2025/11/17~19
清湿化痰湯せいしつけたんとう
清湿化痰湯:寿世保元:天南星3 黄芩3 生姜3 半夏4 茯苓4 蒼朮4 陳皮2.5 羗活1.5 白芷1.5 白芥子1.5 甘草1.5:
背の一点が寒い・肋間神経痛・全身的な関節痛・筋肉痛・喘急・腫塊・四肢麻木不仁で転則不利。
天南星:胆南星:熄風解痙・化痰:天南星を豚(牛)の胆汁で煮て修治、あるいは生姜とともに煎じて毒性を緩和する:痙攣と痰飲を治し癲癇などにも使う」。
白芷びゃくし:袪風解表・止痛・消腫排膿・燥湿止帯:辛温:散寒解表(カゼ薬)・袪風止痛(頭痛薬)・消腫排膿・燥湿止帯おりものに適応、激しい燥性(帯下を乾かす作用)。
白芥子はくがいし:アブラナ科白芥の成熟種子:辛温:肺経:
利気袪痰・消腫止痛:温化寒痰の常用薬:三子養親湯(白芥子・蘇子・莱菔子ダイコンの種、各1g)。
清湿化痰湯:万病回春:明の龔廷賢きょうていけん:1587年
「遍身疼痛し、湿痰に属すは、宜しく除湿化痰するべきなり」「周身四肢骨節疼痛し胸背に牽引し、また寒熱(寒熱往来)を作し喘咳し煩悶し、或は腫塊を作し痛みにて転則し難く、或は四肢麻木不仁し、或は背心の一点、冰冷するが如く、脈滑なるを治す。則ちこれ湿痰が経絡関節に流注し不利する故なり。」
清湿化痰湯:外邪の湿邪と内生の痰湿が合体して、経絡に阻滞している痰湿阻絡で痛みを生ずる状態を治す方剤である。
「脾は生痰の源」といわれ、脾が虚し、脾虚湿困となれば痰湿が内生する。そこに外邪の湿邪が侵入し内生の痰湿と合体した状態を清湿化痰湯は治する:脾虚を治することが必要。
清湿化痰湯の背中の中心部(背心)の冷感は、「胃の痰湿」が原因である。
痰湿の鬱滞が長期となれば、鬱熱を生じ、痰湿邪は熱化して痰熱や湿熱となり疼痛部に熱感や発赤を伴うこともある。この熱感や発赤は清湿化痰湯の「黄芩」の主治となり熱化した湿邪や痰熱を清熱する作用がある。
清湿化痰湯:痰熱や湿邪の合体により、悪寒発熱や往来寒熱を発し、また痰湿が肺を犯せば喘急(呼吸困難)、痰が偏在すれば腫塊(リンパ腺腫)を発生し関節や筋骨の疼痛、腫塊の痛みで転則困難も起こりうる。
清湿化痰湯:痰湿阻絡:四肢の関節痛・四肢の屈伸不利・筋肉痛・頸部痛・頸部リンパ節腫痛・肩こり・肩関節痛・肩甲骨痛・背部痛・腰痛・転則不利・四肢疼痛が胸や背中に及ぶ。熱感・発赤・悪寒発熱・往来寒熱・陰天時悪化。
清湿化痰湯:脾虚湿痰で喘急・咳嗽・喀痰・食後に咳嗽や喀痰が起こり易い:背部痛は背心が冰冷し舌胖大・苔薄白・苔が白く厚い・脈滑。
清湿化痰湯の鑑別処方
桂枝加朮附湯:「方機」江戸、吉益東洞:調和営衛・散寒袪湿:桂枝湯の主治証で身体痛の顕著なもの。営衛不和で寒湿束表で寒湿邪が表に侵襲している急性症の解表袪風作用の身体痛で慢性疼痛ではない。
清湿化痰湯の病理:痰湿邪が桂枝加朮附湯の適用の表よりやや深く、経絡に停滞しているので、外邪に対する解表袪風作用のある薬物のほかに、半夏・陳皮・茯苓などの内生した痰湿に対する燥湿袪痰薬が配合されている。
五積散:太平恵民和剤局方:宋代1151年:解表温裏・燥湿健脾・理気化痰・活血消積:外感風寒・内傷寒湿を治す:脾虚寒湿があり、寒・湿・気・血・痰の五積を伴った状態。発熱、無汗、頭痛、身体痛、項背強ばる、胸苦・納呆のうほう(食欲不振)、嘔吐、腹痛、下利、舌苔白滑。
五積散:もともと脾虚寒湿証の者が、冬季の風寒邪・寒冷多湿の環境での労働・夏のエアコンの冷え・冷飲過多・過労などにより、風寒湿邪を感受して起す感冒の初期に用いる。
五積散の内包処方:平胃散・二陳湯・苓桂朮甘湯・苓姜朮甘湯・当帰芍薬散去沢瀉・半夏厚朴湯去紫蘇葉などを内包している。脾虚寒湿証の者が風寒邪を感受して発症する。
五積散:太平恵民和剤局方(局方):半夏2 陳皮2 茯苓2 当帰2 蒼朮1 白朮2 白芍1 川芎1 白芷1 枳穀1 麻黄1 桔梗1 乾姜1 肉桂(桂枝1) 厚朴1 大棗1 炙甘草1g。
平胃散:理気化湿・和胃:蒼朮4 厚朴3 陳皮3 大棗2 生姜1 甘草1:体全体の湿気を除くが半夏茯苓が無い。体全体の潤いには生脈散。
苓姜朮甘湯:寒湿:袪湿散寒・止腰痛:茯苓6 乾姜3 白朮3 甘草2:寒湿の腰痛。
五積散の中には平胃散が入っているので、五積散は神経痛・腰痛・膝痛に使ってよい処方:五積散に鎮痛効果を増すためにさらに平胃散や苓姜朮甘湯を合方する。
五積散合平胃散
五積散合苓姜朮甘湯。
五積散の適応症:悪心嘔吐・食欲不振・泄瀉などの脾虚症状が顕著で、腹冷・腰冷・下肢冷などの寒冷症状が多い。
「風寒湿」・腰冷痛・腰腹攣急・上熱下冷・小腹痛の四大証が特徴。
五積散は「風寒湿」:1.腰冷痛、2.腰腹攣急、3.上熱下冷(冷えのぼせ)、4.小腹痛の四症が目標となる:寒いと小便頻数となる人の神経痛・腰痛・手の痛みに効果があり患部に熱感が無い。二の腕の痛みに葛根湯。
独活寄生湯:備急千金要方(千金方):袪風湿・散寒・補気血・益肝腎・活血止痛:独活2 防風2 桑寄生4 秦艽3 杜仲3 熟地黄5 白芍4 当帰3 牛膝3 川芎2 茯苓3 党参3 細辛1 肉桂0.5(沖服) 炙甘草1g。
独活寄生湯:袪風寒湿・補肝腎・強筋骨・補気血・止痛:治療対象は、肝腎両虚・気血両虚の裏証のある者が、風寒湿邪の侵襲を受けて疼痛を発症している。
肝腎両虚の症状:頭のふらつき・めまい感・蝉が鳴くような耳鳴り・不眠・健忘・イライラ・怒りっぽい・泣いたり笑ったりする・ぼける・知能低下・意識障害・次第に四肢の伸展・強直が生じる:独活寄生湯・杞菊地黄丸。
気血両虚の症状:筋の萎縮・四肢の無力・頭暈・目花かすみ目・倦怠無力感・動悸・不安感・不眠・疲れ易い・食欲不振・息切れ・自汗・盗汗・舌淡・苔少・脈微細:十全大補湯・帰脾湯・補中益気湯・独活寄生湯。
独活寄生湯:腰痛・腰背痛・膝痛・腿痛・足痛・膝の屈伸困難・下肢しびれ・下肢冷・冷時悪化・温時緩和・風寒湿邪で悪化・腰脚膝弱る・腰膝酸渋・下肢浮腫・易疲・舌淡苔白・筋骨の衰えが顕著な腰痛や関節痛。
腰痛・腰背痛・膝痛・腿痛・足痛には、独活寄生湯合平胃散。
下肢冷・下肢浮腫・下肢麻木・腰膝酸渋には、独活寄生湯合苓姜朮甘湯。
清湿化痰湯は、脾虚痰湿証で痰湿邪が経絡に停滞して筋骨の疼痛を起こしている状態で、疼痛部位は全身であるが、独活寄生湯は、肝腎両虚なので疼痛部位は腰や下肢という下焦に集中している。
清湿化痰湯の脾虚痰湿証の症状:肩関節痛・腰痛・筋肉痛・神経痛・肋間神経痛・中風後遺症・リンパ節腫など全身に及ぶ。
清湿化痰湯の臨床応用
1,肩痛、肘痛、手首痛には・・・
清湿化痰湯合桂枝湯
清湿化痰湯合桂枝加朮附湯
清湿化痰湯合独活葛根湯
独活葛根湯:特に「項背部の筋肉」や「下半身の関節の風湿」を去る・臀部の痛み・両足のしびれ:葛根5 桂枝3 麻黄2 白芍3 大棗1 生姜1 甘草1 独活2 地黄4:
落枕らくちん(寝違え)や肩こりの特効薬。
2,膝痛や足関節痛で痰湿停滞で関節水腫の時・・・
清湿化痰湯合防已黄耆湯
清湿化痰湯合苓姜朮甘湯
清湿化痰湯合桂枝芍薬知母湯
桂枝芍薬知母湯:金匱要略:散寒袪湿・止痙刺痛・関節を清熱:寒湿痺熱痛:桂枝3 白芍3 防風3 白朮4 知母3 附子1(先煮)麻黄3 炙甘草2 生姜3:関節に発赤や熱感や疼痛がみられるが他部位は冷える。
3,膝痛・足関節痛など下焦の関節痛で熱感・発赤・腫脹など痛風発作のとき・・・
清湿化痰湯合二妙散(黄柏・蒼朮)
清湿化痰湯合三妙散(黄柏・蒼朮・牛膝)
清湿化痰湯合四妙散(黄柏・蒼朮・牛膝・薏苡仁)
灼熱痛の四妙散:伝青主女科:鎮痙・利尿・浮腫消退:黄柏 蒼朮 牛膝 薏苡仁。
黄柏・黄檗おうばく:キハダのこと:清熱燥湿・瀉火解毒・清虚熱:ベルベリン。
風湿に蒼朮そうじゅつ:キク科ホソバオケラの根茎:苦辛温:
燥湿健脾・袪風湿・風湿の筋肉痛や関節疾患の鎮痛薬。
(白朮は補益性がありオオバナオケラの根茎)。
牛膝ごしつ:ヒユ科イノコズチモドキ:袪瘀止痛・活血通経・補益肝腎:膝痛や腰痛に:薬を下行させる引経薬。袪瘀薬・鎮痛薬・痛経薬・補肝腎薬。
「症候による漢方治療の実際」大塚敬節、南山堂、1963年
清湿化痰湯について・・
「1,清湿化痰湯は、肋間神経痛およびこれに類する胸背部の疼痛に用いる。元来、湿(水)が原因で、からだ中のあちこちの痛むものに用いられたもので、胸部の痛みに用いるのも、これの応用である。
2.清湿化痰湯は、色が白くて水太りの人にみられる肩のこり、腕の痛みなどに用いる。首筋などに梅干し大のこりこりのあるようなものによい。
3.咳嗽して脇下にひきつり痛むものにも用いる。痰が胸につかえているというのが目的である。」
清湿化痰湯は、痰湿証で起こる筋肉痛にも応用する。
左右臂(ヒ)(前腕:肘から手首まで)の筋肉痛、背部の筋肉痛、腹部の筋肉痛、左右下肢の筋肉痛に用いる。
攣急するように痛む時は、清湿化痰湯合芍薬甘草湯とする。
清湿化痰湯は、中風後遺症の四肢の疼痛・麻木・不仁・重だるさにも用いる。
中風後遺症には、清湿化痰湯合補陽還五湯とする。
中風後遺症は、風痰証もあるので、咽喉部や口中に湿痰の停滞があり涎も多くなる。
中風後遺症で下肢の筋骨萎弱がある時は、清湿化痰湯合独活寄生湯とする。
筋肉の痛みや攣急が顕著な時は、清湿化痰湯合芍薬甘草湯とする。
陰天時悪化の脾虚痰湿証の痛みには、風寒湿の外邪が関係しているので、
清湿化痰湯合桂枝湯
清湿化痰湯合桂枝加朮附湯とする。
「万病回春」の加味方:頭項が痛む時は、川芎・威霊仙をくわえる。
代用処方は、清湿化痰湯合葛根湯加辛夷川芎。
川芎:活血補血の頭痛薬:薬を上部に運ぶ引経薬。
「万病回春」の加味方:手臂が痛む時は、肉桂をくわえる。
代用処方は、清湿化痰湯合桂枝加朮附湯。
「万病回春」の加味方:脚が痛む時は、牛膝・黄柏・防已・竜胆草・木瓜などをくわえる。
代用処方は、清湿化痰湯合独活寄生湯、清湿化痰湯合防已黄耆湯。
脾虚痰湿証の肩こり・五十肩・寝違い・頚腕症候群には・・
清湿化痰湯合独活葛根湯
清湿化痰湯合桂枝加朮附湯
清湿化痰湯合麻黄附子甘草湯とする。
清湿化痰湯は頸部リンパ腺腫に応用する。
「万病回春」の加味方:腫塊を発し、痛みが甚だしい場合は、乳香・没薬・海浮石・芒硝を加えるとある。
脾虚痰湿証で発症する喘急(呼吸困難)・咳嗽にも応用する。
咳嗽時に胸や脇腹に痛みが牽引するものや、食後に喘急・咳嗽を発症するもの。咳嗽が甚だしい時は、麻黄・杏仁を加える。
代用処方は、清湿化痰湯合麻杏甘石湯、
清湿化痰湯合麻杏薏甘湯。
食欲不振・疲労倦怠など脾虚が顕著な場合は
清湿化痰湯合六君子湯などとする。