2020/10/30 改訂2020/11/2 改訂2021/1/18 2021/1/28 2022/12/13 2023/3/1改訂
膝痛
膝痛の 処方:八味丸・牛車腎気丸・真武湯・六君子湯・補中益気湯・桂芍知母湯・麻杏薏甘湯・防已黄耆湯・苓姜朮甘湯・独活寄生湯・苓姜朮甘湯合十全大補湯
膝は骨なので、膝痛は腎と関係がある。
慢性疲労や長期の精神的ストレスなどで生じた腎虚から膝痛になる。
(漢方の生理学:腎は骨を主どる)
手足は脾であるので、脾(胃腸)と膝痛も関係する。
食事の不摂生や飲酒の過多・疲労によって胃腸機能の低下が生じて膝痛が生じることがある。
(漢方の生理学では、脾の症状は手足に現れるので、手の平が触るとフニャフニャでしまりがない。触り心地は良いが正気が不足状態。胃腸等の元気が良いと拇指球がパンパンに張っている)
膝の周りの筋や筋肉が痛むのは、肝とも関係しているので、膝痛は肝と関係している。
肝は肝鬱血虚となりやすく、ストレスから膝痛が生じていることが多い。
家庭内のストレス・生病老死のストレスから膝痛が生じる。
漢方の生理学では、「肝は筋を主どる」ので、筋が関節周囲でアンバランスに拘縮すると膝痛が生ずる。
つまり膝痛は、腎・脾(胃腸)・肝(ストレス)と関係している。
腎虚では下半身のおもだるさ(腰膝酸軟)や膝がガクガクする。
腎虚の症状:体が冷える・寒がり・足冷・面色蒼白・面色晦暗かいあん。顔色が淡白又はどす黒い・頭暈・眩暈・耳鳴り・難聴・腰膝酸軟無力・尿量増多・尿後余瀝・失禁・遺尿・尿閉・性機能減退・腫痛。
腎虚では膝痛になりやすいが、
腎陽虚(慢性疲労で冷え症の状態)では、膝に冷たい風が当たると膝が痛くなる。
関節から何度も水を抜くと陰虚(部分的な栄養失調で潤い不足となり熱を生ずる)になる。
何回も膝の水を抜いていると膝が栄養不足で化熱し熱をもってきて(陰虚による虚熱の発生)、反って痛みが出ることがある。
膝の水を抜くと陰虚状態(気血両虚・腎の陰陽両虚)になるので、膝痛や膝の腫れは、自然には治りにくくなる。
冷え症である陽虚の膝痛は、あまり腫れないが、腫れても柔らかく冷たいのが特徴。
陽虚では、もともと足冷の症状がある。
陽虚の膝痛の皮膚の色は通常の皮膚色で赤くならないで青白いこともある。
陽虚では冷えたり疲れると症状は悪化し、休息すると楽になり、温めると楽になる喜暖・喜按である。
喜按と喜暖は異なる:温めると楽になるのは喜暖で、触っていたり、擦ると楽になる喜按は虚証である。隠痛には体を補う補法をもちいる。
隠痛:ジワジワする痛みやズーンと痛む痛み方で、隠痛は虚証で現れる。痛みは一日中は続かず、夜中も痛まず、虚証であるので原則は喜按であり手を当てていると楽である。
陽虚の膝痛には八味丸や正確には牛車腎気丸だが、胃腸が弱いと八味丸ではすべてが悪化する。そのため、胃腸が弱ければ真武湯をつかう。
温化水湿剤の真武湯:回陽救逆・温陽利水(陽虚水泛に適応):
附子1 茯苓5 白朮3 白芍3 生姜3。
真武湯を使っても胃腸の状態が悪ければ、真武湯に六君子湯や補中益気湯を合方する。真武湯合六君子湯、真武湯合補中益気湯とする。
八味丸・八味地黄丸:温補腎陽・補陰陽:
熟地黄・山薬・山茱萸・沢瀉・茯苓・牡丹皮・桂枝・炮附子
八味丸(六味丸+桂枝・炮附子)
牛車腎気丸:八味丸加牛膝・車前子(生薬の牛膝は膝の形をしているが、膝の痛み止めによく使う)
牛膝ごしつ:袪瘀止痛・活血通経・補益肝腎・薬を下行させる引経薬。牛膝は膝の形をした生薬である。
六君子湯:人参4、白朮4、茯苓4、甘草1、半夏4、陳皮2、乾姜0.5、大棗2
補中益気湯:補気健脾・昇陽虚寒・甘温除熱:黄耆4、甘草1.5 人参4 当帰3 陳皮2 升麻0.5 乾姜0.5 柴胡1 白朮4 大棗2:疲れると発熱する気虚発熱(小建中湯も使う)にも用いる。
小建中湯:桂枝4、白芍6、大棗4、生姜4、甘草2、膠飴20g:小建中湯:腎虚・肝血虚・脾虚の同時存在の色色な症状に応用する。
真武湯は腹痛下痢や痛みにも、浮腫にも、風邪薬を飲んだ後に真武湯証に転落した状態にも使うという幅広い作用があり使いやすく、足が冷える腎陽虚に使う。
真武湯:回陽救逆・温陽利水:
附子1 茯苓5 白朮3 白芍3 生姜3。甘草ははいっていない。
膝に溜まった水を抜きすぎると、陰虚になって西医ではほとんど治らない。腎陰虚になって、膝が異常なほど腫れあがり、疲れると腫れは悪化する。これには桂芍知母湯をつかうと治る。
桂芍知母湯は、患部の関節だけが腫れて変形し熱をもっているが、周囲の皮膚は冷たいという場合に使う。
桂枝芍薬知母湯けいしゃくちもとう:散寒袪湿・止痙刺痛・清熱:寒湿痺の熱痛:
桂枝3 白芍3 防風3 白朮4 知母3 附子1(先煮) 麻黄3 炙甘草2 生姜3:
関節に発赤・熱感・疼痛があり、全身的には熱証のない寒熱挟雑に適応する。
脾は湿気を悪にく むので、胃腸が悪くなると、あるいは食べ過ぎ・ムラ食い・水分の摂りすぎ・お茶の飲み過ぎ・飲酒過多で湿気が体にたまると、脾虚湿滞あるいは脾虚痰飲となる。
風にあたると体の中の湿気が関節に溜まりやすいので膝痛になる。
風湿痺の足痛に蠲痺湯の加減:医学心悟:
羗活 独活 肉桂 秦艽 当帰 川芎 甘草 海風藤 桑枝 乳香 木香
草むしりなどで汗をかいて風にあたると、膝が風湿によって腫れ上がる。
湿気は重怠さをもたらし、風邪のために痛みが移動するようになる。
湿気をとるのは麻杏薏甘湯で、天気が悪くなると膝痛がひどくなる場合に適応する。
外感風湿に麻杏薏甘湯:袪風湿・解表・止咳平喘:
麻黄4 杏仁3 薏苡仁10 炙甘草2:
風湿の表証で浮腫に使用・風湿が化熱して熱をもったものに使用・イボに使用・雨に濡れてひいた風邪に使う。
移動する風邪フウジャ をとりのぞくのは防已黄耆湯で、部位の移動が激しい場合には防已黄耆湯を使う、あるいは麻杏薏甘湯と合方する。
麻杏薏甘湯は、もともと胃腸と関係がある処方で、口乾があり水気をよくとる人に使う。
つまりお茶や水分・お酒をよく多くとっている人が、たまたま草むしりをして風湿に外感すると膝痛となる。
川を徒渉したり、雨に濡れて風にあたると膝痛になる:麻杏薏甘湯が適応する。
麻杏薏甘湯に含まれる薏苡仁は胃腸の薬であり、湿気をさばく利水滲湿作用があるので関節の浮腫に効くとされるが、麻黄・杏仁と一緒に使うことで浮腫に効果が出てくる。
外感風湿に麻杏薏甘湯:袪風湿・解表・止咳平喘:
麻黄4 杏仁3 薏苡仁10 炙甘草2:
風湿の表証で浮腫に使用・風湿邪が化熱して熱をもったものにも使用(天気が悪くなると風湿の外邪のため痛みが悪化する膝痛)
(参考)麻黄湯:麻黄5 杏仁5 桂枝4 甘草1.5
麻黄附子細辛湯:陽虚の表寒:麻黄4 附子1 細辛1
苓甘姜味辛夏仁湯:茯苓4 炙甘草2 乾姜2 五味子3 細辛2 製半夏4 杏仁4
五味子:斂肺滋腎・生津せいしん斂汗・渋精止瀉:飛び出す咳や鼻水や汗を、肺を引き締めて止める鼻炎や咳嗽に使う。
細辛:辛温:発散風寒・袪風止痛・温肺化飲。
煨生姜・乾姜:未発芽の煨生姜わいしょうきょう・ひねしょうが:大辛・大熱:心肺脾胃腎経:温中散寒・回陽・温肺化痰・健胃・止嘔:呉茱萸とともに用いて寒が中焦に凝集した状態に適応する。
薏苡仁:ハトムギ:甘淡微寒:利水滲湿・清熱・排膿・除痺・健脾止瀉。
防已黄耆湯は、炎症や発赤や熱感の無い関節水腫や移動する痛みに使う:適用には自汗であることが必要。
自汗:暑さに関係なくしきりに汗をかくこと。太っていて腠理の粗いものがこれを患う:カゼの時 手の平や脇の下・首筋がしっとりしているのは自汗である
防已黄耆湯:黄耆5~10 木防已5 白朮3 生姜3 炙甘草2 大棗3:
補気健脾・利水消腫・袪風止痛・自汗の場合に使用:健脾で胃薬や袪風で風邪薬でもある。
黄耆:補気升陽・固表止汗・利水消腫・托毒排膿
托:タク:手に物をのせる・物をのせる台・ひらく・拓に同じ
托毒排膿:毒を開いて膿を排出する。
木防已:ウマノスズクサ科広防已の根:利水消腫(肺水腫・胸水の利水)・袪風止痛(風邪薬・鎮痛剤):袪風利湿・清熱。
木防巳湯:支飲(胸部の痰飲)・肺水腫の呼吸困難・尿量減少・口渇・発熱・利尿・鎮静・消炎・軽度の強心:
鬱血性心不全・肺水腫・心臓喘息・胸水:利水滲湿・益気・清熱:
木防已4 桂枝2 党参4 生石膏6。
麻杏薏甘湯と防已黄耆湯は作用点が異なり、湿気と痛みの移動がある場合は合方すべきである。
麻杏薏甘湯は重怠さが主体で疲労で赤く熱をもって腫れるが、
防已黄耆湯は関節は赤くはならないで腫れて痛み、または痛みは移動する。
膝痛のいままでの処方:八味丸・牛車腎気丸・真武湯・六君子湯・補中益気湯・桂芍知母湯・麻杏薏甘湯・防已黄耆湯で、ほとんどの膝痛は治るが、「寒湿」の膝痛(苓姜朮甘湯)は治らない。
苓姜朮甘湯:別名は腎著湯じんちゃくとう:袪湿散寒・止痛:寒湿の腰痛:
茯苓6 乾姜3 白朮3 甘草2:
冷えは下半身にある:人参は無く、茯苓は小便を出して腰や下半身を温める。
「寒湿」では、足が冷え・その湿気は胃腸と関係している。
寒湿で膝痛の人は、もともと水気をたくさん飲んでいるし、胃腸が丈夫ではない。
湿気の原因はお茶が多く、「冷え」や「湿気」が体内に生じ、湿気は下に溜まる性質があるので下半身がとても怠くなる。
湿気は重濁の性質があるので、痛みと重苦しさが生じる。
また、手足は冷たいが足の平は火照るようになり「寒湿」の膝痛がでてくる。
「寒湿」の膝痛は、天気が悪くなると悪化する(麻杏薏甘湯)。
「寒湿」の膝痛は、冷えと重苦しさと怠さで、温めると多少楽だが、寒湿は実証なので触っても楽にならない(拒按)。
人により腰から下が水に浸かっているような冷えた感覚の人がいて成書では防已黄耆湯を使うと書いてあるが、そのような時は苓姜朮甘湯を使う。
風寒湿邪による寒冷腰痛(苓姜朮甘湯などが適応)
苓姜朮甘湯・甘草乾姜茯苓白朮湯・腎著湯じんちゃくとう:袪湿散寒・止痛:下焦の寒湿に適応:
茯苓6 乾姜3 白朮3 甘草2:
寒湿の腰痛・クーラーの冷え症(五積散も適用)。
クーラーの冷え症には五積散も使う。五積散の内部に苓姜朮甘湯を含んでいる。
五積散は「風寒湿」:
1.腰冷痛、2.腰腹攣急、3.上熱下冷、4.小腹痛の四症が目標:
寒いと小便頻数となる人の神経痛・腰痛・手の痛みに効果がある:患部に熱感は無い。
:半夏2 陳皮2 茯苓2 当帰2 蒼朮2 白朮2 白芍1 川芎1 白芷1 枳穀1 麻黄1 桔梗1 乾姜1 肉桂1(桂枝1) 厚朴1 大棗1 炙甘草1
白芷びゃくし:辛温:袪風解表・止痛・消腫排膿・燥湿止帯、激しい燥性:セリ科ヨロイグサなどの根:辛温:肺胃経:中枢の興奮・寒湿を温燥する・鎮痛作用:その気芳香にしてよく九竅を通ず:発散作用が強い。
「寒湿」の膝痛・腰痛では、体はしだいに悪化して気血両虚という状態になり、神経痛・リウマチの発症につながる:独活寄生湯。
独活寄生湯:千金方:備急千金要方:袪風湿・散寒・補気血・益肝腎・活血止痛:肝腎両虚・気血両虚・風寒湿痺:葛根5 桂枝3 芍薬3 麻黄2 独活2 地黄4 大棗1 生姜1 甘草1
患部が重だるい・痛いと言う状態が、疲労・冷え・湿気(風寒湿邪で血虚)で悪化する。
風邪は疲労した状態(気虚・気血両虚)で犯されやすくなる。
そういう状態では独活寄生湯の適応である。
独活寄生湯の代用処方は苓姜朮甘湯合十全大補湯である。
疲労・冷え・湿気(風寒湿邪)で悪化する膝痛では独活寄生湯の適応。
痛み止めの使い分けは、
五積散は「風寒湿」で風邪薬でもある。
二朮湯は「痰湿」(五十肩)
三妙散は「湿熱」(痛風)
独活寄生湯は「寒湿・気血両虚」
苓姜朮甘湯は「寒湿」
桂枝人参湯は「風寒」
独活寄生湯:千金方:袪風湿・散寒・補気血・益肝腎・活血止痛:
独活2 防風2 桑寄生4 秦艽3 杜仲3 当帰3 白芍4 川芎2 熟地黄5 牛膝3 茯苓3 党参3 細辛1 肉桂0.5(沖服) 炙甘草1:リウマチにも用いるが、これだけではリウマチに効かない。
独活:袪風湿・通経絡:特に項背部の筋肉や下半身の関節の風湿を去る・臀部の痛み・両足のしびれ:
セリ科のシシウド・ウコギ科のウド。
防風:セリ科防風の根:辛甘微温:膀胱肝脾経:袪風解表・袪湿解痙・止瀉止血:発汗・解熱・鎮痛:袪風の主薬・和食の付け合わせは毒消し作用がある。
桑寄生そうきせい:ヤドリギ:補肝腎・袪風湿・強筋骨・安胎:梅寄生バイキセイもある
秦艽じんぎょう:リンドウ科秦艽の根:袪風湿・退黄疸・除虚熱:陰虚内熱・骨蒸潮熱:三痺必用の薬:苦辛平:胃・肝・胆経:秦艽鼈甲湯・秦艽防風湯:痔瘻月光等
杜仲とちゅう:甘微辛温:補肝腎・強筋骨・安胎:杜仲茶。
十全大補湯:気血双補・補腎陽:
四君子湯+四物湯+黄耆・桂枝(肉桂):
気血双補・袪寒:桂枝が入っているので腎陽虚にも適応する。
黄耆:補気升陽・固表止汗・利水消腫・托毒排膿
桂枝:辛甘温:発汗解表・温通経脉・通陽化気・通陽利水:
桂枝は心臓を温めるので心不全に用いる・風寒を発表する風邪薬。
膝を打撲して赤く腫れ上がった膝は、冷湿布を最初は使うが、なおらない場合が多い。治らない場合は入浴して温まるとよくなる時は温める薬・温湿布をつかい、冷やして楽になるのなら冷湿布がよい。
しかし、患部だけ熱をもち腫れていて、体質は冷え症の場合は
桂芍知母湯を使うが、それは例外であり、通常は寒熱どちらかに傾く。
患部だけ腫れていて、それ以外の場所は冷えている場合は桂芍知母湯を使う。
桂枝芍薬知母湯:桂枝3 白芍3 防風3 白朮4 知母3 附子1(先煮) 麻黄3 炙甘草2 生姜3:
関節に発赤・熱感・疼痛があり、全身的には熱証はなく、むしろ冷え症の寒熱挟雑に適応する。
知母ちも:ユリ科ハナスゲの根茎:苦寒:清熱瀉火:滋腎潤燥:
白虎加人参湯:清熱瀉火・生津止渇・補気:気分熱盛:
生石膏15 知母5 生甘草2 粳米8こうべい 人参3:
消渇病しょうかちびょう の多飲・大汗・多尿で体重減少が少ない人:つまり陰虚ではない人。
発赤・熱感が強く、夜間悪化には白芍・知母を増量し、赤芍・生地黄・忍冬藤を加える。
(香附子:カヤツリグサ科の浜菅ハマスゲの根:疏肝理気・調経止痛)
膝の痛みはいつも動き出しの時に痛み、膝が固まっていて伸ばす時に痛み、激痛の場合もあるが、その後は楽になる。これは湿気と関係があり下記の処方で治る。
膝痛の処方:八味丸・牛車腎気丸・真武湯・六君子湯・補中益気湯・桂芍知母湯・麻杏薏甘湯・防已黄耆湯・
苓姜朮甘湯・独活寄生湯・苓姜朮甘湯合十全大補湯