2023/6/24 ©(有)文隣堂あつみ薬局 渥美光廣、2023
痰飲
痰飲:生もの・冷たい物・脂っこい物を好む人・酒や煙草をたしなむ人は痰飲を発生しやすい。
痰飲の基本症状は、眩暈、多痰、浮腫、嗜眠、小便不利、しこり、朝の起床時の顔のむくみ、疲労時の顔のむくみや手足のむくみ、咳払いで簡単に痰がでる,毎朝ゲーゲーと喉にへばりついた痰を吐こうとする音を発し隣の家にも聞こえる、閑な時すぐ眠くなる。
痰飲は、考え事をして食べる人、食べ過ぎ・飲み過ぎの人、お茶のみ婆さん・早食い・ムラ食いの人に生じ、毎朝ゲーゲー痰を吐こうとするのは「痰飲は朝に症状が悪化する」ため。
痰飲の症状:小便不利で、いつも顔がむくんでいる。飲み過ぎて寝不足した時の顔のむくみ。普段からめまいがしていつも頭重で、お茶をよく飲み、体重が減らない状態は痰飲である。
痰飲を取る基本処方は、
半夏5、陳皮4、茯苓5、生姜1:
桂枝+茯苓+白朮、
天南星てんなんしょう、白僵蚕びゃっきょうさん。
二陳湯:燥湿化痰:半夏5、陳皮4、茯苓5、生姜1、甘草1:
痰飲の基本処方
温胆湯うんたんとう(千金方):胃熱を冷まし痰飲・胃気上逆を治す:証は皆、胸痞 痰多、口苦して微かに渇し、舌苔黄じ、脈証 滑数或は弦数である:半夏4 陳皮3 竹筎3ちくじょ(竹筎は胃熱を冷ます)枳実2 茯苓4 甘草1大棗1 乾生姜1。
六君子湯:気虚挟痰のものあり、書に云う、「清陽昇らざれば、濁陰降りず」すなわち上重く下軽きなり、六君子湯これを主る。
痰厥たんけつ:厥症の一つ・痰盛気閉しておきる四肢厥冷ししけつれい で、重い場合は昏厥こんけつ(意識障害) をきたす。
抽薪飲・六君子湯・金水六君煎などを用いる。
六君子湯:補気健脾・理気化痰:六君子だが六味ではなく八味である(乾生姜・大棗はよく記載が省略される):人参4 白朮4 茯苓4 甘草1 乾姜0.5 大棗2 半夏4 陳皮1:
半夏・陳皮は行気・化痰作用。
痰飲症状の場合、
上部には苓桂朮甘湯・
中部(胃)には二陳湯や六君子湯
下半身には八味丸や六味丸を用いる。
苓桂朮甘湯:温化寒飲・通陽化痰・健脾利水:茯苓6 桂枝4 白朮3 甘草2:心陽虚に用いる:めまい・頭痛(包裹痛)・頭重感・のぼせ・肩こり(気逆)・足冷:もともと心臓の薬である:心不全に苓桂朮甘湯合補中益気湯。
二陳湯:燥湿化痰:半夏5、陳皮4、茯苓5、生姜1、甘草1:
痰飲の基本処方
逍遥散や加味逍遙散は、肝鬱はあるが寒湿・痰飲の症状はなく、寒湿の症状が入ってくると逍遥散・加味逍遙散では取れないので、二陳湯:燥湿化痰:半夏5、陳皮4、茯苓5、生姜1、甘草1の処方の合方が必要となる。
痰飲による胃気上逆の症状:上腹部のつかえ(半夏瀉心湯・大柴胡湯)と苦悶感や疼痛・噯気あいき・吃逆きつぎゃう(呃逆あくぎゃくと同じ意味:しゃっくり)・よだれが多い・悪心・水様物の嘔吐。
半夏瀉心湯:和胃降逆・消痞・安寧・心火や胃熱(胃火)を冷ます精神安定剤:半夏5 乾姜3 黄芩3 黄連1 人参3 大棗3 炙甘草3:下利・軟便・嘔気・つわり・乗り物酔い・食欲不振・食べすぎ・不安感に使う。
黄連+黄芩で、心火(不安感)・胃火・胆熱を冷ます。
柴胡+黄芩は熱証が強い時の配合で、少陽病の基本処方の、柴胡+黄芩は肝胆の湿熱を取り、体を冷まし乾かす処方なので、脾虚の人や痩せた老人は肺陰虚になりやすく間質性肺炎を惹起するので長期使用は注意。
「肝炎には小柴胡湯」と西洋医学で小柴胡湯が多く使用され、間質性肺炎が多発した。小柴胡湯の長期使用には四物湯や六味丸を少量合方する理由は、共に潤す作用がある。
大柴胡湯:傷寒論の少陽病と陽明病の合病に適応:少陽病の七大症を示し、かつ強いイライラによる解鬱化火(竜胆瀉肝湯も)を治す・止嘔・心下痞硬(胃熱が原因)・清熱瀉下:熱を大黄・枳実で瀉下する。
少陽病・柴胡証の七症:往来寒熱・胸脇苦満・口苦・咽乾・目眩・黙黙不欲飲食・心煩喜嘔のどれか一症あれば柴胡剤の適用となる。
柴胡剤:小柴胡湯・柴胡桂枝湯・大柴胡湯・柴胡加竜骨牡蠣湯・柴朴湯・柴陥湯・柴苓湯など。
痰飲(甲状腺の腫れなどの癭瘤えいりゅう・しこり・甲状腺腫が痰飲で発生する)を兼ねる場合には、半夏厚朴湯を合方し加味逍遙散合半夏厚朴湯・柴胡加竜骨牡蠣湯合半夏厚朴湯とする。
痰飲の原因:肺・脾・腎の気化機能不足を考慮すべきである。
痰飲を取る基本処方は、半夏5、陳皮4、茯苓5、生姜1。
痰飲を除去するだけでは、本治(根本的な治療)たりえない。そこで、桂枝によって、脾胃の陽気を補い(桂枝の温陽化気作用)、痰飲発生の原因に対応する:苓桂朮甘湯など。
苓桂朮甘湯:温化寒飲・通陽化痰・健脾利水:茯苓6 桂枝4 白朮3 甘草2:心陽虚に用いる:めまい・頭痛(包裹痛)・頭重感・のぼせ・肩こり(桂枝は気逆を降逆する作用)・足冷:もともと心臓の薬である。
桂枝:辛甘温:肺心脾肝腎膀胱経:発汗解肌、温通経脈、通陽化気、「平衡降逆:桂枝、衝逆(上逆)を治するを主どるなり」(吉益東洞「薬徴」)
気逆:めまい・頭痛・頭重・のぼせ・肩こりなど;「平衡降逆:桂枝、衝逆(上逆)を治するを主どるなり」
釣藤散合平胃散:痰湿の肝陽化風を治す。
釣藤散:平肝潜陽・明目・補気健脾・化痰:釣藤鈎5 甘菊花5 防風5 石膏10 人参2 麦門冬5 茯苓5 半夏5 陳皮5 炙甘草2 生姜2:釣藤鈎と菊花は、平肝作用で肝鬱の薬。朝の頭痛は痰飲が原因。
釣藤鈎ちょうとうこう・釣藤鈎・鈎藤・鈎鈎・双鈎藤:アカネ科カギカズラの鈎棘のある茎枝:甘微寒::熄風定驚・平肝清熱・軽清透熱:のぼせを取り熄風する:平肝止痙・鎮静で、てんかん発作の抑制。
熄風そくふう:内風を消え去ること:熄ソク:きえる・うずみび・やむ・おわる・きえてなくなる。
平胃散の主治:脾胃陽虚・痰飲内停:眩暈、心悸、或は短気(息切れ)・咳嗽多痰、頭重痛、疲労倦怠、手足冷、胸脇脹満、心下逆満、胃部振水音(脾虚の症状)、大便溏(軟便・下痢)、小便不利。
苓桂朮甘湯:赤面症の原因は痰飲が原因で、水分や野菜や果物を多く摂るのに小便の出が悪い人に生じる。また胃腸の状態が悪くてのぼせて赤面症になる。本来、赤面症は半夏厚朴湯・知柏地黄丸。
赤面症:苓桂朮甘湯(痰飲・気逆が原因)・半夏厚朴湯(肝鬱・痰飲が原因)・知柏地黄丸(陰虚火旺)。
眼瞼あるいは手足の筋肉がピクピクとけいれんすることがある。これを筋惕肉瞤きんてきにくじゅん とよぶ。肝風によるものが多く、抑肝散などの適応である。しかし、痰飲によるものも少なくない。
筋惕肉瞤で眼瞼あるいは手足の筋肉がピクピクとけいれんするが、痰飲が原因の場合:苓桂朮甘湯・平胃散合五苓散(胃苓湯)。肝風によるものは抑肝散加陳皮半夏。
抑肝散加陳皮半夏:平肝熄風・補血活血・燥湿化痰・理気:釣藤鈎3 柴胡2 川芎3 当帰3 白朮3 茯苓4 甘草1.5 半夏3 陳皮3:肝風による筋惕肉瞤や痰飲による癭瘤えいりゅうにもちいる。
半夏厚朴湯の半夏・茯苓・生姜は、痰を去る痰飲の薬となる組合せ。
逍遙散:肝気鬱結・血虚・脾虚・湿邪:衝任不調:柴胡3 白芍3 当帰2 白朮3 茯苓3 生姜3 炙甘草2 薄荷1:月経病には衝任不調が関係するので逍遥散は必須:痰飲はとれないので半夏厚朴湯・苓桂朮甘湯・二陳湯などを合方する。
痰濁(胃気上逆)の小半夏加茯苓湯:痰飲の胃気上逆に適し、陰虚には燥性が強く陰虚を悪化させるため、妊娠嘔吐には頓服で使い傷陰を防ぐ:和胃降逆・化痰利水:半夏6 生姜6 茯苓5(痰飲を除く基本処方)。
痰飲を取る基本処方は、半夏5、陳皮4、茯苓5、生姜1。
包裹痛ほうかつう・帽子をかぶったような頭痛の頭冒感ずぼうかんや頭重は、湿邪・湿滞・湿熱・痰飲の症状。
包裹痛の原因は「湿」と「痰」であるが、「痰」が原因の場合は朝方に痛むのが特徴で、神経痛やリウマチで朝方に痛んだり、起床時に頭や首が痛くなるのはすべて「痰」が原因で二陳湯を合方する。
胃内停水で胃のポチャポチャ音は脾虚・痰飲・脾の陽気不足・中気下陥である。
痰飲の腰痛は、重苦しい痛みが多く、小便不利や痰多、眠いという症状がある。二陳湯合平胃散(平陳湯)を使う。
気滞の薬物:陳皮:辛苦温:理気健脾・燥湿化痰:気を巡らし健脾し乾かし痰飲を去る:半夏+陳皮は痰飲を去る。
肝鬱に痰飲があれば半夏厚朴湯が適応。
痰飲が原因の眩暈の場合は眩暈の種類はいろいろあり、
地面にひきこまれるような真武湯の強い症状や
苓桂朮甘湯のような軽いふらつき、天井がぐるぐる回るような眩暈など。
平胃散の主治:脾胃陽虚・痰飲内停:眩暈、心悸、或は短気(息切れ)・咳嗽多痰、頭重痛、疲労倦怠、手足冷、胸脇脹満、心下逆満、胃部振水音(脾虚の症状)、大便溏(軟便・下痢)、小便不利。
肝気上逆の釣藤散:平肝潜陽・明目・補気健脾・化痰:脾胃気虚・痰湿の肝陽化風に:釣藤鈎5 菊花5 防風5 石膏10(先煮)人参2 麦門冬5 茯苓5 半夏5 陳皮5 甘草2 生姜2。
釣藤散は後頭部の経絡に沿って薬が体に入り、体から痰飲(食毒・水毒)を取り除く作用がある。痰飲があるので眩暈・頭重・頭痛が起こるのである。
肝陽化風:のぼせ・ほてり・めまい・ふらつき・手足のふるえ・耳鳴り:肝風は内風であり、肝腎の陰液が極度に損傷し、肝の陽気が肝腎の陰液の濡養と制約を受けられなくなって肝陽上亢が悪化して発症する。
肝陽化風は、肝陽上亢が基礎にあり、脳卒中などの原因となるので、抑肝散・加味逍遙散・柴胡加竜骨牡蠣湯・知柏地黄丸・杞菊地黄丸・釣藤散・釣藤散合平胃散・安宮牛黄丸・牛黄清心丸・羚羊鈎藤湯・などで予防する。
肝陽化風は、肝陽上亢が基礎にあり、脳卒中などの原因になるので、抑肝散・加味逍遙散・柴胡加竜骨牡蠣湯・知柏地黄丸・杞菊地黄丸・釣藤散・釣藤散合平胃散・安宮牛黄丸・牛黄清心丸・羚羊鈎藤湯などで予防する。
牛黄清心丸:高熱・転々反側・意識障害・うわごと・けいれん・舌紅~深紅:急性熱病あるいは脳血管障害などで、高熱・意識障害に使用。
小児夜啼:小児の夜泣きで心熱が原因なもの。症状は顔赤く、涙多く、泣き叫んで止まず、夜になるとますます激しくなることがある。清熱鎮驚の法:導赤散加減。別に宇津救命丸・牛黄清心丸を服用。
導赤散どうせきさん:心火を清熱利水:苦寒性が強い:淡竹葉4 生地黄6 甘草梢2。
竹筎は胃熱を冷まし清熱化痰し、淡竹葉は心火をさまして煩熱を除く。
竹筎ちくじょ:イネ科ハチクの第二層皮:甘微寒:肺胃経:清熱化痰・止嘔:竹筎は胃熱を冷まし清熱化痰し、淡竹葉は心火をさまして煩熱を除き小児夜啼などを治す。
脾虚は痰飲(六君子湯)を生じ易いため体は軟体動物になりやすく、やわらかい体になる。肝鬱血虚は、筋がこわばり手指は硬くややこわばった状態になる。
「脾は生痰の源たり」とあるように、脾虚では湿が積集して痰が生じ、痰飲が動くと風が生じ易くなる。
風痰の手顫の原因:経絡内に痰飲が深伏することで発症する。
足首のむくみは湿邪が激しい状態で、さらに痰飲の症状もあり、かなり浮腫んでいる。胃腸を丈夫にすると細くなる。
柴胡加竜骨牡蠣湯は燥性が強いので痰湿をともなうものに適する:柴胡5 黄芩3 半夏4 生姜3 人参3 茯苓3 大棗3 桂枝3 竜骨3 牡蠣3 大黄1:肝陽上亢・肝風内動・のぼせ・めまい・肝気鬱結(体が重だるい、不安感、動悸)
生姜・半夏は、脾胃の気虚から生じた痰飲を除く、同時に胃気の上逆(吐き気・嘔逆・つわり)を引き下げる。