癲癇

校注婦人良方  宋 陳自明  

婦人中風諸症方論

鴻ロ王の婦人は、もともと癇症があり、労役に遇うと怒気の発作を生じことを長く恥じていた。ある日、飲食や疲労が宜しからず、不調となり、発作は半日あまりつづいて、言葉を発することができなかった。

あるいは、風邪が臓に侵入したのだろうか、袪風化痰順気の薬や牛黄清心丸を用いたが、病は益々甚だしくなり、六脈は浮大となり、両腕の寸脈は虚となり飲食も進まなかった。

余曰く、これは脾胃の気がやぶれたもので、もし風邪が臓を犯したのであれば、禍は反って手の内にある。彼は不信であったが、袪風薬を用いたところ、すぐに効果があらわれた。

婦人風邪癲狂方論

一婦人が、恐ろしいものを見て、言語を失い、循衣し直視した。或は心病を生じたのか、これを治療するが無効であった。養正丹を二服し、乳香の煎液で三生飲を服用すると、たちまち癒えた。

循衣摸床:神志昏迷となった病人が手で衣服をなでたり、布団のふちをさすったりする病状。これは熱が心神を傷つけ、邪が盛んとなり、正気が虚した危険な症状である。

養正丹:虚風頭眩し、涎沫を吐して止まない症状を治す。蓋しこの処方は陰陽の昇降を促し、真気を補って、頭眩の止まないものを治す:

黒鉛、水銀、硫黄(研じる)、朱砂(研じる)各一両、先ず砂器を用いて黒鉛をとかし、次に水銀を入れ均しく撹拌し、火から離して少しばかりして硫黄と朱砂を入れて再び撹拌し、冷やして粉末とし、飯つぶで緑豆大の丸剤とする。毎服30丸を、空腹時に食前に大棗湯で服用する。

三生飲:卒中して人事不省や口眼喎斜(顔面神経麻痺)、痰による咽のつまりや、外感や内傷を問わず、痰涎たんせん・食厥、気虚して眩暈した症状に、ただし六脈が沈のものには、ことごとく神効がある:生南星、生烏頭、生附子、各半両(皮を去る)、木香一銭。まず毎服半両を生姜水で煎じる。

人事不省なら、細辛、皁角末そうかくまつ を、少し鼻の中に吹き込み、クシャミをさせて服薬させる。正気がもどれば天南星五銭、生姜十四片を煎じて、これで飲ませる。名づけて星姜飲。

一婦人、もともと恐怖で癲を生ずる傾向がある。これには風疾の薬を用いれば、たちまち癒える。私(陳自明)が用いるのは、人参、黄耆、当帰、白朮を濃く煎じ、佐薬として生姜汁と竹瀝三斤を入れる。これを服用すれば治癒する。

 校注婦人良方

産後癲狂方論

一産婦が癲狂を患ったが、大沢蘭湯で治癒した。後に再び持続する動悸(怔忡)が生じ、わけのわからない言動(妄言)をするようになり、その患者の痰は甚だ多かったので、茯苓散を用いてその心虚を補ったところ、すぐに治癒した。

また、八珍散に遠志と茯神を加えた処方を用いて、その気血を補い、不安感は解消された。

八珍湯:気血両虚に:当帰・白芍・川芎・熟地黄・人参・白朮・茯苓・甘草(四物湯+四君子湯)

一産婦が、また癲狂を患ったため、化痰安神薬を用いたところ病は益々悪化して精神や思考は破綻した。私は、心脾血気の虚であるとして、人参、白朮、川芎、当帰、茯神、酸棗仁四斤の大量を用いて回復させ、その後、帰脾湯を50余剤を以って治癒させた。

茯苓散:産後の心虚・動悸、言語錯乱、健忘して不眠、自汗・盗汗を治す。人参、炙甘草、芍薬(炒黄)、当帰、生姜各八分、遠志(去心)、茯苓各一銭、桂心六分、麦門冬(去心)五分、大棗二枚、上気の生薬を煎じる。

帰脾湯:気血双補・健脾益気・養心安神:脾不統血:白朮3 茯神3 黄耆2 竜眼肉3 酸棗仁3 人参3 木香1 炙甘草1 当帰2 遠志1.5 乾生姜1 大棗1.5:出血傾向・動悸・不安感・不眠・多夢に。

儒門事親  金 張従正

一婦人が風癇を病む。六~七年驚風による癲癇を得るに従い、事後二~三年は一~二回発作があり、五~七年は五~七回発作を生じた。三十歳から四十歳になると、毎日発作があり、一日に二十余回も発作が生じ、それにより認知症や健忘になり、死を願うようになった。

ある年、亢奮して大いに飢えた年に、ついに百草を採取して食した。その草は、もしくはネギ科に属し、蒸してこれを食した。食して夜明け前になると、心中に不安感を覚え、膠の如き涎を吐して、連日収まらず、約十二斗吐き、出汗は体を洗うがごとき大汗であった。

初期は、昏く困難な状態だったが、三日後は、少し健やかになった。病は去り食欲が出てきて、百脈は皆和してきた。

その食した草が何であるかもしらないと反省したが、多くの人が尋ねてきたが、それはネギ科の草の苗であった。その草は、いわゆる蔾芦の苗であった。蔾芦の苗は風病を吐して治すが、この事例は、たまたま吐法を用いて癲癇が治ったのである。

蔾芦りろ:ユリ科黒蔾芦、ワスレナグサ属のユウスゲの根:苦辛寒:有毒:肝肺胃経:湧吐風痰:催吐・嘔吐・下利をおこす:0.5~1g:脳卒中で痰がつまって吐けない時は、蔾芦湯を用いる。

蔾芦湯りろとう:蔾芦1g、天南星2g、蜈蚣1匹、地竜3g、杜仲4g、法半夏3gを水煎服用する:脳卒中で痰がつまって吐けない時に。

一狂人を治す。

陰がその陽に敗れれば、脈の流れは薄くなり病み、陽が勝ればすなわち狂となる。

「難経」に曰く、陽が重き者は狂となり、陰が重き者は癲を生ずる。

腑は陽に属し、臓は陰に属す。陽熱にあらざれば陰寒となる。

熱が陽に生ずれば狂い、狂えば生きる、寒が陰に生ずれば癲となり、癲となれば死す。

「内経」に曰く、足の陽明胃経が実すれば、狂となるので、胃熱は手足を動かしたくなり、手足をつかって煙突などの高所に昇り、大声で歌い、衣服を脱ぎすてて走りだし、為すところなし、これは熱の極みのせいである。

脾(胃腸)は四肢を主るので、脾が実すれば(足の陽明胃経が実すれば)、手足(四肢)をやみくもに動かしたくなり、手足をつかって煙突や屋根など高いところに上る傾向があり、そして高所で大声で怒鳴ったり歌ったりする。

これに対して、調胃承気湯の大量を用いて、数十回下利させ、三~五日は再び一~二升を吐さしめ、三~五日は又これを下し、およそ五六十日間、百余回下し、また七~八回吐す。

吐す時は、暖かい部屋に火を置き、その熱で少し汗をだせば、数回の発汗で平癒する。

「狂を治す」

一老人60歳の者が、役目が煩雑で悩み乱され、そのため突然発狂した。口や鼻に虫がはうように感じて、両手でかきむしり、それが数年続いて治らない。

その人の両手の脈を診察すると、すべての脈は洪大で弦緊であったので、断じて曰く、口は飛門であり、胃は噴門であり、曰く、口は胃の上源である。

鼻は、足の陽明胃経が鼻中から起こり、傍らには太陰があり、下って鼻柱をめぐり、人中と交わり、唇に下がるので、この病はこの経絡上のものである。

仕事の役目が煩雑で心が乱され、これに更に火を生じ、その火が陽明経に乗じたので発狂したのである。

故に「内経」に曰く、陽明の病は、高きに登って歌い、衣服をぬぎすてて走りまわり、ののしるのだ。

また、肝ははかりごとを主り、胆は決断を主る臓である。役目に追われ決断を迫られ、金が支払えなければ、肝はどうすることも考えられず、胆は決めることができず、伸びやかさが失われて屈し、怒りは発散できずに、心火は広大となり、ついに陽明経に乗じた。

しかるに胃はもともとは土(脾)に属し、肝は木に属す。胆は相火に属し、火(胆火)は木気(肝気)にしたがって胃(土)に入るので、胃熱が火盛となり、狂を暴発する。

すなわち命は煉獄の中に置かれ、涌汗となりて出でる。

「内経」に曰く、木鬱は之を達し(伸びやかにする)、火欝は之を発散すればよい、というのがこれである。

すなわち調胃承気湯半斤を用い、水五升で短時間煎じ、分けて三回で服用させ、大いに下すこと二十回、血水で瘀血を相殺するために、数升下せば、健康となる。その後は通聖散で調える。

調胃承気湯の作用は、主に胃気を調和させることにあり、瀉下は二次的なものである:熱結腸道の但熱不寒:大黄2 芒硝1 甘草1。

防風通聖散:疏風解表・瀉熱通便:当帰 芍薬 川芎 山梔子 連翹 薄荷 生姜 荊芥 防風 麻黄 各1.2 大黄1.5 芒硝1.5 桔梗 白朮 黄芩 石膏 甘草 各2 滑石3:口渇・便秘・肥満。