2025/7/18~19
運動麻痺(癱瘓たんたん)
運動麻痺(癱瘓たんたん):肢体が軟弱無力で筋肉が弛緩し、運動困難・不能で、運動麻痺をさす。
「聖済総録せいさいそうろく」
「癱タンは、怠惰にして収摂できず、
緩カンは、弛縦して物を制することができずに四肢挙がらず。
筋脈関節無力にして、枝梧シゴすべからざるものを癱タンという。
枝梧シゴ:支えること。
緩は、四肢よく挙動するといえども肢節緩弱にして物にもたれてはじめてよく運用するものをいう。」
1,肺胃傷津の運動麻痺:清燥救肺湯加玉竹沙参:陰液や津液の不足。外感による実熱の発熱期や発熱後に熱邪犯肺や病後の余熱で肺熱が津液を消耗して運動麻痺となる。上肢や下肢の軟弱無力で運動麻痺となる。
1,肺胃傷津の運動麻痺:手で持てない、足で立てない。漸次肌肉削痩・皮膚乾燥・焦躁感・口渇・痰少・むせる咳・手心足心のほてり・顴紅・咽喉乾燥・口唇乾燥・尿赤量少・排尿痛・舌紅乾燥・苔黄・脈細数:清燥救肺湯加玉竹沙参。
「素問・痿論いろん」「肺熱し葉焦すれば、すなわち皮毛は虚弱急薄し、著しければすなわち痿躄イヘキを生じるなり」
痿躄 あしなえ。下肢の運動麻痺
張子和も「大抵の痿の病たるは、みな客熱によりて成る」と記載している。
1,肺胃傷津の運動麻痺:「温熱の邪は最も津液を消耗しやすく」、肺は「百脈を朝する嬌臓きょうぞう」であり、胃は水穀の海で「津液の化源」である:清燥救肺湯加玉竹沙参。
1,肺胃傷津の運動麻痺:熱邪が肺胃を障害すると「胃による中焦の化源」と「上焦の肺の宣散」が不足して百脈が空虚となって肌肉・筋が栄養されなくなり、手足の運動麻痺が生じる:清燥救肺湯加玉竹沙参。
1,肺胃傷津の運動麻痺の症状:高熱・顔面紅潮・目の充血・口渇・喜冷飲。咽や口唇の乾燥・濃縮尿・乾燥便・舌紅乾燥・脈細数など津液消耗の症状:清燥救肺湯加玉竹沙参・白虎加人参湯合生脈散。
清燥救肺湯せいそうきゅうはいとう:清肺潤燥・肺気陰両虚:
燥熱の邪による乾咳を鎮め・袪痰・解熱作用:咽痛・気管支炎・気管支拡張症:桑葉3 石膏5 人参1 胡麻仁3 阿膠2 麦門冬3 杏仁2 枇杷葉3 炙甘草1g:白虎加人参湯合生脈散。
桑葉そうよう・冬桑葉・:クワ科クワの成葉を乾燥:苦甘寒:肺肝経:宣肺・疏散風熱・清肝明目:風熱による肺熱を清し乾咳を潤して止咳::とくに乾咳・燥咳に適用する:2~4g:桑菊飲。
枇杷葉:バラ科ビワの葉:苦平:肺胃経:化痰止咳・降肺気・和胃止嘔・清熱:鎮咳・袪痰・健胃:上焦の熱を冷ます。肺熱を冷まし肺炎に。石膏も肺熱をさます。夏によく飲まれる枇杷葉茶:3~5g。
白虎加人参湯・石膏知母加人参湯:清熱瀉火・生津止渇・補気:気分熱盛(陽明病経証):生石膏15 知母5 生甘草2 粳米8 人参3:
日射病・熱射病:熱感・口渇・多汗・多尿・息切れ・無力感。
麦門冬湯:滋陰益気・補益肺胃(胃陰虚・肺陰虚に適応)・降気:
麦門冬10 人参2 製半夏5 炙甘草2 粳米こうべい5 大棗3:
口乾の吃逆に一服で効く:消渇病で多食善飢だが体重減少がある陰虚につかう。
1,肺気陰両虚証:益気養陰・清熱潤肺:生脈散・竹葉石膏湯・清燥救肺湯・補中益気湯加五味子麦門冬(味麦益気湯)。
肺気陰両虚を呈する時は、益気養陰するために四君子湯合八仙丸や補中益気湯合八仙丸・補中益気湯合六味丸合生脈散とする(六君子湯では陰虚を助長する畏れ)。
1,肺気陰両虚:無力感・元気が無い・咳嗽・息切れ・多汗・両頬部の紅潮(顴紅かんこう)舌質紅・脈虚数みゃくきょさく:
治法は益気斂陰で生脈散加味を用いる。
生脈散:脈弱・脈結代の動悸・息切れ・夏バテ・倦怠感・不安感・恐怖感・虚煩、不眠、多夢、多汗、汗をかきやすい、寝汗、四肢のほてり、口乾、面白・顴紅、舌紅や舌尖紅、舌苔少苔光剥、脈細数。
生脈散:益気止汗・滋陰生津・益気生津:人参6・五味子3・麦門冬6。
2.肝腎陰虚の運動麻痺:知柏地黄丸加減・陰陽両虚では虎潜丸加味:肝は蔵血し主筋。腎は蔵精し作強を主り骨を主る。先天不足や房室過度で精血が消耗し肝腎不足で骨髄・筋脈は不涵養となり陰虚内熱で運動麻痺となる。
2.肝腎陰虚の運動麻痺:腰膝酸軟無力・頭暈・目眩・耳鳴・耳聾・遺精・麻木・筋肉のひきつり痙攣・顴紅・口唇乾燥・微熱・盗汗・五心煩熱・舌紅乾燥・苔少・脈細数無力で陰虚内熱の症状となる:知柏地黄丸加減。
虎潜丸こせんがん:健歩虎潜丸:成薬:
虎骨・牛膝・熟地黄・当帰・白芍・桑寄生・黄柏・亀板、
1日1~2回2~3g食前にうすい塩水で服用すると腎に薬効が入るとされている。「腎」の五味は鹹(塩辛い)。
虎骨の代用:豹骨・狗骨クコツ(犬の骨)。
3.湿熱の運動麻痺:二妙散合和営通絡薬:湿熱の邪や湿地で生活、汗をかいて水や雨に濡れて湿が鬱して化熱。飲食不摂生・飲酒過度・膏梁厚味食で湿熱が生じ筋脈に蘊結し筋脈が気血の栄養不足で運動麻痺となる。
灼熱痛の二妙散:丹渓心法:清熱化湿・活血:黄柏 蒼朮の等分粉末。
木瓜もくか・五加皮ごかひ・海風藤・伸筋草など通絡薬。
4.寒湿による運動麻痺:胃苓湯合和営通絡薬:寒湿の邪、湿地生活、生もの冷食冷飲の不摂生で脾の運化が障害され寒湿が内停し寒湿が筋脈を阻塞して運動麻痺となる。疲労時寒湿の邪が虚に乗じて侵入し発症。
胃苓湯:平胃散合五苓散。
寒湿:顔がむくみ暗色・四肢重怠い・腰背部怠い・食少・腹部膨満感・畏寒・四肢冷・悪心・嘔吐・帯下・皮膚掻痒・足のむくみ・舌質胖大し歯痕有り・苔白厚じ・脈:胃苓湯・苓姜朮甘湯・真武湯・五積散。
寒湿の処方:平胃散・胃苓湯・胃苓湯合桂枝加朮附湯・当帰芍薬散・真武湯・苓姜朮甘湯・八味丸合苓姜朮甘湯・五積散・五積散合平胃散・五積散合苓姜朮甘湯・釣藤散合平胃散・当帰四逆加呉茱萸生姜湯・独活寄生湯
5,脾胃気虚の運動麻痺:補中益気湯・益胃湯加減:元来脾胃虚弱で次第に下肢軟弱無力し運動麻痺・息切れ・懶言・語声低微・元気がない・倦怠感・面色淡白無華・頭暈・四肢怠い・軟便・食少・舌淡苔薄・脈細軟。
「素問・痿論」「痿を治する者は独り陽明をとる」「陽明は、五臓六腑の海、宗筋を潤すを主り、宗筋は骨を束ねて機関を利するを主るなり」
宗筋:前陰部「前陰は、宗筋の聚る所」。陰茎「宗筋弛緩、発して筋萎を為す」。
6.腎陽虚の運動麻痺:八味丸加減:先天不足・体質虚弱・慢性病で陽気消耗・肌肉や筋脈を温煦できず四肢の運動麻痺。面蒼白・眩暈・耳鳴・倦怠・腰脚無力・腰背部がだるく痛む・足甲の浮腫・四肢冷・ED・遺精・脱髪・尿淡・便溏・水様便・自汗・舌淡白・尺脈弱。
腎陽虚:先天不足・体質虚弱・慢性病で陽気消耗・肌肉や筋脈を温煦できず運動麻痺。面蒼白・眩暈・耳鳴・倦怠無力・腰背部が怠く痛む・足甲の浮腫・四肢冷・ED・遺精・脱髪・尿淡・便溏・水様便・自汗・舌淡白・尺脈弱。
7.瘀血阻絡の運動麻痺:血府逐瘀湯:外傷後の下半身麻痺・慢性病の気滞から血瘀発生・大小便失禁・知覚麻痺・足の甲の浮腫・皮膚乾燥薄・筋肉削痩・皮膚甲錯・四肢冷・局所や皮膚の刺痛・舌紅瘀斑・脈沈細渋。
7.瘀血阻絡の運動麻痺:桃紅四物湯加牛膝鶏血藤狗脊地竜・血府逐瘀湯。
8,肝鬱血虚の運動麻痺:甘麦大棗湯合逍遥散加減:憂鬱感・悲壮感・すぐ泣く・激怒で運動麻痺が突発・皮膚は潤いがある・胸脇苦満・噯気・食少・口苦・舌質淡紅・脈弦細・疏泄失調で完結が筋脈を不養し発症。
運動麻痺が長期化すると「久病は必ず瘀をなす」で血瘀をともなってくるので、活血化瘀・和営通絡の薬物を適宜用いる。
地竜は最もよく血に入り通絡の良品である。