小青竜湯

小青竜湯証

小青竜湯証は、無汗の傷寒に罹患し、同時に水飲を兼ねた病証で、いわば外感内飲証である。

小青竜湯証について、「傷寒論」では・・

「傷寒、表解せず、心下水気あり」と概括している。

「傷寒、表解せず」とは、悪寒、発熱、無汗、身疼痛などの

太陽傷寒の表証が存在していることを言っている。

「心下に水気あり」とは、もともと水飲が内停して胃を犯し、

胃気が降らないので、胃気上逆して嘔気となる状態を指している。

「胃気は降るのが正証」である。

小青竜湯証の「外感内飲」は、内飲が上の肺に影響し、肺気の宣散粛降が失調して咳喘が起こる。

内飲の水邪は常に変動しているので、気機の昇降に従って到るところに異常が起きる。そのため小青竜湯証の症状は特に多い。

小青竜湯証の水飲が、腸に及べば下痢となる。

小青竜湯証の水飲が、膀胱に貯まって膀胱の気化作用が失調すれば、「水邪が内停」して小便不利となって、下腹部の腹満が起きる。

小青竜湯証の水邪が上に鬱滞すると、気機の流注が阻まれて咽がつまり息苦しく呼吸困難となる。

小青竜湯証の水飲が内停して、気が津液を生じないと口渇が起きるが、通常は不渇である。

気化:広義には人体の生理的な物質転化(転換)の機能を指す。

狭義には三焦の体液調節作用を指す。

つまり

肺の機能による精微物質や津液の全身への散布や、

脾胃による吸収と運化、

腎と膀胱による水代謝と尿排泄する機能である。

小青竜湯証は、無汗の傷寒と寒飲の病なので、

「脈弦、苔白滑、咳喘とともに稀薄な泡沫状の痰を吐出する」。

これらの脈証は小青竜湯証の弁証に重要である。

小青竜湯によって、外は風寒が解し、内は水飲が除かれる。

小青竜湯:無汗・辛温解表・温肺化痰・平喘止咳・利水:

麻黄 桂枝 乾姜 白芍 甘草 五味子 細辛 各3g 半夏6:

小青竜湯:寒がって背中がゾクゾク(悪寒)・四肢冷・溢飲の浮腫・四肢や顔のむくみ(風水)・下腹部の腹満・くしゃみ・呼吸困難・泡沫状の白色痰・喘鳴・下痢・嘔気・顔色蒼白。

小青竜湯のアレルギー性鼻炎に適応は、無汗が重要で自汗には効かない、悪寒・発熱が同時に発し、背中がゾクゾクして熱がり・寒がり、顔がぼーっとして目がうつろ。サラサラした泡沫状の痰や鼻水が多く、常に鼻をかむ かつ小便不利または浮腫で顔がむくむ(溢飲)・下痢・下腹部の腹満・嘔気。

小青竜湯の麻黄は、風寒を発散し、平喘・利水する。

小青竜湯は、麻黄に桂枝を配して、通陽宣散の作用を増強する。

小青竜湯:麻黄 桂枝 乾姜 白芍 甘草 五味子 細辛 各3g 半夏6。

小青竜湯の、乾姜と細辛は、散寒し水飲内停を除く。

乾姜:大辛大熱:温中散寒・回陽・温肺化痰・健胃・止嘔。

細辛さいしん:辛温:発散風寒・袪風止痛・温肺化飲。

半夏は、去痰し、気の上逆を降す。

半夏・生姜(乾姜)は、胃気の上逆(吐き気)を引き下げる

甘草は正気を扶け胃を和する。

小青竜湯の薬味は、辛散のものが多く、正気を消耗するおそれがあるので、酸収の五味子(斂肺・斂汗・滋腎)を加えて肺腎の気を保ち、酸収微寒の芍薬でこれを助け、営陰を収斂して動血を防ぐ。

小青竜湯の乾姜・細辛・五味子の三薬の配合は、肺の水飲を温散し、止咳平喘の効果があり、張仲景がよく用いる、咳喘治療の薬物配合の一つである。

小青竜湯証は、寒飲が内伏しているので、一般に口渇はないが、

水飲が内停して、気が津液を生じないと口渇が起きる。

小青竜湯を服薬後、口渇が生じれば「寒去って解せんと欲する」の状態で、寒飲が消去して胃の陽気が回復した良い兆候である。

小青竜湯は、表寒内飲証だがそれ以外にもつかえる。表証がなくても寒飲咳喘の証候があれば使える。

小青竜湯の寒飲の症状:四肢冷・小便不利・溢飲の浮腫・四肢や顔のむくみ・下腹部の腹満・呼吸困難・喘鳴・泡沫状の白色痰・下痢・嘔気・不渇(口渇)。

溢飲(水液が体表に留まり、顔面や四肢などに浮腫の見られる病証)

風水:全身の浮腫をともなう状態:越婢加朮湯(無汗):疏風宣肺・利水・風水に適応:風水で息切れ・元気がない・自汗などの気虚がみられない時に使う。気虚の時は防已黄耆湯。

越婢加朮湯:疏風宣肺・利水・風水の浮腫みに適応・急性腎炎・初発は面部浮腫:麻黄6 石膏8 生甘草2 生姜3 大棗3 白朮4:急性腎炎のむくみを去る。息切れ・元気がない・自汗などの気虚には使わないで防已黄耆湯を使う。

小青竜湯は、「金匱要略」では、

溢飲(水液が体表に留まり顔面や四肢などに浮腫の見られる病証)や激しい咳のために仰臥できず物に寄り掛かっている証候などを治療するという記載がある。

小青竜湯証に、もし寒飲に化熱の兆候が現れ、煩躁の状態が見られれば、小青竜湯加生石膏とする。

つまり黄色痰や、肺炎には肺の熱をさます石膏を加える。

石膏の白は、五行色体表では肺に配当されて肺で効果を発揮し、石膏の性質から、肺炎などの肺熱を冷ます。小柴胡湯加桔梗石膏に用いられる。

生石膏:含水硫酸カルシウム:石膏:甘辛大寒:肺胃経:清熱瀉火・解口渇・除煩。焼石膏(硫酸カルシウム二水和物)とは異なる。

小青竜湯は弁証が正しければ応用範囲の広い有用な方剤である。

小青竜湯:辛温解表・温肺化痰・平喘止咳・利水:麻黄 桂枝 乾姜 白芍 甘草 五味子 細辛 各3g 半夏6。

ただし、小青竜湯は辛温解表で陽気をもたらし発散して肺を乾かし、傷陰してしまうので長期間の服用には適さない。アレルギー性鼻炎に半月も続けることは、傷陰動血のおそれがある。

傷陰:陰虚をもたらす。

掉眩:眩掉ともいう。眩暈し頭が揺れ、肢体が震えることで、多くは肝風内動で生じる。

小青竜湯は、傷陰動血のおそれがあるので、心臓喘息や肺結核に対しては慎重に用いなくてはならない。

動経どうけい:経脈に異常がおこり、血液の循環に変動をきたすこと。心臓発作を起すこともある。