半身のしびれ

半身麻木(半身の知覚まひ・半身のしびれ・痛み)

1.気虚の半身麻木

虚証で慢性に発病する。気虚:無力感・動悸・息切れ・自汗・陽虚では寒がる、舌質薄白。

(気虚の半身麻木の原因)過労・飲食不節・攻伐の薬物の過服などで中気(胃腸の力)が消耗して気虚となる。脾気虚。気虚の半身麻木は、右側の肢体に生じることが多い。

(気虚とは:元気虚弱をさす:臓器が虚損したり、重病や久病により元気を虚損して生ずる。肺虚をさす。)

(気虚の症状:顔色が青白く光沢がなく、頭眩耳鳴、心悸短気、動くと汗が出る自汗、語声低微、倦怠無力、気虚不節では崩漏・便血・衄血)

(気虚一般症状:倦怠無力感・元気がない・息切れ・懶言ランゲン(物を言うのがおっくう)・動きたがらない・語声低微(声に力がない)・自汗・舌質淡または胖ハンでフニャフニャ・脈細軟で無力)

(肺気虚とは:呼吸促迫・息切れ・物を言うのがおっくう・声に力がない・咳嗽・喀痰をともなう)

(心気虚:息切れ・疲労感が顕著・脈の結滞・遅・数・動悸・不安感をともなう)

(脾胃気虚:顔色が萎黄・元気がない・四肢がだるい・食欲不振・腹満感・消化不良・泥状~水様便・中気下陥では脱肛や頻尿:バス旅行に頻尿で行けない)

(腎気虚:顔色が淡白又はどす黒い・頭のふらつき・めまい・耳鳴り・難聴・腰や膝がだるく無力・尿量増多・排尿後の余瀝・尿失禁・遺尿・尿閉・性機能減退)

(気虚の半身麻木の治法)神効黄耆湯:補気柔筋:蔓荊子 黄耆 人参 白芍 陳皮

(蔓荊子まんけいし:疏散風熱・清頭目:鎮静・鎮痛作用:頭痛・風湿による肢体のしびれ・だるさ・運動障害に:多くの眼薬に配合:洗肝明目湯・滋腎明目湯)

(黄耆:補気升陽・固表止汗・利水消腫・托毒排膿:補気元気・止汗・皮膚病の主薬)

(人参:大補元気・安神益智・健脾益気・生津:多くの作用がある)

(白芍:酸苦微寒:補血・緩急止痛・補益作用:陰を補う:

柴胡+白芍は疏肝解鬱に。芍薬+甘草は急痛・拘攣に)

(陳皮:理気健脾・燥湿化痰:繁用される理気燥湿薬:古い物・陳品が刺激が少なく良品)(大黄も古い品「虫食い大黄」が緩和な薬性で良品)

2,血虚の半身麻木

虚証で慢性に発病する。頭暈・目眩・動悸・不眠・脈細弱・舌質淡嫰・舌苔薄でやや乾燥。

(血虚の半身麻木の原因)出血過多・房室不節・多産などで営血・陰精を消耗したり、熱病後期で陰液が消耗したり、辛温薬(発散し温める薬)を過服して陰血が虚損し、筋脈が栄養を受けられないことで発症する。肝腎不足(杞菊地黄丸)が原因。

(特徴)血虚の半身麻木は、左側の肢体に生ずることが多い。

(血虚の半身麻木の治法)滑氏補肝散:養血柔筋:山茱萸 当帰 五味子 山薬 黄耆 川芎 木瓜 熟地黄 白朮 独活 酸棗仁

(山茱萸さんしゅゆ:山萸肉:補益肝腎・渋精・斂汗:八味丸・六味丸)

(当帰:補血 行血 活血 潤腸 調経:婦人薬の補血の基本・便秘に)

(五味子:斂肺滋腎・生津斂汗・渋精止瀉:虚寒の呼吸困難・咳嗽:

人参+五味子+麦門冬は生脈散・味麦腎気丸は八仙丸と同じ)

八仙丸:医級:肺腎陰虚:地黄・山茱萸・山薬・沢瀉・茯苓・牡丹皮・五味子・麦門冬(六味丸+五味子・麦門冬):小建中湯で代用できる。又は六味丸合生脈散(六味丸+人参五味子麦門冬):滋陰降火湯。

腎陰虚の喘息・・・小建中湯を八仙丸・滋陰降火湯の代用とする。

(山薬さんやく:薯蕷しょよ:長芋:補脾胃・益肺腎・袪痰(喘息薬):八味丸は腎陰陽両虚の薬:地黄+山茱萸+山薬+沢瀉+茯苓+牡丹皮は六味丸:+桂枝・附子が八味丸)

(黄耆:補気升陽・固表止汗・利水消腫・托毒排膿:皮膚病薬・補気の主薬:中風の補陽還五湯に多量の黄耆使用)

(川芎:活血行気・補血・理気・袪風止痛:活血補血の頭痛薬:薬を上部に運ぶ引経薬)

(木瓜もくか:ボケの成熟果実・カリンも用いる:酸温:舒筋活絡・和胃化湿:湿邪による筋疾患に適応:カリンシロップは咳止め)

(熟地黄:酒にて蒸す:血虚に適す:熟地:滋陰・補血:六味丸・八味丸:滋陰補血の主薬)

(白朮:補脾益気・燥湿利水:風湿の関節痛リウマチ:人参+白朮+茯苓+甘草は補脾薬の基本:四君子湯)

(独活どっかつ:セリ科のシシウド・ウコギ科のウド:袪風湿・通経絡:特に項背部の筋肉や下半身の関節の風湿を去る・臀部の痛み・両足のしびれ:独活寄生湯。独活葛根湯は寒湿邪の寝違えに特効)

(酸棗仁:養肝・寧心・安神・斂汗:不眠に酸棗仁湯)

(杞菊地黄丸:肝腎陰虚:滋補肝腎・清肝火・明目:枸杞子・菊花・沢瀉・茯苓・牡丹皮・地黄・山茱萸・山薬:枸杞子+菊花+六味丸:眼のかすみ・めまい)

(枸杞子くこし:クコの実:滋補肝腎・生精血・明目:杞菊地黄丸:滋補肝腎・清肝火・明目)

(菊花:疏散風熱・清熱明目・清熱解毒・平肝陽:刺身のツマの食用菊花は明目・目赤・解毒に良い:杭菊花が良品)

(沢瀉:サジオモダカの塊茎:甘・寒:利水・滲湿・清熱:三補三瀉の六味丸:三瀉は沢瀉・茯苓・牡丹皮・三補は地黄・山茱萸・山薬)

(茯苓:甘平:利水滲湿・健脾和中・寧心安神:精神安定作用・むくみをとる・脾は湿を嫌うので補脾作用)

(生地黄しょうじおう:清熱涼血・生津:冷ます作用。熟地黄は補血で冷ます作用は無い)

(山茱萸:酸渋微温:補益肝腎・渋精・斂汗:六味丸)

(山薬:長芋ながいも:補脾胃・益肺腎・袪痰:六味丸・八味丸)

3.風寒の半身麻木

実証で、急性に発症する。

表証がみられる:頭痛・身体痛・悪寒・無汗・脈浮緊・舌苔薄白で潤。

(表証とは:悪寒・発熱が基本症状。邪気が経絡に鬱滞して頭痛・四肢や関節のだるい痛み。肺気不宣で鼻閉・咳嗽:表寒・表熱・表実・表虚に分類)

(表寒:明らかな悪寒・強い頭痛と身体痛・舌苔が薄白で潤・脈浮緊:辛温解表薬の麻黄湯・葛根湯・小青竜湯・麻黄附子細辛湯・麻杏薏甘湯・桂枝湯)

(表熱:悪寒があきらかでない・咽の発赤咽痛・口乾・舌苔が白で乾燥・舌質やや紅・舌尖紅・脈浮数:辛涼解表薬の銀翹散・桑菊飲・麻杏甘石湯)

(表虚:汗がでる自汗・脈浮緩:自汗の桂枝湯・桂枝加葛根湯・桂枝加黄耆湯)

(表実:無汗・脈浮緊:無汗の麻黄湯・葛根湯・小青竜湯・五苓散)

(原因)風寒の邪が皮毛から絡脈に侵入し、絡脈が閉阻され半身麻木が発症する。

(風寒の半身麻木の治法)黄耆桂枝五物湯加蜈蚣白僵蚕:辛温解表・舒筋活絡:風寒の半身麻木のしびれに、

黄耆 桂枝 白芍 生姜 大棗 蜈蚣 白僵蚕

(蜈蚣ごしょう・ごこう:オオムカデ科の少棘巨蜈蚣:辛温有毒:熄風鎮痙・解毒・抗痙攣)

蜈蚣ごしょう・ごこう:熄風鎮痙・解毒・抗痙攣

(白僵蚕びゃっきょうさん:白僵菌ムスカルジンに自然感染・白僵菌を噴霧して感染させて死んだ蚕カイコ:袪風熱・熄風鎮痙・化痰散結:解熱・抗痙攣・袪痰:癲癇に使用)

4.肝風内動(内風は脳卒中などを生ずる)の半身麻木

肝火旺の症状:振戦・頭のふらつき(頭暈)・頭痛・イライラ・おこりっぽい・不眠・多夢・脈弦有力・舌質黯紅・舌苔少あるいは薄黄で乾燥。

(内風:病変中にあらわれる風証で、外感風邪に属さないもの。素問至真要大論に「諸暴強直は皆風に属す」。火熱熾盛から内風となったり、血陰が虚して気血逆乱し内風となる)

(内風の症状:病理変化による中枢神経系統の病変で、眩暈・昏厥こんけつ(意識障害)・抽搐ちゅうちく(手足のふるえ)・震巓しんせん(ふるえ)・麻木しびれ・口眼喎斜など。高血圧症・脳血管病・癲癇・顔面神経麻痺など)

「掉」とは「震顫しんせん(振戦)」を指し、「顫動せんどう」「振動」ともいう。

(肝火:肝の機能亢進による熱象または衝逆症状。原因は肝経鬱熱または肝陽亢進が火に変化するが精神的刺激とも関係する)

(肝火の症状:頭痛・眩暈・眼が赤くなる・眼痛・面紅・口苦・イライラして怒りっぽい・舌辺紅色・舌苔黄・脈弦数有力・重きは発狂・嘔血・喀血・鼻血:竜胆瀉肝湯・大柴胡湯・柴胡加竜骨牡蠣湯)

(肝火上炎:肝火の病証中に上部にあらわれた熱象。頭痛・眩暈・耳聾耳鳴・眼紅痛・煩躁して怒りっぽい・睡眠不足・嘔吐・吐血・鼻血・舌黄苔・脈弦数:更年期障害など)

(肝火上炎の病気:更年期障害・消化管上部の出血・高血圧症・急性結膜炎と関連する)

(肝風内動の半身麻木の原因)肝が昂ぶり肝陽が亢進して化風し(内風が生じ)、肝風が経絡を失調させ、経絡が栄養されずに発症する。情緒変動に関連して発症することが多い。(肝火旺の症状の症状がみられる)

(肝風内動の半身麻木の治法)肝風内動の半身麻木に、平肝熄風・柔筋活絡:天麻鈎藤飲てんまこうとういん

(天麻鈎藤飲:平肝熄風・柔筋活絡:天麻 釣藤鈎 石決明 山梔子 黄芩 杜仲 牛膝 益母草 桑寄生 夜交藤 茯神:内風・脳卒中の薬)

(天麻:熄風鎮痙・通絡止痛:鎮静・抗痙攣)

(釣藤鈎:平肝止痙・鎮静・てんかん発作の抑制:抑肝散に配合)

(石決明:平肝潜陽・清熱明目:肝陽上亢・骨蒸潮熱に)

(山梔子:清熱瀉火・涼血解毒・利湿熱(黄疸:山梔子+茵蔯蒿)

(黄芩:苦寒:清熱燥湿・瀉火解毒・安胎)

(杜仲:甘微辛温:補肝腎・強筋骨・安胎:腎虚腰痛に)

(牛膝:袪瘀止痛・活血通経・補益肝腎:膝痛や腰痛に)

(益母草:辛微苦微寒:活血調経・行血袪瘀:婦人薬に)

(桑寄生:補肝腎・袪風湿・強筋骨・安胎:独活寄生湯)

(夜交藤:何首烏ツルドクダミの蔓茎:安神・養血活絡)

(茯苓:利水滲湿・健脾和中・寧心安神)

5.湿痰阻絡の半身麻木

湿痰の症状:湿は重濁感が特徴。重だるい感じ・頭重感・悪心・嘔吐・胸苦しい・脈弦滑・舌質淡・舌苔滑潤または苔が白く厚い。

(湿痰しつたん:痰証の一つ。脾の健運失調し湿が鬱熱で痰となる。

症状は稀白多痰または黄痰でも喀出しやすく、体が重く力が入らず、倦怠喜臥、腹脹して不消化、腹痛・脹痛・泄瀉・胸悶喘咳・脈緩滑)

(湿痰の薬:脾虚には六君子湯加減。脾実には二陳湯・平陳湯・滾痰丸こんたんがんなど)

(湿痰阻絡の半身麻木の原因)脾虚で水湿の運化が不足して湿痰が生じ、湿痰が経絡を阻塞して発症する。湿痰は標で、脾虚が本(根本原因)である。

(湿痰阻絡の半身麻木の弁証の要点)

身体が肥満傾向。半身のしびれとともに肢体の重怠さがある。脈が弦滑で舌苔が白滑また苔が白く厚い。女性では白色帯下があることが多い。

(湿痰阻絡の半身麻木の治法)湿痰阻絡の半身麻木に健脾益気・化痰通絡:半夏白朮天麻湯。

(半夏白朮天麻湯:化痰熄風・補気健脾・利水消食:脾虚の痰濁上擾:製半夏3 天麻2 白朮3 人参2 黄耆2 茯苓3 沢瀉2 蒼朮3 陳皮3 神麹2 麦芽2 黄柏1 乾姜1:陰天時頭痛の特効薬:六君子湯との鑑別重要)

(半夏:和胃止嘔・燥湿袪痰・散結消腫)

(天麻:熄風鎮痙・通絡止痛:鎮静・癲癇などの抗痙攣)

(白朮:甘微苦温:補脾益気・燥湿利水)

(人参:大補元気・安神益智・健脾益気・生津)

(黄耆:補気升陽・固表止汗・利水消腫・托毒排膿)

(茯苓:甘平:利水滲湿・健脾和中・寧心安神)

(沢瀉:サジオモダカの塊茎:甘・寒:利水・滲湿・清熱)

(蒼朮:ホソバオケラの根茎:苦辛温:燥湿健脾・袪風湿・風湿の筋肉痛の鎮痛)

(白朮:オオバナオケラの根茎:甘微苦温:補脾益気・燥湿利水:風湿による関節痛リウマチ:蒼朮より補益性がある)

(陳皮:理気健脾・燥湿化痰)

(神麹しんきく:神曲:辛甘温:消食行気・健脾止瀉・解表)

(麦芽ばくが:オオムギの発芽した種子:甘平:疏肝醒胃・消食除満・和中下気)

(黄柏:清熱燥湿・瀉火解毒・清虚熱)

(乾姜:大辛・大熱:温中・回陽・温肺化痰)

(半身のしびれ・知覚麻痺について)

半身のしびれは、四肢のしびれより重症である。

単側の肢体のしびれと無力感は、中風(脳卒中)の重要な前兆であるといわれている。

上記の半身しびれの分類のうちでは、肝風内動によるものがもっとも多いが、気虚・血虚の半身麻木を軽視してはならない。