2023/4/15
肝臓の治法
肝は脇下にあり、胆は肝に附属し、肝胆は互いに表裏となし、
体においては筋を主どり、肝の状態は目の症状として現れる。
肝の経脈は足の大趾に生じ、下肢の内側を上行し、腹股を経て、毛中に入り、
陰器をめぐり少腹に触れ、上行して胃を挟み、脇肋に散布し、額を上行して督脈に巓頂で会する。
生理機能と病理変化に応じた治法は下記のごとし。
肝の蔵血作用:肝は人体の血液の貯蔵と調節を主どる。
人は睡眠と休息の状態の時に、一部の血液は肝の貯蔵に回流し、
活動時は、肝に貯蔵した血液を全身に到達するように搬出し、
各組織の需要に供給するので、肝臓と血液は密接な関係がある。
血分の病変は、多くは肝経の論治に従う。
血病は血虚、血滞、失血などの種類の類型がある。
血虚には補血調肝を行い、結滞血瘀は活血袪瘀し、肝血を蔵さずして失血する場合は、
涼血して止血するか、斂肝して止血する。
故に、補血、活血、止血は、血分の病変を治する基本法則である。
「心は血脈を主どる」ので補血、活血、止血などの方法は、
心ともまた密接な関係があり、心の働きと合わせて考慮すべきである。
肝は疏泄を主どる:肝は疏泄を主どるというのは、肝気は疏通し伸びやかに流れて昇発する生理機能がある。
その効能は肝気を和し「肝は条達を喜ぶ」の性質と分かちがたい。
肝の疏泄の効能が正常か否かは、直接的に人の精神情志活動と脾胃の消化機能に影響を与える。
疏泄の効能が正常なときは、気血はよく和し、心情も安定し肝の昂ぶりはおさえられる。
もしストレスを感じて肝が昂ぶり、肝の疏泄の機能が失調すると情志方面の異常の変化が引き起こされ、
その影響は胆汁の分泌と排泄に影響し、消化機能の不良となる病変が出現する肝胃横逆となる。
この種の病変の変化を称して、肝気鬱結といい、すべからく疏肝理気の薬を使い気機を調理すべきで、
それによって肝の疏泄の効能を正常に回復させる。
気機:気の運動形態で、主に、臓腑や経絡の昇降出入をさす、
ゆえに疏肝は、肝気鬱結の治療の基本原則である。
気滞の多くは、肝の疏泄失調によるので、理気薬の香附子・木香・枳穀・陳皮・青皮・鬱金・川楝子とともに、柴胡などの疏肝薬を配合して疏肝理気している。柴胡は疏肝薬である。
肝鬱は気鬱、気血とも鬱し、気鬱は寒に偏し、あるいは気鬱は熱に偏し、陰虚して鬱する・・などの異なる証型となるので疏肝の方法は、調気疏肝、解鬱温肝、調気活血、柔肝疏鬱じゅうかんそうつ などの異なった配伍形式をとる。
肝は筋膜を主どる:「素問・痿論」に曰く、「肝は体の筋膜を主どる」筋膜は、関節、肌肉に関係し、
主に人体組織の運動を主どる。
いわゆる「素問・痿論」に説く、「宗筋は骨を束ね機能や関節を利する」の説。
正常な情況下では、筋膜はすべて陰津を濡養し、血液を滋栄し、よく正常な運動を維持する。
もし陰津が損傷すれば、あるいは肝血が虚となれば、筋膜を濡養できなくなり、
痙攣、抽搐、眩暈、震えるなどの「動」の特徴的な病理変化を生ずる。
この種の現象は自然界の「風」の特性である。
ゆえに「素問・至真要大論」に曰く、「諸風掉眩は皆風に属す」。
通常は、まさにこの種の病変は肝風内動と称す。
掉眩とうげんの「掉」とは「震顫しんてん(振戦)」を指し、「顫動」「振動」ともいう。
「眩」は、眼黒(目の前が真っ暗になる)を謂う。
肝風内動の病理は、肝の昂ぶり肝陽上亢し、その熱盛によって動風し、また、陰虚は風を動かし、脾虚は肝を栄養せずして虚風内動するが、外風が引き起こす内風などとは区別する。
ゆえに鎮肝熄風、涼肝熄風、滋陰熄風、補脾解痙などの法で
あらかじめ肝の昂ぶり、陰虚、脾虚などを治療するべきである。
熄ソク:きえる・うずみび・やむ・おわる・きえてなくなる。
このほか、八綱弁証を根拠として、肝臓の寒熱虚実を弁証して施治する
温肝、清肝、補肝、瀉肝などの治法もある。
これらの基本治法を相互に配合して、処方の均衡をとるのが肝臓の種々の治法である。
胆は肝に附属し、内に精汁を蔵す。故に胆を称して「中精の府」という。
精汁はすなわち胆汁で、肝より生じ、胆に貯蔵され、胆管をへて腸に輸注され、飲食物の消化に参与する。
胆は六腑の一つに属し、六腑は通じるを用とし、通じ降りるをよしとするので、
胆病を治療するには清、疏、通、利をもちいる。
上述をまとめると、
第一に肝は血を蔵し、人体の血液の貯蔵と調節を主どる。
血液は流通を貴び、瘀阻されてはならない。
第二に、肝は疏泄を主どる。肝は胆汁を分泌し、胆汁は胆と胆管を経て腸中に輸入し、
脾胃が食物を消化するのを助ける。
胆汁もまた通じるを保ち、阻塞されてはならない。
第三に、胆と胆管は、肝の貯蔵と胆汁を輸送する器官であり、
のびやかに通じ阻むことがないのが正常で、阻塞は病変を生ずる。
故に肝胆の疾病を治するには、まさに疏・通の二字に着眼し、
肝と胆を分かつのではなく並行して治療すれば、高い治療効果が得られる。
肝臓の治法
温肝散寒法(肝寒に対する治法)
温肝散寒法は、もっぱら肝寒の証候に用いる。まさに「寒はこれを熱する」の治療原則である。
肝寒を引き起こす原因は二つある。
一つは寒邪直中であり、肝寒凝滞が生ずる。
臨床表現は、四肢厥冷、腹痛、爪が青紫色となり、或は陰嚢が縮み陰縮する。
或は腿やお腹が転筋・つっぱり、脈象が弦細あるいは沈細して絶えんとする。病勢は比較的急激である。
もう一つは肝臓本体の機能の衰弱で、陽虚陰盛となり、臨床症状は酷く怠く、疲労しており、鬱々として胆怯たんきょう し、四肢不温、脈沈遅で、発病は比較的緩やかであり、多くの症状は逐漸に形成される。
肝寒の証候を治療するには、川山椒、呉茱萸、桂枝、附子、細辛などの薬物を主として、
さらに疏肝理気の烏薬、香附子、を配伍し、益気養血の人参、当帰を加えて、共同して温肝散寒の方剤とする。
たとえば、当帰四逆湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、呉茱萸湯、呉茱木瓜湯、暖肝煎などは温肝散寒法となる。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯:温経散寒・養血通脈:腹痛・嘔吐の強いもの(呉茱萸・生姜):
当帰3、桂枝3、白芍3、甘草2、木通3、大棗1、呉茱萸2、生姜4。
呉茱萸湯:散寒止嘔・温胃止痛・健脾益気:頭痛・胃痛に:
呉茱萸3、人参2、生姜4、大棗4。胃虚寒の嘔吐・吃逆(胃気上逆)、寒飲上逆の巓頂部の頭痛。
寒邪が傷肝すれば、温薬辛散を用いる。
肝臓の本体が陽虚すれば温養に重きをおき、温肝の方法といえども、区別がある。
当帰四逆湯は桂枝、細辛などの辛散の薬を用い、外寒傷肝に対して設けられていて、
呉茱萸湯では茱萸の類と補気薬を配合していて、すなわち肝臓本体の陽虚に対して設けられており、
二者の選用配伍の方剤は同じではなく、方義にも差異がある。