肝の昂ぶりの病理

弁証論治:肝・胆

肝胆の病証は、概括すると「肝の疏泄」と「肝の蔵血」の機能の障害である。

精神情緒の混乱(内傷七情・五志過極)などが原因で、肝の疏泄が失調すると肝気鬱結となり、
肝気はスムーズに流れなくなるが、
もともと肝気は昇動しやすいので、肝気上亢・肝陽上亢となりやすい。

このようにもともと肝陽の昇動は大過となりやすい性質をもっている。
特にイライラし易い人は肝陽の昇動は強く現れる。

また、肝の蔵血機能の障害は出血傾向を招くが、多くは肝血などが不足しやすいために生ずる。
「血は気の母」であり、「気は血の帥」であるので、血虚は気虚を招き血の帥を損ない出血傾向となる。
肝血が不足する原因の一つは心脾両虚(帰脾湯が適応)である。

帥スイ:ひきいる・したがう・あつめる・軍の隊長・将軍・てぬぐい

心脾両虚の不正出血では、失恋や失意の時のような精神状態では食欲がなくなり、食べても消化不良となり
精神萎靡を伴い易く、気虚のため気は血を統べることができず出血量は多い。帰脾湯(心脾両虚、気血両虚)を使う。

帰脾湯:気血双補・健脾益気・養心安神・脾不統血を摂血:白朮3 茯神3 黄耆2 竜眼肉3 酸棗仁3 人参3 木香1 炙甘草1 当帰2 遠志1.5 乾生姜1 大棗1.5:心脾両虚に適応するが、気血両虚にも使う。
出血傾向となり、ぶつけたおぼえのない青あざや不正性器出血・潜血尿や眼底出血などを生ずる。

以上のように、「肝陽・肝気は常に有余して化火しやすいので、肝陰・肝血は消耗して常に不足する」というのが肝病の特徴となる。

肝気鬱結によって肝鬱化火して肝の陽気が、肝陰・肝血を消耗したため、
肝陰が肝気の昇動を制約できないために肝陽上亢(加味逍遙散・抑肝散・柴胡加竜骨牡蠣湯・大柴胡湯・知柏地黄丸・杞菊地黄丸)となる。

肝陽上亢の症状:イライラ・易怒・頭痛・めまい・面紅・目赤・口乾・脈弦・舌質紅・不眠・動悸・腰重・下肢無力感ふらふら・脈細数・陰虚症状に対しては滋陰平肝する:加味逍遙散・柴胡加竜骨牡蠣湯・抑肝散・天王補心丹・杞菊地黄丸・天麻鈎藤飲。

柴胡加竜骨牡蠣湯:柴胡5 黄芩3 半夏4 生姜3 人参3 茯苓3 大棗3 桂枝3 竜骨3 牡蠣3 大黄1:肝陽上亢・肝風内動・のぼせ・めまい・肝気鬱結(体が重だるい、不安感、動悸)。

天王補心丹:心腎陰虚:酸棗仁 生地黄 柏子仁 麦門冬 五味子 当帰 遠志 丹参 玄参 桔梗 朱砂:滋陰・安神の効能も兼ねているので補心血に用いる。

心腎陰虚(天王補心丹)は、疲労や慢性病などが原因の水気不足による虚熱発生の状態。のぼせ・めまい・動悸・パニック・不眠・腎陰虚症状は腎虚の症状で虚熱症状を呈す:足が火照る・面紅・頭暈・眩暈・耳鳴り・難聴・腰膝酸軟無力・尿後余瀝・失禁・遺尿・尿閉・性機能亢進・腫痛。

肝陽と肝陰・肝血はこのように影響しあっている。

肝陰:肝陰血と肝の陰液をさす。肝陰と肝陽は平衡をたもっているが、肝気の過多、肝陽の偏亢が有ると肝陰は損傷し、肝陽上亢を引き起こす。

肝陰虚:血が肝を養わないために生ずる。
肝陰虚では眩暈・頭痛・目花や目の乾燥(杞菊地黄丸・滋腎明目湯)・夜盲・月経停止・月経減少・
よく肝陽上亢・肝風内動となりやすく、高血圧症・耳聾・耳鳴・のぼせ・四肢がしびれ震顫しんてん・煩躁・不眠など:高血圧症・神経病・眼病・月経異常となる。

杞菊地黄丸:肝腎陰虚:滋補肝腎・清肝火・明目:高血圧症・自律神経失調症:月経異常・頭痛・目糊ぼやける・目花かすむ・視力減退・不妊。

滋腎明目湯:当帰3 芍薬3 川芎3 熟地黄3 生地黄3 桔梗1.2 人参1.2 山梔子1.2 黄連1.2 白芷1.2 蔓荊子1.2 菊花1.2 甘草1.2 細茶1.2 灯心草1.2:四物湯を含む:四物湯は血虚の基本方剤:当帰4 白芍4 川芎4 熟地黄4:肝の薬でもあるので四物湯は駆瘀血薬である。

肝気鬱結によって肝気が昇動して肝陽上亢となり、さらにもっと肝陰・肝血が不足すると、陽気の衝動が極限まで制約されなくなると肝風内動がひきおこされ、脳卒中や心臓発作が生じ易くなる。五志過極や慢性疲労でよく生じる。


慢性疲労症候群の場合、気虚では補中益気湯や帰脾湯、陽虚では真武湯、陰虚では知柏地黄丸、天王補心丹などをつかってうまく行かないときや、慢性化した時は瘀血の存在を疑い袪瘀すべきである。

たとえば、肝火旺(加味逍遙散・大柴胡湯・柴胡加竜骨牡蠣湯)の体質の者に肝風内動は多くみられ、
「肝は筋を主る」のだが、肝陽が亢盛になると陽動して内風が生じ、
風に従って筋が動くので手顫しゅせん(手のふるえ)「が生じる。
ヒステリー発作やパニック症状・脳卒中や心臓発作をもたらす。


以前、ロッキード事件で国会に喚問されて答弁していた贈賄容疑者が答弁中にガタガタとふるえたり、
ドイツのメルケル元首相が公の場で立って静止している時にガタガタと全身が震えたのも内風が生じたためである。

肝火旺の体質者は、肝風内動から脳卒中になりやすい状態であるので、
予防として黄連や黄芩、黄連解毒湯・三黄瀉心湯・抑肝散・加味逍遙散・柴胡加竜骨牡蠣湯・知柏地黄丸などの服用が肝火旺の者には長寿の薬となる。

黄連解毒湯:胃もたれ・煩躁・精神不安・体が熱く・小便不利に:身体全体に熱感がある時に使い、
三黄瀉心湯は胃熱があり口渇・口臭・便秘が有るときに使う。

長寿の薬として売られている薬は、黄連解毒湯であるが、虚弱者や冷え症や胃腸虚弱の人には不適。

肝胆の病証に対する治療法は、肝胆湿熱に対して湿熱を袪邪する(茵蔯蒿湯など)以外は、
「肝の疏泄」と「肝の蔵血」機能の調整が主となる。

茵蔯蒿湯:肝胆湿熱:胆石・胆嚢炎・黄疸・肝炎・急性膵炎:
小柴胡湯も疏泄によって胆石・泌尿器結石・唾石を排出しイライラを軽減する。
茵蔯蒿湯合小柴胡湯。黄疸には、大柴胡湯(柴胡・黄芩)に茵蔯蒿湯を合方。

疏肝理気・平肝瀉火は(小柴胡湯・大柴胡湯)、「肝の疏泄」を調整する治法である。

大柴胡湯:柴胡・芍薬・枳実、があるので、相当強い 疏肝理気作用をそなえている作用。
柴胡は疏肝理気作用がある。

養血柔肝・滋肝補腎は、「肝の蔵血」を調整する治法である。
逍遙散の当帰・芍薬には養血柔肝作用がある。
杞菊地黄丸:肝腎陰虚:滋補肝腎・清肝火・明目:高血圧症・自律神経失調症:月経異常・頭痛・目糊ぼやける・目花かすむ・視力減退・不妊。

育陰潜陽・和血疏肝・養血熄風などは肝気・肝陽の有余と肝血・肝陰の不足を調整する治法である。
てんかんにも養血熄風法は効果がある。
肝陽上亢(陰虚陽亢):めまい・耳鳴・口渇・咽燥・睡眠不安・舌紅・脈細数(高血圧症など)、
育陰潜陽(養陰潜陽)の亀板・鼈甲などを用いる。
陰虚と陽亢がともに明らかなら、肝風内動の前兆であるので、育陰潜陽法の大定風珠などを用い、
他の虫類の熄風薬も配合するとよい。

胆の病証は、「胆汁は肝の余気を借りて積聚セキジュしてなる」ので、肝と密接な関係にあり、
肝の疏泄の失調として論治する。

肝気鬱結

肝気鬱結は、もっともよく生ずる肝の疏泄失調の状態で、気鬱・気滞など肝の気機の失調による病変である。

気機きき:気の運動形態で、主に、臓腑や経絡の気の昇降出入をさす。

肝気鬱結は、精神情緒の失調(五志過極・内傷七情で失調する)・外邪の湿熱の侵襲・肝の陰血不足などから生じるが、症状としては、抑鬱・気機の失調・胆汁分泌の失調などがみられる。

肝気鬱結は、肝胆の病変や肝経の病変(梅核気・癭瘤・乳房腫塊・胸脇苦満・口苦など)・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃腸神経症・自律神経失調症・月経不順など、多くの疾患でみられる。

肝気鬱結の半夏厚朴湯の適用例:婦人の情性執著なるは、寛解する能わず。多くは七気の傷る所を被こうむり、遂に気 胸臆きょうおくを填ふさぐを致し、あるいは梅核の如く(ヒステリー球が)、上りて咽喉を塞ぎ、甚だしき者は胸悶し絶えんと欲す(失神卒倒する)。

肝気鬱結の処方の加味逍遙散は、バセドウ病などの癭瘤えいりゅうにも有効である。
やはり、痰もしこりとなるので、痰飲を兼ねる場合には、
半夏厚朴湯を合方して加味逍遙散合半夏厚朴湯とする。

半夏厚朴湯:理気化痰:半夏6 厚朴3 茯苓5 生姜4 紫蘇葉2:肝鬱痰飲の薬:竄痛の薬

痰飲の症状は、眩暈、多痰、浮腫、しこり(ヘバーデン結節・こぶとりじいさんのコブなど)、嗜眠、小便不利、朝の起床時の顔のむくみ、疲労時の顔のむくみや手足のむくみ、咳払いで簡単に痰がでる、閑な時すぐ眠くなる。

肝気鬱結が進行すると、気鬱化火して肝火上炎となり、肝の陰血を消耗して肝陽上亢や肝陰虚となったり、気鬱が極まって上逆し、「気厥」(ヒステリーによる失神)をひきおこすこともある。

肝陽上亢の特徴は、上面部の陽亢の症候と陰血不足の症状が同時にみられ、精神的に興奮しやすく、易怒、めまい、頭脹、頭痛、面紅、のぼせ、目花、目赤、耳鳴、不眠、動悸・腰酸・脚無力舌質偏紅:天麻鈎藤飲・杞菊地黄丸

肝陰虚:血が肝を養わないために生ずる。
眩暈・頭痛・目花・目の乾燥・夜盲・月経停止・月経減少
よく肝陽上亢・肝風内動となり高血圧症・耳聾・耳鳴・のぼせ・四肢麻木震顫・煩躁・不眠を生ずる。

気厥:気逆のこと。気病の厥証。気虚・気実の別。気虚で厥すと眩暈昏倒・顔面淡白・出汗肢冷・気息微弱・脈沈微:低血圧・低血糖の昏厥。気実で厥すると暴怒・気逆からおこる薄厥と同じ意味。

昏厥こんけつ:突然倒れて、人事不省となり、手足が冷えているものをいう。

薄厥はくけつ:怒りなどで陽気が急に亢ぶり、血が気にしたがって逆し、頭部に鬱積して昏厥の重症に陥るもの。脳溢血・脳血管痙攣・蜘蛛膜下出血などをさす。

陰虚の五心煩熱・・肺陰虚:秦艽鼈甲湯、肝陰虚:清骨散加味、腎陰虚:左帰飲加地骨皮・白薇びゃくび

肺陰虚の処方の秦艽鱉甲湯:衛生宝鑑:秦艽2 鼈甲3 知母2 柴胡3   当帰3 青蒿2 地骨皮3  烏梅2 生姜0.5

秦艽鱉甲湯や清骨散の秦艽じんぎょう:リンドウ科秦艽の根:袪風湿・退黄疸・除虚熱(陰虚内熱・骨蒸潮熱):三痺必用の薬

虚熱を冷ます作用:白薇・青蒿せいこう・銀柴胡・地骨皮:白薇と青蒿は清熱し発散するが、銀柴胡・地骨皮は血熱を冷ますが発散しない。

白薇びゃくび:ガガイモ科フナバラソウの根や全草:苦鹹寒:肝胃経:清熱涼血:解熱・利尿作用:婦人科によく用いる・産後の衰弱で発熱・発汗過多・頭のふらつき:虚熱を冷ます作用と発散作用

青蒿せいこう:キク科カワラニンジンの全草:苦寒:清熱解暑・退虚熱:発散作用。

銀柴胡・銀胡:ナデシコ科銀柴胡の根:甘微寒:腎胃経:涼血・退虚熱:「虚熱の良薬」:血熱を冷ますが発散しない。

地骨皮じこっぴ:ナス科クコの根皮:甘淡寒:肺腎系」清熱涼血・退虚熱:虚熱・労熱に用いる:血熱を冷ますが発散しない。

肝陰虚の薬の清骨散:証治準縄:清虚熱:銀柴胡3 鼈甲3 地骨皮3 知母3 秦艽2 青蒿2 胡黄連2こおうれん 炙甘草1

肝陰虚の症状:眩暈・頭痛・目花・目の 乾燥・夜盲・月経停止・月経減少。

清骨散の知母:ユリ科花菅ハナスゲの根茎:苦寒:清熱瀉火:滋腎潤燥(知母は、冷まし潤す薬):知柏地黄丸

清骨散の秦艽じんぎょう:リンドウ科秦艽の根:袪風湿・退黄疸・除虚熱(陰虚内熱・骨蒸潮熱):三痺必用の薬。肛門周囲膿瘍で、痛む場所が動く場合は、風熱なので防風通聖散が適応である。風は素早く移動し変化する。防風は袪風湿。本来、痔瘻には秦艽防風湯を使う。

秦艽防風湯:蘭室秘蔵:痔瘻(肛門周囲膿瘍):秦艽2 防風2 沢瀉2 陳皮2 柴胡2 当帰3 白朮3 桃仁3 甘草1 黄柏1 大黄1 升麻1 紅花1:日本には製品は無い。

清骨散の胡黄連・胡連:ゴマノハグサ科胡黄連の根茎:苦寒:肝大腸胃経:清熱燥湿・退骨蒸:黄連とほぼ同じ:小児の疳積に対する主薬。

腎陰虚の左帰飲:滋補肝腎:熟地黄5 山薬4 山茱萸3 枸杞子3 茯苓3 炙甘草1:六味丸から牡丹皮・沢瀉を除き熱証がないものに適応。

肝気鬱結の症状(柴胡疏肝湯・逍遥散・竜胆瀉肝湯):精神的な抑鬱感・イライラしやすい・外界からの軽微な刺激ではげしい情緒的な反応を生じやすく、気機失調して胸脇部の遊走性の疼痛(胸脇苦満・柴胡+黄芩+白芍+枳殻)・脹痛・胸苦しい・脈弦などがみられる。

肝気鬱結による胆汁分泌失調では苦い黄色の水様物の嘔吐や腹痛・黄疸(山梔子+茵蔯蒿:利胆作用)がみられる:胆石・胆嚢炎・胆管結石・胆管炎・黄疸。

肝気鬱結では肝胆の経脈が広く分布していることから、肝気横逆や肝気犯胃・肝脾不和などの症状があらわれる。

肝気横逆して肝気が脾胃を犯すと、悪心・嘔吐・呑酸・上腹部痛などの肝気犯胃(左金丸・金鈴子散)の症状や、肝脾不和で腹痛・下利(逍遥散・痛瀉要方・柴胡桂枝湯)の症候が生じる。

肝気犯胃(左金丸)の症状:悪心・嘔吐・呑酸・上腹部痛

肝脾不和で腹痛・下利(逍遥散・痛瀉要方・柴胡桂枝湯)

肝気が脾虚生痰による痰とともに上逆すると、喉に梗塞感が生じ、呑んでも下らず吐けども出ない「梅核気」(咽中炙臠しゃれん)の症候があらわれる。

痰と肝気が結びついて頸部で停滞し、痰気交阻積聚頸部となり癭瘤が甲状腺腫を形成し、喉部の両側に軟らかい腫塊が生じて嚥下運動にともなって上下する。

肝気鬱結が衝任二脈に影響が及ぶと、月経痛(経痛)・無月経(経閉)・月経期の乳房の脹痛・乳房の腫塊・月経不順などが生ずる:逍遙散:肝気鬱結・血虚・脾虚・湿邪:衝任不調:柴胡3 白芍3 当帰2 白朮3 茯苓3 生姜3 炙甘草2 薄荷1:月経病には衝任不調が関係するので逍遥散・柴胡桂枝湯は必須。

乳房の腫塊に、さらに肝気鬱結が強まって肝火旺となり、塊がさらに圧縮され化火し加熱変性すると乳癌となる。

衝任しょうにん(衝脈・任脉)というのは、月経と関連する経脉であるが、子宮と同じようなものと考える存在であり、子宮という場所に腎気を送っている。たとえば、血室は子宮・肝・衝脈をさす場合がある。

衝任不調には逍遙散。

熱入血室の症状:往来寒熱・胸脇苦満・小腹拘急・夜間言語錯乱・意識異常・月経中断或は 来経・身重・頭汗:小柴胡湯。

肝気鬱結の治療法(柴胡疏肝湯):疏肝理気して、情緒面では心理療法を行い、気機失調に対しては理気に重点を置き、胆汁の分泌と排泄の失調には利胆を行う:茵蔯蒿湯(利胆薬):肝胆湿熱:胆石・胆嚢炎・黄疸・肝炎・急性膵炎:小柴胡湯も疏泄によって胆石・泌尿器結石・唾石を排出しイライラを軽減する。茵蔯蒿湯合小柴胡湯。黄疸には、大柴胡湯に茵蔯蒿湯を合方

肝気鬱結の疏肝理気薬:柴胡・鬱金うこん・青皮じょうひ・枳殻・香附子・川楝子・延胡索・蘇梗・路々通・烏薬:方剤は柴胡疏肝湯の加減

肝気鬱結の疏肝理気薬の柴胡疏肝湯:医学統旨:柴胡6 芍薬3 香附子3 川芎3 枳実2 甘草2 青皮2じょうひ

肝気鬱結の疏肝理気薬の柴胡:苦微寒:解表・解熱・疏肝解鬱・升挙陽気:気の流れ(気機)を正して解表解鬱する。

肝気鬱結の疏肝理気薬の鬱金うこん:ショウガ科姜黄きょうおう、鬱金の塊根:疏肝理気・解鬱袪瘀・止痛・健胃・利胆:ターメリックと同じ。飲み過ぎに「ウコンの力」のドリンクが販売されている。

肝気鬱結の疏肝理気薬の青皮じょうひ:ミカン科柑桔の青い未成熟果皮:疏肝破気・散積化滞(積を散じ滞りを解消する):成分は陳皮と同じ

肝気鬱結の疏肝理気薬の枳実・枳殻:行気消積・理気化湿・行気寛中(気の流れを良くする理気剤):胃腸の蠕動を促進し他薬の消化吸収を補助する。虚弱者には緩和な枳殻を用いる。

肝気鬱結の疏肝理気薬の香附子こうぶし:浜菅ハマスゲの根:疏肝理気・調経止痛(月経関係によく用いる)

肝気鬱結の疏肝理気薬の川楝子(別名:金鈴子・苦楝子):センダン科トウセンダンの成熟果実:苦寒:理気止痛・殺虫:アニサキスに:金鈴子散(金鈴子・延胡索の等分)

金鈴子散:疏肝泄熱・行気止痛:金鈴子(川楝子)と延胡索・・・

の等分粉末1回2~3gを湯で服用して胸脇部の脹痛(胸脇苦満)・腹満・腹痛・月経痛が間歇的に生じ、口苦・舌紅・舌苔黄・脈弦数などに対処する。

金鈴子散(川楝子・延胡索)は気滞血瘀による諸痛に対する基本方剤である。

金鈴子散や折衝飲の肝気鬱結の薬物の延胡索:活血・理気・止痛・鎮静・鎮痙:気滞血瘀に対して活血行気で血滞を除き止痛する。折衝飲・金鈴子散に配合。

瘀血の心筋梗塞や腰痛に折衝飲:活血化瘀・理気止痛:心筋梗塞痛・瘀血の腰痛・足痛:当帰5 桃仁5 牡丹皮3 川芎3 赤芍3 桂枝3 牛膝3 紅花2 延胡索3

涼燥:秋期の温涼と邪を感受した後の証には、涼燥と温燥に分けられる。

涼燥は肺を犯し咳嗽・鼻づまり・頭痛悪寒・左脇疼痛・咽乾口燥の証を常に現し、蘇梗そこう・前胡ぜんこ・淡豆鼓たんとうし・葱白そうはく・桔梗が適す。

止嗽散:痰がからみ何日も続く咳:疏風解表・化痰止咳:桔梗3 荊芥3 紫苑3 白前3 百部4 陳皮2 炙甘草1

紫苑:辛苦温・辛燥:慢性咳嗽多痰に止咳化痰:肺陰虚の乾咳・口乾には禁忌

白前は降気化痰の作用が強く、沙参は滋陰清熱して補益性もあり異なる

百部ひゃくぶ:止咳と清肺(清熱):ビャクブ科百部の塊根:甘苦微温:肺経:止咳・殺虫・抗結核・抗菌

肝気鬱結の疏肝理気薬の蘇梗そこう:紫蘇の茎枝けいしを乾燥:特に健胃による妊娠中の悪心・嘔吐を止める順気安胎の力が強い。

寒薬の前胡;苦辛微寒:下気化痰・疏散風熱(肺熱を冷ます)

淡豆鼓たんとうし・豆鼓とうし・香鼓:マメ科大豆の成熟種子を加工(納豆を冷蔵庫で干からびさせる):苦寒:肺胃経:解表・除煩:発汗・健胃・消化の補助:熱病後の虚煩不眠:梔子鼓湯:清熱透表・除煩:山梔子3 淡豆鼓3

陰虚の感冒薬の梔子鼓湯:清熱透表・除煩:山梔子3 淡豆鼓3:熱病後の虚煩不眠に、淡豆鼓で解表し、山梔子で裏熱をさまして煩躁を除く:発汗作用が軽度で陰虚の感冒にも使用できる。

軽度の発汗作用の葱白そうはく:ユリ科ネギの白い部分:辛温:肺胃経:発汗解表・通陽:下利・腹痛・腹部膨満・排尿困難:発汗の補助:葱鼓湯そうしとう:葱白3 痰豆鼓5たんとうし:感冒初期の発熱・頭痛・鼻づまり・無汗に(カゼの初期にネギ味噌汁)

肝気鬱結の疏肝理気薬の紫蘇葉・蘇葉:辛温:発汗解表・行気寛中・解魚蟹毒:(嘔気をしずめて)安胎

肝気鬱結の疏肝理気薬の路々通ろろつう:別名:楓果:マンサク科楓香 フウの果実:苦微渋平:肝胃経:袪湿熱・袪風止痛・利水通経:アレルギー疾患や打撲捻挫:血管運動神経性浮腫には五皮飲に路々通を加える。

肝気鬱結の疏肝理気薬の路々通を加える五皮飲ごひいん:麻科活人全書:軽度の浮腫・乏尿に用いる:五加皮4 陳皮3 生姜皮2 大腹皮3 茯苓皮5

五皮飲の五加皮ごかひ(別名:五加参ごかじん):ウコギ科南五加皮の根皮:辛温:肝・腎経:袪風湿・補肝腎・強筋骨・通絡:強壮鎮痛作用・風湿によるリウマチに使用。

五皮飲の大腹皮:シュロ科ビンロウジュの成熟果皮を乾燥:下気寛中・利水消腫:胃気上逆や腹部膨満を除き消化促進する。

肝気鬱結の疏肝理気薬の烏薬うやく:クスノキ科テンダイウヤクの根:辛温:行気止痛・散寒温腎

肝火上炎につかう竜胆瀉肝湯:疏肝解鬱・瀉火・利湿・補血:竜胆草1.5 柴胡3 黄芩3 山梔子1.5 木通5 車前子3 沢瀉3 当帰5 地黄5 甘草1.5:耳聾・耳鳴・肝経湿熱の陰部のしこり:解毒症体質:青年期や女性や泌尿器疾患

柴胡疏肝散:疏肝解鬱・理気止痛・活血:柴胡6 白芍3 枳穀2 香附子3 川芎3 炙甘草2:ストレスの腰痛・脇痛・腹痛・月経痛:帯状疱疹後の胸脇痛。

肝気横逆(肝胃横逆)では、肝気犯胃に和胃法で:左金丸(胃痛薬):清肝瀉火・和胃降逆:左金丸(黄連6 呉茱萸1)など。

肝脾不和には調和肝脾で:逍遥散・痛瀉要方など

肝脾不和に逍遙散:肝気鬱結・血虚・脾虚・湿邪:衝任不調:柴胡3 白芍3 当帰2 白朮3 茯苓3 生姜3 炙甘草2 薄荷1:肝気鬱結の月経病には衝任不調が関係するので逍遥散は必須:寒湿はとれないので冷え症にはむかないが、ストレスによる冷えには効果がある。

逍遥散の白朮+白芍の組合せはお腹の痛みを止める薬で過敏性大腸炎に使える(逍遥散は肝脾不和の下利に適応)。

寒湿下痢の当帰芍薬散はもともと冷えと湿気とストレスをとる薬で、寒湿と肝鬱の症状を同時に取る薬なので、寒湿下痢に使う。

当帰芍薬散の白朮+白芍の組合せはお腹の痛みを止める薬であるので、当帰芍薬散は過敏性大腸炎に使える

肝脾不和に痛瀉要方(白朮芍薬散):景岳全書:防風3 白朮3 白芍4 陳皮2:腹鳴・腹痛して下痢・五更泄瀉ごこうせっしゃ(鶏鳴下痢けいめいげり:朝ニワトリが鳴く頃の下利)に適応。過敏性大腸炎。

梅核気(咽中炙臠)には、降気化痰を行い四七湯(半夏厚朴湯)。

梅核気に半夏厚朴湯:理気化痰:半夏6 生姜4 厚朴3 紫蘇葉2 茯苓5

癭瘤に抑肝散加陳皮半夏を用いるが、理気消癭で海藻玉壺湯なども適応する。

癭瘤の抑肝散加陳皮半夏:湿気の多い日本では抑肝散に陳皮半夏を加える:釣藤鈎3 柴胡2 川芎3 当帰3 白朮3 茯苓4 甘草1.5 半夏3 陳皮3:平肝熄風・補血活血・燥湿化痰・理気:癭瘤・チック病

物音やつまらないことで驚きやすく、汗が出て、神経が過敏になる場合もあり、その際のチック病は桂枝加龍骨牡蠣湯の適応である(肝風によるチック病は抑肝散加陳皮半夏)

抑肝散加陳皮半夏:イライラをともなうことが適応の条件。ストレスでむくんだり、めまいや動悸・軽い癲癇が起こる時につかう

癭瘤の海藻玉壺湯:医宗金鑑・化痰軟堅・消散癭瘤:海藻・昆布・製半夏・陳皮・青皮・連翹・貝母・当帰・川芎・独活・甘草各3・海帯1.5

昆布・海帯:コンブ科マコンブ・クロメの葉状体:鹹寒:肝胃腎経:軟堅散結・化痰清熱:甲状腺腫を軟堅散結:泥状便には用いない。

貝母:アミガサユリの鱗茎:苦・寒:開泄肺気・清熱散結:鎮咳薬に配合

なお、疏肝理気の処方は、香燥の性質をもつものが多いので陰血を消耗しやすいため、虚弱者には白芍・当帰・熟地黄・枸杞子などの養血柔肝の薬物を配合する必要がある。

養血柔肝の薬物:白芍・当帰・熟地黄・枸杞子

逍遙散の当帰・芍薬(白芍)には養血柔肝作用があり、逍遙散は、肝血を補いながら、柴胡によって肝気の通調を促している。

芍薬しゃくやく・・白芍は斂陰緩急、赤芍せきしゃくは清熱袪瘀・活血袪瘀作用がある。

肝火上炎

肝火上炎は、肝胆鬱熱の実証である:竜胆瀉肝湯

肝気鬱結から気鬱化火したり、情緒が激烈に変動したり、湿熱の邪が内欝して発生することが多い。

肝火上炎(竜胆瀉肝湯)では、気火が頭面部に上炎して、顔面紅潮・目の充血・頭痛・口乾・突発性の耳鳴りや難聴など明らかな熱証を呈し、口苦や苦い酸水の嘔吐・便が硬い・便秘・脈弦滑・舌質紅・舌苔黄で粗造などが現れる。

肝火上炎の精神情緒面では、怒りっぽく・イライラなどがみられる。

肝火上炎で蔵血機能が失調すると、喀血・吐血・鼻出血や月経過多などが生ずる。怒りや悲しみのあまり喀血・吐血・衄血するなどという現象がみられる。月経過多では熱のために鮮紅色の大量出血である。

肝火上炎の特徴は、炎は上部に燃え上がる性質があるので頭面部の熱証症状となるが、陰血不足などの下虚の症状(腰酸・脚無力)は無いことがある。一方、肝陽上亢は「上盛下虚」であり、肝火上炎とは異り下虚の症状がある。

肝陽上亢の特徴は、上面部の陽亢の症候と陰血不足の症状が同時にみられ、精神的に興奮しやすく、易怒、めまい、頭脹、頭痛、面紅、のぼせ、目花、目赤、耳鳴、不眠、動悸・腰酸・脚無力舌質偏紅

陰血:血液のこと。血液は陰に属するため。また、陰血は温病学中の歯齦出血の診断熟語で、温熱病はもっとも腎陰胃液を消耗しやすく陰血は少陰の血をさし、陽血は陽明の血を指す。

肝火上炎の 治療(竜胆瀉肝湯):清肝瀉火:竜胆草・山梔子・黄芩・夏枯草かごそう(ウツボグサ)・桑葉・菊花・青ソウ子・決明子(ハブ草・エビスグサ):竜胆瀉肝湯加減。喀血・吐血には沈香じんこう・代赭石たいしゃせきなど降気薬を加える。

肝火上炎につかう竜胆瀉肝湯:疏肝解鬱・瀉火・利湿・補血:竜胆草1.5 柴胡3 黄芩3 山梔子1.5 木通5 車前子3 沢瀉3 当帰5 地黄5 甘草1.5

降気薬:檳榔子びんろうじ(大腹子)・沈香じんこう・代赭石など

檳榔子びんろうじ・大腹子だいふくし・尖檳せんびん:シュロ科ビンロウジュの成熟種子:辛苦温:胃・大腸経:殺虫・消積・利気・健胃・行気導滞・利気逐水:刺身の蛔虫の臍腹痛アニサキスに

五皮飲の大腹皮シュロ科ビンロウジュの成熟果皮を乾燥:下気寛中・利水消腫:胃気上逆や腹部膨満を除き消化促進

喀血・吐血に降気薬の沈香じんこう・ぢんこう:ジンチョウゲ科白木香(沈香)の黒褐色の樹脂を含む木材を乾燥加工したもの:辛苦微温:脾胃腎経:降気和中・抗瘧平喘・温腎補陽・散寒:気虚下陥・陰虚火旺には禁忌

喀血・吐血に降気薬の代赭石:胃気虚・胃気上逆の症状:嘔吐・吃逆しゃっくり・おくび・上腹部膨満感に適す:旋覆花代赭石湯・旋覆代赭湯:傷寒論:降逆化痰・益気和胃:旋覆花2 代赭石3 法半夏5 生姜4 炙甘草2 大棗3:痰飲による胃気上逆の症状:上腹部のつかえと苦悶感。痰湿による肺気逆。

吃逆きつぎゃく:しゃっくり からえずき・呃逆あくぎゃく(音がある)

肝火内結で便秘には通下法を配合する。更衣丸など。

更衣丸:朱砂5シュシャ 真蘆薈7ロカイ(良酒を滴下して丸剤とする9:瀉火通便:大寒大苦:胃腸が燥結して便秘し、心煩して易怒で、睡眠不安を治す。朱砂は日本では配合禁止。

朱砂しゅしゃ・辰砂しんしゃ:甘微寒:心経:安神・定驚・解毒:鎮静・抗菌作用:水銀中毒を避けるため煎剤にせず加熱しない。

蘆薈ろかい:ユリ科アロエ(キダチアロエ)の液汁を濃縮・乾燥:苦寒:肝胃大腸経:清熱涼肝・瀉下・殺虫:大黄のように通便後に便秘をきたさないので慢性便秘に用いる:月経期・妊娠に禁忌:更衣丸

清肝瀉火の竜胆草:竜胆・胆草:リンドウ科トウリンドウの根茎と根:苦寒:清熱燥湿・瀉火定驚:肝胆実火・健胃・難聴・耳鳴り・排尿痛。

清肝瀉火の山梔子:クチナシの実:清熱瀉火・涼血解毒・利湿熱:三焦の熱を冷まし乾かす。黄疸に山梔子3+茵蔯蒿4+大黄1(茵蔯蒿湯)。

清肝瀉火の黄芩:苦寒:清熱燥湿・瀉火解毒・安胎:柴胡+黄芩で肝胆湿熱とイライラをとる。

清肝瀉火の夏枯草かごそう:シソ科ウツボグサの花序と果穂:苦辛寒:肝胆経:清肝熱・散結:利尿作用・眼痛に夏枯草散

眼痛に夏枯草散:張氏医通:夏枯草5 当帰4 白芍3 炙甘草湯1 玄参3・眼痛

清肝瀉火の桑葉そうよう::クワ科クワの成葉:肺熱を冷やし潤して乾咳を止咳:宣肺・疏散風熱・清肝明目:解熱・袪痰:桑菊飲そうぎくいんは秋の燥邪によるカゼを潤し冷やし治す。

清肝瀉火の菊花:疏散風熱・清熱明目・清熱解毒・平肝陽

清肝瀉火の青ソウ子:ヒユ科ノゲイトウの成熟種子:苦微寒:肝経:清肝火・明目退翳・袪風熱

清肝瀉火の決明子(別名:草決明)「:マメ科エビスグサの成熟種子:甘苦鹹微寒:肝・胆経:清肝明目・袪風熱・通便:明目・民間薬のハブ茶として便秘や降圧薬として服用。

清肝瀉火で肝火上炎につかう竜胆瀉肝湯:疏肝解鬱・瀉火・利湿・補血:竜胆草1.5 柴胡3 黄芩3 山梔子1.5 木通5 車前子3 沢瀉3 当帰5 地黄5 甘草1.5:耳鳴り・難聴・肝火上炎

肝陽上亢

肝陽上亢(天麻鈎藤飲・杞菊地黄丸)は肝の陰陽失調による病変で、肝腎陰虚(杞菊地黄丸)のために肝陽を制約できずに陽気の昇動大過になったものである。

肝陽上亢は肝火上炎(竜胆瀉肝湯)・肝気鬱結(柴胡疏肝湯・半夏厚朴湯・逍遥散)と病理的に関係があり、三者は影響しあっている。

肝陽上亢(杞菊地黄丸・天麻鈎藤飲・加味逍遙散)は肝陰の不足で肝陽を制約できずに昇動大過になったもの。

肝陰:肝陰血と肝の陰液をさす。肝陰と肝陽は平衡をたもっているが、肝気の過多、肝陽の偏亢が有ると肝陰は損傷し、肝陽上亢を引き起こす。

肝火上炎(竜胆瀉肝湯・加味逍遙散)は肝気鬱結(柴胡疏肝湯・半夏厚朴湯・逍遥散)が化火して上逆したもの。

肝気鬱結は、肝の疏泄の失調で、進行すると肝陰を消耗して肝陽上亢(杞菊地黄丸・加味逍遙散)となったり、気鬱化火して肝火上炎(竜胆瀉肝湯・加味逍遙散)に変化する。

肝陽上亢(杞菊地黄丸・加味逍遙散)の特徴は、上面部の陽亢の症候と陰血不足の症状が同時にみられ、精神的に興奮しやすく、易怒、めまい、頭脹、頭痛、面紅、のぼせ、目花、目赤、耳鳴、不眠、動悸・腰酸・脚無力舌質偏紅・脈弦・脈弦細

ただし、臨床では、・・

陽亢が主で、陰虚は明かでない場合(加味逍遙散・抑肝散加陳皮半夏)、

陰虚の症候が主で、上盛の症状も従としてみられる場合(杞菊地黄丸)、

陰血不足と陽亢がともに、明らかな場合など、様々であり区別すべきである。

肝陽上亢の治療原則(杞菊地黄丸・加味逍遙散):滋陰・平肝・潜陽である。

平肝薬:釣藤鈎・天麻・白蒺蔾・石決明・羚羊角などは肝熱を冷ます(抑肝散加陳皮半夏)。

滋陰薬:生地黄しょうじおう・枸杞子・女貞子・亀板・鼈甲・天門冬・麦門冬などは、肝陰を潤し栄養する(杞菊地黄丸)。

潜陽薬:牡蠣・石決明・真珠母しんじゅも・竜歯などは、重鎮安神薬で興奮を静める作用(柴胡加竜骨牡蠣湯)。

平肝薬の釣藤鈎・鈎藤・鈎鈎・双鈎藤:アカネ科カギカズラの鈎棘のある茎枝:平肝止痙・鎮静・てんかん発作の抑制:抑肝散加陳皮半夏・肝気上逆の釣藤散:平肝潜陽・明目・補気健脾・化痰:脾胃気虚・痰湿の肝陽化風に:釣藤鈎5 菊花5 防風5 石膏10(先煮)人参2 麦門冬5 茯苓5 半夏5 陳皮5 甘草2 生姜2

平肝薬の天麻:肝経:袪風鎮痙・通絡止痛:抗痙攣・鎮静:めまい・頭痛の主薬(脾虚の痰濁上擾に半夏白朮天麻湯):天麻は厥陰の風を治す。ラン科オニノヤガラの塊茎

平肝薬の蒺蔾子しつりし・白蒺蔾・刺蒺蔾:ハマビシ科ハマビシの果実:辛苦微温:肝経:疏肝熄風・行瘀袪滞・解鬱・明目・止痒:降圧・鎮静・眼科の常用薬

平肝薬・潜陽薬の石決明せっけつめい:平肝潜陽・清熱明目:アワビ科の貝殻を乾燥したもの:炭酸カルシウム等:肝陽上亢・骨蒸潮熱に適用。

平肝薬の羚羊角れいようかく:ウシ科「サイガ」羚羊の角:鹹寒:肝経:清熱解毒・平肝熄風・解熱・鎮静・抗痙攣作用:羚角鈎藤湯・冷羊鈎藤湯

冷羊鈎藤湯(別名:羚角鈎藤湯):通俗傷寒論:涼肝熄風:肝経熱性・熱極生風:羚羊角41.5(先煎) 桑葉2 川貝母4 鮮地黄5 鈎藤3(後下) 菊花3 茯神木3 生白芍3 生甘草1 竹筎5

滋陰薬の枸杞子:クコの実:滋補肝腎・生精血・明目:杞菊地黄丸:滋補肝腎・清肝火・明目の栄養剤。

滋陰薬の女貞子:モクセイ科トウネズミモチの成熟果実:苦平:肝腎経:補腎滋陰・養肝明目:眼科で頻用・網膜炎方・二至丸

二至丸:医方集解:補腎養肝:肝腎陰虚:女貞子・旱蓮草各等分

肝腎陰虚:腰や膝がだるく無力・遺精・頭のふらつき・目のかすみ・不眠・多夢・早期の 白髪・舌質紅絳・舌苔少・脈細数:杞菊地黄丸・二至丸

滋陰薬の亀板:ツチガメ科クサガメの腹部や背部甲羅:滋陰潜陽・強筋骨・涼血補血・止血

滋陰薬の鼈甲:スッポン科シナスッポンの背部甲羅:滋陰・清熱・破血・軟堅・散結

滋陰薬の天門冬:ユリ科クサスギカズラの塊状根:甘・苦・大寒:補陰・滋陰潤燥・清熱化痰・肺陰虚の虚熱の咳嗽を潤し冷やす:腎陰虚によって生じた肺燥には天門冬・玄参が適している。

潜陽薬の龍骨・牡蠣には、肝陽の上亢をおさえ、肝風をしずめる作用がある。柴胡加竜骨牡蛎湯は、肝気鬱結を解消し、肝胆の熱をさまし、肝陽の上亢・肝風内動をおさえ、神気を鎮め脾胃に対する考慮(人参・大棗・生姜・桂枝)もあり、使いやすい方剤となっている。

柴胡加竜骨牡蠣湯:柴胡5 黄芩3 半夏4 生姜3 人参3 茯苓3 大棗3 桂枝3 竜骨3 牡蠣3 大黄1:肝陽上亢・肝風内動・のぼせ・めまい・肝気鬱結:体が重だるい、不安感、動悸

潜陽薬の真珠母しんじゅも:真珠貝または蛤類の貝殻を砕いたもの:甘鹹寒:安神定驚・清熱解毒・収斂生肌:精神安定・鎮痙は真珠より弱いが頭暈・耳鳴りなど肝火にはより強い作用。真珠母入りの美容クリームが収斂生肌?で販売されている。

潜陽薬の竜歯:渋涼:鎮静安神・固精・平肝潜陽

陽亢が主なら、平肝を主に滋陰・益腎を補助として天麻鈎藤飲・杞菊地黄丸など。

天麻鈎藤飲:平肝熄風・柔筋活絡じゅうきんかつらく:天麻 釣藤鈎 石決明 山梔子 黄芩 杜仲 牛膝 益母草 桑寄生 夜交藤 茯神:内傷によって生じた内風や脳卒中の薬。製品は無い。

柔じゅう:ニュウ(慣用)・ジュウ(漢音)

天麻鈎藤飲の牛膝ごしつ:ヒユ科イノコズチモドキの根:活血袪瘀止痛・活血通経・舒筋利痹・補益肝腎・強筋骨・薬を下行させる引経薬:牛車腎気丸

天麻鈎藤飲の益母草やくもそう:辛微苦微寒:活血通経・行血袪瘀:母を益すので婦人病に

天麻鈎藤飲の養心安神薬の夜交藤:何首烏かしゅう(ツルドクダミの蔓茎):安神・養血活絡:天麻鈎藤飲

一般の補血薬の何首烏かしゅう:タデ科ツルドクダミの塊状根:苦甘渋温:肝腎経:滋陰・強壮・益精補血・緩下・養血熄風。養心安神薬の夜交藤:(何首烏ツルドクダミの蔓茎):安神・養血活絡

陰虚が主なら、滋腎養肝を主に清肝を補助として杞菊地黄丸・二至丸(肝腎陰虚の処方)

肝腎陰虚の杞菊地黄丸:枸杞子+菊花+六味丸:眼のかすみ・めまい・肝腎陰虚の症状:二至丸:医方集解:女貞子・旱蓮草各等分:

陰虚と陽亢がともに明らかなら肝風内動の前兆であるので、育陰潜陽法の大定風珠・羚羊角湯などを用い、他の虫類の熄風薬も配合するとよい。

涼肝熄風薬:羚羊・鈎藤・桑葉・菊花

虫類の熄風薬:地竜・蜈蚣ごしょう・全蝎ぜんかつ・白僵蚕・玳瑁たいまい

熄風薬の蜈蚣ごこう・ごしょう:オオムカデ科:辛温有毒:肝経:熄風鎮痙・解毒・抗痙攣:破傷風や小児の熱性痙攣に蜈蚣散・顔面神経麻痺・皮膚潰瘍・蛇や虫の咬傷に外用

熄風薬の全蝎ぜんかつ・全虫・蝎尾かつび:キョクトウサソリ科のキョクトウサソリの全身:辛平小毒:肝経:熄風鎮痙・袪風止痛・解毒散結:破傷風・熱性痙攣・半身不随・顔面神経麻痺

熄風薬の白僵蚕:白僵菌ムスカルジンに自然感染して死んだ蚕カイコ:袪風熱・熄風鎮痙・化痰散結:解熱・抗痙攣・袪痰

熄風薬の玳瑁たいまい:ウミガメ科の玳瑁の甲羅:甘寒:心肝経:涼血清熱解毒作用:熱性痙攣による失神・水痘・麻疹に外用

育陰潜陽法の大定風珠:陰虚生風に滋陰熄風する:生地黄8 白芍8 麦門冬8 牡蛎4 鼈甲シナスッポン4 亀板クサガメ8 炙甘草4 阿膠3 五味子2 麻子仁2 鶏子黄1個

大定風珠や清燥救肺湯の阿膠:甘平:補血・止血・滋陰・潤燥:ロバの皮のニカワ:芎帰膠艾湯(川芎 当帰 阿膠 艾葉 芍薬 地黄 甘草)は止血作用がある。

大定風珠の五味子:斂肺滋腎・生津斂汗・渋精止瀉:咳・鼻水・汗などを止める薬:小青竜湯・苓甘姜味辛夏仁湯

小青竜湯:適用には無汗が重要。悪寒・発熱が同時に発し、背中がゾクゾクして寒がり、顔がぼーっとのぼせ、サラサラした痰や鼻水が多く、かつ小便不利または浮腫:辛温解表・温肺化痰・平喘止咳・利水:麻黄 桂枝 乾姜 白芍 甘草 五味子 細辛各3 半夏6:寒飲があり外寒を感受し無汗の時

苓甘姜味辛夏仁湯:温肺化痰・平喘止咳・利水:咳嗽・多痰・鼻水:茯苓4 製半夏4 杏仁4 五味子3 細辛2 乾姜2 炙甘草2:疏風外寒作用が無い。

補陰薬(養陰薬):肺陰・胃陰・肝陰・腎陰を補養し、特に肺胃陰虚・肝腎陰虚に適している。

肺陰虚(肺陰不足):乾咳・嗄声・口渇・咽乾・皮膚乾燥・泡沫状や膿性の喀痰は気管支炎・上気道炎などでみられ、生津潤肺で清熱滋潤の沙参・麦門冬・玉竹アマドコロ・百合で対処する:温燥の 治法:清燥潤肺:桑葉・杏仁・沙参・麦門冬・玉竹・天花粉・石膏・阿膠:桑杏湯・清燥救肺湯・沙参麦冬湯

肺陰虚の悪化は肺痿で、潮熱・盗汗・慢性の咳嗽・喀痰・喀血・脈細数(肺結核など)養陰補気で滋潤性の沙参・麦門冬・玉竹アマドコロ・百合以外に補気薬:人参・党参・黄耆・炙甘草が必要となる。

肺痿に炙甘草湯:肺痿涎唾多く、心中温温液液する者を治す。

肺陰虚を補うには麦門冬湯・八仙丸(六味丸+五味子・麦門冬)・生脈散(人参・五味子・麦門冬)・養陰清肺湯などを用い、同時に脾虚を補うことが必要

養陰清肺湯:滋陰清肺・涼血解毒:肺陰虚・ジフテリア・外邪による急性咽頭扁桃炎・慢性気管支炎・慢性咽喉炎:生地黄4 麦門冬4 玄参5 川貝母3 牡丹皮2 赤芍2 薄荷1(後下) 生甘草1

肝陰虚:原因は肝血虚から肝陰虚となり、視力減退・頭暈・耳鳴・爪割れ・舌質淡・脈数など肝疾患でよくみられ、女貞子・旱蓮草:二至丸(肝腎陰虚)・杞菊地黄丸(肝腎陰虚)などの補陰薬に補血薬を配合して用いる。

肝陽上亢(陰虚陽亢:杞菊地黄丸):めまい・耳鳴・口渇・咽燥・睡眠不安・舌紅・脈細数(高血圧症など)、育陰潜陽(養陰潜陽)の亀板クサガメ・鼈甲シナスッポンなどを用いる。

胃陰虚(熱病傷津:麦門冬湯):胃の津液不足で食欲不振・胸焼け・乾嘔・煩渇・口や舌の乾燥・便秘に、甘寒滋潤で胃陰を滋潤し熱をさます、石斛せっこく・麦門冬・沙参などを使用する。

麦門冬湯:滋陰益気・補益肺胃(胃陰虚に適応)・降気:麦門冬10 人参2 製半夏5 炙甘草2 粳米こうべい5 大棗3:口乾の吃逆に一服で効く:消渇病で多食善飢だが体重減少がある陰虚

腎陰虚:慢性病に現れる虚弱症状:頭暈・耳鳴・腰膝酸軟無力・手掌の熱感・午後の微熱・尿が濃い・舌紅少津・脈細無力で腎陰が肝陰を滋養できなくなると肝陰虚となり、肝腎陰虚(杞菊地黄丸)になる。

肝腎陰虚の薬:女貞子・旱蓮草・亀板・鼈甲・桑寄生・胡麻は肝陰と腎陰を同時に補益する:杞菊地黄丸・二至丸

肝風内動

肝風は内風であり、肝腎の陰液が極度に損傷したために、肝の陽気が肝腎の陰液による濡養じゅようと制約を受けられなくなって発症する。肝陽が化風して生じる(肝陽化風して肝風内動となる)。

肝風内動は、肝陽上亢(杞菊地黄丸)・肝火上炎(竜胆瀉肝湯)・肝の陰血不足が極期に至ると発症する。痰湿の肝陽化風(釣藤散)

肝気上逆の釣藤散:平肝潜陽・明目・補気健脾・化痰:脾胃気虚・痰湿の肝陽化風に:釣藤鈎5 菊花5 防風5 石膏10(先煮)人参2 麦門冬5 茯苓5 半夏5 陳皮5 甘草2 生姜2

肝陰虚:血が肝を養わないために生ずる。眩暈・頭痛・目花・目の乾燥・夜盲・月経停止・月経減少・よく肝陽上亢・肝風内動となる高血圧症・耳聾・耳鳴・のぼせ・四肢麻木震顫・煩躁・不眠

肝風内動の症状:強いめまい・絞痛の頭痛・頚項部強直・四肢麻木・筋惕肉瞤・眼瞼や顔面の痙攣・口唇や舌や手指の震え・言葉のつかえ・歩行障害・手足の痙攣・意識障害・脈弦・舌苔乾燥・舌紅:柴胡加竜骨牡蠣湯・抑肝散加陳皮半夏・釣藤散

麻木まぼく:しびれの症状

心肝火旺の症状:頭痛・目の充血・イライラ・怒りっぽく・不眠・多夢・易驚・動悸・のぼせ・落ち着かない・胸脇脹満・筋惕肉瞤:柴胡加竜骨牡蠣湯

当帰芍薬散:筋肉痙攣(筋惕肉瞤きんてきにくじゅん:ピクピクと筋肉が痙攣するのは痰飲の症状)

肝風内動の治療:平肝熄風で標治し、育陰潜陽で本治する。

肝風内動の平肝熄風薬:天麻・釣藤鈎・羚羊角・地竜・全蝎・白僵蚕:羚羊角湯・大定風珠・抑肝散加陳皮半夏・釣藤散

育陰潜陽法の大定風珠:陰虚生風に滋陰熄風する:生地黄8 白芍8 麦門冬8 牡蛎4 鼈甲シナスッポン4 亀板クサガメ8 炙甘草4 阿膠3 五味子2 麻子仁2 鶏子黄1個

肝風内動の育陰潜陽薬:地竜・白芍・阿膠・亀板・鼈甲・牡蠣

なお、虫類薬の熄風作用:地竜・蜈蚣・全蝎・白僵蚕・玳瑁たいまいなどは化瘀通絡作用があるので、中風後遺症や脳血管障害の通絡熄風として用いる。

地竜:ルムブリクス科蚯蚓きゅういん・ミミズ:鹹寒:胃・脾・肝・腎経:清熱・解熱・鎮驚・定喘・活絡・気管支拡張:経絡を疏通する作用があるので神経痛に疎経活血湯に加える:補陽還五湯の配合薬

肝風内動の処方:育陰潜陽の大定風珠・抑肝散加陳皮半夏・平肝熄風の羚羊角湯などの加減。

抑肝散加陳皮半夏:平肝熄風・疏肝健脾・燥湿化痰:柴胡2 釣藤3 川芎3 当帰3 白朮4 茯苓4 甘草1.5 陳皮3 半夏3

風は、外邪によって生じ解表薬で発散する外風と熄風鎮痙薬をもちいて対処する内風に分かれる。内風は臓腑の病変によって生ずる。

内風には、肝風内動(抑肝散加陳皮半夏・釣藤散)・熱極生風(冷羊鈎藤湯・天麻鈎藤飲)・血虚生風などがあり、肝腎陰虚(杞菊地黄丸)や肝陽上亢(杞菊地黄丸)で肝風内動が生じ、高熱による熱極生風や血虚による血虚生風が生ずる。

熱極生風:平肝熄風・止顫:冷羊鈎藤湯・天麻鈎藤飲

冷羊鈎藤湯(別名:羚角鈎藤湯):通俗傷寒論:涼肝熄風:肝経熱性・熱極生風:羚羊角41.5(先煎) 桑葉2 川貝母4 鮮地黄5 鈎藤3(後下) 菊花3 茯神木3 生白芍3 生甘草1 竹筎5

肝風内動(大定風珠・抑肝散加陳皮半夏・柴胡加竜骨牡蠣湯・釣藤散)は、肝腎陰虚(杞菊地黄丸)や肝陽上亢(杞菊地黄丸)で生じ、頭痛・頭暈・眩暈感・目花・耳鳴・胸が暑苦しく・嘔気・動悸・筋惕肉瞤・手や舌がふるえ:滋養肝腎・平肝熄風の釣藤鈎・天麻・白蒺蔾(蒺蔾子)・石決明を用いる:抑肝散加陳皮半夏・天麻鈎藤飲・柴胡加竜骨牡蠣湯・釣藤散

抑肝散加陳皮半夏:平肝熄風・疏肝健脾・燥湿化痰:柴胡2 釣藤3 川芎3 当帰3 白朮4 茯苓4 甘草1.5 陳皮3 半夏3

肝気上逆の釣藤散:平肝潜陽・明目・補気健脾・化痰:脾胃気虚・痰湿の肝陽化風に:釣藤鈎5 菊花5 防風5 石膏10(先煮)人参2 麦門冬5 茯苓5 半夏5 陳皮5 甘草2 生姜2

天麻鈎藤飲:平肝熄風・柔筋活絡:天麻 釣藤鈎 石決明 山梔子 黄芩 杜仲 牛膝 益母草 桑寄生 夜交藤 茯神:内傷によって生じた内風や脳卒中の薬:製品は無い。

肝風内動が更に酷くなり、手足の振戦・四肢筋痙攣・意識障害・顔面麻痺・半身不随・言語障害には、鎮痙熄風の全蝎・蜈蚣・地竜・白僵蚕など抗痙攣・通絡化痰などの作用の虫類薬の熄風薬を使う。

熱極生風は高熱や感染による痙攣・後弓反張などを生ずるポリオや日本脳炎・肺炎の熱盛期や小児の高熱など生じる:清熱熄風で羚羊角・白僵蚕・玳瑁・六神丸・宇津救命丸など解熱・抗痙攣作用薬を用いる:羚角鈎藤湯・別名:冷羊鈎藤湯

冷羊鈎藤湯(別名:羚角鈎藤湯):通俗傷寒論:涼肝熄風:肝経熱性・熱極生風:羚羊角41.5(先煎) 桑葉2 川貝母4 鮮地黄5 鈎藤3(後下) 菊花3 茯神木3 生白芍3 生甘草1 竹筎5

血虚生風けっきょしょうふうは、頭暈・目花・耳鳴・四肢麻木・四肢の筋惕肉瞤・目眩で倒れる:貧血・神経衰弱・心因性反応・自律神経失調症・病後の衰弱など、血虚がひどくなり、肝血不足で内風が生じたもの。

血虚生風の治療には血虚薬に熄風薬の白蒺蔾・天麻・石決明を加える:血虚生風は失血・貧血あるいは肝血不足によって内に生じる風証。袪風内動:眩暈・震顫しんせん・手足の緩慢な抽搐で、血虚で生じるものを血虚生風しょうふうという。

てんかんにも養血熄風法は効果があり、補血薬と熄風薬を配合して用いる。

肝風内動が更に酷くなり、手足の振戦・四肢筋痙攣・意識障害・顔面麻痺・半身不随・言語障害には鎮痙熄風の全蝎サソリ・蜈蚣オオムカデ・地竜・白僵蚕など抗痙攣・通絡化痰などの作用の虫類薬の熄風薬を使う。

全蝎ぜんかつ・全虫・蝎尾かつび:キョクトウサソリ科のキョクトウサソリの全身:辛平小毒:肝経:熄風鎮痙・袪風止痛・解毒散結:破傷風・熱性痙攣・癲癇・半身不随・顔面神経麻痺

地竜のエキス剤は各社に製品がある。松浦薬業・JPS製薬など。

地竜:ルムブリクス科蚯蚓きゅういん:ミミズ:鹹寒:胃・脾・肝・腎経:清熱・解熱・鎮驚・定喘・活絡・気管支拡張:経絡を疏通する作用があるので神経痛に疎経活血湯に加える

蜈蚣ごこう・ごしょう:オオムカデ科:辛温有毒:熄風鎮痙・解毒・抗痙攣

白僵蚕:白僵菌ムスカルジンに自然感染して死んだ蚕カイコ:袪風熱・熄風鎮痙・化痰散結:解熱・抗痙攣・袪痰

肝血虚

肝血虚の発症原因は二つある。一つは慢性疾患により陰血が消耗して生じ、もう一つは肝の「蔵血」機能の衰退によって出血が繰り返されて血虚となることである。喀血・鼻出血・月経過多・尿血・便血など。

肝血虚の症状:めまい・不眠・多夢・目花・視力低下(目糊)・筋肉の障害・痛みひきつれ(筋脈不利)・爪甲不栄・月経量少・無月経(経閉)・不正性器出血(崩漏)の出現。

肝血虚は、全身的な血虚症状と「血不養筋」「血不栄目」「衝任失調」などがみられるのが特徴である。

衝任失調(逍遥散)の眩暈では頭痛し、頚項は板の様になり、逍遙上逆で時に冷え、時に熱し、発汗し、面紅昇火となり月経は失調する:二仙湯

衝任失調の処方の逍遙散:肝気鬱結・血虚・脾虚・湿邪:衝任不調:柴胡3 白芍3 当帰2 白朮3 茯苓3 生姜3 炙甘草2 薄荷1:月経病には衝任不調が関係するので逍遥散は必須

衝任失調の処方の二仙湯加減:衝任失調:仙霊脾3 仙茅3 巴戟天3 当帰3 知母3 黄柏3 牛膝4 石決明10(先煎) 益母草5 炙甘草2

肝血虚が進展して腎精不足となると、肝腎の精血不足が生じ、肝血虚の症状とともに腰重・遺精・不妊・無月経・るい痩・潮熱などの腎虚の症状がみられる。

腎精不足:眩暈・健忘・腰膝酸軟・遺精・耳鳴、陰虚に偏する者は手足心熱、心煩不眠。

陰虚が主なら、滋腎養肝を主に清肝を補助として杞菊地黄丸

肝血虚では、肝血と腎精は相互資生の関係があるので、肝血虚では肝腎同治することが多く、肝血虚の治療原則は補血養肝:熟地黄・白芍・当帰・枸杞子・山茱萸・女貞子・旱蓮草・桑椹・何首烏・阿膠・亀板・鼈甲など補肝腎に作用するものを用いる。

補肝腎に作用する枸杞子:クコの実:滋補肝腎・生精血・明目:杞菊地黄丸:滋補肝腎・清肝火・明目:杞菊地黄丸

補肝腎に作用する山茱萸:山萸肉さんゆにく:萸肉:ミズキ科サンシュユの乾燥果実で核を去る:補益肝腎・渋精・斂汗:六味丸・八味丸に用いる:杞菊地黄丸

補肝腎に作用する滋陰・補陰の女貞子:トウネズミモチの成熟果実:モクセイ科トウネズミモチの成熟果実:苦平:肝腎経:補腎滋陰・養肝明目:中心性網膜炎に網膜炎方:(肝腎陰虚:二至丸:証治準縄)

網膜炎方:女貞子3 枸杞子4 熟地黄5 茯苓5 沢瀉3 牡丹皮2 山茱萸3 山薬4(六味丸+女貞子+枸杞子または杞菊地黄丸+女貞子でもよ:中心性網膜炎・老人性白内障の初期・視力減退・目がかすむなど肝腎陰虚の症状があるときに。

補肝腎に作用する桑椹そうじん・桑椹子:クワ科マグワの成熟果実:甘微酸温:養血袪風・補益肝腎・利尿・鎮咳・肝腎平補

補肝腎に作用する一般の補血薬の何首烏かしゅう:タデ科ツルドクダミの塊状根:苦甘渋温:肝腎経:滋陰・強壮・益精補血・緩下・養血熄風

肝血虚の方剤:一般的には四物湯加減。「血不養筋・血不養絡」にようる手足のしびれ・ひきつり・運動障害には鶏血藤・紅花・桑寄生・続断・牛膝などの養血通絡薬を加える。

養血通絡薬:鶏血藤・紅花・桑寄生・続断・牛膝

鶏血藤:マメ科昆明鶏血藤の茎:苦・微甘・酸渋・温:肝・腎経:補血行血・舒筋活絡:風湿による痺痛・手足の萎縮やしびれ・麻痺・眩暈

「血不栄目」による視力減退・めまいなどに杞菊地黄丸を用いる。

肝血虚による「衝任失調」には黒逍遥散の加減を用いる。

黒逍遥散:逍遙散加生地黄4または熟地黄4を加える:疏肝解鬱・補血健脾・調経:熱証が見られる時は生地黄を使い、それ以外では熟地黄を使う

肝腎の精血不足(肝腎両虚)には、補腎精・養肝血の左帰丸加減をもちいる:滋補肝腎、潜陽安神:熟地黄4~5 淮山薬4 山萸肉3~4 枸杞子3 亀板膠4~5(煎薬に溶かして服用)

まとめ

一般的な肝気鬱結症状:抑鬱感・胸脇部が脹って痛む胸脇苦満・脈弦:疏肝理気:柴胡疏肝湯:医学統旨:柴胡6 芍薬3 香附子3 川芎3 枳実2 甘草2 青皮2じょうひ

肝気鬱結+肝気犯胃:抑鬱感・胸脇苦満・脈弦+上腹部痛・噯気・呑酸(逆流性食道炎)・悪心・嘔吐:疏肝和胃降逆:左金丸(黄連6 呉茱萸1)・柴胡桂枝湯

柴胡桂枝湯証では酸っぱい水が上がってきたり、胸焼けがする。逆流性食道炎は胃虚とストレス(肝気鬱結)の症状である。

胃失和降:原因は錯雑している:虚寒・鬱熱・陰虚・痰濁・食積という原因の錯雑で、食後の腹満・嘔気・嘔吐・胃痛・胸焼け・逆流性食道炎・食欲不振。

肝気鬱結+肝脾不和:抑鬱感・胸脇苦満・脈弦+腹痛・下利が緊張に伴って激しくなる:調和肝脾:痛瀉要方(防風3 白朮3 白芍4 陳皮2)・四逆散・逍遥散・柴胡桂枝湯・当帰芍薬散

肝気鬱結+肝脾不和の四逆散:疏肝解鬱・理気止痛・透熱:柴胡5 芍薬4 枳実2 甘草1.5:四逆湯とはまったく異なる処方

肝気鬱結+梅核気:抑鬱感・胸脇苦満・脈弦+喉の梗塞感・咽中炙臠:降気化痰:半夏厚朴湯(理気化痰:半夏6 厚朴3 茯苓5 生姜4 紫蘇葉2)・加味逍遙散(肝鬱化火・脾虚湿性・血虚:柴胡 芍薬 薄荷 当帰 牡丹皮 山梔子 茯苓 白朮 生姜 甘草)

肝気鬱結+癭瘤:抑鬱感・胸脇苦満・脈弦+喉部両側の軟腫瘤が嚥下運動で上下する:理気化痰・消癭:海藻玉壺湯・抑肝散加陳皮半夏

肝気鬱結+衝任不調:抑鬱感・胸脇苦満・脈弦+月経不順・乳房脹痛・乳房の腫塊:調理衝任:逍遥散・柴胡桂枝湯

肝火上炎:イライラ・易怒・頭痛・めまい・面紅・目赤・口乾・脈弦・舌質紅:清肝瀉火:竜胆瀉肝湯(竜胆草 柴胡 黄芩 山梔子 木通 車前子 沢瀉 当帰 地黄 甘草)・軽い症状には加味逍遙散(肝鬱化火・脾虚湿性・血虚:柴胡 芍薬 薄荷 当帰 牡丹皮 山梔子 茯苓 白朮 生姜 甘草)「

肝陽上亢:イライラ・易怒・頭痛・めまい・面紅・目赤・口乾・脈弦・舌質紅+不眠・動悸・腰重・下肢無力感・脈細数・陰虚症状:滋陰平肝:加味逍遙散・(杞菊地黄丸:肝腎陰虚:滋補肝腎・清肝火・明目:枸杞子・菊花・沢瀉・茯苓・牡丹皮・地黄・山茱萸・山薬)・(天麻鈎藤飲:平肝熄風・柔筋活絡:天麻 釣藤鈎 石決明 山梔子 黄芩 杜仲 牛膝 益母草 桑寄生 夜交藤 茯神)・柴胡加竜骨牡蠣湯(肝陽上亢・肝風内動:柴胡5 黄芩3 半夏4 生姜3 人参3 茯苓3 大棗3 桂枝3 竜骨3 牡蠣3 大黄1:・のぼせ・めまい・肝気鬱結・体が重だるい、不安感、動悸)

肝風内動:頚項部の強直・眼瞼や口唇や舌手指のふるえ・言葉がつかえる・四肢麻木・手足の痙攣・意識障害など:平肝熄風・育陰潜陽:羚羊角湯・大定風珠(陰虚生風に滋陰熄風:生地黄8 白芍8 麦門冬8 牡蛎4 鼈甲シナスッポン4 亀板クサガメ8 炙甘草4 阿膠3 五味子2 麻子仁2 鶏子黄1個)・柴胡加竜骨牡蠣湯(肝陽上亢・肝風内動:のぼせ・めまい・肝気鬱結・体が重だるく疲れ易い、胸満、不安感、動悸)・抑肝散加陳皮半夏(平肝熄風・疏肝健脾・燥湿化痰:柴胡2 釣藤3 川芎3 当帰3 白朮4 茯苓4 甘草1.5 陳皮3 半夏3)

肝血虚:めまい・目花・月経量少・無月経・不眠・多夢・四肢麻木・筋肉の運動障害:養肝血・滋腎陰:補肝湯・四物湯・杞菊地黄丸・黒逍遥散:逍遙散加生地黄4または熟地黄4を加える。

血虚の頭痛に補肝湯:医宗金鑑:養血:当帰 白芍 川芎 熟地黄(四物湯)+酸棗仁 木瓜 麦門冬 甘草。

酸棗仁さんそうにん:クロウメモドキ科サネブトナツメの成熟種子の乾燥:養肝・寧心・安神・斂汗。

木瓜もっか:ボケの成熟果実・カリンも用いる:酸温:舒筋活絡・和胃化湿:湿邪による筋疾患に適応。