肺癌の漢方治療

肺癌

肺癌または気管支肺癌と称する。肺癌の臨床症状は、
咳嗽、胸痛、喀血あるいは痰に血がまじる、呼吸促迫、不規則な発熱を主症状とし、
X線検査・痰中の癌細胞の検査、気管支鏡の検査で確定診断される。

但し、肺結核や縦隔リンパ腫、肺膿瘍、転移性肺癌と鑑別すべきである。

「素問・玉機真臓論篇・第十九に説いて「胸中気満ち、喘息不便し、肩項に痛みが生じ、身発熱する」。
「難経」の「肺積」「喘咳」「喀血」「労瘵」「胸痛」「癥」の範疇に属す。

病因病機

1. 邪毒犯肺

邪毒が肺気を侵襲し、粛降が失われ、肺気が鬱滞して不宣となり、
進行して血瘀が生じ、毒瘀が互結し、久しければ腫塊を生ずる。

軽い運動で肺気をめぐらし、肝鬱を疏肝薬で気をめぐらし
袪瘀薬によって血瘀の解消や発生を予防すべきである。

2. 痰湿内蘊たんしつないうん

飲食労倦し、煙草や酒を嗜食したり、情志失調により、
胃腸の機能が失調したため、水穀の精微が生ぜず輸布できずに、湿が集まり痰を生じ、
痰は肺に貯留して、肺は宣粛が失われ、痰凝気滞となり、
久しければ気血は瘀阻され、痰瘀は互いに結合して、肺に腫塊を形成する。

飲食の不摂生や酒・煙草の嗜食や精神的な五志過極から胃腸機能の失調により栄養失調になり
痰湿が発生し、それが長くつづくと肺に腫瘍を生ずる。

五志:喜・怒・憂・思・恐:広く精神活動をさす。

予防には腹八分を心がけ、煙草を止め、多量の酒は避け、肝の昂ぶりを軽減して心を平安に保ち、
痰飲が生じないように心がける。健脾・解鬱・袪痰薬を用いる。

痰飲の基本症状は、眩暈、多痰、浮腫、嗜眠、小便不利、しこりが生ずる、朝の起床時の顔のむくみ、
疲労時の顔のむくみや手足のむくみ、咳払いで簡単に痰がでる体質、閑な時すぐ眠くなる
:痰飲を取る基本処方は、二陳湯

二陳湯:燥湿化痰:半夏5、陳皮4、茯苓5、生姜1、甘草1(半夏・陳皮が二陳で古いほど燥性が緩和され良品)

3. 邪毒が内を侵し、或は痰湿が塞がって溜まり、多くはまず正気が内虚し、慢性病では体が弱り、肺気は不足し、或は煙草や酒を嗜食し、それらの熱が津液を灼傷するので肺陰が不足したところに、もし内外の諸邪が虚に乗じて侵入して痰瘀が互いに結合し、熱毒が長く留まれば腫瘍となる。

慢性病を治療して体が弱るのを是正して、丈夫な体をつくって邪毒の侵入を防ぎ、胃腸を健やかにして痰湿の停滞を防ぎ、煙草を止め飲酒多量を戒めれば、邪毒の侵入による肺陰の消耗を避けられる。
痰飲と血瘀の結合は、胃腸を丈夫にして袪瘀薬を用いれば、熱毒痰瘀の互結による肺癌を予防できる。

瘀血の症状の特徴:刺痛・固定痛で痛む範囲狭く、拒按で触られるのをいやがる、夜間に胃痛・腹痛など症状が悪化し温めても冷やしても悪化する。舌は青紫色の斑点や舌体や乳房が青紫色・鮫肌・精神障害者。

弁証と施治

肺癌は、通常40歳以上の中年男子に発生し、早期には症状はなく、臨床上は原因不明の微熱や咳嗽、痰に血がまじったり胸痛やX線で肺に陰翳がみられ、肺が不張などを重視し詳細に観察して病因を明確にすべきである。

肺癌の原因は、気滞、痰凝、血瘀、熱盛に外ならなので、
弁証施治は化痰止咳、清熱解毒、理気化瘀を主とすべきである。

つまり、痰飲を除き、咳を止め、清熱解毒薬を胃腸を傷めないように配合し、理気剤で袪瘀するべきである。

また、肺は弱い臓器なので、潤を喜び燥を嫌う。
そのため肺に病変がある時は、気陰が最も消耗し易い(肺気陰両虚)ので治療上注意すべきである。

弁証と施治 1.気滞血瘀

主症状は咳嗽してスッキリせず、胸悶脹痛し痛みは固定しており、痰に血がまじる。
唇は紫暗となり、あるいは大便は秘結し、
頸部や前胸部に青筋が暴露し、舌には瘀斑や瘀点があり、
舌苔は薄黄、脈弦あるいは渋である。

1.気滞血瘀の治法:活血理気、化瘀消腫

方薬:炙黄耆3~5,全当帰3~5.紫丹参3~7.山豆根2~5.蓬莪朮3~10、全栝楼3~10,五霊脂2~3,白花蛇舌草10、広陳皮2~3,炒枳殻2~3.延胡索3~5,炒川芎2~3,石見穿5~10、甜杏仁3てんきょうにん、天花粉(括楼根)3~5,北沙参3、半枝蓮10、鉄樹葉10、

石見穿せきけんせん:シソ科アキギリ属植物 別名:紫參、月下紅、小紅參、紫丹花:石見穿多糖はH22肝癌細胞の昆明マウス体内での生長を有効に抑制できることが分かった。

鉄樹葉てつじゅよう:リュウゼツラン科、朱蕉の葉

加減法

微熱がとれない者には、蒲公英・板藍根・紅藤・敗醤草を加え、

喀血が止まらない者には鮮茅根、仙鶴草、鮮側柏葉、藕節炭を加える。

潤肺止咳には百合、玄参、蜜炙百部を加える。

面色皓白、痩せて悪寒し動けば喘息に転じ、咳声が低微の肺腎同病に偏し、
陽気虚弱の者には仙茅、仙霊脾いんようかく(イカリソウ)、肉ジュ蓉、巴戟天を加える。

仙茅センボウ:辛温で有毒なので補益薬として長期服用しないこと。
仙茅は陰虚火旺・熱証・鼻出血には使用すべきではない。
仙茅:ヒガンバナ科仙茅(キンバイザサ)の根茎:辛熱有毒:腎経:温補腎陽・強筋骨:舌の腫脹などの中毒には三黄瀉心湯

腎精不足の治療薬の肉ジュ蓉にくじゅよう:ハマウツボ科ホンオニクの肉質茎:甘鹹温:腎大腸経:滋腎益精・補陽潤腸:強壮・通便:肉ジュ蓉は補陽でも燥でなく滋してしつこくないので従容という。

腎精不足の治療薬の巴戟天はげきてん:アカネ科巴戟天の根:辛甘微温:腎経:温腎補陽・強筋骨・袪寒湿:淫羊藿と同じ:腰や膝の寒湿による障害に適す:腎陽虚による失禁・頻尿に用いる。

喘息には炙蘇子を加える。

抗癌剤副作用の処理

1. 抗癌剤の副作用に:太子参4~5、綿黄耆5~10、全当帰5、紫河車5~8、鶏血藤3、炒白朮3、広陳皮3、制首烏5~10,桑寄生4~5,仙鶴草10、代赭石10~20(先煮)、六曲(神麹)4(包煎)、小川連0.5~1,生甘草3、

鶏血藤:マメ科昆明鶏血藤の茎:苦・微甘・酸渋・温:肝・腎経:補血行血・舒筋活絡:風湿による痺痛・手足の萎縮やしびれ・麻痺・眩暈:袪瘀薬

仙鶴草せんかくそう:バラ科キンミズヒキの全草:苦涼:肺肝脾経:収斂止血
仙鶴草・鮮側柏葉・白芨・藕節炭:止血薬

2. 抗癌剤治療中の白血球と血小板の増加

鶏血藤10、虎杖10、党参5、黄耆5、当帰5、首烏4、熟地黄4、炙甘草1、

3. 抗癌剤治療中の悪心・嘔吐の治療

加減法:瘀血症状が明らかな者には炙穿山甲、三稜、王不留行子を加える。軟堅して癥瘕を消すには夏枯草、海藻帯、猫爪草を加えて用いる。

弁証と施治2、痰湿毒阻

主症:咳嗽は比較的重く、痰が多く粘痰で、胸悶や胸脇悶痛、面目浮腫、心悸して咳喘する、食欲不振で軟便、舌質は淡胖、舌苔白あるいは微黄、脈滑数。

痰湿毒阻の治法:清熱化痰、利湿解毒

方薬:潞党参3~5、炒白朮3~5,雲茯苓3~6,炙甘草1.5、広陳皮2~3,製半夏3、胆南星1.5~3、薏苡仁3~7,桑白皮3~5,魚醒草10、浙貝母2~3,山豆根2~3、白花蛇舌草10、

加減法:咳嗽粘痰には炙紫苑、炙款冬花、枇杷葉、淡竹瀝を加える。胸脇満悶して咳嗽が激しい者にはテイレキ大棗瀉肺湯、或は清炙麻黄、炙紫蘇子、広地竜を加える。

弁証と施治3. 陰虚内熱

主症:発熱あるいは高熱で、咳嗽し痰は黄色あるいは生臭い臭いで、或は痰に血糸を混じり、胸脇が痛み、顴紅、潮熱し、口は乾き、喉は赤く、五心煩熱し便は結し、舌苔黄あるいは灰白色で舌質は紅絳、脈細数。

治法:養陰清肺、解毒散結:

方薬:南沙参3~6,北沙参3~6,天門冬3~5、麦門冬3~5,全栝楼3~10、炙百部3~6,金銀花3~6,野百合3~6,淡子芩3~5,夏枯草5~10,魚醒草10、白毛藤10、蜀羊泉10、

養陰清肺湯:生地黄4 麦門冬4 玄参5 川貝母3 牡丹皮2 赤芍2 薄荷1(後下) 生甘草1

加減法:養陰清肺、解毒散結

痰中に血液が混じる者には仙鶴草、白芨、蒲黄、生地楡、紫草根を加える、
痰が黄色く生臭いときは開金鎖、活芦根、海浮石、を加える。
胸脇疼痛の者には広鬱金、川楝子、延胡索、桃仁を加える。

弁証と施治4、気陰両虚

主症:咳嗽音が小さく、無痰あるいは痰少で粘痰、或は痰中に血を帯び、ひどければ喀血が止まない、動けば喘息し、怠くて横になりたがり、微熱や寝汗或は熱が長く続き、心煩し不眠で口乾するが多くは飲まない。
舌紅或は舌絳、舌苔薄少あるいは光剥無苔。脈細数或は細軟。

気陰両虚の治法:益気養陰、扶正固本

気陰両虚の方薬:太子参4~5、白朮3、雲茯苓3~5、綿黄耆3~5、寸麦冬3~4、五味子1~2,枸杞子3、全当帰3、全栝楼3、半夏曲3(包煎)、姜竹筎3、老蘇梗3、代赭石10、広陳皮2、炒枳殻2、広木香2

弁証と施治5、食欲不振方

生穀芽こくが4、生白朮3、焦山楂3、炒六曲3(神麹しんきく包煎)、炙鶏内金2、広木香2、広陳皮2、砂仁1(後下)

常用抗肺癌中草薬:山豆根2~3、生南星、紫草根、天門冬3~5、魚醒草10、夏枯草5~10、半枝蓮10、白花蛇舌草10、蒲公英、野菊花、徐長卿じょちょうきょう2~5

魚醒草・十薬・重薬:ドクダミの全草:辛微寒:肺経:清湿熱・消癰腫:肺膿瘍の常用薬:長時間煎じないこと

夏枯草:シソ科ウツボグサの花序と果穂:苦辛寒:肝胆経:清寒熱・散結:利尿・降圧・瘰癧・抗腫瘍

徐長卿:ガガイモ科徐長卿スズサイコの全草:辛温:袪風湿・解毒消腫:鎮痛・抗菌:寒象の関節リウマチ、毒蛇の咬傷