肺癌の処方

2024/9/5、9/6

癌証

癌証の病因病理は、主に正虚(体質・体力の弱り・気虚・血虚)の上に生じていて、その上に外邪の感受や内傷七情などにより、痰飲、内湿、気虚、瘀血、化火による熱などと積結して癌証が起こるのである。

治療においては、上記の点を考慮して解決しなければならない。

癌証の治療が困難なのは、まず、発見が大変遅れることである。

次に癌証の症状が複雑で、治療上で扶正すれば、邪の袪邪のさまたげになるのではとはばかり、攻邪すれば正虚を悪化させるのではないかと恐れて、その区分限度を掌握しにくいことである。

このほか、「陰虚と湿熱」が互いに見られたり、「痰濁と瘀血」の膠結などというように処方の決定が大変難しい。

それを詳細に分析して、攻補を適正に行わなければならない。病理の変動とともに臨機応変に処方を変えれば、比較的良好な効果をあげることができる。

癌証の治療の原則は次のように帰納できる。

1,清熱解毒法

2,化痰散結法

3,活血化瘀法

4,扶正培本法

1,清熱解毒法:鬱熱化火、毒火内盛し、症状悪化や感染症の併発、癌証末期に用いる。煩躁高熱、口乾喜冷飲、大便乾燥、小便黄赤、頭痛、膿血の鼻汁、痰に膿血、黄疸、癌腫局部に紅腫熱痛、発熱便秘、舌苔黄、脈数。

化火は陰を虧損キソンするので、「清熱解毒法には養陰生津薬を併用」する・・・養陰生津薬:生地黄・天門冬・麦門冬・玄参・石斛セッコク・天花粉(括婁根カロコン)・沙参シャジン。

清熱解毒法に熱毒入血の症状:出血、瘀斑オハン、口渇不欲飲、舌絳無苔ぜつこうむたい。

絳コウ:あか、深紅しんく・こい赤色。

清熱解毒法に湿熱兼挟の症状:胸腹痞満、嘔悪納呆、舌苔黄じ(黄色がかった厚ぼったい舌苔)。

清熱解毒法に陰虚兼挟の症状:唇乾歯燥、舌光無津。

清熱解毒薬:金銀花・蒲公英ほこうえい・紫花地丁しかじちょう・天葵子テンキシ・野菊花・連翹・敗醤草ハイショウソウ・草河車ソウカシャ(拳参ケンジン)・山豆根・板藍根・黄連・黄芩・黄柏・山梔子・土茯苓(サンキライ)・白花蛇舌草びゃっかじゃぜっそう・半枝蓮はんしれん・半辺蓮はんぺんれん・山慈姑さんじこ。

熱毒入血には清熱涼血薬を加える:犀角サイカク(クロサイの角)・牡丹皮・紫草(紫根しこん)・生地黄しょうじおう。

清熱解毒法に湿滞兼挟には化湿滲利薬を加える:藿香カッコウ・佩蘭ハイラン・白豆蔲ビャクズク・薏苡仁・茯苓・沢瀉・猪苓・通草ツウソウ(木通)・滑石。

佩蘭ハイラン・省頭草:キク科フジバカマの全草:辛平:脾胃経:化湿和中・解暑:暑湿に対する常用薬である。

清熱解毒の方剤:五味消毒飲・黄連解毒湯・犀角地黄湯・清営湯・化斑湯・梔子金花湯。

2,化痰散結法:痰凝聚結で生じた腫瘍、比較的堅く、按じても痛まず、圧痛があり、押せば動く、固まって動かないものに用いる。

痰の病は、脾虚により産生されるので、化痰散結法は健脾益気薬と併用する・・・健脾益気薬:人参・党参・黄耆・白朮・茯苓・山薬・太子参。

化痰散結薬:天南星てんなんしょう・半夏・貝母ばいも・全栝楼ぜんかろ・山慈姑さんじこ・白芥子はくがいし・皂角刺そうかくし・海浮石かいふせき・海蛤殻かいごうかく・生牡蛎・猫爪草びょうかそう(キャッツクロー)・青もう石・海藻・昆布・黄薬子おうやくし。

黄薬子おうやくし・黄薬脂・黄独:ヤマノイモ科ニガカシュウの塊茎:苦平:肝心経:涼血降火・散結解毒:黄薬子酒は、とくに食道癌に効果があった:肝臓障害の可能性に注意。

黄薬子酒:黄薬子300gを62度の白酒1500mlとともに陶器製の器に入れて密封し、水をはった鍋に入れ、2時間弱火で煮る。やや冷えてから水中に入れ、7日後に取り出し残渣ザンサを除く。1日20~50mlを少量ずつ頻回に服用する。

化痰散結法に肝鬱兼挟なら疏肝理気薬を兼用:香附子・鬱金・青皮じょうひ・陳皮・佛手ぶっしゅ・橘葉きつよう・柴胡・川楝子センレンシ。

化痰散結法に血瘀があれば活血化瘀薬を兼用:丹参・赤芍・桃仁・紅花・劉寄奴りゅうきど・生蒲黄しょうほおう・五霊脂ごれいし・馬鞭草ばべんそう・三棱さんりょう・莪朮がじゅつ。

劉寄奴りゅうきど・劉寄奴草:キク科奇蒿キコウ。ゴマノハグサ科のヒキヨモギの全草:活血通経・消腫止痛:瘀血による腹痛の常用薬で袪瘀による止痛。

化痰散結の方剤:導痰湯どうたんとう・指迷茯苓丸しめいぶくりょうがん・もう石滾痰丸こんたんがん・半貝丸はんかいがん。

化痰散結法にもう石滾痰丸:清熱滌痰せいねつじょうたん:大黄 黄芩 もう石 沈香じんこう(もう は、石偏に蒙)。

沈香じんこう:ジンチョウゲ科白木香(沈香)の黒褐色の樹脂を含む木材を乾燥加工したもの:辛苦微温:脾胃腎経:降気和中・抗瘧平喘・温腎補陽・散寒:気虚下陥・陰虚火旺には禁忌。沈香の樹脂は、虫害や人工的な切り傷の沈香の樹皮から分泌されたもの。独特の香りがある。

3,活血化瘀法:気滞血瘀によって腫瘍が形成され、また症状に血瘀のものがあり、腫塊が痛み、固定痛で肌膚甲錯キフコウサクし、舌青紫または暗、舌に瘀斑や瘀点があり、脈沈細または弦細。

「気行れば血行り、気滞すれば血瘀となる」ので、活血化瘀薬は行気薬と併用される。また、「瘀血は正虚の上で産生されるので、活血化瘀には常に補気薬または養血薬と同時に処方される」。袪瘀血の薬には四物湯が必要。

活血化瘀薬:当帰・赤芍・川芎(以上四物湯)・丹参・桃仁・紅花・生蒲黄・五霊脂・三棱・莪朮・水蛭すいてつ(ヒル)・虻虫ぼうちゅう(アブ)・血竭けっけつ(サソリ)・穿山甲せんざんこう・䗪虫しゃちゅう(シナゴキブリ)。

活血化瘀薬に気滞兼挟に行気薬ぎょうきやく:鬱金うこん(ターメリック)・香附子・延胡索えんごさく・降香こうこう・乳香・没薬もつやく。

活血化瘀薬に気虚兼挟に補気薬:人参・党参・黄耆・太子参。

活血化瘀薬に血虚兼挟に養血薬:当帰・川芎・赤芍・熟地黄・何首烏かしゅう・阿膠アキョウ。

活血化瘀処方:大黄䗪虫丸だいおうしゃちゅうがん・犀黄丸さいおうがん、小金丹しょうきんたん・血府逐瘀湯・桂枝茯苓丸・桃核承気湯・田七(田三七)・折衝飲・抵当湯・温経湯・失笑散・通竅活血湯・復元活血湯。

4,扶正培本法:主に正虚に用いられる。人体の陰陽臓腑の気血の失調を調整して強壮にし、袪邪させる。扶正培本は、脾腎を論治することである。

癌証の患者の症状によって、扶正培本もいくつかに分類される。

1,健脾益気

2,滋陰養血

3,養陰生津

4,温補脾腎

扶正培本に、1,健脾益気する症状は、脾虚気弱で、全身疲乏、言語低微、気短自汗、食欲不振、大便溏、舌淡または舌嫰ぜつどん(舌がふにゃふにゃ)歯痕、脈沈緩か濡じゅ。

健脾益気の常用生薬:人参・党参・黄耆・太子参・蒼朮・白朮・薏苡仁・山薬さんやく・扁豆へんず(白扁豆)・黄精おうせい・大棗・甘草。

健脾益気の方剤:補中益気湯・四君子湯・六君子湯・参苓白朮散。

扶正培本に、2,滋陰養血すべき症状は、血虚で顔色が悪く、頭暈、心悸、月経量少ない、舌淡苔薄、脈沈細。

滋陰養血の生薬:熟地黄・何首烏・当帰・白芍・枸杞子・阿膠・竜眼肉・大棗など。

滋陰養血の方剤:当帰補血湯・帰脾湯・人参帰脾湯・八珍湯・十全大補湯。

扶正培本に、3,養陰生津よういんしょうしん:陰虚の症状で、咽乾唇燥、口乾喜飲、大便乾結、五心煩熱、舌紅無苔または剥苔、脈沈細数。

扶正培本に、養陰生津の生薬

肺陰を養う:天門冬・麦門冬・百合。

胃陰を養う:沙参・麦門冬・石斛・玉竹(アマドコロ)。

肝陰を養う:熟地黄・何首烏・白芍・枸杞子・女貞子・亀板・鼈甲。

腎陰を養う:熟地黄・枸杞子・桑椹子そうじんし(クワの実)・女貞子じょていし・亀板きばん・鼈甲べっこう。

扶正培本に、3,腎陽を温める生薬:鹿茸ロクジョウ・巴戟天ハゲキテン・仙霊脾(インヨウカク)・仙茅センボウ・補骨脂ホコッシ・附子・肉桂・菟糸子トシシ・肉ジュ蓉ニクジュヨウ。

扶正培本に、温補腎陽の方剤:附子理中湯・附子湯・真武湯・参附湯・朮附湯・桂附地黄湯・還少丹。

上述の治療法は、常に併用したり、臨床での弁証に基づいて運用すべきである。

肺癌

肺癌の症状:咳嗽・胸痛、気急。喀痰は稀薄・粘稠・血痰。肺咳は咳して喘息・唾血。心咳は咳し心痛・咽腫喉痹。肝咳は両脇下痛、転則不可、転則で両肢下満。末期は大骨枯槀ココウ・大肉陥下・胸中気満・喘息・内痛肩項ケンコウ・身熱。

槀コウ:枯れる。

1,肺癌:「肺脾気虚」:短気自汗、咳嗽、痰多稀薄、全身疲労、納呆腹脹、大便稀溏キトウ、舌淡、歯痕、舌苔が白く厚い、脈沈緩か濡ジュ。

胃もたれ(納呆のうほう・胃中不和)。

肺癌:肺脾気虚には益肺健脾:六君子湯加減。四君子湯は健脾益肺し、半夏・陳皮は袪痰化湿する。適宜、山薬・黄精・沙参などを加えて補益力を増強する。

2,肺癌:「肺腎陰虚」:乾咳無痰・痰少なく排出困難・陰虚火旺し喀血・胸悶気短・心煩口渇・潮熱盗汗(寝汗)・午後頬紅キョウコウ・腎陰不足で嗄声サセイしわがれ声・舌紅で乾・舌苔薄或は光剥コウハク・脈細数など陰虚内熱の象。

気短:呼吸が浅く速い状態・息切れ。

肺癌:肺腎陰虚には滋腎潤肺:六味丸・生脈散・百合固金湯などの加減。

六味丸は補腎陰し、生脈散や百合固金湯は肺陰を清養し、肺腎双補の効果あり。

3.肺癌:「気陰両虚」:咳嗽痰少・血痰喀出、精神倦怠乏力ボウリキ・食欲不振腹脹・口乾欲飲水・大便乾結・舌質淡紅・歯痕シコン・脈沈細。

肺癌:気陰両虚中の肺脾気虚の症状:精神疲乏・食欲不振・腹脹。

肺癌:気陰両虚に気陰両補:大補元煎・参耆麦味地黄湯などの加減。

補気の人参・黄耆に、養血滋潤の熟地黄・当帰・山茱萸・枸杞子・麦門冬の配合で益気養陰する。

肺癌:気陰両虚中の肺陰虚内熱の症状:口乾喜飲・大便乾結・咳嗽痰少・血痰喀出。

肺癌:気陰両虚中の痰熱兼挟ケンキョウの症状:痰黄変・痰中帯血・胸悶気急・舌紅・舌苔黄じ(黄色がかった厚ぼったい舌苔)・脈滑数カッサク。

肺癌:気陰両虚中の瘀滞兼挟の症状:脇肋脹痛・唇色紫暗・舌青紫。