2025/2/18改訂
(有)文隣堂あつみ薬局 渥美光廣
癲癇:
痰火:もう石滾痰丸、
風痰:星香二陳湯・滌痰湯・導痰湯、
痰瘀:黄耆赤風湯合竜馬自来丹(黄耆、赤芍、防風、地竜、馬銭子)
血虚:滋腎寧心湯、
腎虚:河車大造丸・ビタエックス
半夏白朮天麻湯・柴胡桂枝湯・六味丸で癲癇の症状が改善しない場合は、
温胆湯加製南星(導痰湯合天南星)。
半夏白朮天麻湯で胃腸を建て直し痰をつくる胃腸が調ったと思います。
痰はとれにくい性質があります。
柴胡桂枝湯は肝の昂ぶりを鎮め、胃腸を丈夫にし、神経質な状態を改善します。
六味丸は成長期には必要な薬で、半夏白朮天麻湯や柴胡桂枝湯の長期使用での乾結を滋潤して防ぎます。
温胆湯加製南星はてんかんの原因になっているとれにくい風痰を標的にする処方です。
天南星は毒性があるので生姜と一緒に煎じたり、あるいは胆南星(天南星を豚の胆汁で修治したもの)をつかい燥湿化痰・熄風とします。大人は毎回1~2g内服します。
導痰湯がよいのですが、入手しやすく服用し易い温胆湯(エキス剤有り)に、胆南星を一緒に混ぜて電子レンジで沸騰させて服用します。
ウシの胆汁で修治したものを胆南星
生姜で修治したものを製南星と言いますがどちらでもよいです。
てんかん 癇
癲癇:俗に「羊癇風」とよばれ、大発作では突然の意識消失・手足の痙攣・口から泡をふく・両眼の上方注視・うめき声などを呈し、回復したのちは疲労無力感はあるが、飲食起居などは正常人とかわらず、発作が不定期なことである。
癲癇の小発作では、一時的な意識の混濁を呈し、前方凝視・あくび・口角のひきつり・口をすぼめるなどの動作をともなうことがある。
癲癇が長期間反復すると実証から虚証に変化して、血虚あるいは腎虚を呈し、最終的には腎虚になるので、実があるからといってむやみに攻法をもちいてはならない。
「古今医案按」で「癲狂の実は八九なり、癇症の虚は八九なり」と指摘している。
なお癲癇が腎虚の段階に至ると、一般の補腎薬では効果がなく、血肉有情(紫河車や河車大造丸・ビタエックスなど)の品を使用してはじめて効果が得られる。
1,痰火の癇・・もう石滾痰丸(肝胆火旺による痰火蒙竅たんかもうきょう)
痰火の癇は、強い恐れや驚き、甘い物や脂っこい物の過食で痰熱が発生しててんかんとなる。
恐れ驚きで気が逆乱し欝や怒でのびやかさが失われ、気鬱が火を生じて津液が変化して痰を形成し、肝火とともに痰が上昇して胸悶となり心神を乱すので癲癇となる。
痰火の特徴:胸の閉塞感・胸脇部の脹った痛み・不眠・頭痛・目の充血・顔面紅潮・口が苦い・便秘・尿が濃い・情緒不安定でイライラする。舌質紅・舌苔じ苔。脈弦滑数で有力。
・・もう石滾痰丸:清熱滌痰:大黄 黄芩 もう石 沈香
2.風痰の癇・・星香二陳湯・滌痰湯・導痰湯・温胆湯加製南星
風痰の特徴
:発作前にめまい・胸苦しい・悪心の症状があり・疲労時に起きやすく・カゼひき飲食の後に誘発されやすく、覚醒後は強い疲労感、舌苔が白じ苔が多い。
風痰の癇は、暴飲暴食やムラ食いで胃腸が弱って(脾虚となり)痰が生じ、痰が気のながれを阻害して気の昇降を失調させ、清陽が昇らず濁陰が下降しないために、痰が頭部を蒙蔽モウヘイして癲癇となる。
・・星香二陳湯:温化風痰:天南星 木香 陳皮 茯苓 甘草 生姜。
二陳湯:燥湿化痰:半夏5、陳皮4、茯苓5、生姜1、甘草1:痰飲の基本処方。
・・滌痰湯じょうたんとう(済生方 厳用和):痰迷心竅
:半夏3 胆南星3 陳皮2 枳実2 茯苓2 人参1 菖蒲1 竹筎1チクジョ 炙甘草1 生姜
:温胆湯+天南星・人参・菖蒲
温胆湯:三因方:清化熱痰・和胃降逆:
製半夏6 陳皮3 茯苓6 炙甘草1 枳実1 竹筎2 乾生姜1g。
痰迷心竅:ひとりごと(認知症)・痴呆・異常行動・情緒不安定。急性では昏倒・てんかん・運動麻痺・知覚麻痺・痰が多く咽でごろごろ痰声が聞かれる。舌質淡紅~紅、舌体微黄じ(黄色がかった厚ぼったい舌苔)。
・・導痰湯(済生方):痰迷心竅:製半夏3 製南星3 陳皮2 枳実2 茯苓2 炙甘草1:痰迷心竅で熱証のみられない舌苔が白く厚い・脈弦滑の時に使用:温胆湯の竹筎を製南星に替えた:温胆湯加製南星でも。
天南星:胆南星:熄風解痙・化痰:天南星を豚の胆汁で煮て修治、あるいは生姜とともに煎じて製南星として毒性を緩和する。
菖蒲しょうぶ:サトイモ科ショウブの根茎:芳香開竅・逐痰袪濁・鎮静:心竅を開き、人参・当帰の補を得受せしむ。多くは用いない。
竹筎ちくじょ:イネ科ハチクの第二層皮:甘微寒:肺胃経:清熱化痰・止嘔:竹筎と淡竹葉の比較:竹筎は胃熱を冷まし、淡竹葉は心火をさまして煩熱を除く。
消痰治風方:天竺黄3 製南星 2 石菖蒲1.5 法半夏3 丹参4 三七末1 鶏血藤5 陳皮2 茯苓4 炙甘草1。
天竺黄てんじくおう・竹黄精・竹黄:イネ科大節竹の節穴に分泌される液を凝結させて結晶塊としたもの:甘微寒:心肝経:清化熱痰・涼心定驚・袪痰。
鶏血藤けいけっとう:マメ科昆明鶏血藤の茎:苦微甘酸渋・温:肝腎経:補血行血・舒筋活絡:風湿による痺痛・手足の萎縮やしびれ・麻痺・眩暈。
竹筎と半夏の制吐作用の比較:半夏は痰湿による嘔吐に、竹筎な熱痰(胃熱を冷ます)による嘔吐に効果がある。
3.痰瘀の癇・・黄耆赤風湯合竜馬自来丹
痰瘀の癇は、鉗子分娩や周産期の母体の打撲などの既往、また感情の鬱積による気滞血瘀などにより瘀血が内に生じて瘀血が脳の経絡を閉阻すると虚風が生じて発作前に頭痛をともなうことが多い。
瘀血が痰をともなって頭に上衝すると癲癇が発生する。
痰瘀の特徴:発作前に頭のふらつき・頭痛がある。顔面や口唇にチアノーゼをともなう。口乾だがあまり飲みたくない。頭部外傷の既往が多く雨天に発作多い。舌に紫の瘀点・脈弦。
・・黄耆赤風湯(医林改錯):黄耆 赤芍 防風。
・・竜馬自来丹:馬銭子 地竜
馬銭子ばせんし・ホミカ・マチン:フジウツギ科・有毒ストリキニーネを含む。
4.血虚の癇・・滋陰寧心湯
血虚の特徴
:発作前に眩暈・動悸・手足のひきつりがある。普段は、動悸や驚き易い・目の乾燥感・口唇や爪が淡白・舌質淡あるいは舌尖が紅・舌体は薄白で少・脈細滑。覚醒後は変わらず。
血虚の症状:面色淡白でつやがない、面色萎黄、頭暈、目花・目渋、舌質淡、脈細、口唇や爪が淡白、心悸、易驚、怔忡、不眠、手足のしびれ(麻木)・手足のつりや痛み。
血虚の癇は、血虚風動によって誘発される。
滋陰寧心湯:養血緩肝・化風痰:当帰・白芍・川芎・熟地黄・人参・茯神・白朮・遠志・天南星・酸棗仁・甘草・黄連・生姜:心肝血虚に適応する・血虚の癲癇。
5.腎虚の癇・・河車大造丸・ビタエックス
腎虚の癇は、先天不足による幼時からの「胎癇」が反復持続して、精気が消耗したために発生する。
腎虚の癲癇の特徴:発作が数年続き、大小便の失禁・冷や汗に続いていびきを書いて昏睡し、徐々に覚醒する。腰膝がだるく無力、かかと痛・遺精・早漏。舌質淡・舌苔薄く少、脈沈細滑。
・・河車大造丸:成薬:填精益髄:紫河車・亀板・熟地黄・人参・天門冬・麦門冬・牛膝・杜仲・黄柏。紫河車しかしゃ:胎盤。
紫河車:胎盤粉・杜河車:甘鹹温:心肺腎経:火であぶって乾燥・新鮮な胎盤を用いてもよい:益気・養血・補精・強壮:粉末は0.5~3g、1日2~3回1~1.7g:再生不良性貧血2~3g。
癲癇:
痰火:もう石滾痰丸、
風痰:星香二陳湯・滌痰湯・導痰湯、
痰瘀:黄耆赤風湯合竜馬自来丹、
血虚:滋腎寧心湯、
腎虚:河車大造丸・ビタエックス