗汗、羸痩などを伴う慢性消耗性疾患。肺結核に相当する。)

(涎セン・慣用ゼン・よだれ:涎沫・流涎りゅうせん)

麦門冬湯:滋陰益気・補益肺胃(胃陰虚に適応)・降気:
麦門冬10 人参2 製半夏5 炙甘草2 粳米こうべい5 大棗3:

口乾の吃逆に一服で効く:消渇病(糖尿病など)で多食善飢だが体重減少がある陰虚につかう。

胃陰虚の悪心・・麦門冬湯・益胃湯合橘皮竹筎湯・沙参麦冬湯。

悪心・時に強い嘔吐・口渇があり、水分を欲する。飲むとすぐ吐く。
食べられない。息切れ・倦怠感・舌紅・苔少・脈細数。

胃陰虚につかう処方:麦門冬湯・麦門冬湯合六味丸・小建中湯・甘露飲・養胃湯・沙参麦冬湯・一貫煎・拯陰理労湯。

小児の久咳にはこの方(麦門冬湯)に石膏を加えて妙験あり。
小児の久咳:麦門冬湯加石膏。

「聖済総録せいさいそうろく」宋、1117年(北宋の末期)北宋政府刊行。「麦門冬湯、肺痿の気塞がり、風(フウジャ)客し咽喉に伝わり、妨悶ボウモンするを治す。」

肺痿はいい:肺葉萎縮し、濁唾涎沫(唾液・よだれ)を咳吐する慢性虚弱性疾患で、久咳や燥熱傷津などの肺陰虚で生じる。

妨悶ぼうもん:妨は、さまたげる、損なう。悶は、気が滞る、もだえる。妨悶とは、咽喉部の気が滞り、咽喉不快感・咽喉不利があり咽中炙臠インチュウシャレンや梅核気の症状となること。

「虚すれば則ち其の母を補う」の治療原則で、母(胃)の胃陰虚を補い津液を生じ、子(肺)の肺を潤せば、肺の粛降作用は回復し、上逆する気を下ろすことができる。麦門冬湯の主治となる。

「肘後備急方ちゅうごびきゅうほう」西晋、葛洪かっこう(281~341頃)「麦門冬湯は、肺痿にて咳唾涎沫がいだせんまつ止まず、咽喉乾いて渇するを治す」。

肺陰虚証の主症状:乾咳・無痰・血痰・嗄声サセイ・口乾・五心煩熱・皮膚乾燥:麦門冬湯・滋陰降火湯・養陰清肺湯・沙参麦冬湯。

滋陰降火湯:万病回春:肺腎陰虚を滋補肺腎・清熱:
当帰 白芍 生地黄 熟地黄 天門冬 麦門冬 白朮 陳皮 黄柏 知母 炙甘草 生姜 大棗。ツムラに製品有り。

小建中湯:胃の陰虚(麦門冬湯)による脾虚肝乗の胃痛の薬:
緩急止痛(疲労で腹痛が生ずる体質)・温中補虚・除熱:
疲労発熱(少し遠くに出かけると疲労で発熱し風邪をひく子供など)。

麦門冬湯:話をしていて口のまわりに白い泡が溜まる人は胃の陰虚である。陰虚で水気が不足して唾液が少なく泡になる。シェーグレン症候群などで唾液や涙液の少ない人は陰虚である。胃の陰虚は糖尿病に多い。

口乾・多食善飢・陰虚で痩せる糖尿病に、麦門冬湯・沙参麦門冬湯。

糖尿病の虚労病:胃腸の働きが悪い胃の陰虚(麦門冬湯)で体重減少があり、脾気虚には六君子湯・補中益気湯・参苓白朮散を合方する。

胃陰虚で脾虚なら・・・

麦門冬湯合六君子湯

麦門冬湯合補中益気湯

麦門冬湯合参苓白朮散

胃の陰虚の症状は、乾嘔からえずき・吃逆・口渇・口唇や口内の乾燥・尿量が少ない・便が硬い・舌の色が紅色で乾燥し、舌の苔が剥苔で地図状舌:麦門冬湯・沙参麦門冬湯。

肺陰虚で外邪が認められず、疏風発散(外邪を辛散)の必要が無ければ、肺腎の陰液を補う百合固金湯・麦門冬湯などを使用する。

潤す処方は外邪の発散・駆逐には不利となる。

肺腎陰虚の薬の百合固金湯:滋陰清肺・化痰止咳:肺陰虚に使用:

生地黄4 熟地黄3 麦門冬5 玄参3 当帰3 白芍3 百合5(冷やし潤し止咳) 川貝母3(潤し冷やす) 桔梗2 生甘草3:八仙丸。

百合びゃくごう:甘苦微寒潤:ユリ科オニユリ・ハカタユリの鱗茎:
潤肺止咳・寧心安神:「神農本草経」の中品「味は甘く平。川谷に生ず。
邪気、腹脹、身痛を治し、大小便を利し、中を補い、気を益す」:咳止め・安定剤。

肺腎陰虚:肺結核・肺癌:乾咳・血痰・骨蒸潮熱・夜間の咳・声がれ:
滋陰降火湯・八仙丸・小建中湯・生脈散合六味丸・百合固金湯。

285.34歳の婦人で、肺結核で重症であったが、麦門冬湯で徐々に快方に向かい、二年後には床の上に起き上がるようになち、さらに三年後には近所に散歩ができる程度になった。「漢方診療三十年」大塚敬節

233.麦門冬湯は、肺結核、咽喉結核などにも用いられる。「漢方診療三十年」大塚敬節

233.のぼせと咽喉閉塞感を訴える21歳の青年(麦門冬湯)。「漢方診療三十年」大塚敬節

232.咽が乾燥して声の出なくなった36歳の男子(麦門冬湯)。「漢方診療三十年」大塚敬節

胃陰虚の治療原則:養胃陰+清熱和胃:麦門冬・石斛せっこく・玉竹ぎょくちく・沙参・生地黄しょうじおう・天花粉:麦門冬湯・養胃湯:
麦門冬湯は胃陰による胃気上逆を鎮め、養胃湯は甘涼滋潤により胃陰を回復する。

養胃湯:温病条辨:益胃生津・清虚熱:沙参3 麦門冬5 生地黄5 玉竹2 氷砂糖1:胃陰虚で口渇・喉の乾燥感・乾嘔・食欲不振・舌紅乾燥・舌苔少・剥苔・または無苔・脈細数。胃陰虚は半夏厚朴湯で悪化する。

麦門冬湯:消渇病で多食善飢だが体重減少がある胃の陰虚という病態の糖尿病で痩せる:沙参麦門冬・麦門冬湯・一貫煎を使う。多食だが体重減少の場合は口渇があるが沢山は飲まない。

シャックリ呃逆アクギャク・吃逆キツギャク:

胃陰虚の吃逆きつぎゃくは麦門冬湯。

酒飲みの胃湿熱の吃逆は黄連解毒湯。

術後の胃虚寒の吃逆に丁香柿蔕湯。

痰飲の胃気上逆の吃逆に半夏厚朴湯。

当帰芍薬散:これといって他の症状がなく咳嗽だけが続くもの。

妊娠時の咳嗽は麦門冬湯。

始終咳払いして、咽喉に痰のようなものがからんでいる。
これは、肺陰虚によるもので、気滞痰凝ではない。
(心肺陰虚で心筋梗塞の前兆にもある)麦門冬湯の適応症である。

太るための食べ物や使う薬は、滋潤作用のあるもので、
ベタベタした食物で太る。薬では胃の陰虚の薬の小建中湯、麦門冬湯。

半夏厚朴湯:感冒などで、解熱したが、咳嗽だけ残ることがある。食欲に変化がなく、咽喉に白い粘痰がからまり、イライラするようであれば、半夏厚朴湯の適応である:麦門冬湯証の胃陰虚と鑑別すること。

麦門冬湯:滋陰益気・補益肺胃・降気(乾嘔からえずき・吃逆シャックリ・噫気げっぷ・梅核気。