ほ 補中益気湯 「勿誤薬室方函口訣」浅田宗伯(明治11年)
「勿誤薬室方函口訣」浅田宗伯 口授、浅田惟學これのり 筆記・神林寛ひろし校訂、1878年(明治11年)より
医王湯(すなわち東垣の著『内外傷辨惑論』の補中益気湯)
方函
「脾胃すなわち傷れ、労役過度、元気を損耗し、身熱し頭痛す、或は口渇して止まず、風寒に弱く、気高ぶりて喘息するを治す。
また風邪で発汗後二~三日、面赤く、熱に苦しみ、あるいは風邪で下痢二三行、舌に厚い舌苔あり、或は厚い舌苔なく、食欲不振で熱飲を好み、重い者は不眠が生じ、話しかけると譫語妄言し、目赤などを治す。
麦門冬と五味子を加え味麦益気湯と名づくが、また医王合生脈と称す。
多汗・心不全のショック状態・発汗後の激しい疲労感に使う。
生脈散合補中益気湯。生脈散(人参・五味子・麦門冬)。
乾姜と附子を加え、姜附益気湯と名づく。真武湯合補中益気湯。
腎陽虚の冷え症・疲労感だるさ・心不全のショック状態に使う。
(四逆湯:附子1、乾姜2、炙甘草3g:代用処方は真武湯。)。
(真武湯:附子1 茯苓5 白朮3 白芍3 生姜3g)
芍薬と茯苓を加え調中益気湯と名づく。真武湯合補中益気湯。
腹痛で脾虚のだるい状態に使う。
(真武湯:附子1 茯苓5 白朮3 白芍3 生姜3g)
芍薬は平肝緩急だけでなく解痙止痛の良薬でありまた肝血を養う。
口訣
「補中益気湯は、建中湯、十全大補湯、人参養栄湯などを省略して組み立てた処方で、後世方家にて種々の口訣あれども、結局は小柴胡湯の虚候を帯びる者に用いるのがよい。補中だの、益気だの、升提などにこだわるべからず。
「その虚候とは・・・
第一に手足倦怠に用いる。
第二に言語軽微(語声低微)
第三に眼勢無力
第四に口中に白沫を生ずる
第五に食味を失い(味覚障害)
第六に熱飲を好み
第七に臍に動悸がする
第八に脈散大にして力無し
の八症の内一~二症あれば補中益気湯である。
その他、
・飲食労役して瘧痢を患うなどの症
・脾胃虚により久しく愈ゆることがない場合
・気虚・卒倒・中風などの症
・内傷による者
・・・などに着眼して用いる。
補中益気湯は、少陽柴胡の部位にあって内傷を兼ねる者に用いれば間違いない。(柴胡証の七症:往来寒熱・胸脇苦満・口苦・咽乾・目眩・黙黙不欲飲食・心煩喜嘔。一症でもあれば、柴胡剤(小柴胡湯・柴胡桂枝湯・大柴胡湯・柴胡加竜骨牡蠣湯・柴朴湯・柴陥湯・柴胡桂枝乾姜湯など)が使える。)
ゆえに婦人も男子も共に、虚労や雑症にこだわらず、長服して効果を得ることがある。
補中益気湯は、婦人には最も効果がある。
補中益気湯は、諸痔、脱肛の類は疲れ多き者に用いる。
また補中益気湯の症で、煮立てたる熱物を好む者には附子を加える。
口渇があっても附子で副作用は生じない。