2025/2/3~7改訂
運脾除湿法うんぴじょしつほう
湿熱が中焦(胃腸)を阻滞した時は、清熱除湿法を用いる。
もし中焦の陽気が不足すると、寒湿困脾(平胃散、苓桂朮甘湯、苓姜朮甘湯、藿朴夏苓湯)となり、寒湿が脾虚をもたらす。
寒湿困脾の症状は、お腹が痞え、腹脹し、大便は軟便で溏薄となり、舌苔は白く厚く、或は、「脾は四肢を主る」ため脾虚では肌肉や関節が疼痛などの症状となるので、蒼朮や白朮、厚朴、陳皮、半夏などの湿を除く運脾化湿薬と茯苓、沢瀉などの淡滲利湿薬タンシンリシツヤクを組み合わせて運脾除湿の治療を行う。
風湿に蒼朮そうじゅつ(鎮痛薬):キク科ホソバオケラの根茎:苦辛温:
燥湿健脾・袪風湿・風湿の筋肉痛や関節疾患の鎮痛薬。
(白朮は補益性がありオオバナオケラの根茎)
寒湿困脾の常用方剤は、平胃散、苓桂朮甘湯、甘姜苓朮湯(苓姜朮甘湯)、藿朴夏苓湯かくぼくかれいとうなどである。
寒湿が中焦を阻むという病理には、蒼朮、半夏などの温性燥湿薬が主要な構成成分になっていて、たとえば平胃散(燥湿薬)はもっぱら燥湿運脾の処方で理気作用が主で利湿薬はあまり用いていない。
半夏ハンゲ・法半夏・姜夏・製半夏・蘇夏ソカ・清半夏(明礬水で修治):辛温:燥湿化痰・降逆止嘔・消痞散結:サトイモ科カラスビシャクの球状塊茎:制吐・催吐(生半夏)・鎮静・眼圧低下・袪痰:3~4g。
平胃散:理気化湿・和胃:蒼朮4 厚朴3 陳皮3(大棗2 生姜1 甘草1):蒼朮(鎮痛剤)が主薬の平胃散は理気し湿気を去る鎮痛剤である。
二陳湯:燥湿化痰:半夏5、陳皮4、茯苓5、生姜1、甘草1:痰飲の基本処方。
但し、一般の運脾除湿法の方剤には、多くは甘淡滲湿薬(茯苓や沢瀉・白朮など)が配合されている。
白朮:キク科オオバナオケラの根茎:甘微苦:温微香:補脾益気・燥湿利水:健胃・利尿・鎮静:風湿のリウマチなどの関節痛に用いる。蒼朮は辛烈・燥散の作用が強く補益力は弱い。白朮は補益力があり、健脾に適す。
寒湿が強ければ、温運脾陽の効果がある乾姜、草果ソウカ、或は温化化気の桂枝、などを用いて化気行水している。例えば苓桂朮甘湯、甘姜苓朮湯(苓姜朮甘湯)などである。
「この類型の証」と「湿熱が中焦を阻滞する証」は、一つは寒証で、一つは熱証の相違はあるが、相互に参考にすべきである。
草果ソウカ・草果仁:ショウガ科草果ソウカの成熟種子:辛温:脾胃経:芳香健胃薬、袪湿、消滞、袪痰、截瘧セツギャク(瘧をとめること)草果と草豆蔲ソウズクは科・属が同じで作用はよく似ている。草豆蔲は健胃作用が優れる。
瘧ギャク:おこり。
苓桂朮甘湯:温化寒飲・通陽化痰・健脾利水:
茯苓6 桂枝4 白朮3 甘草2:
心陽虚に用い:眩暈・頭痛(包裹痛)・頭重感・のぼせ・肩こり
(桂枝はのぼせ・肩こり等の気逆を降逆する)・足冷:もともと心臓の薬で痰気鬱血薬。
苓姜朮甘湯・甘姜苓朮湯・甘草乾姜茯苓白朮湯・腎著湯じんちゃくとう
(寒湿の邪に使う):袪湿散寒・止痛:下焦の寒湿に適応:
茯苓6 乾姜3 白朮3 甘草2:
寒湿の腰痛・クーラーの冷え症・五十肩(二朮湯)。
二朮湯:万病回春:袪風湿・化痰:蒼朮4.5 白朮 天南星 陳皮 茯苓 香附子 黄芩 威霊仙 羗活 甘草各3 半夏6 生姜:痰飲にて双臂・手臂の痛む湿盛挟痰を治す:導痰湯の生薬が含まれている。
袪風湿薬の威霊仙いれいせん:キンポウゲ科シナボタンヅルの根・枝・茎:辛温:膀胱経:袪風湿・通絡止痛・消痰逐飲:魚骨が咽に刺さった時に酢と砂糖で水煎しゆっくり飲む。
羗活きょうかつ:セリ科羗活の根や根茎:辛苦温:散寒燥湿・解表(カゼ薬)・袪風湿・止痛;羗活は風邪薬によく配合される:荊防敗毒散・蠲痺湯。
荊防敗毒散:辛温解表・袪風邪・袪湿邪・止咳化痰・止痛:荊芥3 防風3 羗活2 独活2 柴胡3 前胡2 川芎2 桔梗1 枳穀2 茯苓3 炙甘草1 生姜1 薄荷1:無汗で疲れ易い体力の無い人の風邪。
二朮湯は導痰湯の代わりに使える。
導痰湯:済生方:痰迷心竅:認知症:製半夏3 陳皮2 製南星3 枳実2 茯苓2 炙甘草1 大棗1 乾生姜1:精神病・突然の異常を発症する・癲癇。
藿朴夏苓湯かくぼくかれいとう:医原:湿温、湿勝熱微、身熱不渇、肢体倦怠、胸悶、舌苔白滑、脈濡:藿香3 淡豆鼓3たんとうし・たんずし 白豆蔲1びゃくずく 厚朴2 半夏3 杏仁2 茯苓3 猪苓2 沢瀉2 生薏苡仁7g。
平胃散
平胃散:和剤局方:運脾除湿法:蒼朮3 厚朴3 陳皮3 甘草1g:
寒湿積滞して中焦を阻み、腹部は脹満し、ゲップ・胸焼け、食欲不振、嘔吐や悪心、大便溏薄、怠く嗜眠、体が重く痛む。舌苔が白く厚い。
平胃散:寒湿積滞は、脾陽不振により生ずる。胃濁が上泛じょうはんでは嘔吐や悪心となる。湿困脾陽(湿困脾胃)では怠くなり嗜眠傾向となる。湿が肌肉に留まると体は重くなり、酸疼(シクシク痛む)する。湿盛では舌苔は厚く白い。寒に属するので苔白で苔黄(熱状)にはならない。
平胃散:脾陽不振で生じた寒湿による阻滞には、運脾除湿(温運化湿)すべきで、脾陽を振奮シンフン(ふるいたたせ)して中焦の寒湿を温め消去する。
蒼朮は苦温辛烈で運脾燥湿作用を具えており平胃散の主薬である。
厚朴は苦温で、除湿し腹脹を緩める。
陳皮は辛温で、利気行痰する。
厚朴と陳皮の芳香化湿は、脾を覚醒し胃腸を調える補助薬である。
甘草は、よく補いよく調和させるので佐薬・調和薬である。
平胃散は、慢性腸炎あるいは胃下垂症(香砂六君子湯の適用)で以下の症状を呈する者に用いることができる:腹部は脹満し、ゲップ・胸焼け、食欲不振、嘔吐や悪心、大便溏薄、怠く嗜眠、体が重く痛む。舌苔が白く厚い。
加減法
1,楂曲平胃散ざきくへいいさん:平胃散加山楂子(山査子サンザシ)、神曲シンキク、麦芽バクガ(3味は皆消化薬)。飲食積滞を治す。痞脹呑酸・食欲不振、倦怠して嗜卧の症状に用いる。これは除湿と消導の併用形式で、酒積には丁香・砂仁を加える。
呑酸ドンサン:口中に呑酸があるのは、肝火犯胃か胃熱が多い(逆流性食道炎・胸焼け)。
神麹しんきく:神曲しんきく:辛甘温:消食行気・健脾止瀉・解表:消化剤:小麦粉、杏仁、赤小豆粉、青蒿、蒼耳子、ヤナギタデを合わせ、稲藁か麻袋に入れ夏2~3日発酵させ、黄色の菌糸が伸びたら乾燥させサイコロ状に切る。消食・健脾和胃作用:別名六麹ろっきく という。。
2,開胃健脾丸:平胃散去甘草加枳実。脾胃不和を治す。味覚がわからず、腹脹満や嘔吐胸焼けなどを治す。下気消痞の効力は平胃散より強い。
香附子、烏薬、枳殻は調気疏肝する。
3,枳朮平胃散:平胃散と枳朮湯(枳実・白朮)の合方。下気消痞ゲキショウヒの増強と健脾除湿の効果が高まる。平胃散証で脾虚湿盛の者に頗スコブる良い。
枳朮丸きじゅつがん:脾胃論:健脾消痞:枳実30 白朮60g。糊で丸剤とし、1日3回2~3gずつ服用する。腹が脹りつかえる、食欲不振。
枳実キジツ:ミカン科ダイダイや夏みかんの未熟果実:苦辛微寒:破気消積しょうしゃく・化痰散痞・理気寛胸:2~3g:気滞便秘・肝鬱気滞の腹痛・消化運動・排ガス促進。枳実(強い作用)・枳穀(弱い作用)。
枳実は、下気化滞ゲキカタイ・ゲキケタイ、消痞除満。
白朮は、健脾袪湿。
4,不換金正気散:平胃散に藿香、半夏を加える。平胃散に比べて芳香化濁が多く含まれ、降逆止嘔の効果があり、表証の見られる時も使用できる。
藿香2~5g・広藿香:シソ科カワミドリの全草:辛微温:脾胃肺経:
化湿和中・解暑・解表・健胃・解熱:辛散により風寒を除き、芳香化濁によっし湿濁を化湿、醒脾和中にも働く:夏季の暑湿の常用薬。
表証:悪風・悪寒発熱、頭痛・身体痛、腰痛、くしゃみ・鼻水・鼻閉・脈浮・脈浮数・脈浮緊などの症状。(浮脉(脈浮)は陽気が盛んであることを意味し表証であることを示す。悪風・悪寒がなければ表証ではない。
5,香砂平胃散こうしゃへいいさん:平胃散加木香、砂仁しゃじん。脾虚傷食、痞満納呆、悪心嘔吐などを治す。行気、健脾、止嘔の効果は平胃散より強い。
木香もっこう:キク科インド木香の根:辛苦温:行気止痛(行気薬ぎょうきやく・理気薬)。
縮砂しゅくしゃ・砂仁しゃじん:ショウガ科縮砂の成熟果実:辛温:脾・胃・腎経:理気寛胸:健胃:香砂六君子湯・香砂養胃湯。
木香と縮砂を配合すると行気止痛・健胃の効果が増す。胃痛・胃重に香砂六君子湯。
6,胃苓湯いれいとう:平胃散と五苓散の合方。寒湿困脾の泄瀉を治す。小便を利して大便を実する分利法。胃苓湯は燥湿(平胃散)と利湿(五苓散)を合わせ用いる組合せ。桂枝を去り乾姜を加えれば更に効果がある。
7,茵陳胃苓湯いんちんいれいとう:胃苓湯加茵蔯。陰黄(黄疸の一種)という黒っぽい黄色の薫黄色の発黄を治す。或は徐々に発熱し、舌苔黄滑、口乾して多くは飲みたがらない肝胃を同治する配伍形式である。
茵蔯蒿湯は臨床において、各種の肝胆疾患による黄疸に用いられており、その黄疸が陽黄であれば、必ず一定の効果を上げる。
茵蔯蒿インチンコウ:カワラヨモギの幼苗:苦平微寒:清熱利湿・退黄疸:胆汁分泌促進・黄疸の主薬。
茵蔯蒿湯は、茵蔯蒿+山梔子を用いて黄疸を治す:清熱利湿・退黄:茵蔯蒿4 山梔子3 大黄1g。
8,肝胆管結石方:平胃散加茵蔯30g、山梔子10g、鬱金10g、金銭草10~20g、肝胆管結石や泥砂を治す。長期に服用すれば有効である。
鬱金うこん・広鬱金・川鬱金・玉金:ショウガ科姜黄キョウオウは広鬱金と呼ばれこれを一般に使う)、鬱金ハルウコンは川鬱金で薬性が温和で別名温鬱金)それぞれの塊根:疏肝理気・解鬱袪瘀・止痛・健胃・利胆。
金銭草・連銭草・遍地香:マメ科・サクラソウ科・ヒルガオ科・シソ科などを使う:甘涼:肝腎膀胱経:利水通淋・清熱化湿・解毒消腫:輸尿管結石方・腎石一方・胆道排石湯:含有するカリウムが排石するらしい。
連銭草は、シソ科カキドオシ;夜尿症に使う。
9,厚朴飲:平胃散加乾姜。平胃散証で寒が強いものを治す。
10,下死胎方:平胃散加芒硝。服用後、よく死胎を排出する。
11,七味除湿湯:平胃散加藿香、半夏、茯苓。寒湿に傷られ、体が重く体痛し、大便溏泄し小便渋あるいは小便利、腰脚酸疼サントウ、腿膝タイシツは浮腫し、胃寒し嘔逆になることもある。
「続易簡方イカンホウ」の百一除湿湯は、一切の中湿自汗、浙浙として悪風、翕翕として発熱、陽虚自汗、呼吸少気には、七味除湿湯に白朮と附子を加えたもの。
百一除湿湯:続易簡方:蒼朮4 厚朴3 陳皮3 大棗2 生姜1 甘草1 藿香 半夏 茯苓 白朮 附子:
一切の中湿自汗、浙浙として悪風、翕翕として発熱、陽虚自汗、呼吸少気。
「浙浙セキセキとして悪風し」は、冷水を体に注ぎかけられて、ぞくぞくして寒がる状態を言う。
「翕翕キュウキュウとして発熱し」は、衣服を沢山着込んで発熱している状態を言う。
12,加味胃苓湯:胃苓湯加紫蘇シソ、香附、木香。一切の水腫脹満を治す。
胃苓湯:蒼朮4 厚朴3 陳皮3 大棗2 生姜1 甘草1 茯苓5 猪苓5 沢瀉6 白朮5 桂枝3g。
13.分消湯:胃苓湯去桂枝加枳実、砂仁、木香、香附、大腹皮。中満鼓脹を治す。
大腹皮:シュロ科ビンロウジュの成熟果皮を乾燥:辛微温:脾胃大腸小腸経:下気寛中・利水消腫:胃気上逆や膨満を除き消化促進:加減正気散・(五皮飲:麻科活人全書:軽度の浮腫・乏尿に用いる)。
五皮飲ごひいん:麻科活人全書:軽度の浮腫・乏尿に用いる:
五加皮4 陳皮3 生姜皮2 大腹皮3 茯苓皮5。
14.縮砂胃苓湯:胃苓湯加縮砂仁。縮砂胃苓湯は、日中は何事もなく、まさに日晡に腹が膨れ、夜には腸鳴し、腹脹が緩むことはなく、早朝には洞泄するこの名を頓瀉という。これは脾虚湿盛の症状なので、縮砂胃苓湯を用いて脾陽を温運し、水湿を分利する。さらに弱い者には、理中湯加木香とする。
洞泄どうせつ:食事をするとすぐに不消化便を下利すること。寒泄に属す。
治法は温中法による。附子丸・縮砂胃苓湯・理中湯加木香などを用いる。
縮砂しゅくしゃ・砂仁しゃじん:ショウガ科縮砂の成熟果実:辛温:脾・胃・腎経:理気寛胸:健胃:香砂六君子湯・香砂養胃湯。
木香と縮砂を配合すると行気止痛・健胃の効果が増す。胃痛・胃重に香砂六君子湯。