2024/9/13、9/14
癌の発症原因
癌証は、年齢を問わず発病する。しかし、中老年になり、体が次第に衰えて、臓腑陰陽気血が虧損し、正気が虚弱となり癌証にかかりやすくなる。
中医学では、特に、内傷七情によって癌証が発病するこに注意している。
内傷七情とは、(七気:喜・怒・憂・思・悲・驚・恐の過度の長期継続や激烈な感情の爆発によって正常な五臓の機能を障害すること)
1,長期の精神抑鬱や激しい精神的ダメージを受けると、人体の気機(正常な生理機能)が失調し、経絡の流れが悪くなり、停痰、積食などを生じ、癌証の形成の原因となる。
つまり、サイコパスの上司や暴力・暴言・ネグレクトの配偶者や嫁姑の確執などが癌を生ずる。
激しい感情・情熱で仕事や物事に長時間従事し、疲労困憊する者にも癌を生ずる。
2,飲食も重要で、長期の飲食や飲酒の不節制、塩漬けや炙った焦げた物の過食などは、脾胃を損傷し、痰湿を体内に生じ、痰が気を阻み気滞となり、血行がスムーズでなくなり、痰湿・瘀血が搏結して癌となりうる。
胃腸に負担をかける食事習慣も、消化不良から痰飲を生じ、その痰飲が血流を停滞させて瘀血が生じ、それがひどくなると塊を生じ、更にストレスで塊を加熱すると、瘀血や痰湿の化熱による塊は、生じた圧力で変性して癌を生ずる。
痰飲の基本症状は、眩暈、多痰、浮腫、嗜眠、小便不利、しこり、朝の起床時の顔のむくみ、疲労時の顔のむくみや手足のむくみ、軽い咳払いで簡単に痰がでる体質、閑な時すぐ眠くなる:痰飲を取る基本処方は、二陳湯だが、痰飲の発生の予防には、食生活の習慣や精神生活の改善が必要なため、無意識のうちに治療に抵抗し、痰飲除去の治療には時間がかかる。
ストレスのかかる職場や円満でない家庭環境に、長時間さらされるだけでなく、趣味に没頭する、疲労困憊するまで長期間にわたり頑張るなどは、癌を生ずることは中医学の考え方である。
「仁斎直指附遺方論・巻二十二発癌方論に、癌の特徴について、「男は則ち多くは腹に癌を発し、女は則ち多くの癌は乳に、或は項ウナジにあるいは肩あるいは臂ヒ(にのうで・肩の付け根から肘まで)に発す」。
「格致余論・乳硬論」に、「憂怒鬱悶し、朝夕に積累し、脾気消阻して、肝気横逆す、遂には陰核を成す、痛まず痒からず、数十年の後に痩陥ソウカンをなす。名付けて乳岩という。その形は陥凹して岩穴に似たるを以ってす、治すべからざるなり」。
中医学では、外に発したものが岩石のように堅硬である物を称して岩ガンといっている。
「瘍科心得集」で、描写している陰茎の結節や堅硬な痒痛を名づけて、「腎岩」という。潰瘍を形成して菜花様を名づけて腎岩翻花ジンガンホンカとしているのは陰茎癌に類似している。
「外科正宗」には、繭唇ケンシンの記述がある。唇に初め豆のようなものがあらわれ、次第に大きくなって蚕繭かいこのまゆ(サンケン・繭玉まゆだま)のようになる。突起物は堅硬で飲食を妨げる。これは現在の口唇癌に類似している。
繭まゆ・ケン:まゆ、絹糸、絹物、わたいれ。
『医宗金鑑」には、「舌菌」の描写がある。舌の表面の腫瘤を指している。初め豆粒のようで、以後は菌のようになり、頭は大きく、蔕ヘタは小さく、次第に焮腫キンシュして泛蓮ハンレンのようになる。或は鶏冠のようである。舌本は短縮して伸展することができず、飲食や言語に障害があり、臭涎シュウセンを流出し、長引けば項顎コウガクに及ぶ。
腫れは結核のようで、堅硬で脊痛セキツウを起こし、皮膚の色は常のようである。これは、現在の舌癌及びその転移の状況に類似している。
焮:漢音キン:熱い、あぶる。
泛ハン・ホオ:うかぶ。うかびただよう。ひろい。あまねく。くつがえす。
泛蓮ハンレン:うかびただようハスの花。
「医宗金鑑・外科心法要訣・上石疽ジョウセキソ」に、石疽の記載があり、上中下にわけている。上石疽は、頚項の両傍に生じるもので、形は桃李のようで、皮色は普通の色で、堅硬で石のようである。これは頸部淋巴転移癌に類似している。
中医学には、五大絶症があり、乳岩、腎癌、繭岩ケンガン、舌菌、失栄シツエイである。その他に癭瘤エイリュウがある。
「瘍科心得集・弁失栄験生死不同論」に、「失栄は、樹木の栄華を失い、枝枯れて皮焦がせるが如き故に名づく。耳の前後および項間に生じ、、初期は、形は栗の実の如し、按ずれば硬石で、押しても移動しない。
寒熱せず、痛みがないが、だんだん大きくなり、後に隠隠疼痛し、痛み肌骨キコツに着し、だんだんと破爛ハランして、血水を流し、傷口が大きくなり内腐し、形は、湖の石の如し、凹に進み凸に出で、その時 痛み甚だしくなり、胸悶煩躁す」。これは頸部淋巴の転移癌症で、淋巴肉腫、耳下腺癌、鼻咽頭癌転移である。
内臓のある種の癌証は、癥瘕チョウカ、積聚シャクジュ、噎膈イッカク(嚥下困難)、反胃ハンイ、崩漏帯下などの範囲に属している。
癥チョウ:腹内の腫塊で固定して移動しないものをいう。
瘕か:腹内の腫塊が疼痛し、それは集まったり散じたりして形のないものをいう。
積聚シャクジュ:古人は留注により生ずるものであるという。
「「難経ナンギョウ」に、「気の積む所を名づけて積といい、気のあつまる所を聚ジュという」
五臓の違いにより積シャクにも区別がある。
心の積は伏梁フクリョウ、脾の積は痞気ヒキ、肺の積は息賁ソクフン、肝の積は肥気ヒキ、腎の積は奔豚ホントンである。
その中で伏梁は、心下より臍までに腫れ物があることをいう。
息賁は、右脇下に杯サカズキのような大きさのものがあり、肝癌・胃癌にほかならない。
噎膈範囲は、「素問・通評虚実論」によると「膈塞悶絶して、上下通ぜざるは、則ち暴憂の病なり」。
「医宗必読・反胃噎膈イッカク」には、反胃噎膈は総じて、是れ血液衰耗し、胃脘乾槀イカンカンコウす。大抵は気血虧損キソンして、または悲思憂慮により、脾胃受傷し、血液漸耗し、鬱気は痰を生ず、痰は則ち塞がりて通ぜず、気は則ち上りて下らず、飲食進むこと難く、噎膈のなすところとなる」。
噎膈は多くは食道癌で、反胃の一分は胃癌の表現に属している。
槀コウ:枯れる。
何れも、癌の根本原因は、内傷七情と飲食の不摂生と絶えざる外的な刺激によるものである。
「古今医統」に、「婦人の崩漏、最も大病なり。中年以上の高年婦人に及び、多く是 憂慮過度、気血倶に虚し、此れ難治となす」とある。不規則な流血や悪臭の分泌物、消痩ショソウ、腰背痛があり、中年以上のものに多くみられる。子宮頸癌に非常に類似している。
癌証の外因として・・
「霊枢・百病始生篇」に、「積の始生は、寒を得て乃ち生ず」とある。
また「諸病源候論」に「積聚は、乃ち陰陽和せず、臓腑虚弱するに、風邪を受け、臓の気を搏ちてなす所なり」とある。いわゆる風・寒は外来の発病因子である。しかし、外邪は往々にして内傷の存在のもとに癌証を発病する。
「景岳全書・積聚」は「飲食の停滞がなく、寒に非ざれば未だ必ずしも積を成さず・・・表邪未だ清ならざるに、飲食を過ごし、邪食相搏ちて、積ここに成るなり」(風邪をひいて治らないうちに過食してはいけないということ。少量のおかゆにすべき)
外来の風寒邪気は、痰飲と相互に影響し合い、積聚を形成する。飲食による損傷で脾虚を引き起こし、また脾虚すれば痰食が停滞するので腸胃の間は寒温が不調となって、外邪と搏結ハッケツして積聚(癌のもと)を形成する。
癌証の病因として、七情の変化は重要である。
「素問・通評虚実論」では、噎膈の発病は暴憂と関係があると説明している。
七情・七気:喜・怒・憂・思・悲・驚・恐。
「外科正宗・乳癰乳岩論三十三」は、乳岩の病因は「憂鬱は肝を傷り、思慮は脾を傷る。積想シャクソウ、心にありて、願う所得ざれば、経絡の痞渋するを致し、聚結して核をなす」として、乳岩と五積の病と関係があると認めている。
「譫寮集験方」も「五積は、怒憂思七情の気、以って五臓を傷るにより、病をなすなり」と説いていて、七情の失調は五臓の機能に影響を及ぼしてこれを虧損させ、外邪の侵入を容易にする。また、気機も暢びなくなり、脈絡を阻滞させてき気滞血瘀を起こし、癌症を形成する。
飲食の失調は、容易に脾胃を損傷し、飲食が精微に化生し、気血を生長することができなければ、生体の正気を虧損して外邪の侵襲を受けやすくなる。
また、飲食が精微物質にならなければ痰濁に変成し、痰阻気滞や脈絡阻塞をおこして血行が悪くなり、痰血が搏結して癌症を形成する。
つまり、平素から飲食の失調で脾胃を損傷していれば、痰濁、食滞、気阻、血瘀などの病理変化を産生するに至り、癌症誘発の基礎となる。
長期の慢性刺激も癌症の発生を促す。
たとえば「外科正宗・繭唇」に「繭唇ケンシンは煎炒炙を過食し、又は思慮暴急を兼ねるにより、痰が火に随いてめぐり、唇に留注す」の記載がある。
「医学統旨」は、「酒麺炙、粘滑難化の物、腸胃を損傷して、漸く痞満呑酸をなし、甚だしきは則ち噎膈反胃をなす」
「衛生宝鑑」は、「凡そ人の脾胃虚弱、または飲食過常、または生冷過度により剋化コッカできず、積聚結塊をなすを致す」と説いている。
脾は後天の本であり、腎は先天の本であるので、脾腎が虧損することも癌症発生の素因となる。
以上、癌症の発生は、正虚の状態から産生することが多く、特に脾腎二臓の虚損が最も重要である。
内傷七情や飲食などの素因が人体に長期に作用して陰陽を失調させ、正気が衰退することが癌証の生長や発生の条件である。
そして癌証が急速に進行すれば、さらに正気を耗傷して臓腑、気血、陰陽が失調するとともに、痰結、湿聚、気阻、血瘀、鬱熱などの病理性素因を産生し、正虚と同時に並存して相互に因果関係を形成し、このために癌症は治癒困難となるのである。
痰結により腫瘍が生成されるのは、脾は生痰の源であるが、水湿が処理できず津液が生じなければ、久しく鬱すれば熱と化し、津液は灼かれ痰となる。
痰は体のあらゆる所に到達し、肺にあれば多痰喘咳となり、胃にあれば嘔悪痰涎し、皮下に流入すれば腫物を形成し、脳においては癲癇を生ずる。
脾虚すれば、水湿を運化できず、水は体内にあつまり、蓄積されて毒となる。湿毒が泛濫ハンランし浸淫して瘡を生じ、膿水を流して久しく経過すれば治癒しなくなる。
水分を毎日二リットル飲むというデトックス法は癌やリウマチを発生させる。
気は血の帥である。気がめぐれば血もめぐる。血の瘀滞の多くは気がのびやかにめぐらないことに起因する。故に血瘀の大部分は気滞や血虚があり、瘀滞して久しいと腫塊となる。
癌症の病因には、憂思、鬱怒が多い。
五志の過極は火と化し、熱甚だしければ熱証を現し、悪臭穢濁の膿液を分泌する。鬱熱は、気血痰湿と搏結して複雑な癌症の病機を創り出し、正虚邪実となって治癒困難となる。
要するに、癌症の病因は、外因と内因に分けられ、外因は外邪の感受と、内因は七情の内傷と飲食の失調と関係がある。
それにより生体の臓腑、陰陽気血の失調により、外来の発病素因は、体内で産生される痰、湿、気、瘀などの病理素因と互いに搏結して、癌症を引き起こす。