半夏厚朴湯

理気剤 半夏厚朴湯

気は常にスムーズに流れていれば、その生理的機能を発揮する。ところが、色色なストレスなど何らかの理由で、その気が停滞したり(気滞)、上逆する(気逆)ことがある。このような気の変調を調整する方剤を、理気剤とよぶ。理気剤には、行気と降気の2種がある。

行気剤は、気の停滞を解消し、気をスムースに流す作用がある。気滞の生じやすい臓器は、肝と脾胃とである。

気滞の一般症状:胸脇が脹って苦しい・イライラし顔が赤くぼせる・頭痛・眩暈・嘔気・胸焼・腹満して便秘・ゲップ・放屁・ため息がよくでる・脹痛が特徴・頭脹痛・胃脹痛・腹満痛・経前乳脹痛:加味逍遙散・四逆散などを使う。

肝の気滞は、とくに肝気鬱結(肝鬱かんうつ)とよばれ、四逆散(肝気鬱結・肝脾不和に疏肝解鬱する・理気止痛・透熱:柴胡 白芍 枳実 甘草)が解消する。

四逆散の柴胡+白芍は肝鬱の基本処方である。

四逆散の枳実(強い作用)・枳穀(弱い作用):行気消積・行気寛中する行気薬である。その他の肝鬱の処方には下記の方剤がある。

逍遙散:肝気鬱結・血虚・脾虚・湿邪:痰飲は取らない:胃の脹痛や乳痛や頭脹痛に:柴胡3 白芍3 当帰3 白朮3 茯苓3 生姜3 炙甘草1.5 薄荷1

加味逍遙散(疏肝解鬱・健脾補血・調経・清熱涼血:肝陽上亢:逍遥散+牡丹皮2・山梔子2)

柴胡桂枝湯(和解半表半裏・解表・疏肝解鬱・補気健脾・和胃止嘔:食欲不振)・・などが肝気鬱結に適応する。

脾胃の気滞には、香蘇散・半夏厚朴湯が適応。

香蘇散:理気和胃・理気解表:妊娠時の風邪薬:気鬱の強い場合に合方する:香附子4 紫蘇葉1 陳皮2 甘草1 生姜3:小柴胡湯合香蘇散(柴蘇飲)は風邪後の耳聾に適応。

香蘇散の香附子・別名(莎草さそう):浜菅ハマスゲの根:疏肝理気・調経止痛:生理痛など婦人薬に繁用される。

香蘇散の紫蘇葉・蘇葉:辛温:発汗解表・行気寛中・解魚蟹毒:安胎。

半夏厚朴湯:理気降逆・化痰散結:半夏6 厚朴3 茯苓5 生姜4 蘇葉2:喘息の緩解期に、六君子湯合半夏厚朴湯、小柴胡湯合半夏厚朴湯は疏肝解鬱・脾虚・理気降逆・化痰散結する。

小柴胡湯合半夏厚朴湯は、カゼ後の痰のからみに(七症+咳込みと痰のからみ)・・などが対応する。

気滞の特徴的な症状は、脹満である。

脹満感は、さまざまな病態で身体各部位に出現する。(頭が脹る、眼が脹る、喘息発作では胸が脹る、腸胃の気滞でお腹が脹る、ガスやゲップが生ずる。生理時に腰が脹る、乳房が脹る等)、肝気鬱結・脾胃気滞に限らず、あらゆる病態に気滞は生じる。

例えば、腸胃の気滞でも、気の不足により気滞が生じ腹満感が生じる(試験勉強や思慮過度では、気滞により腹満感が生じる時に香蘇散や六君子湯や二陳湯)

六君子湯は、脾胃気虚の基本方剤の四君子湯に半夏・陳皮を加えたもの。

六君子湯:八味:人参4 白朮4 茯苓4 甘草1 乾姜0.5 大棗2 半夏4 陳皮1:この半夏4 陳皮1の加味は、二陳湯の合方で痰飲を取り除き行気薬でもある。

二陳湯:燥湿化痰:半夏5、陳皮4、茯苓5、生姜1、甘草1:痰飲の基本処方

しかし、半夏・陳皮は行気薬でもある。よって、脾胃の気滞・腹満感をも六君子湯は解消する作用がある。六君子湯が、上腹部の脹満感(心下痞満)に適応する所以である(香蘇散も膨満感に適応)。

二陳湯:燥湿化痰:半夏5、陳皮4、茯苓5、生姜1、甘草1

このように、行気薬は、あらゆる方剤に配合されている。

肺気が上逆すると、咳嗽・喘息が起こる。

胃気が上逆すると、悪心嘔吐・噯気あいきゲップ・噦逆えつぎゃくしゃっくり が生じる。

噯気アイキ・噫気アイキ:気が胃中より上逆して音がでる。ゲップ。沈んで長く、しゃっくりとは異なる

噦逆えつぎゃく しゃっくり、時に 乾嘔からえずき もいう

肝気が上逆すると、興奮し、怒り、眩暈・頭痛する。肝気上逆の釣藤散:平肝潜陽・明目・補気健脾・化痰:脾胃気虚・痰湿の肝陽化風に:釣藤鈎5 菊花5 防風5 石膏10(先煮)人参2 麦門冬5 茯苓5 半夏5 陳皮5 甘草2 生姜2

これら気の上逆は、一過性の場合を除いて、多くは二次的病理である。背後に、原因となる病態が存在している。

そこで、降気薬もまた多くの方剤に配合されている。

例えば、

胃気上逆の代表方剤は、小半夏湯である:小半夏湯:金匱要略:降逆止嘔・半夏7 生姜7:つわり

小半夏湯は、半夏・生姜からなるが、この配合は、小柴胡湯をはじめ多くの方剤に組み込まれている。そこで、降気薬に分類される方剤は、他の病態も内包しながら、降気作用を主とするものとなる。

肺気上逆の蘇子降気湯:和剤局方:寒痰喘咳に降気平喘・温化痰湿

:蘇子3 前胡3 半夏4 生姜1 桂枝3 厚朴3 陳皮3 当帰3 甘草1

蘇子降気湯の蘇子そし:紫蘇子:チリメンジソの種子:辛温:下気定喘・止咳消痰・寛胸解鬱

蘇子降気湯の前胡ぜんこ:セリ科白花前胡の根:苦辛微寒:下気化痰・疏散風熱:風熱が原因の咳・痰を止める.

蘇子降気湯の半夏:和胃止嘔・燥湿袪痰・散結消腫

蘇子降気湯の生姜:発汗解表・温中止嘔・半夏等の解毒

蘇子降気湯の桂枝:発汗解表・温通経脉・通陽化気・通陽利水:心陽虚の心不全に

蘇子降気湯の厚朴:モクレン科ホオノキの幹皮・根皮:苦辛温:燥湿除満・行気降逆

蘇子降気湯の陳皮:広陳皮・広柑皮:柑桔かんきつの果皮:辛苦温:理気健脾・燥湿化痰

蘇子降気湯の当帰:補血 行血 潤腸 調経:血証・血虚の主薬

蘇子降気湯の甘草:健脾益気 緩急止痛 諸薬調和

胃気上逆の車酔い・妊娠つわりの嘔気止めの小半夏加茯苓湯(和胃降逆・化痰利水:半夏6 生姜6 茯苓5)。乾姜人参半夏丸(乾姜・人参・半夏)

肝気上逆の釣藤散(脾胃気虚・痰湿の肝陽化風に平胃散と合方すると効果が増す):平肝潜陽・明目・補気健脾・化痰(釣藤鈎と菊花で肝鬱に対処):釣藤鈎5 菊花5 防風5 石膏10(先煮)人参2 麦門冬5 茯苓5 半夏5 陳皮5 甘草2 生姜2)などである。

釣藤散合平胃散:痰湿の肝陽化風に:釣藤鈎5 菊花5 防風5 石膏10(先煮)人参2 麦門冬5 茯苓5 半夏5 陳皮5 甘草2 生姜2:理気化湿・和胃:蒼朮4 厚朴3 陳皮3 大棗2 生姜 1 甘草1

肝陽化風:のぼせ・ほてり・めまい・ふらつき・手足のふるえ・耳鳴り:肝風は内風であり、肝腎の陰液が極度に損傷したために、肝の陽気が肝腎の陰液による濡養じゅようと制約を受けられなくなって発症する。肝陽が化風して生じる。

釣藤散の釣藤鈎ちょうとうこう:平肝止痙・鎮静:てんかん発作の抑制・平肝は肝鬱に適応:アカネ科カギカズラの鈎棘のある茎枝。

釣藤散の菊花:疏散風熱・清熱明目・清熱解毒・平肝陽:釣藤鈎+菊花で肝鬱に適応

釣藤散の防風:辛甘微温:袪風解表・袪湿解痙・止瀉止血:和食の食あたりに料理に添えてある。

釣藤散の石膏(先煮する):甘辛大寒:清熱瀉火・解渇・除煩躁

釣藤散の麦門冬:潤燥生津せいしん・化痰止咳:肺陰虚に

半夏厚朴湯

はんげこうぼく

組成:理気化痰:半夏6 厚朴3 茯苓5 生姜4 紫蘇葉2

半夏6(和胃止嘔・燥湿袪痰・散結消腫)

厚朴3(燥湿除満・行気降逆)

茯苓5(利水滲湿・健脾和中・寧心安神)

生姜4(発汗解表・温中止嘔・解毒)

蘇葉2(紫蘇葉:辛温:発汗解表・行気寛中・安胎)

方解:半夏厚朴湯:気滞痰凝きたいたんぎょう に適応する。精神的なストレスが加わると、人体の気は停滞する。気には津液をめぐらす作用があるので、気の停滞によって、津液も停滞する。そのため、痰が凝滞するのである。半夏厚朴湯は、このような気滞痰凝に適応する。

半夏厚朴湯の半夏には、痰を除く作用がある(燥湿袪痰)。

半夏厚朴湯の厚朴の理気作用(行気降逆)は、気滞を通じさせるとともに、半夏の作用を助ける。

半夏厚朴湯の生姜は、半夏の作用を強化する。(半夏・生姜:小半夏湯)

半夏+生姜:小半夏湯は、脾胃の気虚から生じた痰飲を除く、同時に胃気の上逆(吐き気・嘔逆・つわり)を引き下げる。

半夏厚朴湯の紫蘇葉は、厚朴(行気降逆)とともに気滞を解消する(行気寛中)。

半夏厚朴湯の茯苓には、滲湿作用があり、半夏の燥湿袪痰を強化する。

以上の協力により、気滞痰凝を治癒する。

(滲湿しんしつ:滲とは濾過するの意味。滲利、滲泄、滲透などはすべて滲出濾過させ、停まらないようにすること。)

効用(半夏厚朴湯:行気解鬱・降逆化痰:気滞痰凝を解消する)

主治:半夏厚朴湯:行気解鬱・降逆化痰:気滞痰凝を解消する。

半夏厚朴湯:情志鬱結・痰凝気滞:咽中異物感、胸脇満悶、鬱鬱不楽、易怒易驚いどいきょう、舌苔白潤

(半夏厚朴湯:行気解鬱・降逆化痰:気滞痰凝を解消する)

半夏厚朴湯:痰湿阻肺:咳嗽喘促ぜんそく、喀痰白粘、肝鬱による嗄声させい。

半夏厚朴湯:胃中痰飲・悪心嘔吐、噦逆、心下痞満、舌苔白じ、脈弦緩~弦滑。

心下痞満:胃脘部の痞悶脹満。これは中焦の陽気が傷られ運化作用が失調し、水飲が中焦に停まってあらわれる自覚症状である。

応用

A. 半夏厚朴湯といえば、「咽中炙臠いんちゅうしゃれん」といわれるくらい特徴的な症状である。

咽の中に焼肉があるようだというのである。後世では、「梅核気」とよばれ、やはり咽中に梅の核があるような状態をいう。「咽中炙臠」も「梅核気」も咽喉の異物感である。

「咯しても出ず、咽めども下らず」と表現されるように、吐いても出ないし、呑んでも呑み込めない。

つまらない会議や講演会などで、ある程度時間がたってくると、どこからか咳払いが聞こえてくる。そして、咳払いする人がしだいに増えてくる。誰にも、そんな経験がある。

面白いことに、そのつまらない会が終わると、咳払いはなおってしまう。これこそ、咽中炙臠である。しかし、多くの場合、これは一過性なのである。

つまらない、楽しくないという感情は、肝気を鬱結させる。気の停滞は津液も停滞させ、痰を生じる。気滞痰凝とよばれる病態である。これが、咽中炙臠の原因である。

このような病態に半夏厚朴湯は適応する。咽喉に異物感があり、吐いても出ず、呑んでも呑み込めない。この際、面白くない、気分がすっきりしない、胸がふさがる、怒りっぽい、驚き易いなど、抑鬱状態がみられる。

また、咽中炙臠の訴えはさまざまで、咽喉がふさがるように感じたり、無自覚に咳払いが多くなったり、嚥下困難を覚えることもある。(心配事があると、食事が食道に急に痞えて苦しむ)

半夏厚朴湯には補の作用がない。一部では半夏厚朴湯は「虚証」とか「痩せて」とされるが、半夏厚朴湯単独では虚証には不適である。

(半夏厚朴湯:半夏6 厚朴3 茯苓5 生姜4 蘇葉2)

(平胃散:蒼朮4 厚朴3 陳皮3 大棗2 生姜1 甘草1)

そこで、半夏厚朴湯を体虚のある場合や長期に連服する場合には、補薬が必要である。また、肝気鬱結が解消する作用を強化する必要もある。そこで、病態に応じて・・

小柴胡湯:柴胡7 黄芩3、半夏5 生姜4 人参3 大棗3 甘草2

加味逍遙散:牡丹皮2 山梔子2 柴胡3 白芍3 当帰2 白朮3 茯苓3 生姜3 甘草2 薄荷1

六君子湯:補気健脾・理気化痰:人参4 白朮4 茯苓4 甘草1 乾姜0.5 大棗2 半夏4 陳皮1:脾虚・むくみのある眩暈・下利

・・などを合方する。

(半夏厚朴湯合小柴胡湯:柴朴湯に同じ・緩解期の喘息:慢性腎炎は柴苓湯)

(半夏厚朴湯合加味逍遙散:怒り易く咽中炙臠がある・バセドー病で喉が腫れている痰飲に)

(半夏厚朴湯合六君子湯:緩解期の喘息)

老人など、痩せて皮膚の乾燥した人が、咽中炙臠に類似した症状を呈することがある。始終咳払いして、咽喉に痰のようなものがからんでいる。これは、肺陰虚によるもので、気滞痰凝ではない。(心肺陰虚で心筋梗塞の前兆にも始終咳払いして、咽喉に痰がある)麦門冬湯の適応症である。

麦門冬湯証には、抑鬱などの肝気鬱結の症状はない。

誤って、麦門冬湯証に半夏厚朴湯を使用すると、陰虚を助長し悪化させることとなる。カゼが長引いた時、痰のようなものが喉にからんでいる状態は麦門冬湯。

半夏厚朴湯:声がれにも応用される:ヒステリーなど鬱証にともなう声がれ・失声・感冒後の声がれ。

(半夏厚朴湯:行気解鬱・降逆化痰:気滞痰凝を解消する)

半夏厚朴湯:肝気鬱結では、さまざまな神経症が現れる。くよくよする、厭世的、楽しくない、晴れ晴れしない、孤独感などを現すなど、鬱証やヒステリーに出現する症状に半夏厚朴湯は適応する。

(半夏厚朴湯:行気解鬱・降逆化痰:気滞痰凝を解消する)

半夏厚朴湯:肝気鬱結は、身体の各所に各種の影響を与え、多くの疾病の原因となる。この際、肝気鬱結、それに痰凝を現しているならば、半夏厚朴湯で、それらの症状も解消する。

(肝鬱に痰飲があれば半夏厚朴湯が適応)

不安神経症、発作性の心悸亢進で、不安感強く多尿・頻尿のもの。

悲しみ・恐れなど精神的なことで月経の閉止するもの、想像妊娠に半夏厚朴湯。

精神的な抑鬱によって食欲のないもの、神経性不食症に半夏厚朴湯・小柴胡湯・柴朴湯・半夏厚朴湯合六君子湯。

以上の疾病は、長期に渡るものが多いので、半夏厚朴湯は補う作用がないので前記のように、小柴胡湯、加味逍遙散、六君子湯などとの併用が必要である。

(半夏厚朴湯:半夏6 厚朴3 茯苓5 生姜4 蘇葉2)

(半夏厚朴湯合小柴胡湯:柴朴湯と同じ)

(半夏厚朴湯合加味逍遙散)

(半夏厚朴湯合六君子湯)

(半夏厚朴湯:行気解鬱・降逆化痰:気滞痰凝を解消する)

半夏厚朴湯:感冒などで、解熱したが、咳嗽だけ残ることがある。食欲に変化がなく、咽喉に白い粘痰がからまり、イライラするようであれば、半夏厚朴湯の適応である:麦門冬湯証と鑑別すること。

(外出し焼酎を痛飲するとカゼ後の長引く咳痰の肝鬱痰凝解消されすっきりする)

白い粘痰をともなう咳嗽で、食欲がなく、大便が緩いようなら、六君子湯である。

慢性気管支炎などの慢性咳嗽にも有効である。とくに、神経性咳嗽には有効である。

その際は、やはり、半夏厚朴湯に補正がないことから、小柴胡湯・六君子湯・苓桂朮甘湯などの併用が必要で、半夏厚朴湯の長期単独では咳嗽は悪化する。

小柴胡湯(和解少陽・清熱透表・疏肝解鬱・補気健脾・和胃止嘔

:柴胡剤の七症:往来寒熱・胸脇苦満・口苦・咽乾・目眩・鬱鬱として飲食を欲せず、心煩喜嘔)

六君子湯(補気健脾・理気化痰)

苓桂朮甘湯(温化寒飲・通陽化痰・健脾利水)

(半夏厚朴湯合小柴胡湯)

(半夏厚朴湯合六君子湯)

(半夏厚朴湯合苓桂朮甘湯)

気管支喘息には柴朴湯(小柴胡湯+半夏厚朴湯)というくらい、有名になっているが、むやみに服用しても効果はない。

一般に、柴朴湯は、気管支喘息の緩解期に使用される。(発作期には服用しても無効)

平素から抑鬱が強く神経質で、精神的な素因で喘促発作を起こすものに柴朴湯はよい。

たしかに、小児喘息などには、柴朴湯の適応する子供は多い。

しかし、肝気鬱血のない場合、小児喘息などにはむしろ六君子湯の適応が多い。

中年以降に発病した気管支喘息の緩解期には、大柴胡湯と半夏厚朴湯を併用することもある。

(半夏厚朴湯合大柴胡湯)

(中年の食べ過ぎの喘息発作には防風通聖散)

(大柴胡湯証は、鷹揚にみえても強い抑鬱を特徴とする)

(大柴胡湯:柴胡6、黄芩3、白芍3、半夏4、生姜4、枳実2、大黄1~2、大棗3)

(半夏厚朴湯:行気解鬱・降逆化痰:気滞痰凝を解消する)

半夏厚朴湯:半夏・生姜の組合せから見ると、胃中に痰飲があり胃気が上逆する病態にも適応する。嘔吐、胸脇が苦しく抑鬱があり、情志によって発作。そこで、妊娠神経症をともなう悪阻つわりにも使用する。

半夏厚朴湯:胃部に膨満感(心下痞満)があり、噯気(ゲップ)の出るもの。

出典

(半夏厚朴湯:行気解鬱・降逆化痰:気滞痰凝を解消する)

「金匱要略・婦人雑病脈証并治」

婦人 咽中に炙臠あるが如きは、半夏厚朴湯これを主る。

半夏厚朴湯方

半夏一升 厚朴三両 茯苓四両 生姜五両 乾蘇葉二両

右五味、水五升を以って、煮て四升を取り、分かちて四たび服す。日に三たび夜に一たび服す。(一日四回服用)

参考

(半夏厚朴湯:行気解鬱・降逆化痰)

半夏厚朴湯:此の方は局方四七湯と名づく。気剤の権輿けんよ なり。

故に梅核気を治するのみならず、諸気疾に活用してよし。金匱千金に据えて婦人のみに用ゆるは非なり。蓋けだし婦人は気鬱多き者故、血病も気より生ずる者多し。(金匱要略・千金備急要方)

一婦人、産後 気舒暢、少し頭痛もあり、前医 血症として芎帰の剤(川芎・当帰)を投ずれども不治、之を診するに脈沈なり。気滞に因って痰を生ずるの症として、半夏厚朴湯を与ふれば不日に愈ゆ。血病に気を理するも亦一手段なり。「勿誤薬室方函口訣」浅田宗伯

(気舒暢:元気の回復がおそい)

(舒暢ジョチョウ:心をのびのびさせる。舒:おそい・のろい・のべる・のばす・ゆるやか。暢:のびる・長くなる・のばす・ゆきわたる)

(半夏厚朴湯:行気解鬱・降逆化痰)

半夏厚朴湯:婦人の情性執著シュウチャクなるは、寛解する能わず。多くは七気の傷る所を被こうむり、遂に気 胸臆を填ふさぐを致し、あるいは梅核の如く、上りて咽喉を塞ぎ、甚だしき者は胸悶し絶えんと欲す。

産婦 尤もっとも多し。この証はこの剤(半夏厚朴湯)を服し、間に香附子薬(逍遥散や香蘇散)を以ってす。久しく服すれば效を取る。

婦人の悪阻つわり、尤も宜しくこれ(半夏厚朴湯)を服すべし。「易簡方」

つわり:半夏厚朴湯・小半夏湯・小半夏加茯苓湯・乾姜人参半夏丸・六君子湯

(著:チャク、チョ)

(七気:七情:喜・怒・憂・思・悲・驚・恐)

(胸臆キョウオク:こころ、おもい、かんがえ)

(臆:オク、ヨク:むね、こころ、おじける)

医案

1. 一婦人四十才許ばかり。数年前より不眠を病みて癒えず、余証としては軽き咳出でて此これも数年病まず、と言ふに、半夏厚朴湯を服せしめてさっぱりと癒えたるものあり。此人このひと 自身 気が付かざりしも、人に質ただされ 始めて咽中に炙臠しゃれんのある事を言ひ出だせり。

「新古方薬嚢」荒木 性次 著

*親しい友人から夜中に電話がかかって、至急往診をたのむという。

病人は、友人の妻君で、妊娠中から浮腫があったが、その日、分娩を終えると間もなく、胸部、頸部、顔面に向って、どんどん浮腫が増加し、胸が苦しく、いまにも呼吸がとまるのではないかと思われるほどの苦しみである(半夏厚朴湯)

いちばん苦しいのは、のどに向かって下から何物かがつき上ってきて(西洋医学ではヒステリー球という)、息がつまるようで、ひっきりなしにせきが出る。せきのたびに泡沫様の痰が出てくる。それが出ると少し楽になるが、また苦しくなる。

尿は朝からほとんど出ない。顔は平生の二倍もあろうかと思うほどの腫れ方で、頸部もそれにつれてひどく浮腫している(半夏厚朴湯)。

そこで、半夏厚朴湯を与えたところ、これをのんで十分もたたないうちに、のどへ物がつき上ってくるのがやみ、暁方近くから尿がどんどん出るようになり、数日で分娩後のむくみは全快した。『漢方診療三十年」大塚敬節