喘息・しこり・てんかん

2025/1/31改訂

袪痰法:哮喘(喘息)、痰核(しこり)、瘰癧、癲癇などを治す。

袪痰法は、痰涎たんせんを排除あるいは消除する治法である。

痰の成因は大変多く、およそ内傷・外感は、皆よく痰を生ずる。

但し、脾虚が健運を失い、水湿が停滞すると、湿は集まって痰となるという形が生痰の重要な原因である。
いわゆる「脾は生痰の源」であるというのはこの意味である。

痰が病となる過程は極めて複雑であり、臨床でよく見られるのは
哮喘(喘息)、痰核(しこり)、瘰癧、癲癇などである。

痰証の治療にあたっては、ただ単に痰をみて痰を治するのではなく、必ずその原因を求め、証に因って治療すべきである。

袪痰法を臨床上で運用する時は、細分化して化痰、消痰、滌痰とされるが、そのなかで化痰法が最も常用される。

痰の生ずる病因は同じではないので、
化痰法も細分化され「燥湿化痰」「清熱化痰」「温化寒痰」の各種がある。

「燥湿化痰法」は湿痰を治することで、臨床上では喀痰の色は白く容易に喀出され胸がつまって(胸痞)悪心となり、体は怠く、舌苔は白滑してじ苔(厚くきたならしい苔)である。二陳湯が適用する代表方剤である。

二陳湯:燥湿化痰:半夏5、陳皮4、茯苓5、生姜1、甘草1g。

清肺湯:万病回春:清肺養陰・理気化痰:桔梗3 桑白皮3 川貝母3 杏仁2 黄芩4.5 山梔子2 五味子2 麦門冬2 天門冬2 当帰2 茯苓3 陳皮3 生姜1 炙甘草1 大棗2 日本は竹筎2gを加える。

清肺湯:原著には「一切の咳嗽、上焦痰盛を治す」とあるが、「肺脹嗽、喘急し眠るを得ざるは治し難し」「急嗽にて声唖セイア(失声)・喉に瘡を生ずるは治し難し」「血気衰敗し、声音失すれば、また治し難し」とある。

「清熱化痰法」:熱痰を治するのに用い、熱痰の生成は多くは熱邪襲肺により邪熱内盛して清解されずに津液が熱せられて痰涎タンセンとなる。
臨床上の所見は喀痰は黄色く粘稠で、顔は赤く煩熱し、脈数、口乾し、舌紅で舌苔黄である。
青金化痰湯が代表方剤である。

青金化痰湯:医学統旨:清肺化痰・清熱化痰法:黄芩3 山梔子3 知母4 桑白皮4 栝楼仁4 貝母2 麦門冬2 茯苓2 陳皮2 桔梗2 甘草1g:温病などの熱邪襲肺で咳嗽・黄色痰・粘痰・舌紅・舌苔黄じ・脈滑数。

青金化痰湯:清熱の黄芩・山梔子・知母・桑白皮は肺熱を清瀉し、潤燥化痰の貝母・栝楼仁・麦門冬に排痰の桔梗。理気化痰の陳皮、健脾滲湿の茯苓は生痰の源の脾胃を調理する。

「温化化痰法」は寒痰を治する場合に用い、寒痰の生成は脾腎陽虚のために寒飲が内停して生ずる。臨床上の所見は痰はサラサラして透明で、寒がりで舌淡で舌苔は滑である。桂附二陳湯がその代表方剤である。

桂附二陳湯(桂枝4・附子1・半夏5、陳皮4、茯苓5、生姜1、甘草1)。

白芥子はくがいし:アブラナ科白芥の成熟種子:辛温:肺経:利気袪痰・消腫止痛:温化寒痰の常用薬:三子養親湯(白芥子・蘇子・莱菔子ダイコンの種、各1g)。

肺気上逆の喘息に蘇子降気湯:和剤局方:温化痰湿:寒痰喘咳に降気平喘:蘇子3 前胡3 半夏4 生姜1 桂枝3 厚朴3 陳皮3 当帰3 甘草1g:(小太郎製薬に製品有り:補脾作用がやや弱い):うすい痰の多い肺気上逆の喘息に用いる。

痰湿咳嗽を温肺する蘇子そし・紫蘇子:シソ科紫蘇の種子:辛温:肺経:
下気定喘・止咳消痰・寛胸解鬱:蘇子降気湯そしこうきとう。

寒薬の前胡ぜんこ;苦辛微寒:セリ科白花前胡の根:苦辛微寒:
下気化痰・疏散風熱:風熱が原因の咳・痰を冷やして止める:咳止痰切り薬。

「消痰軟堅法」は痰濁が膠結して生ずる瘰癧や痰核の証に用いる。

消瘰丸ショウルイガン(玄参、牡蠣、貝母)がその代表方剤である。

消瘰丸の玄参げんじん:元参:ゴマノハグサの玄参の根:滋陰清熱・瀉火解毒:滋腎陰薬。

消瘰丸の牡蠣ボレイ:重鎮安神・平肝潜陽・収斂固渋・軟堅散結・制酸止痛。

消瘰丸の貝母バイモ:アミガサユリの鱗茎:苦・寒:開泄肺気・清熱散結:鎮咳薬に配合。

小柴胡湯瘰癧加味方:小柴胡湯+貝母 夏枯草3 瓜呂根2 牡蠣2 青皮2。

「滌痰法」は頑痰が停聚して痰濁内阻となり気逆し喘息する症状である。

控涎丹こうぜんたん(甘遂カンスイ、大戟、白芥子)がその代表方剤である。

甘遂かんずい・かんすい:トウダイグサ科甘遂の根:苦寒・有毒:肺脾腎経:瀉水逐飲・消腫散結:胸水・腹水:丸剤・散剤をカプセルに入れて用いる:妊婦は禁忌:甘遂は難溶性で脂質が有効成分。

大戟たいげき・京大戟:トウダイグサ科タカトウダイの塊根:苦寒・有毒:肺脾腎経:瀉水逐飲・消腫散結:控涎丹(三因方)京大戟・甘遂・白芥子各等分の粉末をカプセルにいれ大棗の煎液で服用。

白芥子はくがいし:アブラナ科白芥の成熟種子:辛温:肺経:利気袪痰・消腫止痛:温化寒痰の常用薬:三子養親湯(白芥子・蘇子・莱菔子ダイコンの種、各1g)。

脾が健運を失って痰を形成することが最も重要な原因であるので袪痰方剤中に常に健脾する滲湿薬(茯苓など)と理気薬(陳皮など)を配合すべきである。

半夏厚朴湯:理気化痰:化痰の半夏が主薬:半夏6 厚朴3 茯苓5 生姜4 紫蘇葉2:肝鬱痰飲の薬:竄痛ざんつうの理気薬。

半夏+陳皮:理気し痰飲を除くが、喘息などは脾虚が根底にあるので、

半夏厚朴湯だけでは補脾作用がないので喘息は悪化する:六君子湯の併用や柴朴湯が良い。

気滞の薬物:枳実・枳穀・厚朴・陳皮・川楝子・蘇葉:気の流れを良くする行気剤:理気剤。

紫蘇葉・蘇葉:辛温:発汗解表・行気寛中・解魚蟹毒:安胎。

これにより脾を健やかにすれば湿はなくなり、つまり痰は生ずる所がなくなることを意味する。すなわち気機を調え伸びやかにすれば痰は容易に消除される。いわゆる「痰をみて治痰法を休む」「よく治痰する者は、痰を治せずして気(脾気)を治す」の意味である。

気の運動形態は、気機と称され、昇・降・出・入の四つの形式がある。臓腑・経絡などは、元気の昇降出入する場所である。生命活動は、元気の昇降出入という運動である

袪痰法の多くは慢性気管支炎や呼吸器感染症などの病証を治療する。同時に呼吸気道内の分泌物を排除し、刺激を和らげ、咳嗽を消除する。

薬物はよく抗菌消炎薬を用い、呼吸器道の感染を制御すべきである。