半夏白朮天麻湯

半夏白朮天麻湯

はんげびゃくじゅつてんまとう

(医学心悟:清代の程国彭 著)

「医学心悟」と「脾胃論」の半夏白朮天麻湯は組成が異なる。

組成

半夏白朮天麻湯(医学心悟):製半夏4 陳皮3 茯苓5 甘草1 白朮4 天麻3 生姜一片 大棗二枚

(半夏:和胃止嘔・燥湿袪痰そうしつきょたん・散結消腫)

(陳皮:柑桔かんきつの果皮:辛苦温:理気健脾・燥湿化痰)

(茯苓:甘平:利水滲湿・健脾和中・寧心安神ねいしんあんじん)

(甘草:健脾益気・緩急止痛・諸薬調和)

(白朮びゃくじゅつ:甘微苦温:補脾益気・燥湿利水)

(天麻:熄風鎮痙そくふうちんけい・通絡止痛:鎮静・抗痙攣)

(熄ソク:きえる・うずみび・やむ・おわる・きえてなくなる)

用法

生姜一片、大棗二枚、水煎して服用する。

(生姜は半夏のイガイガする毒性を緩和し、大棗は陰を補う)

主治

風痰上逆、眩暈げんうん:めまい、頭痛、頭昏し頭が覆われるような頭重、胸悶し嘔悪おうお し痰多く、舌苔白じ(苔が厚い)、脈弦滑

分析

半夏白朮天麻湯の適応は、風痰が上逆じょうぎゃく して、眩暈ずうん あるいは頭痛する症状である。

風痰特徴:手の振戦にしびれや脹った感じをともなう、肥満・時に朝に顔面がむくみ・指先麻木まぼく・四肢が脹る・鼻腔や咽頭不快でむくみ息苦しい・胸脇脹満痛・乾嘔かんおう・悪心おしん・口粘こうねん・易怒いど。

風痰の病は必ず風痰薬の白附子びゃくぶし・天麻てんま・雄黄ゆうおう・牛黄ごおう・片芩へんごん(黄芩おうごん)・白僵蚕びゃっきょうさん・猪牙皁角チョガソウカクの類を用いる。

風痰薬の白附子・禹白附うびゃくぶ・関白附かんびゃくぶ:サトイモ科禹白附の塊茎かいけい、キンポウゲ科の独角蓮どっかくれん・関白附・花烏頭はなとりかぶと:キバナトリカブトの塊根かいこん:辛甘温:胃経:袪風痰きょふうたん・燥寒湿そうかんしつ。

脳卒中の顔面神経麻痺に牽正散けんせいさん:上焦じょうしょうの寒湿を除く・風痰頭痛に適応。

脳卒中の後遺症に大柴胡湯を使う。肝胆の火が上攻した頭痛、耳鳴り、耳聾、眼目の雲翳・赤眼疼痛、発狂、脳卒中、動悸、及び胆胃不和(胆気犯胃)による嘔吐不止、心下急痛、胸脇痞硬痛などの証で、もし口苦、舌紅、舌苔黄、脈弦数なら大柴胡湯。

風痰薬の雄黄ゆうおう・鶏冠石けいかんせき:硫化砒素ひその鉱石・As2S2二硫化砒素:止痛解毒:神経性皮膚炎・皮膚化膿症・掻痒そうよう・蛇の咬傷こうしょう:硫化砒素は熱すると猛毒の酸化砒素As2O3になるので焼いてはいけない。

風痰薬の牽正散:白附子・白僵蚕びゃっきょうさん・全蝎ぜんかつ(サソリ):中風・寒性の風痰の口眼喎斜こうがんかしゃに用いるが、

気虚血瘀あるいは肝風内動による口角歪斜こうかくわいしゃ、あるいは半身不遂の証候には半夏白朮天麻湯は適応しない。

中風の後遺症のしびれや口眼喎斜に、胃腸が丈夫な人には続命湯ぞくめいとうや天麻鈎藤飲てんまこうとういん や牽正散けんせいさん だが、胃腸が弱い人はすべて半夏白朮天麻湯を使う。

続命湯:辛温解表しんおんげひょう・清熱除煩じょはん・止咳平喘・利水・補気血・活血:麻黄2 桂枝2 杏仁2きょうにん 石膏10 炙甘草1 人参2 当帰2 川芎1 乾姜1:慢性化した関節炎で周囲の筋肉の萎縮・中風後遺症

麻杏薏甘湯:麻黄4 杏仁3 薏苡仁10 炙甘草2:風湿の表証で浮腫に使用:膝関節痛に麻杏薏甘湯合防已黄耆湯。

麻杏薏甘湯:立ち上がる時や座った時に痛む場合に適用する。

風痰薬の牛黄ごおう・西黄せいおう・犀黄さいおう:ウシ科ウシの胆石:苦涼小毒:心・肝経:開竅化痰かいきょうかたん・清熱解毒・清心・定驚・解熱・鎮痙・強心・造血:慢性肝炎に牛黄清心丸・田七合加味逍遥散・田七合大柴胡湯。

牛黄清心丸ごおうせいしんがん:痘疹世医新法とうしんせいしんぽう:清熱解毒・安神開竅あんじんかいきょう:牛黄30ごおう 鬱金30うこん 犀角30さいかく 黄芩30 黄連30 山梔子30 牛砂30 竜脳7.5りゅうのう 麝香7.5じゃこう 真珠15 蜜丸みつがん(1丸3g):高熱・転々反側てんてんはんそく・意識障害

脾は水湿の運化を主どり、脾虚では湿を運化できずに湿が集まり痰となる。痰濁たんだく(痰飲)は上に攻めてのぼり清陽を蒙閉もうへい するので眩暈げんうん や頭痛・意識障害・癲癇てんかん がおきる。

眩暈の、眩とは目の前が暗くなる状態で、眩暈の暈とは体や頭が揺れ動くことである。

痰飲による胃気上逆の症状:上腹部のつかえ(半夏瀉心湯・大柴胡湯)と苦悶感や疼痛・噯気あいき・吃逆きつぎゃく(呃逆あくぎゃく:しゃっくり)・よだれが多い・悪心・水様物の嘔吐。

眩暈や頭痛の原因は頗すこぶ る多いが半夏白朮天麻湯の証には蒙閉もうへい がみられ、胸悶嘔悪きょうもんおうお や舌苔白じぜったいはくじ などの湿痰の症状があるので、風痰の病理に属することがわかる。

治法

健脾除湿(胃腸を健やかにして湿邪をのぞく)

化痰熄風法かたんそくふうとう(痰飲を消除し内風をおさめる)

(熄ソク:きえる・うずみび・やむ・おわる・きえてなくなる)

方義

風痰を患わずら う、病根は総じて脾虚による。

治療は補脾燥湿して、その本を治し(本治ほんじ・ほんち)

化痰熄風してその標を治す(標治ひょうち)というように

標本を同時に治療すれば(標本同治ひょうほんどうち)病はことごとく愈ゆ。

(半夏白朮天麻湯(脾胃論):コタロー製薬の製品。ツムラは神麹しんきく が入っていない。

:製半夏3 陳皮3 茯苓3  乾姜1 天麻2てんま 白朮3 人参2 黄耆2 沢瀉2 蒼朮3そうじゅつ 神麹しんきく2 麦芽2ばくが 黄柏1 大棗 甘草)

(半夏白朮天麻湯(脾胃論:コタロー製薬の製品。)

:半夏3 陳皮3 茯苓3 乾姜0.5 天麻2 白朮3 人参1.5 黄耆1.5 沢瀉1.5 蒼朮3 神麹2 炒麦芽2 黄柏1 生姜0,5:「経験・漢方処方分量集」)赤字の生薬は医学心悟には無い生薬。

(半夏白朮天麻湯(医学心悟):製半夏4 陳皮3 茯苓5 甘草1 生姜一片 白朮4 天麻3 大棗二枚)

ツムラの半夏白朮天麻湯

半夏3 陳皮3 茯苓3  乾姜1 天麻2 白朮3 人参1.5 黄耆1.5 沢瀉1.5 麦芽2 黄柏1 生姜0.5

医学心悟には:蒼朮3と神麹2しんきく・・は無い。 

コタロー半夏白朮天麻湯

半夏3 陳皮3 茯苓3 乾姜1 天麻2 白朮3 人参1.5 黄耆1.5 沢瀉1.5 麦芽3 黄柏1 生姜0.5 蒼朮3 神麹2(消化剤)   

(麦芽ばくが:オオムギの発芽した種子:甘平:疏肝醒胃・消食除満・和中下気:消化剤)

(神麹しんきく・神曲:消食行気・健脾止瀉・解表:消化剤)

(蒼朮そうじゅつ:苦辛温:燥湿健脾・袪風湿・風湿の筋肉痛の主薬:鎮痛剤)

(黄耆おうぎ:補気升陽・固表止汗・利水消腫・托毒排膿たくどくはいのう:気虚に)

(人参・御種人参おたねにんじん:大補元気・安神益智・健脾益気・生津しょうしん)

(沢瀉たくしゃ:サジオモダカの塊茎:甘・寒:利水・滲湿・清熱)

(黄柏・黄檗おうばく:キハダのこと:清熱燥湿・瀉火解毒・清虚熱:ベルベリン)

(養肝熄風の天麻てんま(熄風鎮痙・通絡止痛:鎮静・抗痙攣)を加えると、

風痰眩暈と頭痛等の証に対して頗る効果がある)勿誤薬室方函口訣ふつごやくしつほうかんくけつ・ぶっこやくしつほうかんくけつ

半夏白朮天麻湯は二陳湯(燥湿化痰:半夏5、陳皮4、茯苓5、甘草1、乾姜1)をその基礎として胃腸を調えて湿を去り、

白朮(甘微苦温:補脾益気・燥湿利水)を配合して、胃腸を補い湿を除けば胃腸は健運となり湿痰は去り、運化は回復して肝は養いを得る。

さらに養肝熄風の天麻(熄風鎮痙・通絡止痛:鎮静・抗痙攣)を加えると、風痰眩暈と頭痛等の証に対して頗すこぶ る効果がある。勿誤薬室方函口訣ふつごやくしつほうかんくけつ(ぶっこやくしつほうかんくけつ)

半夏白朮天麻湯(試効)李東垣りとうえんの門人の羅天益が編纂した

『東垣試効方:1266年』

『脾胃論ひいろん』や『内外傷弁惑論ないがいしょうべんわくろん』

:補中益気湯の創方で名高い李東垣は、金元四大家の一人。きんげんよんだいたいか

方函ほうかん

脾胃虚弱、痰厥頭痛たんけつずつう を治す。

(痰厥たんけつ:厥症の一つ・痰盛気閉しておきる四肢厥冷ししけつれい で、重い場合は昏厥こんけつ をきたす。六君子湯・金水六君煎きんすいりっくんせん などを用いる)

昏厥こんけつ:突然倒れて、人事不省じんじふせい となり、手足が冷えているものをいう。

(痰厥頭痛たんけつずつう:痰濁たんだく の上逆により裂けるような頭痛・眩暈・身重・精神不安・言語錯乱・胸悶悪心おしん・煩乱気促はんらんきそく・痰涎タンセン・清水せいすい の泛吐はんと・四肢厥冷ししけつれい・脈弦滑を呈す。化痰和中の法で半夏白朮天麻湯・芎辛導痰湯きゅうしんどうたんとう などを用いる)

天麻 黄耆 人参 半夏 白朮 神麹しんきく 蒼朮 橘皮きっぴ 沢瀉 茯苓 麦芽 乾姜 黄檗おうばく(黄柏おうばく) 生姜  上十四味

半夏白朮天麻湯の口訣

半夏白朮天麻湯は痰厥頭痛が目的なり。

その人 脾胃虚弱 濁陰上逆して 常に頭痛を苦しむ者 此の方の主なり。

もし天陰風雨毎に頭痛を発し、或は一月に二三度あて大頭痛嘔吐を発し、絶食する者は半硫丸はんりゅうがん(半夏・硫黄:下剤作用)を兼用すべし。

すべて半夏白朮天麻湯は、食後胸中熱悶ねつもん、手足倦怠、頭痛睡眠せんと欲する者に効あり。(昼食後の嗜眠に適用:六君子湯・補中益気湯も適用)

また半夏白朮天麻湯は老人虚人の眩暈に用ふ。但し足冷を目的とするなり。

また濁飲上逆の症(頭痛)、嘔気甚しき者は、呉茱萸湯ごしゅゆとう に宜よろ し。

(呉茱萸湯:散寒止嘔・温胃止痛・健脾益気:呉茱萸3 人参2 生姜4 大棗4)

呉茱萸ごしゅゆ:ミカン科呉茱萸の成熟果実:辛・苦:大熱・小毒:温中散寒・散寒止痛(胃痛・頭痛)・下気止痛・止嘔:寒が中焦に凝集に適応。

もし 疝せん を帯お ぶる者は、当帰四逆に呉茱萸・生姜を半夏白朮天麻湯に加ふるに宜よろ し。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯合半夏白朮天麻湯

(疝せん:諸疝 皆 肝に属す;病 少腹に在り、腹痛して大小便を得ず、病名を疝と曰う)

疝痛:瘀血や肝の昂ぶり(ストレス)や肝経の冷え(寒滞肝脈)で疝が生じ腹痛して排便できず、腹痛に苦しむ;当帰四逆加呉茱萸生姜湯合半夏白朮天麻湯

少腹:臍から下の両脇腹・足の付け根に近い部分から脇腹までをさす:下腹部の両側は足の厥陰肝経が通る:ここの脈打つ痛みには桂枝茯苓丸を使う。下腹の中央は小腹。

(当帰四逆加呉茱萸生姜湯:温経散寒おんけいさんかん・養血通脈ようけつつうみゃく:腹痛・嘔吐の強いもの(呉茱萸・生姜):当帰3、桂枝3、白芍3、甘草2、木通3もくつう、大棗1、呉茱萸2、生姜4)

呉茱萸ごしゅゆ:ミカン科呉茱萸の成熟果実:辛・苦:大熱・小毒:温中散寒・散寒止痛(胃痛・頭痛)・下気止痛・止嘔:寒が中焦に凝集に適応。

新訂 方剤学ほうざいがく (原著:南京中医学院編「方剤学講義」)監修:宮脇浩志 燎原りょうげん書店 

去痰剤

治風化痰ちふうかたん 半夏白朮天麻湯 318頁

(医学心悟:清代の程国彭 著)

処方

半夏1.5 天麻 茯苓 橘紅各1 白朮3セン 甘草5分

用法

生姜一片 大棗たいそう 2個を加えて水煎服する。

効能

脾を補い 湿を燥かわか し 痰を化し 風を鎮める作用がある。

主治

痰飲たんいん の上逆により 眩暈、頭痛する者を主治する。

処方解説

半夏白朮天麻湯は、二陳湯加白朮、天麻よりなっている。

(二陳湯にちんとう:半夏 陳皮 茯苓 甘草 生姜 烏梅うばい)

(白朮びゃくじゅつ:補脾益気・燥湿利水:風湿による関節痛リウマチ)

(天麻てんま:熄風鎮痙そくふうちんけい・通絡止痛:鎮静・癲癇てんかん などの抗痙攣)

半夏白朮天麻湯中の半夏、茯苓、橘紅きっこう、甘草はよく痰証の頭眩心悸ずげんしんき するのを治し、白朮を加えて脾を運化させて化湿かしつ し、

天麻は内風ないふう を平熄へいそく することができ、

風痰による眩暈、頭痛等の証に大変良く効く。

脾胃論ひいろん:李東垣りとうえん)に、「足の太陰たいいんの痰厥の頭痛は半夏にあらざれば療りょう することあたわず。

痰厥たんけつ:厥症の一つ・痰盛気閉しておきる四肢厥冷ししけつれい で、重い場合は昏厥こんけつ(人事不省じんじふせい) をきたす。抽薪飲・六君子湯・金水六君煎などを用いる。

金水六君煎きんすいりっくんせん:景岳全書:滋陰補血・除湿化痰:当帰2 熟地黄2~5 陳皮1.5 半夏2 茯苓2 炙甘草1を生姜と水煎服用

:肺腎両虚で痰濁内盛し咳嗽多痰の証に用いる。(製品は無い:二陳湯+四物湯半量)

眼黒がんこく、頭旋ずせん(頭暈)は虚風 内に成すによる。天麻にあらざれば除くことあたわず。

(医学心悟)の眩暈門に「湿痰の壅遏ヨウアツする者有り、書に云う頭旋眼花は天麻半夏にあらざれば除くことあたわずとは是也」

(壅ヨウ:塞がって通じないこと)

(遏アツ:絶つ・さえぎる・とどめる・とめる)

(眼花ガンカ:目のかすみ。目がチラチラすること)

半夏と天麻の二薬は、袪痰熄風きょたんそくふう するによく、故に歴代れきだい の医家が眩暈、頭痛の要薬として常用していたことを知ることが出来る。

もし頭痛の甚だしい者には蔓荊子まんけいし を加え、

(蔓荊子:疏散風熱・清頭目:鎮静・鎮痛作用:頭痛・風湿による肢体のしびれ・だるさ・運動障害に:眼薬に配合)

気虚の者には人参、黄耆を加える。

(人参:大補元気・安神益智・健脾益気・生津)

(黄耆:補気升陽・固表止汗・利水消腫・托毒排膿:補気の要薬)

参考:てんかんによく使われる生薬:胆南星;竹筎・菖蒲

(胆南星たんなんしょう:燥湿化痰・熄風:痰を除き内風をしずめる:豚の胆汁で天南星を修治したもの)

(菖蒲しょうぶ:芳香開竅・逐痰袪濁:滌痰し清竅を開く:1.5g以下)

(清熱の竹筎ちくじょ・胆南星は、痰滞化熱に適応)

(陳皮:燥湿化痰・理気)

(熄風滌痰そくふうじょうたん・開竅かいきょうの竹筎ちくじょ・胆南星たんなんしょう・菖蒲しょうふ)

(開竅剤かいきょうざい:麝香じゃこう・竜脳りゅうのう・安息香あんそくこう・蘇合香そごうこう・菖蒲しょうぶ・牛黄ごおう)

開竅かいきょう:開閉ともいう。口・鼻・咽喉・眼目などの竅あな を開通すること。邪が心竅しんきょう を阻はば み 

精神昏迷こんめい などを治療する方法。涼開と温開がある。清熱開竅法・化痰開竅法・逐痰開竅法など。

六神丸:アセンヤク・麝香ジャコウ・センソ・牛黄ゴオウ(牛の胆石)・竜脳リュウノウ・人参・熊胆ユウタン(熊の胆嚢)(以上七味)

竜脳:辛・苦・微寒:芳香開竅ほうこうかいきょう・散熱止痛:中枢神経興奮作用:熱性疾患の意識障害・痙攣発作、筋肉痙攣・脳卒中の牙関緊急がかんきんきゅう や意識障害:竜脳・氷片ひょうへん(冰片:竜脳・氷片・・同じ物)

竜脳りゅうのう:熱帯アジアのフタバガキ科の常緑高木、竜脳樹の幹や枝を細かく刻み、水蒸気蒸留して昇華冷却で得られる結晶。ボルネオ樟脳しょうのう、ボルネオールと呼ばれ爽やかな香りと清涼な味がある。

中医臨床のための方剤学 537頁

半夏白朮天麻湯(医学心悟)

組成

製半夏4.5 天麻3 茯苓3 陳皮3 白朮9 炙甘草1.5 生姜3 大棗3

用法 水煎服

効能

化痰熄風かたんそくふう

健脾袪湿けんぴきょしつ

主治 風痰上擾ふうたんじょうじょう

:めまい・頭痛・悪心・嘔吐・胸苦しい・舌苔白じ・脈弦滑

(擾ジョウ:みだれる・にごる・わずらわしい・さわがしい)

半夏白朮天麻湯の病機びょうき(病理)

脾虚生湿ひきょしょうしつ により

湿聚成痰しつじゅせいたん すると同時に

脾虚不運で肝陰の滋養が不足し、

肝気を抑制できなくなって肝風内動が生じ、

肝風とともに痰湿が上擾じょうじょう する状態である。

風痰が清竅せいきょう を上擾じょうじょう するので、めまい・頭痛が生じ、

濁陰だくいん が上逆し、胃気が和降できないために悪心・嘔吐をともない、(脾気は昇るを順とし、胃気は降るを正とする)

痰湿が気機を阻滞するので胸苦しい。

気機きき:気の運動形態で、主に、臓腑や経絡の昇降出入をさす。

舌苔が白じは痰湿をあらわし(白じ:苔が白く厚い)

脈弦は肝風をあらわし

脈滑は痰を、

それぞれあらわしている。

脾虚不運ひきょふうん があるために、

平素から食欲不振・腹満・泥状便でいじょうべん・悪心おしん などをともなうことが多い。

半夏白朮天麻湯の方意

化痰熄風かたんそくふう を主にして健脾袪湿けんぴきょしつ を配合する。

半夏白朮天麻湯は、燥湿化痰そうしつかたん・降逆止嘔こうぎゃくしおう の半夏と、熄風止暈そくふうしうん の天麻が主薬で、

風痰の眩暈頭痛の要薬であり、

(脾胃論)に「足の太陰たいいん の厥陰頭痛けっちんずつうは、半夏にあらざれば療することあたわず、

眼黒頭旋がんこくずせん、風虚内作ふうきょないさく は、天麻てんま にあらざれば除くことあたわず」とあるとおりである。

健脾袪湿の白朮・茯苓は脾運をつよめて生痰の源を断つ、

理気化痰の陳皮および 調和脾胃の大棗・生姜・甘草は補助的に働く。

参考

半夏白朮天麻湯は、風痰による眩暈・頭痛に対する常用方である。

風痰特徴:手の振戦しんせん(ふるえ) に しびれや脹った感じをともなう、肥満・時に朝に顔面がむくみ・指先麻木・四肢が脹る・鼻腔内や咽頭がむくみ不快で息苦しい・胸脇脹満痛・乾嘔かんおう・悪心・口粘こうねん・易怒いど。

(医学心悟いがくしんご)には、

「眩ゲン は、眼黒(目の前が真っ暗になる)を謂い、暈ウンは頭旋ズセンなり、古称の頭旋眼花ズセンガンカこれなり、その中に肝火内動のものあり、経ケイ(黄帝内経コウテイダイケイ)に云う、「諸風掉眩しょふうとうげん は、みな肝木カンボクに属す」これなり、逍遙散これを主る。

逍遙散:肝気鬱結・血虚・脾虚・湿邪:痰飲はのぞかない:胃の脹痛や乳痛や頭脹痛に:柴胡3 白芍3 当帰3 白朮3 茯苓3 生姜3 炙甘草1.5 薄荷1。

五行色体表ごきょうしきたいひょう では、肝は木に配当されている。

五臓・五行(肝は木・心は火・脾は土・肺は金・腎は水)

湿痰壅遏ヨウアツのものあり、書に云う、「頭旋眼花は、天麻・半夏にあらざれば除かず」これなり、半夏白朮天麻湯これを主る。

(壅ヨウ:塞がって通じないこと)

(遏アツ:絶つ・さえぎる・とどめる・とめる)

(壅遏ヨウアツ:絶つ・さえぎる・とどめる・とめる)

気虚挟痰きょうたん のものあり、書に云う、「清陽せいよう 昇らざれば、濁陰だくいん 降りず」すなわち上重く下軽きなり、六君子湯これを主る。

また腎水不足し、虚火上炎のものあり、六味湯(六味丸:滋補肝腎・清虚熱・利湿:地黄 山茱萸 山薬 沢瀉 茯苓 牡丹皮)

また命門火衰めいもんかすい し、真陽上氾しんようじょうはん するものあり、八味湯(八味丸)。

これ眩暈を治するの大法なり、とある。

命門めいもん:先天の気が蔵されている場所で、人体の生化の源。命門は諸神精の舎やど る所、元気の繋がる所。男子は以て精を蔵し、女子はもって胞を繋つな ぐ。両腎は、左は腎と為し、右は命門と為す。命門には二つの説があり命門は右腎を指すとする。

眩暈がつよい場合には熄風化痰の白僵蚕びゃっきょうさん・胆南星を加える。

気虚を兼ねるときは、補気の人参・黄耆を加える。

(熄風化痰の白僵蚕びゃっきょうさん:白僵菌ムスカルジンに自然感染して死んだ蚕カイコ:袪風熱・熄風鎮痙・化痰散結:解熱・抗痙攣・袪痰きょたん)

(熄風化痰の胆南星たんなんしょう:燥湿化痰・熄風:痰を除き内風をしずめる)

(補気の人参:大補元気・安神益智あんじんやくち・健脾益気けんぴえっき・生津しょうしん)生津:津液を生ずる。

(補気の黄耆:補気升陽ほきしょうよう・固表止汗・利水消腫・托毒排膿たくどくはいのう)

(医学心悟・頭痛)には、もう一種の半夏白朮天麻湯があり、

白朮を三銭から一銭に減じ、蔓荊子まんけいし一銭を加えている。

痰厥たんけつ の頭痛に適している。

頭痛眼病に蔓荊子まんけいし:疏散風熱・清頭目:鎮静・鎮痛作用:頭痛・風湿による肢体のしびれ・だるさ・運動障害に:よく眼薬に配合:洗肝明目湯エキス細粒G 2g、90包入、滋腎明目湯

洗肝明目湯:当帰1.2 芍薬1.2 川芎1.2 地黄1.2 黄芩1.2 山梔子1.2 連翹1.2 防風1.2 決明子1.2 黄連0.8 荊芥0.8 薄荷0.8 羗活0.8 蔓荊子0.8 菊花0.8 桔梗0.8 蒺蔾子0.8 甘草0.8 石膏2.4。

滋腎明目湯:当帰3 芍薬3 川芎3 熟地黄3 生地黄3 桔梗1.2 人参1.2 山梔子1.2 黄連1.2 白芷1.2 蔓荊子1.2 菊花1.2 甘草1.2 細茶1.2 灯心草1.2。 

(痰厥たんけつ:厥症の一つ・痰盛気閉しておきる四肢厥冷けつれい で、重い場合は昏厥こんけつ をきたす。抽薪飲ちゅうしんいん・六君子湯・金水六君煎などを用いる)

薪シン:たきぎ.

抽チュウ:ぬく、ひく、のぞく、おさめる

抽薪:たきぎを抜く・たきぎを除く   

昏厥こんけつ:突然倒れて、人事不省じんじふせい となり、手足が冷えているものをいう。

中医臨床のための方剤学 

半夏白朮天麻湯(脾胃論:李東垣りとうえん:金元四大家の一人)

組成

陳皮 半夏 麦芽 各4.5 白朮 神麹しんきく各3 黄耆 人参 茯苓 蒼朮 天麻 沢瀉各1.5 乾姜0.6 黄柏おうばく0.6 水煎服。

効能:風痰上擾ふうたんじょうじょう

脾胃論の半夏白朮天麻湯は、(医学心悟)の半夏白朮天麻湯に脾胃論の半夏白朮天麻湯は、

補気袪湿の 黄耆・人参・蒼朮・沢瀉と

消導しょうどう(消化剤) の神麹・麦芽、さらに

温補脾陽おんぽひよう の乾姜と

清熱化湿(冷やし乾かす)の黄柏を加えたもので、

医学心悟では脾気虚・生湿に対する配慮がつよめられている。風痰上擾じょうじょう で脾気虚が顕著なときに適している。

肺気虚(脾気虚とかさなる)の蓄膿ちくのう には、胃腸の悪い時は原則は六君子湯だが、この場合は効かないので蓄膿の時は半夏白朮天麻湯を使う。

子供の蓄膿のほとんどが六君子湯や半夏白朮天麻湯である。

中学生や高校生で鼻がつまって勉強できない人は、ほとんどが六君子湯や半夏白朮天麻湯である。

半夏白朮天麻湯(脾胃論):化痰熄風かたんそくふう・補気健脾・利水消食しょうしょく:脾虚の痰濁上擾:製半夏3 天麻2 白朮3 人参2 黄耆2 茯苓3 沢瀉2 蒼朮3 陳皮3 神麹2 麦芽2 黄柏1 乾姜1:陰天時頭痛の特効薬。

六君子湯:補気健脾・理気化痰::人参4 白朮4 茯苓4 甘草1 乾姜0.5 大棗2 半夏4 陳皮1。