癲癇

2025/10/9~10

癲癇の解説を古典から翻訳中

温胆湯:清化熱痰・和胃降逆:眩暈、嘔吐、不眠、心悸、嘈雑、癲癇など。証は皆、胸痞痰多、口苦して微かに渇し、舌苔黄じ:半夏6 陳皮2.5 茯苓6 炙甘草1 枳実1 竹筎2 大棗1 乾生姜1g。

胃に灼熱感・ジリジリやけるような胸焼け・嘈雑そうざつには、安中散ではなく加味逍遙散を使う。量は1/3を何回か投与する。

温胆湯で、痰熱が心に上擾すると心煩し不眠となり、あるいは心気して驚悸しやすくなり、酷くなると、痰は清竅を阻み癲癇を生じる。

湿熱証を治し、熱が癒えた後、余邪が胆経に留まり、耳鳴・耳聾を生じた者を治す:加味温胆湯。

竹筎と半夏の制吐作用の比較:半夏は痰湿による嘔吐に、竹筎は熱痰(胃熱)を冷ます作用によって嘔吐に効果がある。

竹筎ちくじょ:イネ科ハチクの第二層皮:甘微寒:肺胃経:清熱化痰・止嘔:竹筎と淡竹葉の比較:竹筎は胃熱(熱痰)を冷まし、淡竹葉(竹葉)は心火をさまして煩熱を除く。日本に竹は600種ある。

淡竹葉たんちくよう・竹葉:コササクサの茎葉:甘淡寒:心小腸経:

清熱除煩:煩熱・尿黄・面紅・口渇・口内炎・鼻血など心火の症状に効果。発熱・脱水・充血・自律神経の興奮の時に心火の症状が見られる:導赤散。

導赤散どうせきさん:心火偏亢・心火を清熱利水・苦寒性が強い:淡竹葉4 木通4 生地黄6 甘草梢2。

木通(通草):心火による心不全や浮腫に用いる:九竅や血脈や関節を通利し人をして痛みを忘れる。

心火の症状:発熱・煩熱・脱水・尿黄・面紅・充血・口渇・口内炎・鼻血・自律神経の興奮の時に見られる症状。

嘈雑そうざつ:胸焼けのこと:胃中に空虚感があり、飢えのようで飢えではなく、痛みのようで痛みでなく、熱くヒリヒリするようでおちつかない状態。

釣藤鈎ちょうとうこう・鈎藤・鈎鈎・双鈎藤:アカネ科カギカズラの鈎棘のある茎枝:甘微寒::熄風定驚・平肝清熱・軽清透熱:

のぼせを取り熄風する:平肝止痙・鎮静で、てんかん発作の抑制。

風痰の癇は、暴飲暴食やムラ食いで胃腸が弱って(脾虚となり)痰が生じ、痰が気のながれを阻害して気の昇降を失調させ、清陽が昇らず濁陰が下降しないために、痰が頭部を蒙蔽モウヘイして癲癇となる。

感情の鬱積による気滞血瘀などにより瘀血が内に生じて瘀血が脳の経絡を閉阻すると虚風が生じて癲癇発作前に頭痛をともなうことが多い。

瘀血が痰をともなって頭に上衝すると癲癇が発生する。

血府逐瘀湯:医林改錯:瘀血内阻:牛膝4 桃仁3 紅花3 当帰4 赤芍3 川芎2 生地黄4 枳殻3 柴胡3 桔梗2 甘草1g。

血府逐瘀湯加減:行気活血・袪瘀止痛:気滞血瘀:
桃仁3g 紅花2 当帰3 赤芍3 川芎2 柴胡2 枳殻3 丹参7 香附子3 延胡索3 鬱金3g。

延胡索:活血・理気・止痛・鎮静・鎮痙:頭痛・胸部痛・腹痛・脇痛・月経痛・関節痛・打撲損傷痛・気滞血瘀の痛み。

鬱金うこん・広鬱金・川鬱金・玉金:ショウガ科姜黄キョウオウは広鬱金と呼ばれこれを一般に使う)、鬱金ハルウコンは川鬱金で薬性が温和で別名温鬱金)それぞれの塊根:疏肝理気・解鬱袪瘀・止痛・健胃・利胆。

腎虚の癲癇の特徴:発作が数年続き、大小便の失禁・冷汗に続いていびきをかいて昏睡し徐々に覚醒する。腰膝がだるく無力、踵痛・遺精・早漏。舌質淡・舌苔薄く少、脈沈細滑。

痰瘀の癇は、鉗子分娩や周産期の母体の打撲などの既往、また感情の鬱積による気滞血瘀などにより瘀血が内に生じて瘀血が脳の経絡を閉阻すると虚風が生じて発作前に頭痛をともなうことが多い。

消痰治風方:天竺黄3 製南星2 石菖蒲1.5 法半夏3 丹参4 三七末1 鶏血藤5 陳皮2 茯苓4 炙甘草1。

天竺黄てんじくおう・竹黄精・竹黄:イネ科大節竹の節穴に分泌される液を凝結させて結晶塊としたもの:甘微寒:心肝経:清化熱痰・鎮静鎮痙・涼心定驚・袪痰。

天南星・胆南星 製南星:熄風解痙・化痰:天南星を豚の胆汁で煮て修治、あるいは生姜とともに煎じて毒性を緩和する:痙攣と痰飲を治療する。

安神薬の石菖蒲・菖蒲・菖蒲根:サトイモ科ショウブの根茎:辛・温:芳香開竅・逐痰袪濁:痰濁蒙閉心竅:菖蒲鬱金湯:少量に制限すべきで1.5g以下。

丹参:シソ科タンジンの根:苦微寒:心・心包経:活血袪瘀・涼血・心血虚を養血安神:血管拡張・鎮静・精神安定・鎮痛・肝不全の疼痛・神経衰弱・動悸・不眠・煩躁・不安など心血虚:天王補心丹:2~5g~10~20g。

鶏血藤けいけっとう:マメ科昆明鶏血藤の茎:苦・微甘・酸渋・温:肝・腎経:補血行血・舒筋活絡じょきんかつらく:風湿による痹痛ひつう・手足の萎縮やしびれ・麻痺・眩暈。

心血虚:心血の不足による「心臓の症状」と「心神の不安」が生じ、

面色不華(淡白でつやがない)・舌質淡・脈細・発作性の動悸(心悸)・持続性の動悸(怔忡せいちゅう)・健忘・多夢・不眠・煩躁・不安などの精神症状がみられる。

酸棗仁湯合逍遥散:不眠・易怒・精神不安。

イライラの状態では加味逍遙散・逍遥散や抑肝散陳皮半夏・柴胡桂枝湯が適応するが、長引くと心血虚や心陰虚になり、その症状には帰脾湯(心脾両虚・気血両虚)や天王補心丹(心腎陰虚)・酸棗仁湯。

酸棗仁湯:心血虚・心肝火旺に養心安神・清熱除煩(精神異常):

酸棗仁5 茯苓5 知母3 川芎3 炙甘草1):疏肝作用の逍遥散・抑肝散を合方する。思慮過度して生ずるのぼせ・イライラ・不安感・不眠。

痰火の癇は、強い恐れや驚き、甘い物や脂っこい物の過食で痰熱が発生して癲癇となる。

痰迷心竅:ひとりごと(認知症・精神分裂症の陽性反応)・痴呆・異常行動・情緒不安定。急性では昏倒・てんかん・運動麻痺・知覚麻痺・痰が多く咽でごろごろ痰声が聞かれる。舌質淡紅~紅、舌体微黄じ(黄色がかった厚ぼったい舌苔)。

痰迷心竅:痰濁が心神を阻遏ソアツして引き起こす精神障害。意識がぼんやりし、喉中に痰声があり、胸悶し、重いと意識不明となり、舌苔は白く厚く、脈滑。精神分裂病・脳溢血の時などにみられる。

導痰湯(済生方):痰迷心竅:製半夏3 陳皮2 製南星3 枳実2 茯苓2 炙甘草1 大棗1 乾生姜1:痰迷心竅で熱証のみられない舌体白じ・脈弦滑の時に使用:温胆湯の竹筎を製南星に替えた処方。

導痰湯(二朮湯)は癲癇のための基本処方。

二朮湯の中に導痰湯が入っていて代用できる。

二朮湯:万病回春:袪風湿・化痰:痰迷心竅:半夏2 陳皮1.5 天南星1.5 甘草1.5 茯苓1.5 蒼朮1.5 白朮 香附子1.5 黄芩1.5 威霊仙1.5 羗活1.5 生姜3g: 経験・漢方処方分量集:導痰湯の枳実・大棗は無い。

恐れ驚きで気が逆乱し、欝や怒でのびやかさが失われ、気鬱が火を生じて津液が変化して痰を形成し、肝火とともに痰が上昇して胸悶となり心神を乱すので癲癇となる。

癲癇が腎虚の段階に至ると、一般の補腎薬や袪瘀鎮痙薬では効果がなく、血肉有情の品(紫河車や河車大造丸・ビタエックス・全蝎・地鱉虫・蜈蚣・虻虫など)を使用してはじめて効果が得られる。

驚気丸:蘇子 鉄粉 木香 白花蛇舌草 僵蚕 橘紅 天麻 南星 全蝎ぜんかつ 氷片(竜脳) 麝香 朱砂。

全蝎・全蠍ぜんかつ・全虫・蝎尾かつび:キョクトウサソリ科のキョクトウサソリの全身:辛平小毒:肝経:熄風鎮痙・袪風止痛・解毒散結:破傷風・熱性痙攣・半身不随・顔面神経麻痺:粉末0.4~1g~2g。

地鱉虫ジベッチュウ・䗪虫しゃちゅう・土鱉虫:シナゴキブリの雄の全虫:鹹寒:有小毒:肝経:破血逐瘀・續筋骨:筋骨折傷,瘀血閉経,癥瘕痞塊。血瘀による肝腫大及腰痛、捻挫:妊婦は禁忌。

蜈蚣ごこう・ごしょう:オオムカデ科:辛温有毒:熄風鎮痙・解毒・抗痙攣。

虻虫ぼうちゅう:アブ科ウシアブ・フタスジアブ・雌の成虫の乾燥体:破血逐瘀:牛馬の血を吸う:通経、駆瘀血薬、月経閉止、胸腹中の蓄血・血脈及び九竅を通利する:妊婦には禁忌。

冷え症の癲癇に、導痰湯合真武湯(二朮湯合真武湯)。

古今医統大全 明 徐春甫:高きに登って衣を剥ぐ者は痰火熾盛で治療は降火の剤の滾痰丸を用いる。妄語狂言で神明を失った狂には鎮心安神し清上の剤の牛黄・朱砂丸を用いる。

滾痰こんたん:痰を流し去ること。

もう石滾痰丸:清熱滌痰:大黄 黄芩 もう石 沈香。

牛黄ごおう:苦涼:心肝経:開竅化痰・清熱解毒・清心・熄風定驚・解熱・鎮痙・強心・造血:六神丸で代用する。

六神丸:阿仙薬アセンヤク・麝香ジャコウ・蟾酥センソ・牛黄ゴオウ・竜脳・人参・熊胆ユウタン(以上七味):開竅剤。

朱砂・辰砂:心に入って清心安神し、磁石じせきと共同して重鎮安神して浮陽を摂納し、腎陰を補い、心腎を相交させて心陽が下通し腎精が上承できるようにして心腎不交を治す。

心腎不交:天王補心丹・黄連阿膠湯:黄連3 黄芩2 白芍3 阿膠3 鶏子黄1個。

天王補心丹:心腎陰虚(心腎不交):酸棗仁10 生地黄20 柏子仁10 麦門冬10 五味子10 当帰6 遠志5 丹参5 玄参5 桔梗5 粉末を蜜丸とし朱砂をまぶし、1回2gずつ服用。

医学綱目 明 楼英:てんかん

肝胆部には妙香丸、狂に似たる諸癇の者には、李河南の五生丸。

五生丸:天南星 川烏頭 白附子各一両 大豆(去皮)二銭五分。

狂に似るたる諸癇:生を細末として水にて丸とす。毎服三丸から五丸。七丸を越えず。生姜湯で服す。

白附子は辛散、袪風化痰で、特に頭面の風を去り・顔面のひきつれ・痙攣を治すが温燥に偏っているので、寒性の風痰に適応する:白附子、天南星は生のままを用いるが毒性があり、過量をしてはいけない。

医学綱目 明 楼英:つづき

脾胃部:経(黄帝内経)に曰く、悲哀による傷魂に対して、温薬で魂の陽を補う仲景の地黄湯、本事方の驚気丸を用いる。喜楽が極まれば魄を傷るので涼薬で魄の陰を補う辰砂、鬱金、白礬(明礬)を用いる。

驚気丸:本事方:悲哀による傷魂に対して温薬で魂の陽を補う:蘇子 鉄粉 木香 白花蛇舌草 僵蚕 橘紅 天麻 南星 全蝎ぜんかつ 氷片(竜脳) 麝香 朱砂。

「類聚方広義」に大柴胡湯は「狂症、胸脇苦満、心下痞塞、膻中たんちゅうの動悸が、甚だしい者には鉄粉を加えて奇効がある」:大柴胡湯加鉄粉。

白花蛇舌草5~20g。癌25~50g:アカネ科フタバムグラの全草:甘淡涼:胃大腸小腸経:清熱袪瘀・消癰解毒:急性虫垂炎。小児腎炎に白車湯:白花蛇舌草5・車前草5・山梔子3・茅根10g・紫蘇子2g。

冰片・竜脳・氷片・ボルネオ樟脳、ボルネオール:熱帯アジアのフタバガキ科の常緑高木、竜脳樹の幹や枝を細かく刻み、水蒸気蒸留して昇華冷却で得られる結晶。爽やかな香りと清涼な味がある。

麝香・元寸香・当門子:シカ科ジャコウジカの雄の腹部にある香のうの分泌物を乾燥:辛温:心・脾経(十二経):開竅醒神・通経達絡・活血消腫・止痛・催生:ジャコウは六神丸で代用。酒と水で煎服する。

慎齋遺書 明 周慎齋:羊癲風は、先天の元陰不足に関係し、先天の元陰不足によって肝の邪が土を克し、心を傷つけることによって生じる。

半夏と陳皮の二陳を用いて一身の痰を去り、

朱砂を加えて心火を鎮め、

菖蒲によって心竅を開き、

牡丹皮と青皮の二皮によって平肝する。

痰が消えれば心肝の火は平らかとなり、自ずから濁気が清道を塞ぎて羊声を作すことがあろうか。

医学入門 明 李梃:

外感:外証未だ解せずに桂枝湯・陶氏桂苓散。

外証すでに解し、但小腹急結する者は、桃仁承気湯(桃核承気湯)。

挟血が心脾に伝入する者には当帰活血湯。

当帰活血湯:当帰 赤芍 甘草 紅花 桂心 乾姜 枳殻 生地黄 人参 柴胡 桃仁。生姜一片を入れ煎じる。酒を三匙いれ、調服する。

太陰病にて身体黄色く、黄尿の渋る者は五苓散。此れ皆 狂の如し。

五苓散:猪苓 茯苓 白朮 沢瀉各一銭半 肉桂五分(末と為す)毎回二銭。白湯にて肉桂末を調服する。

発狂する者は熱毒が胃にありて心に侵入し、遂に神昏不定となり言動は急速し、妄弁し妄笑し、甚だしければ高きに上り歌い、衣服を剥いで走り、屋根に上がり飢えず眠らず。皆汗をかかず、陽気は上亢極まり、陰気は暴虚し、吐下止まず。

傷寒四~五日、身熱して煩躁し、汗をかかずに発狂する者は、表裏とも熱で三黄石膏湯、双解散を用いる。

三黄石膏湯:黄連 黄柏 山梔子各二銭 麻黄一銭半 石膏五銭 香鼓三銭。水煎、温服する。

双解散:防風 川芎 当帰 赤芍 大黄 麻黄 薄荷 連翹 芒硝各二分半 石膏 黄芩 桔梗各五分 滑石一銭半 甘草一銭 荊芥 白朮 山梔子各一分半。生姜三片で水煎し温服する。

傷寒六七日、壮熱し胸満して閉じ、脈実して発狂する者は大承気湯加黄連とす。陽毒暴盛して発狂する者は多くは乾嘔し、面赤し発斑し咽痛、黄赤を下利し、壮熱して汗を発しない者は、葶藶苦酒湯とす。

葶藶子:アブラナ科独行菜ヒメグンバイナズナの成熟種子:辛苦寒:肺膀胱経:瀉肺定喘・行水消腫:利尿・強心:強心配糖体:実証の水腫・喘息:胸腔内の水分の排出に用い、呼吸促迫や喘息を治す:肺性心・胸水。

医学入門 明 李梃 つづき

雑病

癇と癲狂は互いに似ていて、但し癇病は時に発し時に止む。邪は五臓に流れ、癲狂は経に久しく癒えない。邪はすべて心に帰す。

癇には陰陽があり、ただしこれは痰であり、内傷が最も多く、外感によるものはとても少ない。蓋し飲食の積にやぶられて痰火となり、上部に痰迷心竅となり、驚恐し憂怒し、火盛は神は舎をまもらず、舎が空となり痰が塞がる。

丹渓の云うには、癇は心竅を痰が塞ぐにより発すれば頭眩し卒倒す、手は抽搐し、口眼は相引き、胸背は強直し、吠え叫び涎を吐す。

病は身熱脈浮で、表に在る者は陽病であり、六腑に属し治し易い。

病は体冷え脈沈で裏に有る者は陰病で、五臓に属し治し難し。

若し精神が脱して目を大きく見張り、愚痴なる者は不治なり。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                

癇はもともと痰熱に驚を挟み、寒薬で清心降火により痰を去るを主とす。ゆえに古の方法は二陳湯加栝楼、南星、黄連を用いて探吐し、吐後に必ず朱砂安神丸を服して南方の火を降す。当帰竜薈丸を以って東方の木を平定する。但し、化痰は必ず先に順気し、順気してまず脾胃を調える。

当帰竜薈丸:当帰 竜胆草 山梔子 黄柏 黄連 黄芩各一両 大黄 蘆薈 青黛各五分 木香一銭 麝香五分 末と成し蜜丸で小豆大とす。毎回二三十丸を生姜湯で服用する。

頑痰膠固には辛温薬は佐薬とはならず、何をもって開き導するのか?古方では驚癇を治すのはみな温剤である。

銭仲陽は小児の癇を治すに、吐瀉を経て涼薬を飲みすぎて体は冷えて目を閉じ・食せずに対して益黄散を用い脾胃を補い食を増し、その後腎気丸を服用させ、北方の腎水を補いよく語らしめ、これは須く癇の二処方をもって癇の壊証を救ったのでありこれを成法と為す。

益黄散:陳皮一銭 青皮 甘草 訶子各五分 丁香二分 水煎す。

癲狂の痰火は心の堂を閉じ、原因はみな喜怒大過による。

素問の注に云う、喜びすぎれば巓を生じ、怒りすぎれば狂となる。

喜は心に属し、怒は肝に属す。二経は皆 火が有余となる場所である。

但し喜べば気は散じ、畢竟 謀は遂げられず、郁結し志しを得られない者が多く此れを被る。

大概は痰迷心竅の者は、葉氏清心丸、金箔鎮心丸、朱砂安神丸を用いる。

葉氏清心丸:人参 蝎尾かつび 鬱金 生地黄 天麻 南星各等分 末となし蒸した餅糊で梧子大とし、毎回二十丸、人参の煎湯で服用す。

全蝎・全蠍ぜんかつ・全虫・蝎尾かつび:キョクトウサソリ科のキョクトウサソリの全身:辛平小毒:肝経:熄風鎮痙・袪風止痛・解毒散結:破傷風・熱性痙攣・半身不随・顔面神経麻痺:粉末0.4~1g~2g。

金箔鎮心丸:遠志 雄黄 鉄粉 琥珀各二銭 麝香五分 棗肉丸黄豆大。金銀箔二十枚片を衣とする。毎回一丸 麦門冬の煎湯で下す。

心風巓の者には、牛黄清心丸、追風袪痰丸、虚者には紫河車を加える。

怒で肝を傷る者は、寧神導痰湯、瀉青丸、当帰竜薈丸。

寧神導痰湯:半夏四両 茯苓 陳皮 南星 枳実各一両 甘草五銭。毎回四銭煎服。加遠志 菖蒲 黄芩 黄連 朱砂 名づけて寧神導痰湯。

瀉青丸:竜胆草三銭 当帰 川芎 山梔子 大黄 羗活 防風各五分。末と成し蜜丸で芡実大とする。毎回1~2丸、竹葉薄荷の煎湯で服用。

当帰竜薈丸:当帰 竜胆草 山梔子 黄柏 黄連 黄芩各一両 大黄 蘆薈 青黛各五分 木香一銭 麝香五分 末と成し蜜丸で小豆大とす。毎回二三十丸を生姜湯で服用する。

驚が原因なら、抱巓丸、驚胆丸、驚気丸、

驚気丸:附子 木香 僵蚕 花蛇(白花蛇)橘紅 朱黄(硫化水銀) 天麻 南星各五銭 紫蘇子一両 全蝎二銭半 脳麝少し 朱砂二銭半(半分は衣とす)末と成す蜜丸は竜眼大。毎回一丸、金銀薄荷で煎湯或は温酒で服す。

雄黄ゆうおう・鶏冠石と区別難:硫化砒素の鉱石・As2S2二硫化砒素:止痛解毒:神経性皮膚炎・皮膚化膿症・掻痒・蛇の咬傷:硫化砒素は熱すると猛毒の酸化砒素As2O3になるので焼いてはいけない

丹渓(朱丹渓・朱震亨)は云う、五志の火は、鬱して痰を生ずる。巓となり狂となり、宜しく人は此れを制すべき。

喜が心を傷る者は、怒をもって此れを解す、恐を以って之に勝つ。

憂えて肺を傷る者は、喜をもって之に勝ち、怒をもって此れを解す。

膏梁厚味と酔いつぶれた後に発狂した者には、塩湯を用いて痰を吐せばすぐに癒える。或は小調中湯を用いる。

小調中湯:黄連 甘草 栝楼 半夏各等分。生姜で煎じ温服する。

芳草石薬を服し、熱気ですぐに発狂する者には、三黄石膏湯加黄連、甘草、青黛、板藍根、あるいは紫金錠を用いる。

紫金錠(玉枢丹):陳実功:外科正宗:山慈姑さんじこ 紅芽大戟 五倍子 麝香じゃこう 千金子を糯米で錠剤とし外用。

「難経」に云う、陰が重き者は巓、陽が重き者は狂。

巓の者は異常なり、平日はよく話すが、巓なれば沈黙し、呻吟し、ひどければ昏倒して直視し、心は楽しまない。これは陰虚血少で、心火は安定せず、大調中湯これを主る。

大調中湯:黄連 甘草 栝楼 半夏 人参 白朮 茯苓 川芎 当帰 生地黄 白芍。

不時昏倒の者には滋陰寧神湯、言語に意味がない者は、定志丸とす。

滋陰寧神湯:当帰 川芎 白芍 熟地黄 人参 茯苓 白朮 遠志各一銭 酸棗仁 甘草各五分 酒炒黄連四分 痰有れば南星一銭を加える。生姜で煎じ、温服する。

定志丸:遠志 菖蒲各二両 茯苓三両 人参一両 一方に加える琥珀 鬱金。末と成し、蜜丸を梧子大とし朱砂をまぶす。毎回三十丸を米湯で服用する。

悲哭呻吟する者は、焼蚕退、破故紙、酒にて二銭に調え、毘麻仁煎湯を常服しもって断根する。

補骨脂ほこつし・破故紙はこし:マメ科オランダヒユの果実:辛苦大温:脾腎経:補腎温脾・固精縮尿:脾腎陽虚:五更瀉ごこうしゃ・頻尿・夜間多尿に用いる:冠動脈拡張・外用は白癜風のメラニン新生促進:1~2g。

狂う者は凶狂なり、軽ければ興奮し、歌を好み舞をまう、酷ければ衣服を剥ぎ走りだす、屋上に上り、大声で叫び、水火を避けず、かつ殺人をこのむ。これは心火独り盛んになり、陽気有余となり、神は舎をまもらず、痰火壅盛して生ずる、小調中湯、三黄丸、控涎丹。単苦参丸を用いる。

小調中湯:黄連 甘草 栝楼 半夏各等分。生姜で煎じ温服する。

三黄丸すなわち黄連解毒湯。

控涎丹:甘遂 大戟 白芥子各等分。

甘遂かんずい・かんすい:トウダイグサ科甘遂の根:苦寒・有毒:肺脾腎経:瀉水逐飲・消腫散結:胸水・腹水:丸剤・散剤をカプセルに入れて用いる:妊婦は禁忌:甘遂は難溶性で脂質が有効成分。

大戟たいげき・京大戟:トウダイグサ科タカトウダイの塊根:苦寒・有毒:肺脾腎経:瀉水逐飲・消腫散結:控涎丹(三因方)京大戟・甘遂・白芥子各等分の粉末をカプセルに入れ大棗の煎液で服用する。

白芥子はくがいし:アブラナ科白芥の成熟種子:辛温:肺経:利気袪痰・消腫止痛:温化寒痰の常用薬:三子養親湯(白芥子・蘇子・莱菔子ダイコンの種、各1g)

単苦参丸:苦参(炒めて末とする)水にて丸とし、温湯で服用する。

狂なれば専ら痰を下し降火すれば、巓は安神養血す。年を経て心経を損する者は不治なり。

桂枝湯:桂枝三銭 白芍三銭 甘草一銭 生姜三片 大棗二枚。水煎、熱服。

陶氏桂苓散:猪苓 沢瀉 桂枝 甘草 白朮 黄柏 知母 山梔子 蘇葉。生姜三片で煎じ、再度滑石末一銭を加え、三沸す。服して微汗をとれば効果がある。

訶子かし:斂肺利咽・渋腸止瀉:慢性の下痢と咳嗽の生薬:慢性下痢に斂肺して治す。