©(有)文隣堂あつみ薬局 渥美光廣、2023
2023/6/21 12/23 12/25
.四肢強直:四肢の筋肉や関節の強直
1.風寒湿阻絡の四肢強直:防風湯・烏頭湯・薏苡仁湯・大防風湯
2.湿熱阻絡の四肢強直:加味二妙散・三妙散・当帰拈痛湯
3.風邪入侵の四肢強直:羚羊鈎藤湯・増液承気湯合玉真散の加減
4.痰火動風の四肢強直:安宮牛黄丸・至宝丹・清気化痰丸・半夏白朮天麻湯合六神丸。
5.肝陽化風の四肢強直:安宮牛黄丸・羚羊鈎藤湯・柴胡加竜骨牡蠣湯
6.肝腎両虚の四肢強直:加味六味地黄丸合三甲復脈湯の加減・杞菊地黄丸の加減。
7.血瘀気滞の四肢強直:補陽還五湯・十全大補湯合血府逐瘀湯
8.陽虚の四肢強直:桂枝加附子湯に血府逐瘀湯の活血化瘀薬を配合
内風とは、肝の昂ぶりや疲労などにより、肝陽が昇動して化風して内風が生じ、めまい・震顫しんてん・痙攣が生じたり、高熱から熱極生風ねっきょくしょうふう で、意識障害・ひきつけ・四肢の痙攣などが生じる、体内から生じた風の症候を指す:脳卒中のような症状。
1.風寒湿阻絡の四肢強直:痹証(しびれ痛み)が慢性化して筋脈が栄養されず、関節が固縮して屈曲ができない。風寒湿の外邪が経絡に侵入した痹証で、リウマチなど慢性化による気血の運行障害と疼痛のために、肢体の運動ができなくなって、そのため気血の凝滞がつよくなり、関節周囲の筋脈が栄養されないので、関節が拘縮して屈伸できなくなる。拘縮の予防と改善には風寒湿邪を袪邪し、かつ、リハビリが重要で、関節の無理の無い屈伸運動が必要。
2.湿熱阻絡の四肢強直:風寒湿阻絡と同様に、湿熱阻絡では痹証が慢性化して筋脈が栄養されず、関節が固縮して屈曲ができない。湿熱の外邪が経絡に侵入した痹証で、慢性化によるしびれや痛みなど気血の運行障害と疼痛のために、肢体の運動ができなくなって気血の凝滞がつよくなり、関節周囲の筋脈が栄養されないので、関節が拘縮して屈伸できなくなる。これには無理のない軽い全身運動が必要になる。
3.風邪入侵の四肢強直:風邪が化熱して経絡と臓腑に侵入して四肢の筋肉や関節の強直が発生。臓腑に侵入しているので重症である。
4.痰火動風の四肢強直:内風(脳卒中など)が原因で、突然に両側の四肢の過度の伸展と強直が生じ、屈曲できなくなり、頚項部も強直する(髄膜炎に似た症状)。
5.肝陽化風の四肢強直:内風が原因で、普段から肝陽上亢の症候がみられイライラしやすく、感情の激発によって突然の舌の強ばり・発語障害・呼吸が粗いなどの症状が生じ、つづいて半身不随あるいは両側上下肢の過度の伸展と強直が発生する。腕・指の関節は屈曲し、時にぴくぴくひきつる。舌質紅・脈弦数。
6.肝腎両虚の四肢強直:老化による衰弱や養生が悪いといった原因で、陰陽失調や肝腎の腎精不足のため虚風内動が生じて四肢の筋肉や関節の強直が発生する。
7.血瘀気滞の四肢強直:頭部外傷・出産時損傷・中毒などにひきつづき瘀血が気滞を招き四肢の伸展・強直が生じて屈伸できず、意識障害・大小便の失禁・慢性化すると顔色が白い・肌膚甲錯・自汗・舌質淡白など陽気不足の気虚の症状がみられる。
8.陽虚の四肢強直:陽虚の四肢の筋肉や関節の強直は、慢性病の消耗により陽気が外泄し、筋脈が温煦されないために生じる。
四肢強直ししきょうちょく には、二つの意味がある。
・四肢強直:四肢の筋肉が硬く強ばり、全部が伸展したままを指す。
・四肢の関節が硬直して屈曲ができない。
以上、二つの意味は、「筋肉の拘縮」と「関節の拘縮」の別がある。
・・・四肢強直:熱病と風病において、四肢が強ばって伸びて曲がらないことをさす。
・・痹証が慢性化して筋脈が栄養されず、関節が固縮して屈曲ができないことも四肢関節強直と称している。リウマチなどの症状。
・・「癲癇てんかん などの風痰上擾じょうじょう」でも、全身のけいれんが生じる前に四肢強直を来すことがあるが「四肢抽搐ちゅうちく」に属する。
・・「肝鬱血虚(臓躁ぞうそう)」で、人が激怒した時に、「肝気が心胸を上擾」して四肢強直・痙攣を来すことが多いが「四肢抽搐」で扱う。
臓躁ぞうそう:「心肝の血虚」に「情志の抑鬱」を兼ね、血躁肝急するによるものである:五臓がさわぎたてるのが臓躁:甘麦大棗湯合加味逍遙散など。
躁:さわがしい・あわただしい・うごきまわる・はやい
・・温熱病における「熱極生風ねっきょくしょうふう」での四肢けいれん・強直・後弓反張こうきゅうはんちょう は「四肢抽搐」で扱う。
四肢強直に含まれないもの・・「攣曲れんきょく」「「角弓反張かっきゅうはんちょう」「拘急こうきゅう」「四肢抽搐ししちゅうちく」
・『攣曲れんきょく」・・肢体・手指が屈曲して硬直し伸ばすことができない「屈曲性拘縮」という。
・「角弓反張」・・項背部が強直して弓なりに後屈する状態でひどければ背骨が骨折することもある。
・「拘急」・・四肢の筋肉が収縮してひきつり屈伸できないもの。
1.風寒湿阻絡の四肢の筋肉や関節の強直・・治療原則は袪風湿・通絡だが:防風湯・烏頭湯・薏苡仁湯・麻杏薏甘湯・防已黄耆湯・大防風湯・疎経活血湯・苓姜朮甘湯。
2.湿熱阻絡の四肢の筋肉や関節の強直・・清熱利湿・通絡:加味二妙散・三妙散・当帰拈痛湯・防風通聖散・竜胆瀉肝湯・疎経活血湯合竜胆瀉肝湯。
3.風邪入侵の四肢の筋肉や関節の強直・・清熱熄風:羚羊鈎藤湯・あるいは増液承気湯合玉真散の加減
4.痰火動風の四肢の筋肉や関節の強直・・滌痰瀉火しょうたんしゃか・涼営開竅:安宮牛黄丸あんぐうごおうがん・至宝丹を用い、ついで清気化痰丸加減を煎剤とする:半夏白朮天麻湯合六神丸。
5.肝陽化風の四肢の筋肉や関節の強直・・平肝潜陽・涼営開竅:安宮牛黄丸をまず用い、ついで羚羊鈎藤湯加減を用いる。
肝陽化風は、肝陽上亢が基礎にあり、脳卒中などの原因になるので、抑肝散・加味逍遙散・柴胡加竜骨牡蠣湯・知柏地黄丸・杞菊地黄丸・釣藤散・釣藤散合平胃散・安宮牛黄丸・牛黄清心丸・羚羊鈎藤湯などで予防する。
6.肝腎両虚の四肢の筋肉や関節の強直・・滋補肝腎:加味六味地黄丸合三甲復脈湯の加減・杞菊地黄丸の加減・独活寄生湯。
肝腎両虚の腎陽虚は右帰丸加味・八味丸。
7.血瘀気滞の四肢の筋肉や関節の強直・・益気・活血化瘀:補陽還五湯の加減・十全大補湯合血府逐瘀湯。
補陽還五湯:十全大補湯合血府逐瘀湯で代用。
8.陽虚の四肢の筋肉や関節の強直・・温陽・活血化瘀:
桂枝加附子湯に血府逐瘀湯などの活血化瘀薬を配合して用いる。
・・・以下に解説する。
1.風寒湿阻絡の四肢の筋肉や関節の強直・・治療原則は袪風湿・通絡だが:防風湯・烏頭湯・薏苡仁湯・麻杏薏甘湯・防已黄耆湯・大防風湯・疎経活血湯・苓姜朮甘湯。
風邪がつよければ、疏風・通経活絡:防風湯の加減。
寒邪が強ければ、温経散寒・活絡:烏頭湯うずとう 加減。
湿邪がつよい場合は、健脾利湿・通絡:薏苡仁湯の加減。
風寒湿の外邪が経絡に侵入した痹証で、リウマチなど慢性化による気血の運行障害と疼痛のために、肢体の運動ができなくなって気血の凝滞がつよくなり、関節周囲の筋脈が栄養されないので、関節が拘縮して屈伸できなくなる。拘縮の予防にはリハビリが重要で、関節の軽い屈伸運動が必要。
慢性のしびれや痛み・痹痛のため、四肢関節が拘縮して屈伸できず、関節・筋肉が痛み、ときに腫脹する。慢性化すると筋肉がやせ細る。
風寒湿阻絡:四肢の疼痛が遊走性(風邪)・固定性(寒邪)であったり、重だるい感じ(湿邪)とともない。関節の腫脹はあるが発赤・熱感を呈さず、大小便は正常で、舌質淡白胖大・舌苔白じ。
「風邪フウジャ」が強ければ四肢の遊走性疼痛となる:
疏風・通経活絡:防風湯の加減。
風寒湿阻絡の風邪:防風湯:袪風利湿・補血:防風 当帰 茯苓 杏仁 黄芩 秦艽じんぎょう 葛根 麻黄 甘草:風邪が強い四肢の筋肉や関節の強直
防風湯の防風:セリ科防風の根:辛甘微温:膀胱肝脾経:袪風解表・袪湿解痙・止瀉止血:発汗・解熱・鎮痛:袪風の主薬・和食の付け合わせの毒消し。
防風湯の秦艽じんぎょう:リンドウ科秦艽の根:袪風湿・退黄疸・除虚熱:陰虚内熱・骨蒸潮熱:三痺必用の薬:苦辛平:胃・肝・胆経。
防風湯の当帰・阿膠・桃仁・紅花にて活血する。
防風湯の 杏仁:苦温小毒:温肺薬:潤肺止咳・潤腸通便・下気止咳:咳止め作用のアミグダリン含有・便秘薬:温肺薬は乾かすので痰湿咳嗽に使う。
宣肺には麻黄・杏仁・前胡・桔梗・象貝母など。
宣肺せんぱい:肺の宣発・粛降作用を調える。
「寒邪カンジャ」が強ければ四肢の固定性の強い疼痛・冷える:
温経散寒おんけいさんかん・活絡かつらく:烏頭湯加減。
風寒湿阻絡の寒邪:烏頭湯:烏頭うず 細辛 蜀椒しょくしょう 甘草 秦艽じんぎょう 附子 肉桂 白芍 乾姜 茯苓 防風 当帰:烏頭は毒性が強く販売無く炮附子を使う:寒邪が強ければ温経散寒・活絡:烏頭湯加減。
烏頭湯の烏頭うず・川烏せんう・草烏そうう:キンポウゲ科トリカブトの主根:辛温大毒:袪風止痛の鎮痛作用は附子より強いが、強心・袪寒・救急作用は附子が強い:烏頭は風寒による痺痛に使う。
細辛さいしん:辛温:発散風寒・袪風止痛・温肺化飲。
烏頭湯の蜀椒・花椒かしょう・川椒せんしょう・山椒さんしょう:ミカン科カホクサンショウの果実:辛大熱有毒:脾胃肺腎経:温中・止痛・袪湿・駆回虫・明目:明目のため毎日飲んだら鼻血がでた。
「湿邪シツジャ」が強い時は、重だるい痛みを呈することが多い:
健脾利湿・通絡:薏苡仁湯よくいにんとう の加減。
風寒湿阻絡の湿邪:薏苡仁湯:薏苡仁8 川芎 当帰4 麻黄3 桂枝4 羗活きょうかつ 独活どっかつ 防風 烏頭 蒼朮4 甘草1 生姜しょうきょう:湿邪が強い四肢の筋肉や関節の強直。
薏苡仁湯:外科正宗げかせいそう:瓜子6かし 牡丹皮4 桃仁4 薏苡仁8 芍薬3
薏苡仁湯:指掌:麻黄4 当帰4 朮4 薏苡仁8 桂枝3 芍薬3 甘草2:ツムラ・オースギなどの日本の処方内容では、羗活や独活・防風・烏頭・川芎などは入っていない。
薏苡仁湯の薏苡仁は胃腸の薬であり、湿気をさばく利水滲湿作用があるので関節の浮腫に効くとされるが、麻黄・杏仁と一緒に使うことで浮腫に効果が出てくる:防風湯に麻黄・杏仁が含まれる。
薏苡仁湯の羗活:辛苦温:袪風解表・袪風湿・止痛:辛温芳香で上行して発散するので、表にある風寒湿邪を除くのに最適。
薏苡仁湯の独活:袪風湿・通経絡:特に項背部の筋肉や下半身の関節の風湿を去る・臀部の痛み・両足のしびれ:独活寄生湯。
2.湿熱阻絡の四肢の筋肉や関節の強直・・清熱利湿・通絡:加味二妙散・三妙散・当帰拈痛湯・防風通聖散・竜胆瀉肝湯・疎経活血湯合竜胆瀉肝湯。
湿熱阻絡:灼熱感・発赤・腫脹・疼痛をともない、関節周囲に疼痛性の結節性紅斑が生じることがあり、尿黄、便秘・脈滑数・舌苔黄じ(黄色がかった厚ぼったい舌苔)。
湿熱阻絡の灼熱痛の二妙散にみょうさん:丹渓心法たんけいしんぽう:清熱化湿・活血:黄柏 蒼朮の等分粉末。
湿熱阻絡の加味二妙散:清熱滲湿せいねつしんしつ・疏利関節そりかんせつ:黄柏・蒼朮・牛膝ごしつ・当帰・防已・萆薢ひかい・亀板。
加味二妙散の萆薢:ヤマノイモ科粉萆薢の地下根茎:苦平:肝胃経:袪風湿:
頻尿・小児の尿失禁・膏淋こうりん・湿熱による痹痛:
萆薢分清飲ひかいぶんせいいん(前立腺炎)
膏淋:にごった尿。
風寒湿阻絡と同様に、湿熱阻絡では外邪が経絡に侵入した痹証で、慢性化によるしびれや痛みなど気血の運行障害と疼痛のために、肢体の運動ができなくなって気血の凝滞がつよくなり、関節周囲の筋脈が栄養されないので、関節が拘縮して屈伸できなくなる。無理のない軽い運動が必要になる。
湿熱阻絡の四肢強直は、慢性のしびれや痛み・痹証のために四肢の強直が生じ、四肢の関節の発赤・腫脹・疼痛があって屈伸できず、踝くるぶし の皮下に結節性紅斑をともなうことが多い。慢性化すると四肢の筋肉がやせ細って関節だけが発赤・熱感を呈する。
踝:くるぶし
3.風邪入侵の四肢の筋肉や関節の強直・・清熱熄風:羚羊鈎藤湯・あるいは増液承気湯合玉真散の加減:いずれも日本に製薬は無い。
(風邪入侵の病機)風邪が化熱して経絡と臓腑に侵入して四肢の筋肉や関節の強直が発生し重症である。
風邪入侵の症状:四肢強直・発熱・悪風寒・頚項部の強直・後弓反張・牙関緊急・ときに筋肉の痙攣・ひどければ意識障害。
風邪入侵の冷羊鈎藤湯れいようこうとうとう:肝陽化風に対して清熱熄風する:
羚羊角1れいようかく 釣藤鈎6ちょうとうこう 桑葉3そうよう 川貝母4せんばいも 竹筎4 生地黄6 白芍6 菊花4きくか
茯神3 炙甘草1。
風寒湿阻絡(1の場合)では、風寒湿邪が経絡だけを侵襲して四肢の関節痛が主体で、臓腑まで傷害する重症の風邪入侵の四肢強直とは異なる。経絡から臓腑にまで侵入すると重症になる。
風邪入侵の四肢の筋肉や関節の強直は、風熱あるいは風邪が化熱して、経絡と臓腑に侵入して発症する。臓腑に侵入すると症状は重くなる。
風邪入侵の増液承気湯:温病条辨:
玄参・麦門冬・生地黄・大黄・芒硝。
増液承気湯の玄参げんじん:苦鹹寒:心肝肺経:ゴマノハグサの玄参の根:涼血解毒・降火滋陰:涼血・滋陰しまた解毒作用を示す要薬。皮膚・頭頸部に働く。冷やし潤す:滋腎陰薬:肺胃腎経:滋陰清熱・瀉火解毒(腎陰虚の薬)。
風邪入侵の玉真散ぎょくしんさん(外科正宗):天南星てんなんしょう 防風 白芷びゃくし 天麻てんま 羗活きょうかつ 白附子びゃくぶし 各等分を粉末1回1~3g熱酒で服用:破傷風、牙関緊急がかんきんきゅう、身体強直腰背反張、狂犬病:止痙の強化に全蝎ぜんかつ・蜈蚣ごこう(ごしょう)・白僵蚕びゃっきょうさん を加える。妊婦は禁忌。
玉真散の天南星:胆南星たんなんしょう:サトイモ科天南星の根茎:微辛・辛苦・温:熄風解痙・燥湿化痰。
玉真散の防風:辛甘微温:袪風解表・袪湿解痙・止瀉止血:上肢痛には、防風・桂枝・威霊仙を加える。
玉真散の白芷:袪風解表・止痛・消腫排膿・燥湿止帯おりもの・激しい燥性:その気芳香にしてよく九竅を通ず:発散作用が強い。
玉真散の天麻・明天麻:ラン科オニノヤガラの塊茎:甘微温:肝経:袪風鎮痙・通絡止痛:抗痙攣・鎮静:めまい・頭痛の主薬で、天麻は、薬全体を首から上にもっていく作用がある。
玉真散の羗活:辛苦温:袪風解表・袪風湿・止痛:辛温芳香で上行して発散するので、表にある風寒湿邪を除くのに最適。
玉真散の白附子・禹白附・関白附:サトイモ科禹白附の塊茎、キンポウゲ科の独角蓮・関白附・花烏頭キバナトリカブトの塊根:辛甘温:胃経:袪風痰・燥寒湿:脳卒中の顔面神経麻痺に牽正散:上焦の寒湿を除く・風痰頭痛に適応。
中風の後遺症のしびれや口眼喎斜に、胃腸が丈夫な人には続命湯ぞくめいとうや天麻鈎藤飲てんまこうとういんや牽正散けんせいさん だが、胃腸が弱い人はすべて半夏白朮天麻湯を使う
玉真散の全蝎・全蠍ぜんかつ・全虫・蝎尾かつび:キョクトウサソリ科のキョクトウサソリの全身:辛平小毒:肝経:熄風鎮痙・袪風止痛・解毒散結:破傷風・熱性痙攣・半身不随・顔面神経麻痺。
玉真散の蜈蚣ごこう・ごしょう:オオムカデ科:辛温有毒:熄風鎮痙・解毒・抗痙攣。
玉真散の白僵蚕:白僵菌ムスカルジンに自然感染して死んだ蚕カイコ:袪風熱・熄風鎮痙・化痰散結:解熱・抗痙攣・袪痰:眩暈がつよい場合には熄風化痰の白僵蚕・胆南星を加える。白僵蚕の単味が勝昌しょうしょう(台湾の漢方メーカー)から販売されている。
4.痰火動風の四肢の筋肉や関節の強直・・滌痰瀉火・涼営開竅:
安宮牛黄丸あんぐうごおうがん・至宝丹を用い、ついで清気化痰丸加減を煎剤とする:半夏白朮天麻湯合六神丸。
内風(脳卒中など)が原因で、突然に両側の四肢の過度の伸展と強直が生じ、屈曲できなくなり、頚項部も強直する(髄膜炎)。ときに筋肉がぴくぴくひきつり、顔面紅潮・呼吸が粗い・発熱・意識障害・喘鳴・舌質紅・舌苔黄じ・脈弦滑数。
痰火動風:半身不随と異なり、両側の肢体の障害が多く、発症が急激で病状が重篤で、頭痛が強く、嘔吐をともない、喘鳴・舌紅・苔黄じ、脈弦滑数で、速やかに昏睡状態に陥る髄膜炎のような症状。
痰火動風の安宮牛黄丸(温病条辨うんびょうじょうべん)牛黄ごおう 鬱金うこん 犀角さいかく 黄芩 黄連 雄黄ゆうおう 山梔子 朱砂しゅさ 竜脳りゅうのう 麝香じゃこう 真珠しんじゅ:熱性陰虚の意識障害には使用しない(気脱が生じ悪化する)。
安宮牛黄丸の牛黄・西黄・犀黄さいおう:ウシ科ウシの胆石:苦涼小毒:心・肝経:開竅化痰かいきょうかたん・清熱解毒・清心せいしん・定驚ていきょう・解熱・鎮痙・強心・造血:慢性肝炎に牛黄清心丸ごおうせいしんがん・片仔瀇へんしこう。
小児夜啼しょうにやていに牛黄清心丸:小児の夜泣きで心熱が原因なもの。症状は顔赤く、涙多く、泣き叫んで止まず、夜になるとますます激しくなることがある。清熱鎮驚の法:導赤散加減。別に宇津救命丸・牛黄清心丸を服用
小児夜啼の宇津救命丸:動物性生薬(ジャコウ,ゴオウ,レイヨウカク,ギュウタン)と植物性生薬(ニンジン,オウレン,カンゾウ,チョウジ):夜啼き・高熱(解熱剤と一緒に。六神丸も用いる)。
小児夜啼の六神丸:アセンヤク・麝香ジャコウ・センソ・牛黄ゴオウ・竜脳リュウノウ・人参・熊胆ユウタンは熊の胆クマのい(以上七味)。
開竅剤かいきょうざい:麝香じゃこう・竜脳りゅうのう・安息香あんそくこう・蘇合香そごうこう・菖蒲しょうぶ・牛黄。
開竅剤の竜脳・氷片ひょうへん:熱帯アジアのフタバガキ科の常緑高木竜脳樹の幹や枝を細かく刻み、水蒸気蒸留して昇華冷却で得られる結晶。ボルネオ樟脳しょうのう、またはボルネオールと呼ばれ爽やかな香りと清涼な味がある
痰火動風の至宝丹しほうたん:和剤局方:化濁開竅・清熱解毒:痰熱内閉:犀角30さいかく 玳瑁30たいまい 琥珀30こはく 朱砂30 雄黄30ゆうおう 竜脳0.3 麝香0.3 安息香45 金箔50片 銀箔50片:中成薬で日本には無い:熱性陰虚の意識障害には使用しないのは、気脱を招きやすいため。
犀角は清熱解毒作用が羚羊角より強いが、
羚羊角は鎮痙熄風作用が強く、
高熱・意識障害・痙攣がひどい時は両者を併用する。
升麻は古いにしえ より犀角の代用にして止血の効あり。
犀角:サイ科クロサイの角:苦酸鹹寒:心肝胃経:清熱定驚・涼血解毒:強心・鎮静・止血:清営湯せいえいとう・紫雪丹しせつたん・犀角地黄湯さいかくじおうとう に配合。
犀角地黄湯:涼血解毒: 犀角(升麻) 生地黄 赤芍 牡丹皮:
意識障害・うわごと・舌質紅絳ぜっしつこうこう・斑疹など
全身的な熱毒症状が明らかな場合に適合する。
至宝丹の玳瑁たいまい:ウミガメ科玳瑁の甲羅:甘寒:心肝経:潜陽熄風・清熱解毒:熱性疾患の意識障害や痙攣発作に涼血清熱解毒:犀角・羚羊角に似ている効果がある:よく壁に飾っているウミガメは玳瑁が多い。
小児夜啼の牛黄清心丸:痘疹世医新法とうしんせいしんぽう:
清熱解毒・安神開竅:牛黄30 鬱金30うこん 犀角30 黄芩30 黄連30 山梔子30 牛砂30ごしゃ 竜脳7.5 麝香7.5 真珠15 蜜丸みつがん(1丸3g):高熱・転々反側てんてんはんそく・意識障害。
牛黄清心丸は、日本に販売品あり10丸で3万円程度。
蝋で覆われた大きな柔らかい丸剤で蝋を剥がし丸剤を分割して服用する。
ベトナム戦争時、片仔瀇ヘンシコウは傷薬・止血・鎮痛剤として多用されたが、肝炎の特効薬でもある:麝香じゃこう3% 牛黄ごおう5% 田七85% 蛇胆じゃたん7%:妊婦は禁忌(片仔瀇の廣はやまいだれ。とても硬く、空港で売っている軟らかい物は偽物:本物は裕華商店という中国のデパートで売っている)
痰火動風の清気化痰丸:医方考:栝楼仁かろにん 黄芩 茯苓 枳実 杏仁 陳皮 天南星 半夏 姜汁:痰火動風の四肢強直に適用には安宮牛黄丸・至宝丹を用い、ついで清気化痰丸加減を煎剤として服用する。
蓄膿で、脾虚が強い場合は、脾虚の薬を一緒につかわないとなおらないし、慢性病化した時は、瘀血と腎虚をともなう。半夏白朮天麻湯・六君子湯・参苓白朮散と駆瘀血薬と腎虚薬。
眩暈や頭痛の原因は頗すこぶ る多いが半夏白朮天麻湯の証には蒙閉もうへい がみられ、胸悶嘔悪きょうもんおうお や舌苔白じぜったいはくじ などの湿痰の症状があるので、風痰の病理に属することがわかる。
中風の後遺症のしびれや口眼喎斜に、胃腸が丈夫な人には続命湯や天麻鈎藤飲や牽正散だが、胃腸が弱い人はすべて半夏白朮天麻湯を使う。
5.肝陽化風の四肢の筋肉や関節の強直・・平肝潜陽・涼営開竅:
安宮牛黄丸あんぐうごおうがん をまず用い、ついで羚羊鈎藤湯加減を用いる:柴胡加竜骨牡蠣湯。
内風が原因で、普段から肝陽上亢の症候がみられイライラしやすく、感情の激発によって突然の舌の強ばり・発語障害・呼吸が粗いなどの症状が生じ、つづいて半身不随あるいは両側上下肢の過度の伸展と強直が発生する。腕・指の関節は屈曲し、ときにぴくぴくひきつる。舌質紅・脈弦数。
肝陽化風:内風の症状。頭暈・頭痛・耳鳴・めまい・イライラ・顔面紅潮・目赤の肝陽上亢の症状、感情の激発によって突然の舌の強ばり・発語障害・呼吸が粗い、半身不随・両側上下肢の過度の伸展と強直が発生する・舌質紅・苔黄で乾燥・脈弦数
肝陽上亢の症状:頭のふらつき・頭痛・耳鳴り・目まい・イライラ・怒りっぽい・顔面紅潮・目の充血など:肝陽上亢を予防すると脳卒中などを回避できる:加味逍遙散や抑肝散加陳皮半夏が適用。
6.肝腎両虚の四肢の筋肉や関節の強直・・滋補肝腎:
加味六味地黄丸合三甲復脈湯の加減・杞菊地黄丸の加減。
老化による衰弱や養生が悪いといった原因で、陰陽失調や肝腎の腎精不足のため虚風内動が生じて四肢の筋肉や関節の強直が発生する。
肝腎両虚では、足・頭暈・めまい・蝉の耳鳴り・不眠・健忘・イライラ・易怒・悲傷・ぼける・知能低下・意識障害・四肢の伸展・強直が生じる・嚥下時にむせる・下肢伸展強直・両手屈曲・意識障害だが目を閉じない。
肝腎両虚の加味六味地黄丸:鹿茸ろくじょう・五加皮ごかひ・麝香+六味丸。
肝腎両虚の加味六味地黄丸の鹿茸ろくじょう:鹿角・血茸片けつじょうへん:甘・鹹かん・温:温腎補陽・強筋骨・健胃・生精補血:婦人科疾患は多くは「帯脈たいみゃく」の異常で、これには鹿茸が効くので子宮疾患・子宮筋腫に鹿茸を使う:女性には鹿茸が良く効く。
肝腎両虚の加味六味地黄丸の五加参ごかじん:五加皮ごかひ:ウコギ科南五加皮の根皮:辛温:肝・腎経:袪風湿・補肝腎・強筋骨・通絡:強壮鎮痛作用・風湿による肝腎両虚のリウマチに使用。
肝腎両虚の加味六味地黄丸の麝香・元寸香・当門子:シカ科ジャコウジカの雄の腹部にある香のうの分泌物を乾燥。顆粒状のものを当門子という:辛温:心・脾経:開竅・活血・催生:ジャコウは六神丸で代用。酒と水で煎服する。
肝腎両虚の三甲復脈湯さんこうふくみゃくとう:炙甘草 麦門冬 阿膠あきょう 白芍 生地黄 麻子仁ましにん 牡蛎ぼれい 鼈甲べっこう 亀板きばん。
当帰・阿膠・桃仁・紅花にて活血する。
肝腎両虚の三甲復脈湯の麻子仁:甘平:潤腸通便・滋陰潤燥:気虚の便秘・腸燥便秘
肝腎両虚の三甲復脈湯の鼈甲:スッポン科シナスッポンの背部甲羅:滋陰・清熱・破血・軟堅・散結:強壮・滋養・鎮静・造血作用。
肝腎両虚の三甲復脈湯の亀板:ツチガメ科クサガメの腹部甲羅・背部甲羅:滋陰潜陽・強筋骨・涼血補血・止血。
肝腎両虚の杞菊地黄丸:肝腎陰虚:滋補肝腎・清肝火・明目:高血圧症・自律神経失調症:月経異常・頭痛・目糊ぼやける・目花かすむ・視力減退・不妊。目糊もこ・目花もっか。
7.血瘀気滞の四肢の筋肉や関節の強直・・益気・活血化瘀:
補陽還五湯の加減。十全大補湯合血府逐瘀湯。
血瘀気滞:頭部外傷・出産時損傷・中毒後、瘀血が気滞を招き四肢の伸展・強直・屈伸できず、意識障害・大小便の失禁・慢性化すると顔色が白い・肌膚甲錯・自汗・舌質淡白など陽気不足の気虚の症状がみられる。
血瘀気滞の補陽還五湯:益気・活血・通絡:
黄耆40g 当帰3 赤芍3 川芎3 桃仁2 紅花3 地竜3
(コタロー製品):気虚・血虚・瘀血の脳卒中後遺症・心筋梗塞・
高次脳機能障害:
代用処方は十全大補湯合血府逐瘀湯。
8.陽虚の四肢の筋肉や関節の強直・・温陽・活血化瘀:
桂枝加附子湯に血府逐瘀湯などの活血化瘀薬を配合して用いる。
陽虚の四肢の筋肉や関節の強直は、慢性病の消耗により陽気が外泄し、筋脈が温煦されないために生じる。
陽虚の症状:四肢の強直・面白・手足冷・陽虚が極端にひどい低体温症などでは、意識混濁・寡黙・人を識別できない・ときに四肢がピクピクひきつる・大小便の失禁・舌質淡・舌苔薄白で潤・脈沈細で渋結。
陽虚の桂枝加附子湯:桂枝4 芍薬4 大棗4 生姜4 甘草2 附子1:風寒の症状で、寒が強い時に使う。
活血化瘀薬の血府逐瘀湯:活血化瘀・通絡・理気止痛・補血:生地黄4 桃仁4 紅花3 当帰3 赤芍3 牛膝3 柴胡2 枳穀2 桔梗2 甘草1:瘀血一般の繁用処方
(川芎は入っていないが四物湯の配合)心筋梗塞の予防薬。
「素問・至真要大論」「諸暴強直は、みな風に属す」
風邪入侵・化熱で、臓腑を傷害するものは、病状が危急・重篤であるので、詳細に鑑別する必要がある。