2025/2/10~11改訂
苓姜朮甘湯(甘草乾姜茯苓白朮湯・腎著湯)
苓姜朮甘湯:金匱要略:温中除湿法:脾が湿に傷られ寒湿を患う証に適用:
甘草2 乾姜5 茯苓5 白朮4g水煎温服する。:体が重く腰が冷え、水中に坐すが如くで不渇、小便自利(腎臓に病は無い)、飲食に変化はなく(胃腸に病は無い)、腰以下は冷痛し五千銭を帯びるような腰重である。
苓姜朮甘湯:「素問・痺論」に謂う、
寒気勝る者は痛痹(痛みが強い痹証)となる。
湿気勝る者は着痹(重だるい痹証)となる。
苓姜朮甘湯の証は、腰以下が冷痛し腰重が主症で寒湿に属する証型である。「寒湿の性質は重濁なので下を傷り」腰に症状が顕著であり腰以下が冷痛し、冷えの状態は「水中に坐するが如き」で、寒が一般に甚だしい。
湿が勝れば重くなり、「五千銭を腰に帯びるが如し」となるのは、湿が一般に甚だしいためである。
「腰は腎の府」で、苓姜朮甘湯(腎著湯)の証は腰部に見られるので、
「金匱要略」では、之を称して「腎著じんちゃく」という。
その実際は腎臓の病変ではなく、「寒湿が肌肉に留着」して生じている。
「脾は肌肉を主る」、脾が湿に傷られと湿が肌肉に留まり冷えて重く痛む。
口は渇かず小便自利し、「飲食はもとの如く」は主症ではなく、弁証の要点である。
一般の病理では、水湿を病むと多くは脾陽が失調し、そのため「飲食は減少」し、脾が津液を輸送せず「口渇しても飲みたがらない」などの湿滞中焦の症状となる。
或は、水湿を病むと多くは脾陽が失調し「腎の機能失調による小便不利」の下焦症状となる。
苓姜朮甘湯証は、「飲食は不変」で、不渇であるから苓姜朮甘湯証の病変部位は胃腸(脾陽は病んでいない)ではない。
苓姜朮甘湯証が冷痛し腰重する症状はあたかも腎臓部位の症状とみえるが、小便自利なので腎臓病変ではない。
故に、冷痛し、腰重し、飲食は元の如く、小便自利などをもって、此の証は脾が湿に負け、肌肉に寒湿が留著して病んでるものであることが分かる。
苓姜朮甘湯は、温中除湿の法に則している。
方中の乾姜は、温中袪寒し、白朮は運脾除湿し、茯苓は甘淡滲湿し、甘草と合わせて培中健脾している。
脾湿が去れば腰重証は除かれ、寒が去れば冷痛証状は解す。
参考
1,寒湿痺の著しい者で、腰以下が冷重して痛み、陰唇が水腫してむくみ、小便淋瀝する証に、苓姜朮甘湯を用いることができる。
淋瀝りんれき:淋病や膀胱カタルなどの病の時の小便の出かたをいう。
淋:小便がしたたって尽きないで、尿意は頻繁だが尿量はすくなく、尿道が渋って痛む病証(膀胱炎・尿道炎・淋証)。初期には湿熱下注で発し、慢性化すると淋家(慢性的な淋証)となり、多くは下焦の陰虚になる。
淋:小便が急迫・短・渋・痛などをあらわす病証をさす。
八正散・五淋散・補中益気湯・知柏地黄丸・八味丸。
五淋散:清熱利水・活血止痛:茯苓6 沢瀉3 車前子3 滑石3 山梔子2 黄芩3 木通3 赤芍2 当帰3 甘草3 地黄3g。
八正散はっしょうさん:和剤局方:清熱瀉火・利水通淋:木通2もくつう、車前子3、萹蓄3へんちく、瞿麦3くばく、滑石3、甘草1、大黄2、山梔子2。
2,苓姜朮甘湯加杏仁は、妊婦の浮腫を治し、小便自利、腰体が冷痛し、
喘息を治す。
杏仁:潤肺止咳・潤腸通便・下気止咳:咳止めのアミグダリン(青酸配糖体)を含有する・潤腸するので便秘薬となる:痰湿咳嗽を温肺し乾かす。
苓姜朮甘湯加紅花は、婦人の長引く冷えた帯下を治す。
紅花コウカ・紅藍花:キク科ベニバナの管状花:辛微苦温:心肝経:
破瘀活血・活血通経・散瘀止痛:血流改善・子宮興奮作用で妊婦は禁忌:
1~3g~4~5g。
苓姜朮甘湯加附子は、老人が小便失禁したり、腰腿沈重し冷痛を治す。
男女とも遺尿が14,5歳まで止まない者を治す。
上述の用法は頗る巧みな方法であり、学ぶ者は留意すべきである。