不安感・不眠の帰脾湯の解説

補養心脾法 

心脾両臓(精神と胃腸を主る臓器)は、相互に資生の関係であるだけでなく、心は血を主り、脾(胃腸)は気(元気)を主っている。

もし、心脾両臓の気血が虧損キソンされると、補養心脾法を用いて同時にその虚を補う必要がある。

補養心脾法は、心脾を同時に治療する配伍形式となる。

心脾不足で気血両虚となると、驚悸(驚き易く動悸する)、怔忡(持続的な動悸)、健忘(言われた事を忘れ易い)、多夢(一晩中夢をみる)、体倦(疲れ易く体がだるい)、食欲不振、便溏(軟便になりやすい)、などや、婦人においては月経不調や崩中漏下(不正出血)などに、補養心脾薬を投ずれば、よく効果を発揮する。

補養心脾法の常用薬は、
補気健脾薬の(元気をつけ胃腸を健やかにする)人参、白朮、茯苓、甘草、山薬、黄耆、大棗、花生衣などと、
養心安神薬(安定剤)の酸棗仁、柏子仁、遠志、当帰、熟地黄などの両組の生薬で構成されている。

その類に帰脾湯キヒトウがある。

補養心脾法は心脾を同時に治療する方法であるが、但し治療の重点は脾(胃腸機能)を治することである。
なぜなら心血(こころの栄養素)は脾(胃腸)の転輸(消化吸収輸送)により食物からエキスである精微が生じ、補脾することがすなわち養心(心血を補う)することになる。

故に補養心脾法の方剤は、常に補脾を主として、養心安神薬は補助である。

当然ながら、特殊な情況下では養心安神薬が主となることもある。

帰脾湯

帰脾湯:気血双補・健脾益気・養心安神:脾不統血(出血傾向)を治す:白朮3 茯神3 黄耆2 竜眼肉3 酸棗仁3 人参3 木香1 炙甘草1 当帰2 遠志1.5 乾生姜1 大棗1.5:出血傾向を改善する・動悸・不安感・不眠・多夢に適用する。

帰脾湯:出血が重症の場合は党参ではなく朝鮮人参10g、大棗10g、花生衣カショウイは適量加える。

花生皮・花生衣:ピーナッツの赤い薄皮:甘微苦:渋平:調和脾胃・補血止血・降圧・高脂血症:止血、袪瘀、消腫:血友病・血小板減少性紫斑病(帰脾湯)・肝臓病による出血・術後の出血・癌や胃腸・肺・子宮などの出血。

ピーナッツの赤い薄皮は「花生衣カショウイ」と言う。抗酸化作用のあるポリフェノールの一種レスベラトロールが含まれる。 効能があるので血友病や血小板減少性紫斑病や肝病出血などの治療に応用されています。

補養心脾法を用いるのは、心脾が虧損した場合である。

心は血を主る、心血不足となると心自体は栄養を失い、驚悸(ちょっとしたストレスで動悸がする)、怔忡(持続的な動悸)、失眠、多夢が生じる。
これらは心の栄養失調の症状である。

養心するには補血が必要で、健脾するには補気が必要であり、気血が盛んであれば心神(精神状態)は安んじ胃腸は正常となる。

帰脾湯の中の人参、黄耆、白朮、甘草は補脾して元気をつける。
竜眼肉、当帰、茯神(茯苓)、遠志、酸棗仁は養心安神作用があり、佐薬として少量の木香で理気し胃腸を覚醒し、補脾養心しても薬の効果の渋滞を避けることができる。

これによって養心健脾され気血が補われる方剤が帰脾湯である。

帰脾湯に大棗を加えると過敏性紫斑症に有効である:帰脾湯加大棗。

応用

帰脾湯は、不眠や多夢(一晩中夢をみる)、食欲不振や軟便続きによって血虚になった人や婦人の月経不調や月経過多、月経がいつまでも止まらないなどの脾虚に属する者に用いることができる。

帰脾湯は、機能性子宮出血、痔出血、血小板減少性紫斑病、過敏性紫斑症、血友病・白血病などの症状の者に用いる。また白血球減少や全血成分の低下に用いることができる。

帰脾湯:白朮3 茯神3 黄耆2 竜眼肉3 酸棗仁3 人参3 木香1 炙甘草1 当帰2 遠志1.5 乾生姜1 大棗1.5。

帰脾湯の加減法の「心脾双補丸しんぴそうほがん」:西洋参、白朮、茯苓、甘草、生地黄、丹参、酸棗仁、遠志肉、五味子、麦門冬、玄参、柏子仁、黄連、制香附、川貝母、桔梗、竜眼肉・・も心脾両虚を治す。

西洋参・広東人参:西洋参の根。北米原産:苦甘微涼:肺胃経:養陰・清熱滋潤・生津補気:0.7~3g:高熱に使う白虎加人参湯の人参を西洋参にすることが多い。

心気不足には、五味子・遠志おんじ・酸棗仁・柏子仁などを加える。

酸棗仁さんそうにん:クロウメモドキ科サネブトナツメの成熟種子の乾燥:養肝・寧心・安神・斂汗:帰脾湯・酸棗仁湯。

酸棗仁湯:思慮過度して生ずる心肝火旺による、のぼせ・イライラや不安感・不安による不眠を鎮める。養肝はあるが肝気鬱結を緩和する疏肝作用は無いので逍遙散・抑肝散加陳皮半夏などを合方する方がよい。

遠志:ヒメハギ科イトヒメハギの根:安神・袪痰・消癰しょうよう。

玄参4gげんじん:肺胃腎経:ゴマノハグサ科玄参の根:涼血解毒・降火滋陰・滋陰清熱・瀉火解毒(腎陰虚の薬):涼血・滋陰・解毒作用の要薬。皮膚・頭頸部に働く。冷やし潤す:3~4g、6~10g、10~30g

貝母ばいも:アミガサユリの鱗茎:苦・寒:開泄肺気・清熱散結:鎮咳薬に配合:浙貝母せつばいも(象貝母ぞうばいも)と川貝母の区別があり、浙貝母を実証に、川貝母は穏やかで虚証に用います:3~5g。

竜眼肉・桂円肉・桂円:ムクロジ科リュウガンの果肉:甘温:心脾経:補心安神・補脾養血:心血虚の神経衰弱・不眠・健忘・易驚・動悸・虚証の出血病後の衰弱:3~5g、10~20g:帰脾湯。