2026/1/8~9
健忘(物忘れ)
老人では体力が衰えたために健忘をともなうことがあるが、多くは生理的な現象であり、疾病による健忘ではないので、以下の弁証分類とはあまり関係はない。
1、腎精不足の健忘(物忘れ):河車大造丸・ビタエックス・独活寄生湯合海馬補腎丸・独活寄生湯合八味丸・独活寄生湯合真武湯。
河車大造丸:中国成薬:填精益髄:紫河車・亀板・熟地黄・人参・天門冬・麦門冬・牛膝・杜仲・黄柏。代用として紫河車(胎盤):河車大造丸は日本に成薬は無いがインターネットで中国から入手可能。プラセンタは胎盤エキスである。
「プラセンタCBカプセル」が販売されている。
腎精不足の健忘:恍惚状態・健忘・ぼんやりする・白髪でひからびて抜けやすい・歯の動揺脱落・筋力の低下・歩行困難・舌淡・苔白・脈虚。
腎精不足の健忘:「腎は精を蔵し、骨を主り、髄を生じ、脳に通じる」ので、腎精が不足すると脳髄が空虚になり健忘を発症する。
当帰芍薬散:足の指が疼痛して歩行困難。
当帰芍薬散:肝血虚・脾虚湿滞:
当帰3 白芍4 白朮4 茯苓4 沢瀉4 川芎3:
過敏性大腸炎:真武湯も適用:足の指が疼痛して歩行することを得ず。
独活寄生湯合八味丸、或は独活寄生湯合海馬補腎丸:脚力が弱く、遠路歩行が困難な痹証。
独活寄生湯:千金方:袪風湿・散寒・補気血・益肝腎・活血止痛:
独活2 防風2 桑寄生4 秦艽3 杜仲3 熟地黄5 白芍4 当帰3 牛膝3 川芎2 茯苓3 党参3 細辛1 肉桂0.5(沖服) 炙甘草1g。八味丸や苓姜朮甘湯・海馬補腎丸・真武湯と合方することが多い
独活:袪風湿・通経絡:特に項背部の筋肉や下半身の関節の風湿を去る・背中の痛み・臀部の痛み・両足のしびれ:独活寄生湯。
桑寄生:補肝腎・袪風湿・強筋骨・安胎。
秦艽じんぎょう:リンドウ科秦艽の根:胃肝胆経:苦辛平:袪風湿・通絡舒筋・退黄疸・除虚熱:陰虚内熱・骨蒸潮熱「三痺必用の薬」:秦艽鼈甲湯・秦艽防風湯(痔瘻)。
秦艽防風湯じんぎょうぼうふうとう:蘭室秘蔵:痔瘻の特効薬:
秦艽2 防風2 沢瀉2 陳皮2 柴胡2 当帰3 白朮3 桃仁3 紅花1 甘草1 黄柏1 大黄1 升麻1。
腎陽虚と腎精不足の違い:
腎陽虚は四肢冷・小便不利・浮腫・舌質淡で舌の胖嫰ハンドンなど虚寒の症状。
腎精不足は頭暈・耳鳴・耳聾・遺精・早漏・足心のほてり・舌質紅を呈する。
2.心腎不交の健忘:天王補心丹・六味丸・黄連阿膠湯
心腎不交の健忘は非常によく見られる・物忘れが多い・焦躁感・不眠・多夢・動悸・易驚・耳鳴・頭暈・腰膝酸軟無力・遺精・潮熱・寝汗・夜間頻尿・舌紅・苔少・脈細数・口渇・口内炎・舌糜爛・面紅・尿黄・便硬。
心腎不交の健忘:原因:遺精・滑精・久病・房室不節などで、腎陰が消耗し、心陰を滋潤できずに心火亢盛となり発症する。逆に、内傷七情で気鬱化火したり、熱邪によって心火亢盛になり、心火が腎陰を消耗して健忘となる。
2-1.心腎陰虚により心火旺が生じている健忘:天王補心丹・六味丸:
健忘・不眠・動悸・焦躁感・腰膝酸軟無力・寝汗・遺精・舌紅無苔・脈細数。
天王補心丹:心腎陰虚(心腎不交):酸棗仁10 生地黄20 柏子仁10 麦門冬10 五味子10 当帰6 遠志5 丹参5 玄参5 桔梗5 粉末を蜜丸とし朱砂をまぶし、1回2gずつ服用。
2-2.心火亢盛で下に腎陰虚を招き「上熱下虚」を呈する健忘:黄連阿膠湯:健忘・焦躁感・口渇・口内炎・舌糜爛・顔面紅潮・腰膝酸軟無力・尿が濃い・便硬。
黄連阿膠湯:心腎不交:黄連3 黄芩2 白芍3 阿膠3 鶏子黄1個(小太郎製薬に分包製品。500gボトル製品は年一回注文受け付け)
心腎陰虚で「心陰虚」が主体:天王補心丹。
心腎陰虚で「腎陰虚」が主体:六味丸。
心腎陰虚で心火熾盛のために下に腎陰虚をもたらす者:黄連阿膠湯(清心瀉火・滋補腎陰):健忘・焦躁感・口渇・口内炎・舌糜爛・顔面紅潮(虚火上炎で熱証を呈する)。
心火熾盛で妄夢失精する者は、竜胆瀉肝湯
3. 心脾両虚の健忘:帰脾湯:健忘・面白・動悸・易驚・浅眠・多夢・息切れ・不安感・脾虚で食少・倦怠感・腹脹満・泥状水様便・月経不調・舌淡苔白・脈細弱。
帰脾湯:脾不統血:機能性子宮出血、痔出血、血小板減少性紫斑病、過敏性紫斑症、血友病・白血病などの症状の者に用いる。また白血球減少や全血成分の低下に用いることができる:脾虚が顕著。
帰脾湯の心脾両虚:精神不安よりも貧血の症状に似ていて、動悸・不安感・不眠の他に、疲れ易い・食欲がないなど自律神経失調症に似ているて、気血不足の症状(気血両虚)を呈す。帰脾湯は気血両虚に使用。
帰脾湯:補脾・養心安神・摂血:心脾両虚・心気血虚:
不安感・動悸・不眠・不安感のある気血両虚に:
黄耆2 人参3 白朮3 当帰2 茯苓3 竜眼肉3 酸棗仁3 遠志2 炙甘草1 木香1 大棗2 生姜1g。
竜眼肉・桂円肉・桂円:ムクロジ科リュウガンの果肉:甘温:心脾経:補心安神・補脾養血:心血虚の神経衰弱・不眠・健忘・易驚・動悸・虚証の出血病後の衰弱:3~5g、10~20g:帰脾湯。
酸棗仁さんそうにん:クロウメモドキ科サネブトナツメの成熟種子の乾燥:甘酸平:心脾肝胆経:養肝・寧心・安神・斂汗:不眠・動悸・不安・自汗・盗汗。心臓神経症・神経衰弱・鎮静:3~6g、7~8g、10g。
遠志オンジ:ヒメハギ科イトヒメハギの根:安神・袪痰・消癰しょうよう。
心脾両虚の健忘の原因:「心は神を蔵し、脾は思を主る」。思慮過度や労倦過度で心脾を損傷し、脾虚により血虚となり心血虚を招き、心血虚では脾を充養できない。また心火不足でも脾を温めるられず脾の運化が衰える。
以上から心脾両虚が生じ、心脾の気血不足である心脾両虚が生じて(不安感のある気血両虚)神明を守れず健忘が発生する。
「済生方」によれば「「脾は意と思を主り、心はまた思を主り、思慮過度なれば、意識の舎は清ならず、神宮は職さず、これをして健忘せしむ」。
心の気血不足の症状:健忘・動悸・易驚・浅眠・多夢:帰脾湯。
脾気虚の症状:食少・腹満感・泥状水様便・倦怠無力感:帰脾湯。
心腎不交の健忘の症状:心腎陰虚・心火旺:眩暈・耳鳴・腰膝酸軟無力・遺精・滑精など腎陰虚症状と、舌紅苔少・脈細数など陰虚内熱となる。
4. 痰濁擾心の健忘:導痰湯・二朮湯・茯苓湯:健忘は「短期間発生」・嗜眠・恍惚状態・頭暈・回転性めまい(痰濁上擾)・動悸・不眠・胸悶や悪心(気滞)・喘鳴や痰涎が多い(痰涎壅塞)・言語錯乱や喜笑欲哭(痰迷心竅)・舌苔が白く厚い・脈弦滑。
導痰湯(済生方):痰迷心竅・癲癇:製半夏3 製南星3 陳皮2 枳実2 茯苓2 炙甘草1:痰迷心竅で熱証のみられない舌苔が白く厚い・脈弦滑時に使用:温胆湯の竹筎を製南星に替え:温胆湯加製南星・二朮湯も可
二朮湯:万病回春:袪風湿・化痰:痰迷心竅・癲癇:半夏2 陳皮1.5 天南星1.5 甘草1.5 白朮 茯苓1.5 蒼朮1.5 香附子1.5 黄芩1.5 威霊仙1.5 羗活1.5 生姜3g: 経験・漢方処方分量。
羗活:散寒燥湿・解表・袪風湿・止痛:温め風湿を去るカゼ薬。
痰濁擾心の健忘の原因:情緒の抑鬱から肝気鬱結が生じ、このため脾の運化が失調して水湿が化さず痰濁が生じる。その痰が気とともに上逆して神明を擾乱して健忘が発生する。
朱丹渓(朱震亨)の「丹渓心法」では「健忘は痰を有する者が、多くは思憂過多により、その心包を損し、もって神舎不清を致し、事に遇いて忘れること多し」と述べている。
朱震亨(朱丹渓)の著書:「格致余論かくちよろん」「局方発揮」「丹渓心法」。
痰濁擾心が長期に停滞したため:鬱して化熱したり、内傷七情で化火して痰火となり神明を擾乱すると健忘・イライラ・めまい・頭痛・顔面紅潮・咽の乾燥感・胸悶・呼吸促迫・咳嗽・黄痰・舌苔黄じ・脈滑数:黄連温胆湯。
黄連温胆湯:清化熱痰・和胃降逆:製半夏6 陳皮3 茯苓6 炙甘草1 枳実1 竹筎2 大棗1 黄連3:痰熱による不眠・健忘・胸悶・動悸・頭痛・のぼせ・めまい・咽の乾燥感・咳嗽・口苦・イライラ。
5. 瘀血衝心の健忘:血府逐瘀湯・抵当湯・桃核承気湯:突然に健忘が生じ・腫瘤・疼痛・出血・舌硬・言葉つかえる・口渇不欲飲・腹満・腹痛と圧痛・顔面や口唇や爪の青紫色・尿量多く薄い・便黒・舌紫暗で瘀点・脈細渋・脈結代。
瘀血衝心の健忘の原因:瘀血が停滞して脈絡阻滞し気血がめぐらず心神が栄養をうけられないか、神識が擾乱されて健忘が発生する。
血府逐瘀湯は、心に瘀血が有り、瘀血による発狂に使える。心臓が痛くなる心筋梗塞の予防にも使える。心筋梗塞痛には折衝飲を使う。
桃核承気湯は心臓痛には効かない。
桃核承気湯:清熱瀉下・活血逐瘀・瘀血と熱状で狂状:
調胃承気湯+桃仁・桂枝:桃仁5 桂枝4 大黄3 甘草2 芒硝2:
瘀血と熱状で狂状を現す時に適応:生理時の盗癖・拒食症など:狂症には抵当湯・抵当丸。
血府逐瘀湯:医林改錯:瘀血内阻:牛膝4 桃仁3 紅花3 当帰4 赤芍3 川芎2 生地黄4 枳殻3 柴胡3 桔梗2 甘草1g。
紫蘇葉・白芷びゃくし・桔梗:寒を散じ、膈塞かくそく(上下不通)して通じないものを利し、表邪を発散する。
牛膝:活血袪瘀止痛・活血通経・舒筋利痹・補益肝腎・強筋骨:血の流れを促進して瘀血を去ることで止痛し、経絡の流れを促進すれば筋を緩めるので痛みを和らげ、肝腎を養うことで筋骨を丈夫にする。
桃仁は瘀を破り新を生じ、芒硝、大黄と協力して袪瘀する:
活血通経・袪瘀療傷・破血袪瘀・潤燥滑腸・潤腸通便:桃仁は桃の果実の仁。
紅花:キク科ベニバナの花冠:辛微苦温:心・肝経:破瘀活血・通経:妊婦には不可。
桃核承気湯の証は、熱が血分(陰)に在り、気分(陽)にはないので、陰が盛んになる夜に至れば発熱し、熱が上って心を乱すので意識は乱れ、譫語して狂状を呈す。
病はすでに血分に入っていて、「内経」でいう「血上に在れば善く忘れ(健忘)、血下に在れば狂の如し」である。
桃核承気湯:蓄血証で尿はよく出る。下腹部が硬く脹る・うわごと(産後の狂状)。譫妄(夜間睡眠中に叫ぶ)・夜間の発熱・狂躁状態:熱邪と血が小腸で結した蓄血証:使う量は少量使うと安定する。
瘀血で狂症が起きる人は、小便が近く、よく狂症が出ることが時々あり、舌を診ると青紫色の斑点があることが原則である。この場合、桃核承気湯を使うが、便秘が目標ではない。
健忘は心・脾・腎と密接な関係がある「心は神を蔵し神明を主る、腎は精を蔵し脳に通じる、脾は意と志を主る。それゆえ心脾の気血不足・腎精の不足・心腎不交などが「健忘」を引き起こす。治法は養心安神・補益脾腎。
心脾の気血不足:帰脾湯
腎精不足:河車大造丸・ビタエックス・独活寄生湯合海馬補腎丸
心腎不交:天王補心丹(心腎陰虚)・六味丸・黄連阿膠湯
心腎陰虚(天王補心丹)・心火旺(黄連阿膠湯):心腎陰虚では眩暈・耳鳴・腰膝酸軟無力・遺精・滑精:心火旺では熱状を呈し、口内炎・舌糜爛・顔面紅潮。