しわがれ声の漢方治療

しわがれ声は漢方では、嗄声させい という。
カゼで発生したものでない嗄声は、肺腎陰虚や気滞血瘀を考慮して治療する。

生ずる原因は、風邪をひいた時に、声がれや声がでなくなることはよく経験する。

これは風寒の嗄声といい、肺気の宣散と粛降は、肺の機能の両面であり、肺の病変では同時に障害されることが多いので「肺気宣粛」と統称され、治療も宣散と粛降を併用することが多い。

嗄声は宣散が不調となり、寒邪が咽頭部に凝滞したために発生し、治療には葛根湯合桔梗石膏や桂枝湯合桔梗石膏・甘草湯(咽痛以外の表証が無い時)・桔梗湯(桔梗:宣肺袪痰)などや少陽病の七症があれば、葛根湯合小柴胡湯加桔梗石膏を使う。

三拗湯さんおうとう も適応する。

風寒の方剤:荊防敗毒散は、風邪薬のファーストチョイスであり、頭痛・身体痛・発熱・悪寒が強い時に適応する。

麻黄湯は、咳嗽・呼吸促迫・喘息・無汗が顕著な時。

川芎茶調散は、風寒の頭痛が特に強い時。
川芎茶調散:散寒燥湿・解表・袪風湿・止頭痛:寒湿の頭痛薬::川芎3 荊芥3 薄荷3 羗活2 白芷2 炙甘草1 防風2 細辛1、の粉末を緑茶で服用

肺気不宣:咳・呼吸困難:多くは急性発作で、表証をともなうことがある。熱邪・寒飲が停滞している時には、呼吸困難が見られる:治法:辛散宣肺:三拗湯さんおうとう(麻黄5 杏仁5 甘草1.5:麻黄湯から桂枝4gを除く)

秋風が吹いて空気が乾燥してきたときにも嗄声はよく生ずるが、風熱を感受して喉の痛みや口の渇きを訴える風邪の症状では、風熱の表証:口渇・悪熱(熱に苦しみ温熱を嫌う)・咽痛・頭脹痛・脈浮数・舌尖紅・舌苔薄黄を呈す。

この時は、風寒に使う辛温解肌薬ではなく、風熱を清熱しながらカゼを追い出し肺を潤す作用のある、宣肺薬を用いる。

風熱の嗄声は、風熱の外邪に犯されたり、風寒の邪が転じて熱を生じ、肺の粛降が阻害されて、嗄声が発生する。

この時は、風熱を清熱する桑菊飲(杏仁3 連翹4 薄荷21.5 桑葉3 菊花3 桔梗2 生甘草1.2 芦根6)を用いる。葛根湯加桔梗石膏・銀翹散でもよい。

肺炎などで熱邪が肺を犯したときは、清燥救肺湯・麻杏甘石湯・銀翹散を使う。

麻杏甘石湯:肺熱に清肺・降逆平喘・止咳:麻黄4 杏仁4 生甘草2 生石膏10(肺気上逆し激しく咳込む・高熱・肺炎)

銀翹散:辛涼透表・清熱解毒:連翹30 金銀花30 桔梗18 薄荷18 竹葉2 生甘草15 荊芥穂12 淡豆鼓15 牛蒡子18:麻疹はしかに辛涼透疹作用:咽痛が目標・口渇・舌尖紅・高熱・咳・胸痛。

嗄声・咳嗽・黄色く粘稠な痰・胸痛・胸苦しい・生臭い息・喉の発赤と腫脹などが生ずる。

喉や口の乾燥や呼吸促迫の肺炎・コロナ肺炎には、清燥救肺すべきで清燥救肺湯を用いる。

清燥救肺湯せいそうきゅうはいとう:清肺潤燥:肺炎・燥熱の邪による乾咳・無痰に使用し、鎮咳・袪痰・解熱:咽痛・気管支炎・気管支拡張症:桑葉3 石膏5 人参1 胡麻仁3 阿膠2 麦門冬3 杏仁2 枇杷葉3 炙甘草1。

風邪の症状が無いのに、長くつづく嗄声の原因は、陰虚の体質であったり慢性疲労による消耗・化熱で肺腎陰虚という、肺腎の津液が不足したため虚火が上炎して咽喉を灼傷するためである。喉の酷使でも部分的な津液不足となり嗄声となる。

滋陰降火湯:滋補肺腎・清熱(風邪の時の乾咳にもつかう):当帰 白芍 生地黄 熟地黄 天門冬 麦門冬 白朮 陳皮 黄柏 知母 炙甘草 生姜 大棗:肺腎陰虚に滋陰降火湯:腎陰虚に症状の重点があれば肺腎陰虚の八仙丸・八仙長寿丸・麦味地黄丸:六味丸+五味子・麦門冬。六味丸:地黄8 山茱萸4 山薬4 沢瀉3 茯苓3 牡丹皮3:三補三瀉の作用がある。生脈散合六味丸でもよい。

腎陰虚によって生じた肺燥に潤燥清熱作用のある寒・滋腎陰薬の天門冬・玄参が適している。

麦門冬・麦冬:ユリ科ジャノヒゲの塊状根:甘微苦微寒:潤燥生津・化痰止咳:性質が滋潤で、肺を滋補し乾咳には良いが痰を生じ易いので解表には不利。

肺腎陰虚の薬の八仙長寿丸・八仙丸:医級:肺腎陰虚:地黄・山茱萸・山薬・沢瀉・茯苓・牡丹皮・五味子・麦門冬(六味丸+ 五味子・麦門冬)

肺気陰両虚を呈する時は、益気養陰するために四君子湯合八仙丸や補中益気湯合八仙丸とする。(六君子湯は化痰作用があるので乾咳には不適で痰のある喘息の緩解期に適応する:補気健脾・理気化痰)

声帯ポリープで、嗄声が生ずるのは気滞痰凝・気滞血瘀で喉の脈絡が阻塞されて生ずる。
嗄声が時々生じ、喉を酷使する教師や歌手が肝鬱気滞血瘀を生じて声帯ポリープができやすい。肺腎陰虚なのに声帯を酷使していると声帯ポリープが生ずる。

声帯ポリープが血瘀が主ならば活血化瘀で血府逐瘀湯や血府逐瘀湯合八仙丸・血府逐瘀湯合麦門冬湯・血府逐瘀湯合滋陰降火湯で、化瘀し滋補肺腎・清熱する。

気滞痰凝の嗄声なら半夏厚朴湯が気滞痰凝きたいたんぎょう に適応する。精神的なストレスが加わると、人体の気は停滞する。気には津液をめぐらす作用があるので、気の停滞によって、津液も停滞する。そのため、痰が凝滞するのである。半夏厚朴湯や半夏厚朴湯合血府逐瘀湯・半夏厚朴湯合桂枝茯苓丸とする。

響声破笛丸:連翹 桔梗 甘草 縮砂 川芎 阿仙薬 訶子 薄荷:斂肺利咽・清利咽喉・清熱消腫・活血行気:証を考えずに処方してもよいが効果が少ない場合は、上記の弁証論治を用いる。

訶子:シクンシ科ミロバランの成熟果実の乾燥:苦・酸・平:斂肺利咽・渋腸止瀉:慢性の下痢と咳嗽の生薬。

阿仙薬・児茶・孩児茶・鉄児茶・珠児茶:マメ科孩児茶の樹枝を乾燥し、水煎液を濃縮乾燥:苦渋平:肺経:収斂・消炎・止血作用。

薄荷:辛涼:理気解鬱・疏散風熱・清利咽喉・透疹:熱炎症を冷ます:ハッカやエキナケア含有の飴はストレスを発散し咽痛を治す。

縮砂しゅくしゃ(別名:砂仁さじん):ショウガ科縮砂の成熟果実:辛温:理気寛胸:健胃(消化解鬱剤):寒湿による下痢。

連翹:レンギョウの果実:苦微寒:清熱解毒・疎風清熱・消腫排膿

桔梗⇒苦、辛。平。肺経に入る。 宣肺袪痰、排膿消腫、引経上浮。

川芎:活血行気・袪風止痛・頭痛薬・薬を頭部に運ぶ作用:袪風活血薬