精神異常の漢方

精神異常の病理と解説(改訂)

96:瘀血も精神異常を引き起こす原因となるが、瘀血の薬は、ほとんど肝臓の薬である四物湯をベースにできている。瘀血を治療するにはこの四物湯を加減しないと瘀血がうまくとれない。

四物湯を含まない例外は桂枝茯苓丸・桃核承気湯・失笑散などである。

四物湯:血虚の基本方剤:当帰4 白芍4 川芎4 熟地黄4。

桂枝茯苓丸:金匱要略:活血化瘀・緩消癥瘕:桂枝 茯苓 牡丹皮 桃仁 赤芍各3g:下腹部の腫瘤・少腹痛・腹のひきつり・不正性器出血・月経痛・無月経・胎盤残留・死胎の残留・悪露停滞:お腹の中の塊を取る処方である。

桂枝:発汗解表・温通経脉・通陽化気・通陽利水・上逆を温中降逆。

牡丹皮2~3g:牡丹の根の皮:苦辛微寒:清熱涼血・活血袪瘀・清肝瀉火:清熱袪瘀薬:冷やし活血して瘀血を去る。

桃仁は瘀を破り新を生じ、芒硝、大黄と協力して袪瘀する:活血通経・
袪瘀療傷・破血袪瘀・潤燥滑腸・潤腸通便:桃仁:桃の果実の仁。

芍薬:補血養陰・鎮静鎮痛には白芍を、涼血逐瘀・活血袪瘀には赤芍。

桃核承気湯:傷寒論:破血下瘀:桃仁4 大黄4 桂枝2 炙甘草2 芒硝2 蓄血証で排尿は異常がない。下腹部が硬く脹る・うわごと・夜間の発熱・狂躁状態:熱邪と血が小腸で結した蓄血証。

桃仁は、瘀を破り新を生じ、芒硝、大黄と協力して袪瘀する。

失笑散しっしょうさん:五霊脂・蒲黄各等分を粉末にし1回2gを黄酒か醋で衝服する。各1gを水煎服してもよい。活血袪瘀・散結止痛:瘀血停滞による作痛を治す・月経不順・悪露不行に活血袪瘀で止痛する。痛みが消失して笑みがもれるので失笑という。

96:小便が気持ちよく出ることや涙の出や汗の出が悪い人は肝臓の疏泄作用と関係がある。

96:冷えが原因で汗が出ない人は「寒帯肝脈」といい、それは肝臓の経絡に冷えが入っているからである。これには、霜焼けや疝痛に使う当帰四逆湯や当帰四逆加呉茱萸生姜湯を使うが、このような人は外が暑くても汗をかかない、もともと汗をかきにくい人である。

当帰四逆加呉茱萸生姜湯:温経散寒・養血通脈:腹痛・疝痛・嘔吐強:
当帰3 桂枝3 白芍3 木通3 細辛2 甘草2 大棗5 呉茱萸2、生姜4:頭痛・疝痛・眩暈・食少・温経で頻尿、月経後期、しもやけ、レイノー症状。

木通もくつう(通草つうそうの旧名):九竅や血脈や関節を通利し人をして痛みを忘れる。

細辛さいしんはもっぱら少陰に走り、麻黄、附子を助けて表裏の寒を散じる:麻黄附子細辛湯まぶさいしん:まおうぶしさいしんとう。

呉茱萸ごしゅゆ:辛・苦:大熱・小毒:温中散寒・散寒止痛(胃痛・頭痛)・下気止痛・止嘔:寒が中焦に凝集している状態に適応し、温経湯では、乾姜・桂枝と共に虚寒を癒す。

温経湯うんけいとう:下焦虚寒のため血行不良となり血瘀が発生し、虚寒と血瘀から血虚が生じ、甚だしければ陰虚火旺が生じて上部に熱証・のぼせが現われ、そのため唇の皸裂クンレツ・手掌が乾燥(阿膠で潤す)する病態。

温経湯:温経散寒・補血調経・活血化瘀・益気和胃:虚寒・血瘀・血虚: 半夏4 麦門冬4 呉茱萸1 乾姜1 桂枝2 当帰3 白芍2 川芎2 人参2 甘草2 阿膠2 牡丹皮2:太陽少陰が同時に病む両感証。

阿膠アキョウ・阿膠珠アキョウジュ・陳阿膠チンアキョウ・驢皮膠ロヒキョウ:甘平:肺肝腎経:補血・止血・滋陰・潤燥・滋養・皮膚枯燥・口唇乾燥などの燥証・虚証・血証に有効:1~5gを衝服:温経湯では口唇皸裂クンレツを癒す。

上熱下冷は五積散・温経湯。

疝痛:瘀血や肝の昂ぶり(ストレス)や肝経の冷え(寒滞肝脈)で疝が生じ腹痛して排便できず、腹痛に苦しむ;
当帰四逆加呉茱萸生姜湯合半夏白朮天麻湯・当帰四逆湯。

96:「寒帯肝脈」で肝臓が冷えていると、疏泄の働きが悪くなり、汗がうまく出ないし、涙や唾液や小便もうまく出ない。

96:「肺は気を主り、外は皮毛に合し、表を主る」ので、気は肺と関係があるが、肝臓の疏泄の働きも肺に影響を与えているし、肝臓の疏泄作用は五臓六腑すべてに関係している。

96:肺は呼吸を主っているが、息切れなどは肝臓がコントロールしていて、肝臓が悪くなると息切れがひどくなり、呼吸が乱れてしまう。喘息などはイライラすると肝が昂ぶり疏泄が失調して、肺の働きに影響して、呼吸が乱れる。神経症は、肝の疏泄が重要なポイントになっている。

精神病の原因

97:肝臓の働きは、すべての臓腑に影響するので、たとえば精神異常は心の働きだが、肝の疏泄の働きがなくなると、体内の流れが阻滞され、強いイライラがでてきて神経症や精神異常になり易くなる。つまり精神異常は肝が影響を与えることになる。

97:精神病の原因は、肝の疏泄の障害でイライラして精神的な抑鬱が先行することによる原因がもっとも多い。

97:また、高血圧の人が瘀血を生じて、瘀血によって精神異常が起こる(桃核承気湯)。

桃核承気湯:清熱瀉下・活血逐瘀:桃仁5 桂枝4  大黄3 甘草2 芒硝2(調胃承気湯+桃仁・桂枝):瘀血と熱状・口渇・多食善飢で狂症を現す時や糖尿病に使用:桃仁・桂枝・大黄が駆瘀血薬。

97:怒りや急激な笑いがとまらなくなって精神異常がおこる。宝の山の財宝をみつけたり、莫大な宝くじを射止めて喜びすぎて発狂する。

97:内傷七情による七情:喜・怒・憂・思・悲・驚・恐の異常から精神異常が起こる。

97:思慮過度では、「脾は思を主る」ので、必ず脾に影響し、その結果として心に精神の異常が色々と出てくる。心脾両虚では、帰脾湯を使う。

帰脾湯:気血双補・健脾益気・養心安神:脾不統血(出血傾向)に:白朮3 茯神3 黄耆2 竜眼肉3 酸棗仁3 遠志1.5 人参3 木香1 炙甘草1 当帰2  乾生姜1 大棗1.5:出血傾向・動悸・不安感・不眠・多夢など精神異常:気血両虚(十全大補湯も)に使う。

養心安神の酸棗仁・遠志オンジ・竜眼肉リュウガンニク。

竜眼肉・桂円肉・桂円ケイエン:ムクロジ科リュウガンの果肉:甘温:
心脾経:補心安神・補脾養血:心血虚の 神経衰弱・不眠・健忘・易驚・
動悸・虚証の出血病後の衰弱:3~5g、10~20g:帰脾湯。

酸棗仁さんそうにん:クロウメモドキ科サネブトナツメの成熟種子の乾燥:養肝・寧心・安神・斂汗:帰脾湯・酸棗仁湯。

酸棗仁湯(心血虚・心肝火旺に養心安神・清熱除煩:
酸棗仁5 茯苓5 知母3 川芎3 炙甘草1g):

酸棗仁湯:思慮過度して生ずる心肝火旺による、のぼせ・イライラや不安感・不安による不眠を鎮める。養肝はあるが肝気鬱結を緩和する作用は無いので逍遙散などを合方する方がよい。

97:その他、失血や火傷でも精神異常がでてくる。

失血には、帰脾湯・独参湯(人参6~10g)、参附湯:回陽救逆:人参5 附子4。

血熱妄行の出血傾向には、三黄瀉心湯。

火傷には、桂枝去芍薬加蜀漆竜骨牡蠣救逆湯。

桂枝去芍薬加蜀漆竜骨牡蠣救逆湯(重症の火傷の特効薬で、火劫カゴウによる心陽虧損から生ずる心虚驚狂証に効果がある):
桂枝4 生姜4 大棗4 甘草2 蜀漆4 竜骨5 牡蠣6。

「火劫」とは、焼針しょうしん、温針、薫法、熨法イホウ・うつほう、灸法など火を用いて攻撃する治法で、強引に発汗させる方法である。

劫ゴウは、古字では脅と同義語で、おどすの意味。

熨ウツ・イ:ひのし・おさえ・火のしをあてり:熨斗うつと:昔のアイロン。

蜀漆ショクシツ:ユキノシタ科黄常山ジョウザンアジサイの苗:辛平有毒:催吐作用:化痰抗瘧・清熱利水。

龍骨・牡蠣には、肝陽の上亢をおさえ、肝風をしずめる作用がある:
柴胡加竜骨牡蠣湯・桂枝加龍骨牡蠣湯・桂枝去芍薬加蜀漆竜骨牡蠣救逆湯。

97:紫雲膏の正しい使い方:紫雲膏は患部を温める軟膏であるので、赤くならない軽い火傷に紫雲膏を使うと良く効く。赤くなった火傷や日焼けに使うと、皮が剥け激痛が起こり眠れなくなり、これも精神不安症状である。

98:火傷の漢方:黄連解毒湯や三黄瀉心湯のエキスを少量のアルコールで溶かし、ワセリンと混ぜて塗ると痛みや赤味は簡単にとれる。簡便法は上記のエキスを水で溶かしガーゼに厚く塗り貼り付ける。

ブヨの刺傷は、強力なステロイド軟膏を塗っても一ヶ月でもよくならないが、黄連解毒湯や三黄瀉心湯のエキスを水で溶かしバンドエイドに厚く塗り貼り付けると一晩でよくなるのには驚く。日焼け・火傷や毒虫に刺された時に特効する。

98:感情の異常や緊張で胃腸がおかしくなり、食欲不振や胃もたれ・下利など胃腸の不調の時に使う半夏瀉心湯も精神病に使える。何か落ち着かない胃腸不調による焦躁感によく効く。甘草を増やした甘草瀉心湯も精神病に使う。

半夏瀉心湯は、登校時下利や通勤時腹痛下痢・試験時の下利の予防や下利止めとしては良く効くが、体質改善にはならないので、逍遥散・抑肝散加陳皮半夏などと合方する。半夏瀉心湯合逍遥散・半夏瀉心湯合抑肝散加陳皮半夏。

半夏瀉心湯は、半夏・乾姜で胃気上逆をしずめる、黄連・黄芩で、心火(不安感・落ち着かない)や胃熱や胆熱を冷やす、乾姜(大熱性)で、腸を温める、人参・甘草・大棗は、胃腸や心を補い安定させ、食欲を増す。

98:狐惑病(憑依症)に甘草瀉心湯:半夏瀉心湯に、甘草一味の甘草湯を加えるか、芍薬甘草湯を合方してもよいが、狐などにとりつかれた場合に使うがこれは特殊な場合である。通常は脾胃不和による不眠に使う。

(瀉心湯は、通常は三黄瀉心湯を指す)

98:半夏瀉心湯合甘草湯
98:半夏瀉心湯合芍薬甘草湯

99:鬱病の原因:まず精神的な抑鬱がありイライラして煩躁する(急躁易怒)、その後、心のエネルギー不足になり鬱的になる。主症状は、ため息(太息たいそく)が多く、臭いのないゲップや矢気(放屁)、腸鳴、胃痛・頭痛で、痛みは脹痛で移動し、脹痛はゲップ・放屁・便通で一時的に軽快する。

99:精神抑鬱(肝気鬱結)には、逍遙散を使い、代用処方は当帰芍薬散(当帰+芍薬)や柴胡桂枝湯(柴胡+芍薬)で強いイライラには柴胡桂枝湯だが、逍遙散が基本である。柴胡+芍薬の方がイライラには強い。当帰芍薬散の場合は、それほどイライラしない。

逍遙散:柴胡3+白芍3(肝鬱の基本組成) 当帰2 白朮3 茯苓3 生姜3 炙甘草2 薄荷1(人参・大棗が無いのは肝鬱化火を避けるため)。

柴胡は疏肝作用、白芍は平肝斂陰作用。

柴胡桂枝湯:柴胡5+黄芩1(胆熱を冷ます) 半夏4 生姜1 人参1 大棗2 甘草1.5 桂枝2.5 芍薬1g。

当帰芍薬散:肝血虚・脾虚湿滞:
当帰3+白芍4(ストレスの緩和作用)、白朮4、茯苓4、沢瀉4 川芎3g:
脾虚に使うが、脾虚が強い人は当帰がもたれて胃痛になる。

100:加味逍遙散は、肝気鬱結に使うが、顔が赤く、目赤で、なにかの拍子にパッと顔がのぼせ、手足が火照る人で、手足は冷えない人に使う。強い冷え症に使うと症状が悪化しやすいので、その場合は逍遙散を使う。

100:肝気鬱結で、怒り易く、すぐカーッとなるような人で、
心下痞硬で胃のあたりがすごく脹ってくる人は、大柴胡湯である。

大柴胡湯:肝火上炎・肝気鬱結・胃実熱・心下痞硬に適応する:
柴胡6 黄芩3 白芍3 半夏4 生姜4 大棗3 枳実2 大黄1(上腹部の脹り・苦満)。

100:肝気鬱結で、易怒でカーッとなりやすく、そのうえ体が重だるく、不安感や動悸がある人は柴胡加竜骨牡蠣湯である。

柴胡加竜骨牡蛎湯:癇証にて、時々寒熱が交錯し、鬱鬱悲愁、多夢少寐、あるいは、人に接するを悪み、あるいは暗室に屛居ヘイキョし、殆ど労瘵ろうさいの如き者を治す。

労瘵ろうさい:伝染性の慢性消耗性疾患。肺結核など

柴胡加竜骨牡蠣湯:自律神経失調症・神経症・心臓神経症・パニック障害・発作性頻脈(WPW症候群)・高血圧症・甲状腺機能亢進症・不眠症で心肝火旺で易怒・脾気虚・痰湿を呈するものに適応。

100:痰気鬱結の症状:精神的な抑鬱があり喉によく痰がたまり不安感を伴う。抑鬱・不安感・痰の人で咳払いをよくする。喋る前に咳払いをする。起床時に顔・手に浮腫がある時は半夏厚朴湯を使う。

「漢方診療三十年」大塚敬節:209.分娩直後に起こった上半身の浮腫(半夏厚朴湯)

半夏厚朴湯:痰気鬱結に対し理気化痰する:化痰の半夏が主薬:
半夏6 厚朴3 茯苓5 生姜4 紫蘇葉2:
肝鬱痰飲の薬:竄痛ざんつう の薬。

竄痛ざんつう:痛む場所が移動する:ネズミのように、痛みがこそこそと逃げ隠れするという意味。

100:痰気鬱結の重症:精神不安で、(痰によって)手足が震える、膝がガクガクする、声がでなくなる、物を持っても見えない:重症の人には、半夏厚朴湯を少量から使わないと浮腫がでてしまう。

101:緊張するとどもる人(吃音きつおん):痰気鬱結の処方の抑肝散加陳皮半夏を使うが、半夏厚朴湯では治らない。

抑肝散加陳皮半夏:平肝熄風・疏肝健脾・燥湿化痰:柴胡2 釣藤3 川芎3 当帰3 白朮4 茯苓4 甘草1.5 陳皮3 半夏3。

半夏:急性緑内障の頭痛・眼痛・悪心に眼圧低下作用:抑肝散加陳皮半夏合平胃散。

101:苓桂朮甘湯(袪痰薬):緊張すると顔がのぼせる、目が充血する(古方では緑内障に使う)、緊張すると軽い目まいが生ずる人に使う(痰が原因である):苓桂朮甘湯合半夏厚朴湯も使う。

101:苓桂朮甘湯・苓桂朮甘湯合半夏厚朴湯:どちらも痰をとる薬。体の中から水気を除くので、肌がカサカサしている人には使えないが、神経症で面紅・不安感・痰が出る人には合方処方ガッポウショホウの方がよい。

101:苓桂朮甘湯はもともと心臓の薬で心臓の不安感に使い、半夏厚朴湯は肝臓からでる不安感に使い、病理は異なるが出てくる不安感は同じであるので、両者の使い方の違いが分からなければ合方する。

102:胃中不和とは?:精神不安があり、煩躁して落ち着きがなく、胃もたれ(納呆のうほう)が主症状。その他、悪心・下利しやすい・面紅・腸鳴・食臭のゲップ(噯気)がある時、半夏瀉心湯・甘草瀉心湯を使う。

半夏瀉心湯は、精神不安・食欲不振・食べ過ぎ・二日酔い・下利に効く:半夏瀉心湯の病理の胃熱腸冷状態は不安感を生ずる。

102:胃中不和があって、身体全体が幅広く熱く、小便の出が悪ければ黄連解毒湯を使う。さらに口臭・口渇・便秘の三つの症状が加われば、三黄瀉心湯を使うが、三黄瀉心湯は胃のところに熱が或る時に使う。

黄連解毒湯:黄連1.5・黄芩3・黄柏1.5・山梔子2、構成生薬はすべて消炎・鎮静・燥湿作用(乾かす作用)がある。炎症や出血・脳の興奮性増大、自律神経興奮、代謝亢進状態を治す。

三黄瀉心湯:清熱涼血:大黄3 黄連3 黄芩3:胃熱がある:心の熱が小腸に移った時(導赤散)には、口内炎や舌がしみるように痛みびらんすると同時に、尿が濃く少なく排尿時に灼熱感や疼痛が生じる。

導赤散:心火偏亢・心火を清熱利水・苦寒性が強い:淡竹葉4 生地黄6 甘草梢2:心熱多驚:心熱驚多し:小児が平素より鬱熱のため臓腑が阻害され気血不和となり心神が乱れ、夢を見てうわごとを言い、煩悶して驚き叫ぶ。治療は清熱鎮驚の法で導赤散加減。別に牛黄清心丸を用いる。

牛黄清心丸:痘疹世医新法:清熱解毒・安神開竅:牛黄30 鬱金30 犀角30 黄芩30 黄連30 山梔子30 牛砂30 竜脳7.5 麝香7.5 真珠15 蜜にて丸剤(1丸3g):高熱・転々反側・意識障害。

実熱証の婦人科疾患:月経色は濃いか赤紫色でやや青味。経血量は多くべたつく。月経到来が異常に早く、期間が異常に短い。月経量は多く大量の不正出血も起こる:三黄瀉心湯・黄連解毒湯で四物湯は加えない。

清熱涼血の法:三黄瀉心湯(心火旺・血熱妄行で出血傾向・肝胆湿熱・脾胃湿熱・熱盛)。

心火旺:口内炎(口舌生瘡)・舌が痛みびらん・尿が濃く少なく排尿時に灼熱感や疼痛を伴う・咽喉部のひり痛・煩躁・睡眠不良。

103:心脾両虚による精神不安は:不安感・動悸・不眠が主証。食少や胃もたれなど脾虚があり食後嗜眠や、面色青白い・面色萎黄には帰脾湯だが、心脾両虚は貧血の症状に似て疲れ易く・食少には帰脾湯・十全大補湯が適用。

貧血に、帰脾湯(心脾両虚・精神不安がある気血両虚)・十全大補湯(精神不安が無い気血両虚)。

十全大補湯:気血双補・補腎陽・・袪寒:四君子湯+四物湯+黄耆・桂枝(肉桂):気血両虚の症状:筋の萎縮・四肢の無力・頭暈・目花・倦怠無力感・動悸・息切れ・自汗・盗汗・舌淡・苔少・脈微細。

103:自律神経失調症:動悸・不眠・不安感・食少・疲れ易い・・・には、帰脾湯・逍遥散があればほとんどカバーできる。

逍遙散:肝気鬱結・血虚・脾虚・湿邪:衝任不調:柴胡3 白芍3 当帰2 白朮3 茯苓3 生姜3 炙甘草2 薄荷1:痰飲はとれないので半夏厚朴湯・苓桂朮甘湯・二陳湯などを合方する。

逍遙散合半夏厚朴湯
逍遙散合苓桂朮甘湯
逍遙散合二陳湯
逍遙散合平陳湯

103:心気耗傷(臓躁ぞうそう):感情の異常で、感情の起伏が極端に激しく、興奮しやすく、感情が昂ぶると泣く人、疲労がひどくなると泣いたり、泣き叫ぶ状況になる時は、甘麦大棗湯合逍遥散・甘麦大棗湯合帰脾湯を使う。

臓躁ぞうそう:金匱要略の「婦人、臓躁、しばしば悲傷して哭コクせんと欲し、象カタチ神霊の作す所の如く、しばしば欠伸アクビす。甘草小麦大棗湯之を主る(甘麦大棗湯)」。あくびが特徴的。

甘麦大棗湯:金匱要略:臓躁に対して養心安神・健脾緩中:
炙甘草5 浮小麦30 大棗6:
子供の夜驚症・ヒステリー発作・癲癇発作・更年期障害・自律神経失調症:心血虚で脾虚に適用:作用は弱いので他薬と配合する。

甘麦大棗湯合逍遥散
甘麦大棗湯合帰脾湯

104:瘀血で狂状となる精神異常:不安症状ではなく躁病で、外に発散して騒ぐ。真の発狂には抵当丸を使うが、狂状は、時々何かの引き金で異常なほど発狂し騒ぎ、小便は正常で近い、舌青紫色には桃核承気湯を使う。

抵当丸ていとうがん:傷寒論:破血逐瘀:狂症に使う:
大黄2 虻虫ぼうちゅう0.3(アブ) 水蛭すいてつ0.3(ヒル) 桃仁0.3gの粉末を蜂蜜で丸とし1日1回1gずつ内服。

桃核承気湯:傷寒論:破血下瘀:狂状に使う:
桃仁4 大黄4 桂枝2 炙甘草2 芒硝2g(硫酸ナトリウム)。

桃核承気湯:蓄血証で尿はよく出る。下腹部が硬く脹る・うわごと(産後の瘀血と熱状による狂状)、譫妄せんもう(夜間睡眠中に叫ぶ)・夜間の発熱・狂躁状態:熱邪と血が小腸で結した蓄血証:使う量は少量使うと安定する。

104:月経時の狂状:狂状が繰り返し出る人がいる。普段は心脾両虚の不安感があり月経の前になると異常な狂状が出るが、月経後は不安となり落ち込む躁鬱病の様な状態で、狂状時には桃核承気湯、普段は帰脾湯を使うと安定する。

105:心の瘀血の狂状に血府逐瘀湯:心の瘀血・心臓痛・心筋梗塞の予防・発狂に血府逐瘀湯が使えるが、桃核承気湯は心筋梗塞には無効。心筋梗塞痛には折衝飲が使える。

血府逐瘀湯:医林改錯:活血化瘀・通絡・理気止痛・補血:生地黄4 桃仁4 紅花3 当帰3 赤芍3 牛膝3 柴胡2 枳穀2 桔梗2 甘草1:瘀血一般の繁用処方(川芎は入っていないが四物湯)心筋梗塞の予防。

折衝飲:活血化瘀・理気止痛:当帰5 赤芍3 桃仁5 紅花2 牡丹皮3 川芎3 桂枝3 牛膝3 延胡索3(すべて袪瘀作用の生薬):心陽虚・瘀血による鎮痛効果が血府逐瘀湯より高い。下焦の瘀血による月経痛は折衝飲で代用する。

105:心腎陰虚(心腎両虚)の不安感・易怒の精神異常:周期的に1日に何度でも顔が赤くなり発汗する・火照る・閉経期前後症状(更年期障害)や閉経時に生じやすい健忘症に天王補心丹。

天王補心丹:心腎陰虚(心腎不交):酸棗仁10 生地黄20 柏子仁10 麦門冬10 五味子10 当帰6 遠志5 丹参5 玄参5 桔梗5 粉末を蜜丸とし朱砂をまぶし、1回2gずつ服用:更年期障害・閉経後の健忘症。

天王補心丹:進行性でない痴呆症には、一般の症例にも使える。

柏子仁はくしにん:甘辛平:心・肝・腎経:ヒノキ科コノテガシワの成熟種子を乾燥:寧心安神・潤腸通便・止汗:不眠・動悸・便秘・自汗:心血虚:2~3g:柏子仁は心血虚の不眠。酸棗仁は肝陽上亢の不眠にも。

麦門冬ばくもんどう・麦冬ばくどう:ユリ科ジャノヒゲの塊状根:甘微苦微寒:潤燥生津・化痰止咳:性質が滋潤で、肺を滋補するが痰を生じ易いので解表(風邪の初期)には不利。

養陰生津薬:生地黄・天門冬・麦門冬・玄参・石斛・天花粉(括婁根)・沙参。

斂肺斂汗滋腎の五味子:酸温:肺腎経:モクレン科チョウセンゴミシの成熟果実:斂肺滋腎・生津斂汗しょうしんれんかん・渋精止瀉:咳・鼻水・汗止め薬。

心気不足には、五味子・遠志おんじ・酸棗仁・柏子仁などを加える。

108:温清飲:疲れると精神不安が出る人に使える。寝不足で不安感がでる人で、午前様で、遅くまでカラオケやスナックで歌って楽しかったのに翌朝にわけもなく死にたくなる精神不安は、寝る前の温清飲・天王補心丹で予防できる。温清飲は健忘症には効かない。

108:温清飲:本来、月経異常や帯下に使う処方。明、「万病回春」では「帯下病を治す」:月経病では、手足の火照る人(手足煩熱)、頬が赤くなる人(顴紅かんこう)などの月経異常や五色の帯下に使う。

温清飲:万病回春:黄連解毒湯(黄連1.5・黄芩3・黄柏1.5・山梔子2)+四物湯(当帰4 白芍3 川芎3 熟地黄4)。黄連解毒湯はすべて苦く体を冷やし乾かす薬物で、四物湯は体を潤し補血活血する。

108:温清飲を皮膚病に使う場合:疲れると痒みやカサカサがひどくなり、手足煩熱、顴紅がある人に使うが、体表面の痒みにしか効かない。手足がつりやすく、疲れると火照り・皮膚はカサカサ・熱感・赤い状態を治す標治法である。

109:温清飲:黄連解毒湯は、脾も含めて三焦の熱を冷ます。四物湯は肝の補血で滋潤してカサカサを取るだけであるが、皮膚病は本来、脾の病であるからアトピー性皮膚炎等は胃腸を治す本治法をとるべきである。

「脾は肌肉を主る」の生理から、アトピーなど皮膚炎は、本来 脾の病であるが、温清飲は皮膚病の体表面の痒みだけをとる標治法にすぎない。皮膚病を治すには脾虚を治す本治法を同時にとるべきである。

アトピー性皮膚炎には、当帰飲子がなければ対処が難しい。

消風散の証と当帰飲子の証の鑑別はむずかしいことがある。
目黑道琢どうたく の口訣によると、当帰飲子は四物湯があるので血虚に用い、消風散は血熱に用いる。

当帰飲子:補血潤燥・止痒:血虚生風:当帰5 芍薬3 川芎3 地黄4 白蒺蔾3びゃくしつり 防風3 何首烏2かしゅう 荊芥1.5 黄耆1.5 甘草1:四物湯があるので炎症・浮腫・湿潤の皮膚炎には適さない。

アトピー性皮膚炎は脾虚を兼ねているので、当帰飲子合小建中湯とする。
小建中湯は脾虚でも食欲がほどほどあり、食欲が無い場合は、参苓白朮散や補中益気湯を当帰飲子に合方する。

アトピー性皮膚炎:当帰飲子合小建中湯・当帰飲子合参苓白朮散・当帰飲子合補中益気湯。