生脈散の解説

2025/4/19~20

生脈散

出典「医学啓源・麦門冬項」金(南宋)張元素(張潔古)1186年の
麦門冬の解説文中に生脈散が書かれている。

「麦門冬、気は寒なり、味は微苦甘なり、肺中の伏火にて、脈気絶えんと欲するを治すには、麦門冬に五味子・人参の二味を加え、生脈散をつくり、肺中の元気を補うに、須スベカラく生脈散を用うべし」

疲労や暑熱により肺の気陰両虚が発症し、同時に心の気陰両虚も生じている時、生脈散を用いて肺の元気を補い、脈を生じ回復させる。

脈気が絶えんとするとき、心気陰両虚の胸痛を治す時、生脈散合炙甘草湯を用いる。

生脈散は、熱中症や夏バテに用いるだけでなく、脈が弱くなっている者に脈を生じ回復させる方剤である。

胃腸虚弱の者、高温多湿にあえば汗を多くかき、身重くなり、脾腎両虚になり全身倦怠となる。

肺気、心気、元気を補うのに生脈散を用いる。

暑熱に冷飲食が過多となると体が怠くなる。

生脈散は、夏の暑さで消耗した元気を補うために創られた方剤である。

生脈散を創った張元素は、麦門冬には脈を生じる作用があるとしている。

「本経疏証」清、潤安、1837年の薬物書。「麦門冬 心肺を潤し血脈を通じる」心肺を潤し、途絶えていた脈が復活する。脈弱を生脈散は回復させる。

「医療衆方規矩・中暑」曲直瀬道山まなせどうさん、1636年。
「生脈散 暑によりてにわかにたおれ神シンくらみ脈絶える者を治す」として、生脈散は暑邪による心気陰両虚の意識不明・脈絶に用いる。

「方彙口訣ほういくけつ」(「古今方彙」甲賀通元1747年の解説書)
「生脈散・・精気をうるおし、元気を養い、心と肺とを潤し補う」

「『「勿誤薬室方函口訣」浅田宗伯 1878年(明治11年)では、
「生脈散 暑気あたり、熱中症に使うが、力足らず。一切元気弱き脈の病人には補中益気湯や真武湯を合方して用いるべき」としている。
生脈散合補中益気湯や生脈散合真武湯とする。

生脈散合補中益気湯は、浅田流(浅田宗伯)では、肺気陰両虚の慢性気管支炎・肺結核に多用した。

生脈散は、心肺の気陰両虚を補う。

気陰両虚の症状:口渇、多飲、倦怠感、元気がない、午前に発熱し午後に解熱、あるいは午後に発熱し朝に解熱:肺気陰両虚を呈する時は、益気養陰するために四君子湯合八仙丸や補中益気湯合八仙丸とする。。

暑熱傷気の潮熱は気陰両虚の症状・・清暑益気湯:小児は陰液・陽気ともに不足し暑熱に耐えずに気陰消耗し潮熱を生じる。小児の夏季熱:午前に発熱し午後に解熱又は午後に発熱し翌朝に解熱:口渇・水分を欲す。

麦門冬:甘微苦寒:肺胃心経:養陰潤肺・止咳・清心除煩・益胃生津・潤腸通便。肺を潤し津液不足の乾咳・咽乾口燥を治す。心肺の気陰両虚による息切れ・動悸を治す。大腸乾燥による便秘を治す。「中薬大辞典」

人参:甘微苦温:脾肺経:大補元気・生津しょうしん・補気固脱・養血安神。脾気や肺気を補い、元気を補う。津液を生成し口渇を止める。補気固脱では汗を止め、突然昏倒し意識昏迷の虚脱状態を治す。

人参は一切の気血津液の不足を補う。「神農本草経」では、「五臓を補い、精神を安んじ、驚悸キョウリを止め、邪気を除き、目を明らかにし、心を開き智を益すを主る」と記されている。

「本草綱目」や「本草備要」では、人参は「血脈を通ず」と記されている。血脈が通じて血行が活発になれば、脈も生じる。

五味子:酸温:肺心腎経:斂肺止咳・生津・斂汗・滋腎渋精・渋腸止瀉。肺気を収斂し咳嗽を止め津液を生じ多汗を収斂する。肺気陰両虚を治す。滋腎渋精は遺精・遺尿・頻尿を治し、渋腸止瀉は久瀉を治す。

人参・麦門冬・五味子は皆肺経に帰経する。

生脈散の適応症

1,心気陰両虚証を治す。

生脈散:心気陰両虚証を治す:脈弱・脈結代(不整脈)の動悸・息切れ、倦怠感、言語低微、不安感・恐怖感・虚煩、不眠、多夢、多汗、寝汗、四肢煩熱、口乾、面白・顴紅、舌紅や舌尖紅、舌苔少・光剥、脈細数。

2,肺気陰両虚証を治す。

生脈散:肺気陰両虚証を治す:主に咳嗽・息切れ、少痰・無痰、自汗、口乾・口渇、疲労倦怠、懶言(ものうい話方)を治す。心煩、鼻中乾燥、舌質乾燥、脈虚弱を治す。

生脈散の加減法

「外台秘要」唐、王燾おうとう、752年。
五味麦門冬湯:生脈散加甘草・石膏:傷寒下後の煩熱口渇を治す:内熱・口渇・咳嗽が激しい時に適応:代用は、生脈散合桔梗石膏・生脈散合竹葉石膏湯。「外台秘要」唐、王燾おうとう、752年。

竹葉石膏湯:清熱生津・益気和胃:生石膏 淡竹葉 人参 麦門冬 製半夏 炙甘草 粳米:吐後に内生する煩熱を、益気生津しつつ、生石膏と淡竹葉で清熱して煩躁をおさえる。

生脈散の合方例

1,生脈散合麦門冬湯(心肺気陰両虚による久咳・結代・咳顔面紅潮)

2,生脈散合竹葉石膏湯(熱病後の内熱・口渇・咳嗽が激しい時)

3.生脈散合補中益気湯(夏バテ・意識混濁・疲労の脈弱・息切れ)

4,生脈散合真武湯(夏バテ・動悸・冷え症の脈弱)

5,生脈散合八仙丸(久咳。乾咳・動悸・息切れ・倦怠感)

6,生脈散合炙甘草湯(動悸・動悸が続く・不整脈)

7,生脈散合冠心二号方(コタロー還元清血飲)(胸痛・心臓痛)

8,生脈散合黄連阿膠湯(心腎不交の不眠・動悸・不安感)

9,生脈散合天王補心丹(心腎陰虚・心気陰両虚による舌痛症)

10,生脈散合牛黄清心丸(心気陰両虚と閉証による舌痛症)

11,生脈散合六味丸または四物湯(目乾・口乾シェーグレン症状)

生脈散の類方鑑別
清暑益気湯:脾胃論:益気生津・清熱利湿・解暑:黄耆5 党参5(人参2) 麦門冬5 白朮5 当帰4 沢瀉3 葛根3 神麹3 升麻2 陳皮3 五味子2 炙甘草1 青皮2 蒼朮2 黄柏2 生姜2 大棗3(17味)。

清暑益気湯:頭痛・身熱・微形寒・口渇・自汗・四肢困倦・食少腹脹・呼吸気短・声微、小便黄赤・大便溏薄(軟便)・舌苔が白く厚い・脈虚軟。

清暑益気湯は生脈散を含み、清暑益気・補肺生津・健脾燥湿作用があるが、生脈散には暑熱を清熱する薬物は無い。清暑益気湯には清熱除煩の黄柏が配合されている。

生脈散の臨床応用

生脈散:心肺気陰両虚による息切れ・動悸・脈虚弱・不整脈・胸痛・心臓痛・顔面蒼白。人事不省・冷汗・呼吸しづらい・全身倦怠・言語低微・不安感・恐怖感・不眠・多夢・寝汗・舌質淡・舌尖紅・苔少。

1,生脈散合炙甘草湯:心肺気陰両虚による動悸・動悸が続く・不整脈・息切れ・心不全症状が甚だしい時に適応。

炙甘草湯:益気通陽・滋陰補血:炙甘草3 生姜3 人参3 桂枝3 麦門冬6 麻子仁3 阿膠2  生地黄6 大棗3g:心気陰両虚の胸痛:生脈散・炙甘草湯の加減方を使う。

2.生脈散合冠心二号方(コタロー還元清血飲):心臓痛・胸痛し、胸が重苦しい場合で心血瘀を併発している時に使用。

冠心二号方:丹参 赤芍 川芎 紅花 降香 木香 香附子:コタロー還元清血飲には降香が無いが木香 香附子が入っている:2g90包:11500円。

3,生脈散合開竅剤:意識混濁などの閉証を伴う時:生脈散合六神丸・生脈散合牛黄清心丸。

六神丸:アセンヤク・麝香・センソ・牛黄・竜脳・人参・熊胆ユウタン。

牛黄清心丸:痘疹世医新法:清熱解毒・安神開竅:牛黄30 鬱金30 犀角30 黄芩30 黄連30 山梔子30 牛砂30 竜脳7.5 麝香7.5 真珠15 蜜にて丸剤(1丸3g):高熱・転々反側・意識障害

「医宗金鑑」清、呉謙ごけん、1742年。
「李東垣は、夏月は生脈散を服し、黄耆・甘草を加え、生脈保元湯と名ずく。人をして気力・脈気を湧きだたせる。更に当帰・白芍を加え人参飲子と名づく。気虚喘咳・吐血衄血(鼻血)を治す。」

生脈保元湯の代用:生脈散合補中益気湯(気力・脈気を湧き出す)。

人参飲子の代用:生脈散合人参養栄湯(気虚喘咳・吐血衄血を治す)。

不眠が甚だしい時:生脈散合帰脾湯・生脈散合酸棗仁湯。

帰脾湯:気血双補・補脾・養心安神・摂血:黄耆2 人参3 白朮3 当帰2 茯苓3 竜眼肉3 酸棗仁3 遠志2 炙甘草1 木香1 大棗2 生姜1g:不安感のある気血両虚。

酸棗仁湯:心血虚・心肝火旺に養心安神・清熱除煩:酸棗仁5 茯苓5 知母3 川芎3 炙甘草1):疏肝作用の逍遥散・抑肝散を合方する。思慮過度して生ずる、のぼせ・イライラや不安感・不眠を鎮める。