清心蓮子飲:方函口訣
清心蓮子飲
:和剤局方:益気滋陰・清心火・利水:適応は陰虚火旺・気陰両虚・心火旺:蓮子(蓮肉)4 人参3 黄耆2 茯苓4 炙甘草2 麦門冬4 黄芩3 地骨皮2 車前子3
清心蓮子飲(太平恵民和剤局方:局方)
方函
心中煩躁し、思慮過度により、憂鬱・抑鬱で肝の疏泄が阻滞すると、小便は血尿で赤く濁り、あるいは沙漠あり。(沙漠サバク:尿に砂のような石のまじること)
夜夢で夢精(遺精)し、尿はたらたらと漏れ渋痛し小便は赤くなる。
或は、酒やセックス過度により、上盛下虚(水が木を灌せずして肝風が内動し、肝陽が上亢して、上盛下虚となり眩暈等を生じる)となり、心火上炎となる。
(心火上炎:心臓本経の虚火上昇をさす。心熱火旺の病変をさす:虚火と実火にわけられる:主症状は舌瘡・心煩・不眠・怔忡不安・狂躁譫語・喜笑して止まない)
怔忡:持続する動悸
(「肝火上炎」は、耳鳴り、耳聾、目赤・面紅・頭痛・口苦、めまい、高血圧、ふわっとする軽いめまい。竜胆瀉肝湯・加味逍遙散・大柴胡湯)
肝火上炎の繁用処方は、加味逍遙散や竜胆瀉肝湯・大柴胡湯である。
肺金は傷られるので口苦咽乾となる。(胆火上炎により、口が苦い・咽が乾く・目が眩むようになる)
そしてだんだんと消渇となる。
(消渇:しょうかち:しょうかつ:消癉:多飲・多食・多尿の症状が特徴。臓腑燥熱・陰虚火旺して生ずる消耗性疾患。治法は滋陰・潤燥・降火の法)
手足はだるくなり、男子は五淋となる。(五淋:排尿異常の総称。気淋・石淋・膏淋・労淋・血淋をいう)
女子は帯下(おりもの)が赤白となり五心煩熱する(五心:掌心・足心の裏・胸の五カ所)が熱苦しくなる症状を清心蓮子飲は治す。
清心蓮子飲の性質は温平で、心を清し、神(精神・意識)を養い、精を秘す。(精液・精:生命力を漏れ出ないようにする)
清心蓮子飲の生薬:蓮肉(蓮子)・人参・黄耆・茯苓・麦門・地骨皮・車前子・黄芩・甘草 以上九味
蓮肉レンニク・蓮子:清心益腎・健脾止瀉・益腎固渋・収斂・鎮静・軽度の滋養・清心火・清熱・心腎不交(黄連阿膠湯)
心腎不交の症状:煩躁・睡眠時不安・動悸・煩熱・口乾・尿が濃い・夢精(黄連阿膠湯・桑螵蛸散)
人参:大補元気・安神益智・健脾益気・生津せいしん:潤いを生じる
黄耆:補気升陽・固表止汗・利水消腫・托毒排膿
茯苓:利水滲湿・健脾和中・寧心安神
麦門冬・麦門:潤燥生津・化痰止咳:ユリ科ジャノヒゲの塊状根
地骨皮じこっぴ:ナス科クコの根皮:甘淡寒:肺腎系」清熱涼血・退虚熱:虚熱・労熱に用いる
車前子:オオバコ科オオバコの成熟種子:利水・通淋・止瀉・明目・袪痰止咳
黄芩:清熱解毒・抗菌・解熱・消炎作用
甘草:健脾益気(補気健脾)・緩急止痛・諸薬調和
以上九味
口訣
清心蓮子飲は、上焦に虚火が上亢し、下元(下半身)は弱り、気淋(排尿異常)となり尿は白濁する症状の者を治す。
また、遺精の症状に桂枝加龍骨牡蠣湯の類を用いて効果が無い者は、上盛下虚に属すので清心蓮子飲がよい。
桂枝加龍骨牡蠣湯:陰陽双補・補腎安神:桂枝湯+竜骨・牡蠣、各3g
(遺精:遺泄・失精ともいう:夢で遺精するは夢精と言い、日中に漏らすものを滑精という:主に心腎不交・相火熾盛・腎気不固・湿熱下注などにより起こる)
もし心火熾盛で妄夢失精する者は、竜胆瀉肝湯がよい。
(妄夢失精:男子は夢精し、女子は夢で性交す)
竜胆瀉肝湯:疏肝解鬱・瀉火・利湿・補血:肝経湿熱:陰部の腫脹:竜胆草 柴胡 黄芩 山梔子 木通 車前子 沢瀉 当帰 地黄 甘草
もともと清心蓮子飲は、胃腸を調和することが主である。
そのため現代医学の病名の淋病や軟性下疳には使えない。
また、後世方の五淋湯、八正散(木通、車前子、萹蓄、瞿麦、滑石、甘草、大黄、山梔子)を用いる場合よりも虚証の者にもちいる。
「名医方考」には労淋にも効果があるとされている。
労淋:労動力作して排尿異常を生ずる者
加藤謙斎は、小便余瀝の者に清心蓮子飲を用いる。(小便余瀝:排尿後もたらたらと漏れる症状:清心蓮子飲を用いる)
浅田宗伯:余が数年この方剤の使用を経験したが、労動力作して淋(労淋・排尿異常)を生ずる者と疝家(腹痛する者)などで、小便はかなり通じるが、残尿感があってすっきりしない者に清心蓮子飲は効果がある。
(疝家センカ:疝を生ずる者:水気・冷え・瘀血による痛み:腹の痛む病気:発病は肝経と密接な関係があり「諸疝 皆肝に属す」と言われる)
また、咽が乾いて小便余瀝の症状があるものはなおさら清心蓮子飲が的当である。(的当=適当、労動と労働は異なる)
「(外科)正宗」の主治の解説は的当ではない。
以上、方函口訣の解説
用語の説明
心腎不交:夢を見ていて遺精し、頭暈、心悸、神経疲労、小便黄で量は少なく排尿時に熱感がある。黄連阿膠湯:心腎不交:黄連3 黄芩2 白芍3 阿膠3 鶏子黄1個をもちいる。桑螵蛸散
相火熾盛:陰茎(陽茎)が勃起しやすく、口乾き、舌は赤く、頭昏く、目眩し、耳鳴り、腰の怠さがある。知柏地黄丸など
知柏地黄丸:滋補肝腎・清熱瀉火:知母 黄柏 地黄 山薬 山茱萸 沢瀉 茯苓 牡丹皮:陰虚火旺に適用する地黄丸
腎気不固:精液が漏れ易く(遺精)、顔色白く(高齢者に見られるが妙に色白でツヤが無い皮膚)、精神疲労、頭眩、腰がだるい、脈沈弱。腎気不固の治法:固腎渋精:金鎖固精丸・縮泉丸・桑螵蛸散
金鎖固精丸(医方集解):蓮鬢レンシュ3 潼蒺蔾トウシツリ3 芡実4 竜骨6 牡蠣5 蓮子3
蓮鬚レンシュ:ハスの花芯:甘平渋:遺精・白色帯下・頻尿:金鎖固精丸
潼蒺蔾トウシツリ:マメ科の扁茎黄芪の成熟種子:甘温:肝・腎経:補腎固精・養肝明目:菟糸子とほぼ同じ:遺精・早漏・神経衰弱・肝腎不足による視力障害:白内障初期に補腎明目散
潼蒺蔾とうしつり・白蒺藜・沙苑蒺藜は現在の沙苑子であるマメ科の 成熟種子:マメ科:甘温:肝・腎経:補腎固精・養肝明目:遺精・早漏・神経衰弱:補腎明目散
蒺蔾子しつりし・白蒺蔾・刺蒺蔾:ハマビシ科ハマビシの果実:辛苦微温:肝経:疏肝熄風・行瘀袪滞・解鬱・明目・止痒:降圧・鎮静・眼科の常用薬
補腎明目散:潼蒺蔾 石菖蒲 女貞子 生地黄 菟糸子 夜明砂を細末とし毎回4gを水煎服用;白内障初期
芡実けんじつ:スイレン科芡の成熟種子の仁:甘渋平:脾・腎経:健脾止瀉・補腎固精・袪湿止瀉:金鎖固精丸
縮泉丸:婦人良方:烏薬 益智仁 山薬
天台烏薬散の烏薬うやく:クスノキ科テンダイウヤクの根:辛温:行気止痛・散寒温腎
桑螵蛸散:調補心腎(心腎不交)・固精止遺・固脬縮尿コホウシュクニョウ:下元虚冷・腎虚不摂:頻尿・遺尿・尿失禁・遺精・滑精・頭昏・健忘・舌淡・脈細無力
脬ホウ:膀胱・ゆばりぶくろ:固脬コホウ:膀胱を固める
湿熱:口苦、小便赤、舌苔黄などをともなう。竜胆瀉肝湯:肝経湿熱の薬
桑螵蛸散:桑螵蛸・遠志・菖蒲・竜骨・人参・茯神・当帰・醋炙亀板粉末にし1日3回2gを人参湯で服用する:固腎渋精止遺し補腎・益気安神し心腎不交の心腎を交通させる。
人参湯:温中散寒・補気健脾:人参 白朮 乾姜 甘草
桑螵蛸そうひょうそう:カマキリ科ハラビロカマキリの巣を炙る:甘鹹平:肝・腎経:補腎・固精・縮尿:桑螵蛸散は夜尿症・頻尿・遺尿・尿失禁・遺精・滑精・頭昏・健忘を治す
遠志:安神・袪痰・消癰(遠志は安神薬)
菖蒲しょうぶ:サトイモ科ショウブの根茎:芳香開竅・逐痰袪濁・鎮静:心竅を開き、人参・当帰の補を得受せしむ
茯神:茯苓が松の根の周りを包む部分で鎮静作用が茯苓よりやや強い。茯苓は松の根などに寄生する菌核
亀板:ツチガメ科クサガメの腹部甲羅・背部甲羅:滋陰潜陽・強筋骨・涼血補血・止血
竜胆瀉肝湯:疏肝解鬱・瀉火・利湿・補血:肝経湿熱:陰部の腫脹:竜胆草 柴胡 黄芩 山梔子 木通 車前子 沢瀉 当帰 地黄 甘草
竜胆・胆草:リンドウ科トウリンドウの根茎と根:苦寒:清熱燥湿・瀉火定驚:肝胆実火・健胃・難聴・排尿痛
木通モクツウ:アケビなどの木質茎:苦寒:降火利水・通乳
車前子:オオバコ科オオバコの成熟種子:利水・通淋・止瀉・明目・袪痰止咳:牛車腎気丸
沢瀉:サジオモダカの塊茎:甘・寒:利水・滲湿・清熱
滲湿しんしつ:滲とは濾過するの意味。滲利、滲泄、滲透などはすべて滲出濾過させ、湿気等が停まらないようにすること