癌症:化痰散結法

2024/9/5、9/6 9/17 9/19

癌証     2、化痰散結法

癌証の病因病理は、主に正虚(体力の弱り・気虚・血虚・腎虚)の上に生じていて、その上に、外邪の感受や内傷七情などから、痰飲、内湿、気虚、瘀血、化火による熱などが生じ積結して癌証が起こるのである。

治療においては、上記の点を考慮して解決しなければならない。

癌証の治療が困難なのは、まず、発見が大変遅れることである。

次に癌証の症状が複雑で、治療上で扶正すれば、邪の袪邪のさまたげになるのではとは思慮し、攻邪すれば正虚を悪化させるのではないかと恐れて、その区分限度を掌握しにくいことである。

このほか、「陰虚と湿熱」が互いに見られたり、「痰濁と瘀血」の膠結などというように処方の決定が大変難しいのである。

それを詳細に分析して、攻補を適正に行わなければならない。病理の変動とともに臨機応変に処方を変えれば、比較的良好な効果をあげることができる。

癌証の治療の原則は次のように帰納できる。

1,清熱解毒法

2,化痰散結法

3,活血化瘀法

4,扶正培本法

2,化痰散結法:痰凝聚結タンギョウジュケツで生じた腫瘍、比較的堅く、按じても痛まず、圧痛があり、押せば動く、固まって動かないものに用いる。

痰の病は、脾虚により産生されるので、化痰散結法は健脾益気薬と併用する・・・健脾益気薬:人参・党参・黄耆・白朮・茯苓・山薬サンヤク・太子参タイシジン。

人参・吉林参・朝鮮参・高麗参・紅参・白参・直参:ウコギ科:甘微苦:微温:肺脾経:大補元気・安神益智・健脾益気・生津:1~3~10g。

党参:キキョウ科ヒカゲツルニンジンの根:甘微温:補中益気:甘微温:補中益気:強壮健胃・造血・降圧・袪痰鎮咳:四君子湯・六君子湯・参苓白朮散には党参が適す。4~10~30~40g:人参の2~3倍使う。

黄耆:マメ科キバナオウギ根:甘微温:脾肺経:補気升陽(陽気昇陽)・固表止汗・利水消腫(浮腫を去る)・托毒排膿:強壮・利尿・降圧・血管拡張・強心:補気の要薬。炙黄耆3~5g。

黄耆:急性あるいは慢性腎炎に用いる。黄耆の利尿で浮腫消退し蛋白尿を軽減。急性腎炎では悪風・関節痛・肢体や顔面の浮腫、脈浮の風水の症状に、防已・白朮・甘草配合の防已黄耆湯を使用する。炙黄耆3~5g。

黄耆:痹証に:末梢神経麻痺・脳卒中後の半身不随・リウマチ・肩関節周囲炎:これらは気血両虚のため循環障害で疼痛やしびれである。疼痛には黄耆桂枝五物湯を用いる。運動麻痺には桃仁・紅花・川芎・地竜配合。

黄耆:補陽還五湯は、脳卒中の半身不随に使うが、意識が澄明で体温正常時だけ適用。脳出血が止まり、脈軟弱(気血両虚)を確認して使い脈浮は禁忌。発病後3ヶ月以内は効果があるがすぎると余り効果はない。

白朮:キク科オオバナオケラの根茎:甘微苦:温微香:補脾益気・燥湿利水:健胃・利尿・鎮静:風湿のリウマチなどの関節痛に用いる。蒼朮は辛烈・燥散の作用が強く補益力は弱い。白朮は補益力があり、健脾に適す。

山薬さんやく:薯蕷しょよ:長芋:ヤマノイモ科甘微温:脾肺経:補脾胃・益肺腎・止瀉・袪痰3~10~30~40g。

太子参たいしじん・孩児参がいじじん:ナデシコ科孩児参ワダソウの塊根:甘微苦:微温:脾肺経:益気・生津:肺の気陰両虚・滋潤性がある:滋陰降火は沙参・玄参より弱く、補気作用は党参よりはるかに弱い。5~10g。

半夏ハンゲ・法半夏・姜夏・製半夏3・蘇夏・清半夏(明礬水):辛温:燥湿化痰・降逆止嘔・消痞散結:サトイモ科カラスビシャクの球状塊茎:制吐・催吐(生半夏)・鎮静・眼圧低下・袪痰:3~4g。

化痰散結薬:天南星てんなんしょう・半夏・貝母ばいも・全栝楼ぜんかろ・山慈姑さんじこ・白芥子はくがいし・皂角刺そうかくし・海浮石かいふせき・海蛤殻かいごうかく・生牡蛎・猫爪草びょうかそう(キャッツクロー)・青もう石・海藻・昆布・黄薬子おうやくし。

天南星てんなんしょう・製南星・胆星・南星・胆南星たんなんしょう:サトイモ科天南星の根茎:微辛・辛苦・温:熄風解痙・燥湿化痰:微辛温:辛苦微温:肺肝脾経:鎮静・鎮痙・強い袪痰・袪風痰・顔面神経麻痺:胆南星1.5~3g。

天南星:袪風痰に用いる。風寒痰湿が経絡を阻滞し、眩暈・顔面神経麻痺・半身不遂・手足痙攣・牙関緊急(脳卒中・破傷風)に用いる。脳卒中による運動麻痺には製南星がよい。

天南星:脳卒中初期には三七・大薊タイケイなど止血薬を用い、安定後の半身不随には蜈蚣・鶏血藤など通経活絡薬を配合し、煩躁が生じたら製南星を中止するか:胆南星1.5~3gに変更すべきである。

天南星:破傷風には胆南星1.5~3gを用い、全蠍サソリ・蜈蚣ムカデなどを配合し鎮痙熄風する。防風・天麻3gを配合して玉真散としてもよい。

玉真散ぎょくしんさん(外科正宗):南星 防風 白芷 天麻 羗活 白附子各等分を粉末1回1~3g熱酒で服用:破傷風、牙関緊急、身体強直腰背反張、狂犬病:止痙の強化に全蝎ゼンカツ・蜈蚣ゴショウ・白僵蚕ビャッキョウサンを加える。妊婦は禁忌。

貝母:アミガサユリの鱗茎:苦・寒:開泄肺気・清熱散結:鎮咳薬に配合:浙貝母(象貝母)と川貝母の区別があり、浙貝母を実証に、後者を虚証に用います。また、価格的にも川貝母の方がかなり高価。浙貝母2g。

瓜呂仁・瓜楼仁・栝楼・栝楼仁2~6g:楼仁:楼実:清熱化痰・潤肺化痰・利気通便:熱痰・理気寛中に適用:ウリ科シナカラスウリ・キカラスウリの成熟種子:苦寒:肺胃大腸経。

全栝楼3~6g:栝楼の果実を乾燥したもの。栝楼仁・栝楼皮とほぼ同じで、栝楼仁2~6g・栝楼皮で代用している。  

栝楼皮:栝楼殻ともいう。栝楼の果殻を乾燥したもの。栝楼仁とほぼ同じ。

天花粉てんかふん・花粉・括楼根:ウリ科シナカラスウリの塊根・甘大寒:心肺胃経:清化熱痰:風熱による咳嗽:10~30g衝服。

山慈姑さんじこ3~5g:ラン科サイハイラン・ユリ科アマナの鱗茎:甘微辛・寒・小毒:清熱解毒散・強心・抗がん・抗インフルエンザ・乳癌:乳癌方。

白芥子はくがいし:アブラナ科白芥の成熟種子:辛温:肺経:利気袪痰・消腫止痛:温化寒痰の常用薬:三子養親湯(白芥子・蘇子・莱菔子ダイコンの種、各1g)

皁角刺そうかくし:皁角樹の茎枝の鋭利な棘トゲ:辛温:散腫・解毒・袪風:化膿を消散し早めに自潰させる。サイカチのさやを天日で乾燥させた生薬を皀莢(そうきょう)、サイカチの刺のみを乾燥させたものを皀角刺(そうかくし)といい、種子に熱湯を通して天日で乾燥させたものを皀角子(そうかくし)と言う:刺激性が強いので0.1~0.2g。

皁角刺そうかくし:皁角樹の茎枝の鋭利な棘トゲ:辛温:散腫・解毒・袪風:化膿を消散し早めに自潰させる:刺激性が強いので0.1~0.2g。

海浮石・浮海石・浮石・海石:火山の石が海水に長年侵食され軽くなり水に浮く:二酸化ケイ素・酸化アルミニウム:微鹹微渋微寒:肺経:清肺化痰・軟堅散結:多孔珊瑚石・石花もほぼ同じ:3~5g。

海蛤殻かいごうかく:ハマグリ科オキシジミの貝殻を焼いて粉:清熱利湿・化痰散結:清熱化痰・咳嗽・甲状腺腫瘍「甲状腺ガンに四海舒欝丸」:風邪の熱痰には海浮石、肺気腫・慢性喘息性気管支炎には海蛤殻1~3g。

牡蛎ぼれい:牡蠣カキの貝殻:鉱物など重い生薬:鹹渋・微寒:肝胆腎経:重鎮安神薬。重鎮安神・平肝潜陽・収斂固渋・軟堅散結(軟堅消痞)・制酸止痛:粉剤1~2g、湯剤5~10g。

猫爪草ねこつめくさ:猫爪草は1977年に『中国薬典』に収録され、化痰散結、解毒消腫、痰核、褥瘡腫毒、蛇虫咬傷。現在、抗腫瘍、抗肺結核。

青もう石:雲母の一種:砕き焼き水飛して精製。辛鹹平:肺肝経:袪積痰・除結熱・定驚悸:慢性難治性の痰証に使用:もう石滾痰丸:清熱滌痰:大黄48g黄芩48gもう石6g沈香5g:毎日1.5~3g湯で服用(もう は、石偏に蒙)。

滾痰こんたん:痰を流し去ること。

海藻:ホンダワラ科馬尾藻などの全草:苦鹹寒:肝胃腎経:消痰結・散癭瘤:甲状腺腫に使用:海藻玉壺湯加減:海藻3g 浙貝母3 連翹2 昆布3 法半夏2 青皮1 海浮石3 当帰2 川芎1 海帯3g水煎服。

昆布・海帯に同じ:コンブ科マコンブ・クロメの葉状体:鹹寒:肝胃腎経:軟堅散結・化痰清熱:単純性甲状腺腫に効果3~6ヶ月服用:慢性頸部淋巴腺炎には、昆布消癧湯こんぶしょうれきとう:昆布3 海藻3 夏枯草5 牡蛎10(先煮)白芍3 陳皮2g。

黄薬子おうやくし・黄薬脂・黄独:ヤマノイモ科ニガカシュウの塊茎:苦平:肝心経:涼血降火・散結解毒:黄薬子酒は、とくに食道癌に効果があった:肝臓障害の可能性に注意。

黄薬子酒:黄薬子300gを62度の白酒1500mlとともに陶器製の器に入れて密封し、水をはった鍋に入れ、2時間、弱火で煮る。やや冷えてから水中に入れ、7日後に取り出し残渣ザンサを除く。1日20~50mlを少量ずつ頻回に服用する。

化痰散結法に肝鬱兼挟なら疏肝理気薬を兼用:香附子・鬱金ウコン・青皮じょうひ・陳皮・佛手ぶっしゅ・橘葉きつよう・柴胡・川楝子センレンシ。

香附子こうぶし・別名(香附:莎草さそう):カヤツリグサ科浜菅ハマスゲの根:辛微苦平:肝三焦経:疏肝理気・調経止痛:生理痛など婦人薬に繁用:2~3g。

鬱金うこん・広鬱金・川鬱金・玉金:ショウガ科姜黄キョウオウ(広鬱金を一般に使う)、鬱金ハルウコン(川鬱金は薬性が温和・温鬱金)の塊根:疏肝理気・解鬱袪瘀・止痛・健胃・利胆:ターメリック:1~3g。

青皮じょうひ:ミカン科柑桔の熟する前の青い果皮:効能は陳皮と同じだが行気・化滞作用は陳皮より強い:苦辛温:肝胆経:疏肝破気・散積化滞:気滞を改善し左脇痛(膵炎の痛み)に青皮が使われる:1~2g。

陳皮ちんぴ3g・広陳皮2~3g・広柑皮:理気健脾・燥湿化痰:陳皮は、陳橘皮の橘を省略した言葉で、橘皮が正しい。

仏手柑ぶしゅかん・陳仏手・佛手ぶしゅ:ミカン科ブシュカンの果実の切片を日干し:辛苦酸温。肺脾経:理気止嘔・止痛:健胃作用:2~3g~10g。

柴胡サイコ:苦微寒:セリ科ホソバミシマサイコ:苦微寒:心包・肝三焦・胆経:解表・解熱・疏肝解鬱・升挙陽気:鎮静・鎮痛・抗菌:月経調整作用:気の流れを正し解表解鬱するので風邪薬にもなる:2~6g。

川楝子せんれんし・金鈴子きんれいし・苦楝子くれんし:センダン科トウセンダンの成熟果実:苦寒:肝・心包・小腸・膀胱経:理気止痛・殺虫:アニサキスに:1.5~4g:軟便を来すので多量に使用しない。

化痰散結法に血瘀があれば活血化瘀薬を兼用:丹参タンジン・赤芍・桃仁・紅花コウカ・劉寄奴りゅうきど・生蒲黄しょうほおう・五霊脂ごれいし・馬鞭草ばべんそう・三棱さんりょう・莪朮がじゅつ。

丹参:シソ科タンジンの根:苦微寒:心・心包経:活血袪瘀・涼血・養血安神:血管拡張・鎮静・精神安定・鎮痛・肝不全の疼痛・神経衰弱・動悸・不眠・煩躁・不安など心血虚:天王補心丹:2~5g~10~20g。

天王補心丹:心腎陰虚(心腎不交):酸棗仁10 生地黄20 柏子仁10 麦門冬10 五味子10 当帰6 遠志5 丹参5 玄参5 桔梗5 粉末を蜜丸とし朱砂をまぶし、1回2gずつ服用。

赤芍せきしゃく:ボタン科シャクヤクの根:苦微寒:肝経:清熱涼血・活血袪瘀:補血養陰・鎮静鎮痛には白芍を、涼血逐瘀・活血袪瘀には赤芍を使い、赤芍と白芍を併用することもある:2~5g:冠不全の狭心痛に冠心二号方。

桃仁:バラ科桃の成熟種子の仁:苦甘平:心肝大腸経:活血通経・袪瘀療傷・破血袪瘀・潤燥滑腸:鎮痛・消炎・解毒・通便作用:桃仁泥として用いる:1~3g。

紅花コウカ・紅藍花:キク科ベニバナの管状花:辛微苦温:心肝経:破瘀活血・活血通経・散瘀止痛:血流改善・子宮興奮作用で妊婦は禁忌:1~3g~4~5g。

蒲黄ほおう:ガマ科のガマの穂である蒲黄ほおうの成熟花粉:甘平:肝心包経:収斂止血・活血袪瘀:血淋の常用薬:失笑散(五霊脂 生蒲黄):妊婦には禁忌:因幡の白ウサギの止血に使用:1.5~3g衝服がよい。

五霊脂ごれいし:オオコウモリの糞便乾燥物:鹹温:肝経:袪瘀止痛・通経、生では活血、炒用では止血・鎮痛・瘀血による疼痛で婦人科で失笑散として多用・胃を障害しやすい:2~3g。

失笑散しっしょうさん:五霊脂・蒲黄各等分を粉末にし1回2gを黄酒か醋で衝服する。各1gを水煎服してもよい。活血袪瘀・散結止痛:瘀血停滞作痛を治す・月経不順・悪露不行に活血袪瘀で止痛する。服すれば痛みを忘れ笑みがこぼれるので失笑と名づく。

三稜さんりょう・荊三棱:カヤツリグサ科荊三棱ウキヤガラの塊茎:苦平:肝脾経:破血袪瘀・(三稜+莪朮:破血行気):腹腔内腫瘤・月経不順:1~3g:莪朮との配合では等量の人参か党参・黄耆で補元気する。

莪朮がじゅつ:ショウガ科莪朮の根茎:苦辛温:肝脾経:行血破瘀・攻逐積滞:抗腫瘍・健胃・気滞血瘀による月経不順・腹腔内腫瘤:三棱との配合では等量の人参か党参・黄耆で補元気する:1~3g。

冠心二号方:かんしんにごうほう:活血化瘀・止痛:丹参たんじん 赤芍 川芎 紅花 降香こうこう 木香 香附子:すべて行気薬と活血薬で組成されているので、血虚のない実証には血府逐瘀湯より効果は高い::製品有り。

劉寄奴りゅうきど・劉寄奴草:キク科奇蒿キコウ。ゴマノハグサ科のヒキヨモギの全草:活血通経・消腫止痛:瘀血による腹痛の常用薬で袪瘀による止痛:2~3g~5g

化痰散結の方剤:導痰湯どうたんとう・指迷茯苓丸しめいぶくりょうがん・もう石滾痰丸こんたんがん・半貝丸はんかいがん。

導痰湯(済生方):痰迷心竅:製半夏3 陳皮2 製南星3 枳実2 茯苓2 炙甘草1 大棗1 乾生姜1:痰迷心竅で熱証のみられない舌体白じ・脈弦滑の時に使用:温胆湯の竹筎を製南星に替えた処方:竹筎温胆湯加天南星(天南星は単味がある)

化痰散結法にもう石滾痰丸:清熱滌痰せいねつじょうたん・袪積痰・除結熱・定驚悸:慢性難治性の痰証に使用:大黄48g 黄芩48g もう石6g 沈香5g:毎日1.5~3gを湯で服用

沈香じんこう:ジンチョウゲ科白木香ビャクモッコウ(沈香)の黒褐色の樹脂を含む木材を乾燥加工したもの:辛苦微温:脾胃腎経:降気和中・抗瘧平喘コウギャクヘイゼン・温腎補陽・散寒:沈香は、気虚下陥キキョゲカン・陰虚火旺には禁忌。沈香の樹脂は、虫害や人工的な切り傷の沈香の樹皮から分泌されたもの。独特の香りがある。